クランクとの話を終えてブリッジに入ると、そこには既に他の船との映像が繋がっていた。
どうやら俺待ちだったらしい。
「悪いな、遅れたみたいだ」
『気にしないでくれよ、兄貴。地球外縁軌道統制統合艦隊を相手にあそこまで暴れたんだ。少しくらい疲れても仕方がないって』
名瀬がそう言ってくるが、実は休んでいて遅れたんじゃないとか言った方がいいのか?
グレイズリッターを空間倉庫に収納していたり、もしくはクランクと少し立ち話をしていたとか、その話についても。
……いや、止めておこう。
ここで無理にそんな事を言う必要もないだろう。
そう判断し、名瀬の言葉に頷いておく。
「それで、停戦についてだが……」
『ああ、全員揃ったら呼んでくれってモンタークは言っていたな』
「停戦とか勝手な事をしておいて、それで全員が揃ったら呼んでくれ? 随分とふざけてるな」
『あー……いや、兄貴が不満に思うのも無理はないが、モンタークの奴も今は色々と忙しいらしいんだ。そっちの方でちょっとこっちに手が回らないからって事らしい』
何故かマクギリスのフォローをする名瀬。
一体何を思ってそんな事をするのやら。
あるいはマクギリスから前もって何か言われていたのかもしれないな。
「名瀬がそう言うのなら、まぁ、それはそれでいい。ともあれ全員揃ったんだから、モンタークを呼んでくれ。……一応聞いておくが、モンタークでいいんだよな?」
一応、念の為にそう聞いておく。
ギャラルホルンが盗聴をしていたり、あるいはそれ以外の何らかの理由でモンタークと呼ばせているのかもしれないが、とにかくマクギリスとは呼ばない方がいいのだろう。
『ああ、そうだ。向こうでも色々とあるんだろう。だから、悪いがアクセルの兄貴もそれで通して欲しい』
「分かった」
別に俺はどうしてもマクギリスと呼びたい訳ではないので、そう呼んで欲しいと言われれば別にそれを断ったりはしない。
もっと無茶な要求を突きつけてきたりしたら、また話は別だったが。
『じゃあ、呼ぶから少し待ってくれ』
そう名瀬が言い、30秒程が経過したところで映像モニタにマクギリスが姿を現す。
『すまないな、待たせたかな』
「待たせたのはいいが、停戦……あれは一体何のつもりだ?」
単刀直入にそう尋ねる。
するとマクギリスは、笑みを浮かべて口を開く。
『私の目的は話しただろう? その為には、こうするのがいいと思ったんだよ』
「ちょっと待て。……それで俺達はともかく、どうやって向こうに停戦を了承させた?」
マクギリスの目的は、ギャラルホルン内部に蔓延する不正の一掃だ。
そういう意味では、モンタークとマクギリスが同一人物であるというのは可能な限り知られない方がいい。
なのに、地球外縁軌道統制統合艦隊に停戦を了承させたとなると、モンタークがマクギリスであるというのを教えるくらいの事をしないと向こうも納得しないのではないか?
そんな風に思うし、他の面々の様子を見る限りでは俺の予想はそこまで間違っているとは思えない。
もっとも、そうなるとここでマクギリスの名前を呼ばないというのはどうしてかという事になるが。
既に向こうにモンタークとマクギリスが同一人物であると知られているのなら、別にここで隠す必要もないのだから。
『そこは私の伝手があってだね。……もっとも、ガエリオの方には手が回らなかったけど』
ガエリオの名前に、先程戻ってくる途中で見た青紫のガンダムを思い出す。
火星での戦いの時も似たような色のMSに乗っていたと考えると、あの色はガエリオのパーソナルカラーなのかもしれないな。
「ちなみに、ガエリオが乗っていたのはガンダムか?」
念の為に聞いてみると、マクギリスは予想通りに頷く。
『ああ、彼の家に伝わる機体だ。君達がガンダム・フレームを持ち出してきたから、彼もそうしたのだろう』
その言葉は、分からないでもない。
ガンダム・フレームはエイハブ・リアクターを2基使えるので、それだけで圧倒的な出力がある。
MAと戦う為に作られたガンダム・フレームだが、それはMSと戦うのにも十分に性能を発揮する。
……もっとも、ガンダム・フレームが作られてから……そして何より厄祭戦が終わってから今までそれ以上の性能のフレームを作れないのは、どうかと思うが。
