マクギリスの船はグランからそう離れた場所にいた訳でもなかったので、あっさりとグランに到着する。
ちなみにマクギリスは仮面をつけたまま……モンタークの姿でやって来たのだが、それは一体何でだろうな。
モンタークがマクギリスだというのは、既に俺達には分かっている。
なら、別に仮面を外してもいいと思うんだが。
となると、これは単純にマクギリスの趣味でこういう格好をしてるのか?
「アクセル、今日はよろしく頼むよ」
「取引の内容次第だな。……ドルトコロニーでアリアンロッド艦隊が何を企んでいるのかを教えて貰ったのは嬉しいが、お前がギャラルホルンの人間、それもセブンスターズのファリド家の人間なのは変わらない事実だ。ドルトコロニーの一件でこっちを信用させて、その後で何かを企む……そんな可能性も否定は出来ないだろう?」
その言葉に、部屋の中にいるクーデリアがマクギリスを見る目を厳しくする。
元々クーデリアは、フミタンの件で決してマクギリスに好印象を持ってはいない。
だからこそ、俺の言葉にマクギリスの見る目が厳しくなったのだろう。
「いやいや、まさか。アクセルを相手にそんな馬鹿な事を企む筈がないだろう。たった1人でアリアンロッド艦隊を相手にあそこまで被害を与えたんだ。そんな相手を敵に回したら、どうなるか……そう思ったのは、そちらも同じだろう?」
そう口にしたマクギリスの視線が向けられたのは、名瀬。
いやまぁ、実際名瀬もまた俺の力を知ったからこそ敵に回したくないとして、俺を取り込む……最低でも敵に回らないようにしたのだ。
そういう意味では、マクギリスと名瀬は同類か。
ただ、名瀬の場合は俺と兄弟分の杯を交わすという、言わば自分が前に出てきた。
この辺はマクギリスと比べても、間違いなく上回っている。
……もっとも、マクギリスと違って俺の力を間近で存分に見て、味わったというのが、そういう選択をした理由なのかもしれないが。
「アクセルの兄貴の強さを知れば、そういう風に考えてもおかしくはないと思うがな。……とはいえ、そういうのは今の結果が全てだ。それとも、あんたも俺達と兄弟分の杯でも交わすかい?」
「いや、止めておくよ。二番煎じは嫌われる」
誰に?
そう突っ込みたくなったが、それは今は止めておく。
ここで突っ込むと、面倒な事になりそうだったし。
「まぁ、二番煎じとかの件はそれでいいとして……俺達に商談があるって話だったが、それは勿論モンターク商会としてMSを買い取りたいとか、そういうのじゃないよな?」
アリアンロッド艦隊との戦いにおいて、それなりに撃破したMSの残骸は確保している。
……とはいえ、基本的にアリアンロッド艦隊のMS隊は俺を狙ってきて、俺が戦ったのはドルトコロニーから大きく離れた場所だ。
そういう意味では、撃破したMSの残骸を確保するのは難しく、結局確保したのはグランやガラン、ジャコバ、イサリビであったり、ドルトコロニーに向かおうとしたMSの残骸だったが。
ちなみにハンマーヘッドは表向き俺達とは別に行動している事になってるので、今回の一件には巻き込まれていない。
アミダ達は余っていたMSで出撃していたが。
ああ、そうなるとアミダ達が撃破したMSの残骸はタービンズにある程度引き渡した方がいいのかもしれないな。
撃破したのは大半がグレイズだし、タービンズとしてもグレイズは修理して使うなり、調査するなり、あるいは修理して売るなり、他にも色々と選択肢はあるのだから。
そういう意味では、やはりタービンズにとっても今回の一件は収支的にはプラスなのかもしれないな。
「いやいや、アリアンロッド艦隊のMSを受け取っても、売る先に困るよ」
「……まぁ、だろうな」
アリアンロッド艦隊に所属していたMSの残骸だ。
それを修理しても、それこそエイハブ・リアクターの周波数でそれが分かってしまう。
そうならないようにする為には、ジャンマルコにやったように別のエイハブ・リアクターに換装する必要があった。
一応モンターク商会という名称できちんと商売もしている以上、やろうと思えばそういう事も出来るんだろうが……マクギリスがそうしたいとは思わなかった。
「で? MSを買い取りに来たという訳じゃない以上、何をしに来たんだ?」
その言葉に、マクギリスは笑みを浮かべて口を開く。
