モンタークの正体がマクギリスだと見破ったカルタは、顔色を赤くしたり青くしたりしながら、俺達……俺、マクギリス、ガエリオを引っ張って強引に連れていく。
引っ張られている最中、自分の正体が見破られたマクギリスや、それを悟った俺はともかく、ガエリオは一体何故このような事になってるのか分かっていないらしく、戸惑った様子だったが。
ちなみに戸惑った様子だったのは、ガエリオ以外にも護衛と思しき兵士達もそうだった。
……無理もないか。
カルタのいきなりの行動に、戸惑うなという方が無理だし。
「ちょっ、おい、カルタ。どこまで行くんだ?」
引っ張られつつ尋ねるガエリオだったが、カルタはその言葉を無視して進み続け……やがて、格納庫からそれなりに離れた部屋に到着すると、その部屋の扉を開ける。
「へぇ……」
会議室か何かかと思ったんだが、やってきた場所は応接室や客室といった表現が相応しい場所だった。
その中に入ると……
「貴方達は外で待っていなさい」
「カルタ様!? ですが……」
護衛の兵士がカルタの言葉に驚く。
先程も戸惑っていたが、今はそこに驚きがプラスされた感じだ。
まぁ、無理もないか。
護衛の兵士にしてみれば、モンタークは完全に怪しい人物だし、俺は明確なまでに敵だ。
唯一の味方はガエリオだが……火星で三日月にいいようにやられたのを見れば分かるように、生身での実力は決して強くはない。
それこそ一般の兵士よりはマシ……あるいは一般の兵士にも劣るか?
この辺はセブンスターズの出自というのが関係してるのかもしれないな。
「いいから、安心しなさい。私は大丈夫だから! 一応ガエリオの坊やもいるから、何かあっても時間は稼げるわよ」
「ちょっ、おいカルタ!?」
カルタの言葉は、言ってみれば何かあった時はガエリオを肉壁にすると言ってるようなものだ。
ガエリオもそれが分かったからこそ、不満を口にしたのだろう。
ただ、カルタはそれを無視して強引に兵士を部屋の外に追い出す。
そうして扉が閉まると、この客室には俺とマクギリス、カルタ、ガエリオの4人だけが残った。
扉が閉まると、ガエリオはカルタの側に立つ。
ああいう風に言われはしたものの、それでもやはり何かあったら自分がカルタを守るつもりなのだろう。
残念なのは、カルタが先程兵士に言ったのはあくまでも兵士を部屋の中に入れない為の詭弁であり、本人にはガエリオに守って貰うつもりはなかったという事だろう。
その証拠に、カルタはいつでも自分を庇える位置にいるガエリオに不思議そうな……一体、この男は何をしてるのだろうといった視線を向けている。
だが、それ以上突っ込むような事はなくマクギリスに視線を向ける。
ガエリオに何か言うよりも、マクギリスの正体……より正確にはモンタークの正体として、マクギリスに一体何をやっているのかを聞きたかったのだろう。
「これは一体何の真似なのかしら?」
マクギリスも、この一言でカルタが自分の正体を見抜いているのを悟った……もしくは、シャトルから出て来た時のやり取りで既に分かっていたのかもしれないが、そこまで驚いた様子はない。
寧ろガエリオの方がカルタが一体何を言ってるのか分からないといった様子を見せている。
「参ったな。まさかこんなに早く見抜かれるとは思ってなかったよ」
「え……?」
そしてガエリオは、マクギリスの今の言葉で目の前にいるのが誰なのかを理解したらしい。
それでも驚くというよりは、信じられないといった表情を浮かべている。
そんなガエリオを見つつ、マクギリスはモンタークとしての仮面を外す。
するとそこには、当然のようにマクギリスの顔があった。
「……やっぱり」
そう言うカルタだったが、薄らと頬が赤くなっているのを見れば、カルタがマクギリスにどのような感情を抱いているのかは丸分かりだ。そして……
「な……マク……ギリス……?」
ガエリオの方は、先程の声でもしかしたらとは思っていたのかもしれないが、こうして実際にモンタークの正体がマクギリスだと知ると、咄嗟に何も言葉には出せなくなったらしい。
