ハンマーヘッドで漏影や武器、弾薬、予備パーツといった諸々を収納した俺が次に向かったのは、グランだった。
「それで、何をどのくらい収納するのかしら?」
グランの格納庫で、マーベルがそう聞いてくる。
マーベルにしてみれば、自分のグレイズも持っていくのよね? とでも言いたいのか?
「どうだろうな。取りあえず俺のグシオンは降下船の格納庫に入れておく必要があるけど」
マクギリスが、降下船の格納庫を確認するかどうかは分からない。
……いや、マクギリスにしてみれば、俺達がギャラルホルンを相手に騒動を大きくするには、相応の戦いをする必要があるので、そこにグシオンがいないのはどうかと思ってもおかしくはない。
それを確認する為に降下船の格納庫を確認し、MSがどのくらいあるのかを確認しておくのはやってもおかしくはない。
その時、グシオンが……強力なガンダム・フレームのMSがないのをマクギリスが知れば、疑問に思うだろう。
何故グシオンのような高性能なMSを地球に下ろさないのか、と。
マクギリスには空間倉庫……魔法については、極力教えたくはない。
テイワズは仮にも友好組織――ジャスレイのような例外はいるが――だし、マクマードは俺の力を理解しているので、俺を敵に回すような事はしない筈だ。
だが、マクギリスはどうか。
ギャラルホルン内部の不正を正したいという目的は悪くない。
いや、クランクから聞いた火星支部の状況を考えれば、それが行われれば火星でもギャラルホルンが正常に動くようになり、火星の住人にとっても決して悪くはない事の筈だ。
だが……マクギリスが最初に俺と会った時、俺をアグニカ・カイエルと間違えた時に口にした言葉。
目的の為なら、どのような犠牲を払ってもいいかというもの。
細かい表現は違ったかもしれないが、大体そのような事だった。
俺はそのマクギリスの問いに、シャドウミラー……オルフェンズ世界のシャドウミラーではなく、俺が生まれた世界でヴィンデルが作ったシャドウミラーを奪った時の事を思いだして、少しアドバイス染みたことをした覚えがある。
だが、それがマクギリスにどこまで届いているのかは分からないし、マクギリスがそれを聞いた上でどのように行動するのかも分からない。
つまりマクギリスが魔法について知れば、一体どう出るか。
それこそ俺の能力……具体的には気配遮断であったり影のゲートであったり、スライムであったり、空間倉庫であったりを使えば、不正の証拠を入手するのは難しくはない。
コンピュータについても、技術班謹製のハッキングツールがあるので、情報を盗み放題だ。
いやまぁ、オルフェンズ世界のコンピュータ……それもギャラルホルンのお偉いさんや重要な場所にあるコンピュータから情報を引き出せるのかどうかは、実際にやってみないと何とも言えないが。
だが、そういう事が出来るというのは、マクギリスにとって大きな意味を持つだろう。
だからこそ、マクギリスが魔法について知ったら何を要求してくるのかが分からない。
ラフタのように、自分で魔法を習得するとかだったら、こっちにもまだ納得出来るものがあるんだが。
「アクセル? どうしたの?」
「ああ、悪い。マクギリスに魔法について知らせるのは危険だと思っただけだ」
「それは……まぁ、そうかもしれないわね」
マーベルもマクギリスは知っているし、実際にその目で見ているので、俺の言葉に素直に納得する。
「だろう? そうなるとやっぱりさっきも言ったと思うけど、グシオンは降下船の格納庫に置いておくとして、マーベル、クランク、昌弘……他にも何人分かのグレイズは俺が空間倉庫に収納しておいた方がいいと思って」
「他にも何人分かって……あのアインも戦力に数えているの?」
「アイン? いや、どうだろうな。今のところそんなつもりはないけど」
とはいえ、クランクが言うにはアインの操縦技術はそれなりに高いらしい。
そういう意味では、MSパイロットとして使えば戦力になるのは間違いないだろう。
だが……問題なのは、アインが妙な事をしないかどうか。
クランクを助ける為に、あるいは洗脳か何かをしたと思っていたら、それを解除する為に行動するという可能性は十分にあった。
とはいえ、そういう事をすればクランクとは完全に敵対するというのも分かってるとは思うんだが。
総合的に見て、結局アインがどういう行動に出るのか分からない以上、俺としてはやっぱりアインにMSを使わせたくはないと思う。
「そう。ならいいけど。あの子は思い込みの激しいところがあるように見えるから。……それこそ、ショウのように」
「随分と懐かしい名前だな」
マーベルの口から出たのは、ショウ……ショウ・ザマの名前。
ダンバイン世界において俺達と敵対した男の名前だった。
俺にしてみれば、随分と前の事のように思える。