「私達には地球降下船を手配する用意があります。貴方の革命のお手伝いの為に。クーデリア・藍那・バーンスタイン」
そう言い、仮面越しにクーデリアをじっと見るマクギリス。
そんなマクギリスに対し、名瀬が口を開く。
「パトロンの申し込みか? こいつは商談じゃなかったのか?」
「勿論商談です。革命の成功後にノブリス・ゴルドン氏とマクマード・バリストン氏が得るであろうハーフメタル利権。その中に、私達も加えて欲しいのです」
「……何がどうなってそうなった?」
マクギリスの言葉に、思わずそう突っ込む。
マクギリスが……あるいはモンターク商会がと言った方がいいのかもしれないが、とにかくハーフメタル利権に目を付けたのは悪くない。
もっとも、今の……現時点の火星においては、それくらいしかメリットになるような産業がないのだから、当然かもしれないが。
俺の呪いが解呪され、ゲートを設置出来るようになれば、また話は別だ。
それこそこのオルフェンズ世界において、唯一異世界と繋がりのある場所として、多くの人、金、物が集まってくるだろう。
いつかはそうなればいいとは思っているものの、それはあくまでもいつかはだ。
今の状態では、とてもではないがそういう風にするのは無理だろう。
だが……そんな中で、マクギリスが間違っている事がある。
マクマードがハーフメタル利権を貰う。
これはそこまで間違っていない。
何しろクーデリアがマクマードに要求したのは、火星に対する投資だ。
寄付ではなく投資である以上、そこには当然ながらメリットが必要となる。
そのメリットの1つが、ハーフメタル利権だった。
これは間違いない。
だが、ノブリスはこの件に全く関わっていない……どころか、ドルトコロニーの一件であったり、フミタンをスパイに使った事で、こっちとしても色々と思うところがある相手なのだ。
テイワズにとっても、ドルトコロニーの件で工業機械と偽ってMWや武器を運ばせたという事で、ノブリスに相応の落とし前をと考えているくらいだ。
実際にその落とし前がどういう形になるのかは、俺にも分からないが。
また、マクギリスの口からはノブリスとマクマードの名前だけが出たものの、そこには本来シャドウミラーも入っている。
何しろ俺達がクーデリアの依頼を受けたのは、ハーフメタルの利権を報酬として用意されたからというのもあるのだから。
……もっとも、クーデリアの関係を考えれば、そのような報酬がなくても協力はしていたかもしれないが。
ただその場合、もし俺達が助けるとしても今のように全面的にという訳にはいかなかっただろうが。
「何か間違った事でも?」
俺の言葉に疑問を覚えたのか、マクギリスがそう聞いてくる。
マクギリスにしてみれば、自分がハーフメタル利権を欲している事に驚かれたりするのは予想していただろうが、まさか俺の口から今のような言葉が出てくるとは思わなかったのだろう。
「間違ったも何も、今のところノブリスはハーフメタル利権には全く関わってないぞ。現在ハーフメタル利権に関わっているのは、マクマード……テイワズと、そして俺の率いるシャドウミラーだ。どこからノブリスの名前が出てきた?」
そう聞くも、何となく予想は出来る。
シャドウミラーについて調べれば、そこにはノブリスの協力があって設立されたというのが分かるだろう。
そしてクーデリアに対しても、ノブリスが資金援助を含めて協力をしていたというように。
だからこそ、ノブリスが俺達に協力をする以上は何らかのメリットが必要な筈であり、マクギリスはそれをハーフメタル利権と考えたのだろう。
まぁ、ノブリスが裏で色々と動いているが判明したのは、あくまでもこのドルトコロニーに近付いてからだ。
そうである以上、マクギリスにはそこまでの情報を入手出来る余裕がなかったのだろう。
とはいえ、マクギリスとモンタークという2つの立場を持つだけに、その辺りの情報について入手するのが難しかったのは間違いない。
既にある情報から、現在どうなっているかというのを予想した結果が、先程のマクギリスの言葉だったのだろう。
「何……だと? 私が間違ったと?」
マクギリスにしてみれば、まさか自分がこんなことでミスをするとは思っていなかったのだろう。
驚きを露わに、そのように呟く。