単純にコスト的に見合わないとしても、何かあった時の為に高性能なフレームを作ってもいいと思うんだが。
いや、今は別にそれについて考える必要はないか。
今の状況で必要なのは、停戦について話を進める事だ。
「ガンダムについては分かった。それで停戦について話を戻すが、何のつもりで停戦なんて事をしたんだ? あのまま戦闘を続けていれば、俺達が勝利したのは間違いないのに」
地球外縁軌道統制統合艦隊のMS隊は、実戦経験こそ足りないものの、式典とかでMSを動かす為に、基礎的な技術は間違いなく一級品だ。
だからこそ、実戦経験を積む前にここで出来るだけ戦力を損耗させておきたかった。
また、マクギリスもギャラルホルンの不正を一掃するには、ギャラルホルンの戦力は少ない方がいい筈だろう。
なのに、何故それを邪魔するのか。
あるいはギャラルホルンの不正を一掃するというのは建前で、何か他に企んでいるのか。
そんな視線を向けると、マクギリスは映像モニタの向こうで首を横に振る。
『君達の疑惑は分かる。しかし、これはきちんと意味があって行った事でもある。地球外縁軌道統制統合艦隊は、とある人物の指揮下にあるのだが、その人物は……そう、潔癖な性格をしているんだよ』
潔癖というのは、ギャラルホルンに似合わない言葉だな。
もっとも、俺が知っているギャラルホルンの者達はそう多くはない。
そしてギャラルホルンの規模を考えれば、その中には潔癖な人物がいてもおかしくはない。
「潔癖か。それはつまり、お前の目的に協力する事にでもなったのか?」
『詳細についてはまだ決まっていないものの、私はそのつもりだよ。……正直なところ、当初このようにしようとは思わなかった。だが、アクセル。君の言葉を聞いて、少し違う方法を考えてみようかと思ったのだ』
マクギリスの言葉に、以前聞かれた事を……自分の目的の為の犠牲云々についての話を思い出す。
俺にとっても色々と思うところのある言葉だったが、マクギリスにとってはそんな俺以上に思うところがあったらしい。
「つまり、地球外縁軌道統制統合艦隊を率いているのはお前の知り合いな訳だ」
『そうなる』
あっさりと認めたな。
いやまぁ、その件については容易に想像出来ていたので、別にそこまで気にする必要もないのかもしれないが。
とはいえ、それはつまりマクギリスは場合によっては俺達の手で自分の知り合いを殺すつもりになっていたという事にもなるのだが。
その辺は言わぬが花か。
「……話は分かった。お前のいいように使われた気がするが、こっちに被害らしい被害はない……んだよな?」
クランクやシーラとの会話で、その辺は問題ないと聞いてはいるものの、それでも念の為に名瀬とオルガに視線で尋ねる。
すると名瀬とオルガはそれぞれ頷く。
どうやら死人は出ていないらしい。
もっとも、前線で戦ったイサリビはともかく、ハンマーヘッドは表向き俺達とは関係がないので、直接戦闘には参加していない。
そういう意味では、危険なのはオルガ……鉄華団だけとなる。
そしてオルガの様子を見る限り、鉄華団にも特に被害らしい被害はないらしい。
……シノ辺りが被害を受けていてもおかしくはないと思ったんだが。
ともあれ、こちらに被害らしい被害は出ていないのなら、マクギリスが俺達をいいように使ったのも許容は出来る。
もっともこれ幸いと俺達を便利な道具代わりにしようものなら、そのときは相応の対応をさせて貰うつもりだが。
それに被害は出ていないとはいえ、それはあくまでも人命についての話だ。
MSがダメージを受けていたり、武器や弾薬の消耗もある。
火星のギャラルホルンの基地から結構な武器弾薬を奪っているが、特に弾薬の類はサイズが合わないと使えないという点も問題だ。
あるいは、降下船の話を持ってきた時、手土産として補給物資を持ってきたのは最初からこの件を考えての事だったのか。
「被害らしい被害がないのはいいが、問題なのはこれからどうするかだな。……モンターク、お前の見解は? お前が停戦させたんだから、当然ながらその辺についてはわきまえているよな?」
そう聞くが、マクギリスがこれで首を横に振る……何も考えていないという事はまずないだろうと思っていた。