実際には鬼滅世界やX世界に行ったり、あるいはペルソナ世界でマヨナカテレビの一件があったりと……うん、実際にかなり前の出来事だな。
特にX世界では何だかんだとゲートが設置するまでそれなりに時間が掛かったし。
「そうね。私にとっても随分と昔のように思えるわ」
マーベルは俺が最初に会った時から少し年を取っているので、実際に数年前といった印象なのだろう。
詳しい年齢については、聞いた瞬間に後悔しそうなので聞かないが。
そんな訳で、年齢については触れないようにして話を戻す。
「アインの思い込みが激しいというのは、俺も納得する。とはいえ、ギャラルホルンのMS隊に所属していたという事は、やっぱり相応に技量があると思っても間違いない。クランクがいるから教官的な役目は期待しなくてもいいけど……模擬戦の相手とか、そういう意味では使えるんじゃないか?」
「ここが火星ならそれでもいいけど。もしくは、シミュレータの相手でもさせる?」
「どうだろうな。……まぁ、とにかくアインを宇宙に残しておけば面倒な事になるだろうから、地球には連れていくつもりだ」
それなりの戦力はグラン……というか、宇宙に残しておくつもりではあるが、何かあった時に対処するというのを考えると、やっぱり俺の側にいた方がいい。
「アクセルがそう言うのなら、私は構わないわ。別にそこまで嫌な相手じゃないしね」
マーベルがそう言うのは、アインは紳士的……というのとはちょっと違うが、マーベルやシーラに対し、欲望に満ちた視線を送ったりしないからだろう。
シャドウミラーの面々は、マーベルとシーラが俺の女だというのを承知しており、しかも俺の力を知っているので、そういう視線を向けたりはしない。
だが、アインはその辺についての情報をあまり知らないにも関わらず、マーベルやシーラにそういう視線を向けないのだ。
女に興味がないって訳ではないと思うんだが。
ともあれ、そういう意味でマーベルやシーラにとって、アインはそこまで嫌う相手ではない。
……性格的なというか、クランクに心酔しすぎていて、それによってマーベルやシーラにちょっかいを出したりしないとか、そんな感じではありそうだけど。
「じゃあ、そういう事で。……グレイズの武器や弾薬、予備パーツ、諸々を纏めてコンテナに入れろ!」
マーベルとの話を終えると、俺はメカニックにそう指示を出すのだった。
ちなみに昌弘はグレイズよりも乗り慣れたマン・ロディを好んでいたのだが、重装甲のマン・ロディだと整備の時とかもどうしても場所を取るし、何よりも純粋な性能としてグレイズの方が上なのが大きい。
この件については一応昌弘にも言ってあるので、特に問題はない筈だった。
「なるほど、兄貴の空間倉庫でしたか? それに全てを入れれば、マクギリスに怪しまれる可能性はありますね。話は分かりました。元々鉄華団の面子がメインで地球に降下するんですから、戦力もうちが中心にしてあると思わせた方がいいでしょう」
イサリビのブリッジにて、オルガが俺の言葉にそう言い、頷く。
オルガも降下船の格納庫にMSが入っていない状況は不味いと、そのように思ったのだろう。
「色々と手間を掛けて悪いな」
そう口にしたのは、今の件……MSを格納庫に収納する件もあるが、それ以上に地球に下りるメンバーが鉄華団をメインとしたのに、オルガが不満を言わず素直に受け入れてくれた事も影響している。
地球に行けば、間違いなくギャラルホルンと正面から戦う事になる。
そうである以上、鉄華団がメインでとなると、当然ながら被害が出るのも鉄華団になるのだ。
勿論、鉄華団以外にもシャドウミラーからも俺、マーベル、クランク、昌弘の3人が降下メンバーに入っているし、タービンズからはラフタとアジーが来る。
そういう意味では、安全性が高いのも事実。
……いざとなれば、サラマンダーを使ったりしてもいいしな。
もっとも、アリアンロッド艦隊が恐らく血眼になって探しているサラマンダーだ。
それを使うと、それはそれで面倒な事になりかねないが。
「いえ、兄貴には色々と世話になってますから」
「別にそこまで気にする必要はないと思うんだがな。……まぁ、今回はその言葉に甘えさせて貰うよ。それより、現在の鉄華団のMS隊の練度はどんな感じだ?」
俺が知ってる限りでは、エースが三日月、それに続いて昭弘で、その昭弘から大分劣る形でシノといった感じだ。
他の面々は……一応グレイズがあるけど、どうやら基本的にMWでいくらしい。
「皆、頑張って訓練してますよ。……ミカに聞いた話だと、シノがかなり上達してるとか」
「へぇ……それはちょっと意外だな」
これは俺にとっても正直な気持ちが。
シノの性格からして、そこまで必死にMSの操縦訓練をするとは思わなかった。
……いや、あるいは俺がシノに色々と言った件が原因か?