俺にとっては、そこまで気にするようなことではないとは思うのだが、こうして見る限りだとマクギリスは余程自分の予想に自信があったのだろう。
「落ち着け。とにかく、お前が要請するものは分かった。別にノブリスが今回の件に関わっていなかったからといって、そこまでショックを受ける事はないだろう」
「それは……いや、そうだな。みっともないところを見せてしまったようだ。……それで、どうでしょう?」
動揺したマクギリスだったが、数秒で落ち着いた様子を取り戻すと、そうクーデリアに尋ねる。
俺や名瀬ではなくクーデリアに視線を向けたのは、交渉相手としては俺や名瀬よりもクーデリアの方がやりやすいと思ったからか。
それとも火星独立について話を進める上で、重要なのはクーデリアの意思だと思ったからか。
……マクギリス本人はクーデリアに決して好かれていないのだが、
本人はそれを理解しているのか、していないのか。
ともあれ、これはある意味でいい機会なのも事実。
クーデリアに交渉を任せるべく、俺は黙り込む。
名瀬もそんな俺を見て考えを悟ったのか、同じく黙り込む。
クーデリアはそんな俺と名瀬の様子を見て、自分がマクギリスと交渉をするべきだと判断したのだろう。
しっかりと拳を握り締め、マクギリスから視線を逸らさずに口を開く。
「火星独立も何も、まだハーフメタルについての交渉も始まっていないのに、今から交渉が成立した後の話をするのですか?」
「ドルトコロニーで行われた、あの演説。一部ではジャンヌ・ダルクとすら呼ばれているのですよ」
「ジャンヌ・ダルク……」
その名前に覚えがあったのか、少し考え込むクーデリア。
にしても、ジャンヌ・ダルクか。上手いことを言うな。
火星にいる者達の目には、確かにクーデリアはジャンヌ・ダルクのように思えるのだろう。
もっとも、ジャンヌ・ダルクの最後は悲劇的なものだったので、そういう意味ではジャンヌ・ダルクというのは相応しくないのかもしれないが。
だが、抵抗や独立の象徴として考えれば、ジャンヌ・ダルクをイメージするのは決して間違っていないのも事実。
「話は分かりました。それで、話はいつまでに?」
「あまり時間はありませんので、出来るだけ早い方がいいかと」
「では、お願いします」
「……ほう」
クーデリアの言葉に、さすがにマクギリスも数秒沈黙する。
まさか、クーデリアがここまで率直に取引を受けるとは思っていなかったのだろう。
これについては、正直なところ俺も同意見だ。
出された好条件に勢い込んで食いついた……そんな風に見えなくもない。
だが、クーデリアの様子を見ると、そうした条件反射で食いついたといった様子ではなく、自分の中で考えて即座に決断を下したといった様子だ。
「これはこれは……まさに即断即決。ここまでとは……」
驚きの言葉を口にするマクギリス。
少しだけ視線を逸らすと、シーラが満足そうに笑みを浮かべているのが分かった。
自分の弟子……教え子か? その成長が嬉しかったのだろう。
シーラの教えがクーデリアにはしっかりと根付いていた事の証なのだから。
「おかしな事でしょうか?」
「いや、そうは思わないよ。ただ……これは少し予定を変える必要が出てくるかもしれないと思っただけだ」
「予定……ですか?」
「こちらの話だよ。……さて、降下船についての話をしよう。まず最初に、こちらで用意出来る降下船は1隻だけだ。本来ならもう1隻くらいは用意をしたかったんだが、生憎とこちらも商売上の事を考えると簡単には用意出来なくてね」
これについては、モンターク商会としてはの話なのだろう。
例えば、これがファリド家として動いているのなら、相応に降下船の数を揃えることは出来たとは思うが。
しかし、マクギリスの様子を見ると、そういう感じではない。
だとすれば、やはりここは何かがあると思った方がいいだろう。
もっとも、こうしてモンタークとして俺達に接触してきた時点でそれは予想出来たのだが。
ちなみにマクギリスの言葉遣いが変わったのは……それだけクーデリアを認めたのだろう。
「となると、持っていくMSの数が問題か。降りられる数も」
「それについてはそっちで決めて欲しい。それと……まぁ、これは彼女が即決してくれたお礼とでも思ってもいいけど、弾薬やらMSの予備パーツやら……諸々一式をプレゼントさせて貰うよ」
そう言い、マクギリスは笑みを浮かべるのだった。