『これから、アクセル達には地球外縁軌道統制統合艦隊の司令官と会って貰おうと思っているよ』
「……本気か?」
寧ろ、正気か? と聞きたいところを、何とか我慢してそう言う。
俺以外の面々も、同じような表情を浮かべているのが分かる。
普通に考えれば、そのような表情を浮かべるのはおかしくない。
マクギリスの意見がそれだけ突飛すぎたのだ。
『勿論本気だよ』
『それはつまり、アクセルの兄貴を地球外縁軌道統制統合艦隊に売ったって事か?』
オルガが鋭い視線でマクギリスを睨み付ける。
しかし、映像越しだからというのもあるのだろうが、マクギリスはそんなオルガの様子を見ても、特に動揺した様子はない。
まぁ、オルガもこの世界の原作の主人公である三日月の相棒として相応の迫力は持っているが、それでもマクギリスには効果がないらしい。
『勘違いしないで欲しいな。私がアクセルを売るなどという事をする筈がないだろう? アクセルは私にとっても恩人なのだから』
『なら、何でアクセルの兄貴を地球外縁軌道統制統合艦隊のお偉いさんに会わせるんだ?』
『勿論それは、これからアクセル達が……いや、君達が地球で行動する上で、不幸な出来事が起こらないようにする為だよ』
『不幸な出来事だと……? それだとまるで……』
『ああ、君が思った通りだよ。地球外縁軌道統制統合艦隊は私の味方になってくれる。勿論、絶対確実にという訳ではない。だが、アクセルの力は彼女も思い知った筈だ』
『それは……まぁ、そうだろうが』
マクギリスの言葉に、オルガも反論は出来ない。
実際、今回の戦いで地球外縁軌道統制統合艦隊が出した被害は大きい。
もっとも、戦艦の方には何も被害が出ていない。
そういう意味では、アリアンロッド艦隊よりも受けた被害は少ないだろう。
もっとも、撃破されたMSの数という点では、地球外縁軌道統制統合艦隊も結構な数になるだろうが。
『だからこそ、ここでアクセルという存在を見せつける事で、彼女をこちらに引き込む。ガエリオは……私が説得しよう』
何でここでガエリオが出てくる?
そう思わないでもなかったが、マクギリスの相棒的な存在であるガエリオはいずれどうにかしないといけないのも事実。
「もし説得出来なかった場合、どうする?」
意地の悪い質問であるのは承知している。
だが同時に、もし説得出来ず……そしてガエリオが敵対した場合、一体どうなるか。
それは聞いておく必要がある。
『その時は……私が手を汚す事になるだろう』
そう断言する。
それはつまり、自分の友人……それも以前火星で見た時のやり取りからすると、親友と呼ぶに相応しい相手を自分の手で殺すという事を意味している。
なるほど、これが何を犠牲にしても……か。
「話は分かった。俺はモンタークの提案に乗ってもいいと思う」
『兄貴!?』
オルガだけではなく、名瀬までもが声を揃えてマクギリスの提案を了承した俺を見ている。
普通に考えれば、罠で死んでもおかしくはない……いや、寧ろ絶対に死ぬだろう提案だ。
そんなマクギリスの提案を、まさかこうもあっさりと俺が受け入れるとは思ってもいなかったのだろう。
「落ち着け。この状況でマ……モンタークが俺に危害を加えると思うか?」
『それは……』
『こっちの最大戦力の兄貴を捕らえるなり、場合によっては殺すなりすれば、戦力は大幅にダウンする。そう考えれば、兄貴に危害を加える可能性は十分にあるんじゃ?』
オルガは俺の言葉にすぐに納得したが、名瀬はそれだけでは納得せずにそう尋ねてくる。
「そこまで馬鹿な真似をするのなら、その時は向こうが後悔するだけだと思うがな」
『いや……その、姐さん達はどう思ってるんで?』
俺に何を言っても無駄だと判断したのか、名瀬はマーベルとシーラにそう言う。
ちなみに俺が兄貴なので、マーベルとシーラは姐さんらしい。
分かるような、分からないような。
とはいえ、降下船に残っているマーベルも、グランのブリッジにいるシーラも、双方共に名瀬の言葉を気にした様子がない。
「アクセルなら何があっても私達の所に戻ってきてくれるでしょう。名瀬、貴方もその理由は知っているのでは?」
シーラがそう言うと、名瀬は俺が魔法を使えることを思いだしたのか、不承不承ではあるが納得したのだった。