大事な仕事を任せることが出来ないと、そう言われた事により、シノは自分の能力を俺に認めさせてみせると、そう言っていた。
MSに乗るようになったのも、その辺が影響してのものだろう。
だからこそ、今も必死になってMSの操縦訓練を続け、その結果が出て来ているといいう事か。
「シノも頑張ってますから。……ああ、そう言えばビスケットが喜んでましたよ」
「ビスケットが? ……サヴァランの件か?」
ビスケットが喜ぶと言われてすぐに思いつくのはそれくらいしかない。
いやまぁ、実は他にも色々あったりするのかもしれないが……今すぐに思いつくのは、そのくらいの事だけだった。
そして案の定、オルガは俺の言葉に頷く。
「はい。鉄華団にいないのは残念そうにしてましたけど、シャドウミラーで働いてるので、これからはいつでも会えるって」
「まぁ、兄弟だしな」
もっとも、一口に兄弟と言ってもビスケットやサヴァランのように関係が良好な兄弟もいれば、憎しみ合っている兄弟もいる。
特に後者は、そこまで珍しいものでもなかった。
ともあれば、ビスケットは鉄華団の良心だ。
テイワズから派遣されたメリビットもそういう方面を期待されているのかもしれないが、メリビットの場合はよそ者だ。
それだけに、受け入れられるまではもう少し時間が掛かるだろう。
そういう意味でも、ビスケットが元気に活動するというのは悪い話ではないのは間違いなかった。
「そうですね。……そのサヴァランというのは、地球に連れて行くんですか?」
「そのつもりだ。サヴァランは地球からそう離れていないドルトコロニーの出身……それも経営側、ホワイトカラー側の出身だけに、俺達が知らない地球の常識とかを知っている可能性もあるしな」
クランクや、タービンズのラフタやアジーといった面子がいるので、地球の常識についてもそれなりに分かる筈だが、こういうのは頼りになる者が多ければ多い程にいいのだから。
「うーん……でもビスケットは反対するかもしれませんね」
「折角再会出来た兄さんを危険な目に遭わせるなってか? ……けど、それも考えようだと思うがな。宇宙に残せば残したで、ビスケットの知らないところでギャラルホルンの攻撃を受けて死ぬ可能性もある。だとすれば、近くで守ることが出来るという意味で、地球に連れていくのは悪くないと思う。それに……俺が仲間をそう簡単に殺させるように思うか?」
ぶっちゃけ、俺と一緒に行動するという時点で安全が確保されているようなものだ。
生身での活動において、俺の側以上に安全な場所はそうそうない。
ただ、問題なのはいつでも俺が側にいるとは限らない事か。
そのような時にギャラルホルンの攻撃を受ければ、それはそれで対処が難しいのだから。
「そうですね。兄貴なら安心だと思います。ビスケットにもそう言って、安心させておきますよ。それに宇宙に残る方にもそれなりに戦力を割いて貰えるという事で、その点は安心しています」
そう言い、オルガは笑みを浮かべる。
兄弟分の杯を交わしたとはいえ、無条件に信じるのも……いや、これまでの経験からの言葉か?
そんな風に思いながらも、俺はオルガとの会話を続けるのだった。