「ああ、久しぶりだね。カルタもガエリオも」
「マクギリス……お前、一体何を……いや、待て。お前がその男と一緒にいるという事は、もしかしてさっきの戦いもお前が裏で糸を引いていたのか!?」
ガエリオのその言葉には、カルタの表情も変わる。
カルタの部下が何人も死んだのだから、そのようになってもおかしくはない。
そんな2人に向かい、マクギリスは首を横に振る。
「別に私はあの戦いに直接関与はしていないよ。もっとも、モンターク商会として地球に下りるアクセル達に降下船を用意はしたが」
その言葉に、ガエリオは俺を睨むように一瞥すると、すぐにマクギリスに詰め寄っていく。
そして胸ぐらを掴み、怒鳴るように言う。
「マクギリス! お前は一体何を考えている! ギャラルホルンを裏切る気か!」
「そうだね。ある意味で間違ってはいない」
だが、マクギリスは胸ぐらを掴まれても全く気にした様子もなく、そう返す。
本人にしてみれば、この程度の事は何とも思っていないのだろう。
「ちょっと、ガエリオ! マクギリスから手を離しなさい! 事情があるにしても、このままだと聞けないでしょう!」
「カルタはマクギリスに甘すぎる!」
幼馴染みらしいやり取りを聞きつつ、俺は1歩退いて口も手も出さない。
俺が口や手を出せば、ガエリオを鎮圧するのはそう難しい事ではないだろう。
……それこそ、マクギリスを含めてこの部屋の中にいる全員を殺し、見つからないように脱出してグランに戻るのも難しくはない。
もっとも、マクギリスの様子を見る限りではそういう事をする必要はまずなさそうだったが。
「落ち着け、ガエリオ。私にも色々と考えがあっての行動だ。……正直なところ、この件は私だけで進めようと思っていたのだが、アクセルから痛い事を言われてね。それで君達に協力を求めようと思ったんだ」
「協力? ……ああ、私に出来ることならやってもいいだろう。だが、それなら何故最初からそのように言わなかった? カルタの部隊にあそこまで被害を出す必要もなかっただろう!」
どうやらガエリオが怒っているのは、自分に黙っていたとかそういう事ではなく、そちらが原因だったらしい。
カルタの部隊……地球外縁軌道統制統合艦隊が俺と戦って受けた被害は大きい。
そういう意味では、ガエリオの言いたい事も分からないではなかったが、それでもここまでカルタの為に怒るとは思わなかったな。
あるいは、ガエリオはカルタに恋心を抱いているとか?
いや、けど俺が見た限りではそういう風には見えなかった。
勿論、単純に俺が見抜けていないだけという可能性もあるので、それも絶対ではないが。
ともあれ、俺から見てガエリオがカルタに好意を持ってるのは間違いないが、それはあくまでも友人としての好意であって、男女間の好意ではない。
だとすれば、ガエリオがここまでマクギリスに対して怒っているのは、友達思いだからこそか。
……そういうのを見ると、何だかガエリオに対する好感度が上がるな。
「生憎と、私にも色々とあるのだよ。先程も言ったが、今回の件は本来なら私だけで進める予定だった。……それこそ、最悪の場合は君達を切り捨てるような事になってもだ」
マクギリスの口から出た言葉は、ガエリオやカルタにとっても衝撃だったらしい。
ガエリオは掴んでいたマクギリスの胸ぐらから手を離し、カルタは麻呂眉の下にある目を大きく見開いている。
それだけ2人にとって、マクギリスの口から出た言葉は衝撃的だったのだろう。
そのまま沈黙が続く事、数分。
やがて気を取り直したのか、ガエリオが口を開く。
「マクギリス、そこまでしてお前は何をやろうとしているんだ?」
真剣な表情で尋ねるガエリオ。
嘘を言ったら許さないと、そのように思えるガエリオの様子に、マクギリスも真剣な表情で口を開く。
「ギャラルホルンの革命の為だ」
「……何、だと?」
マクギリスの言葉はガエリオにとっても予想外だったのか、そんな声が漏れる。
話を聞いていたカルタもまた、マクギリスの言葉に驚きの表情を浮かべていた。
というか、俺が聞いていたのはギャラルホルン内部の汚職を一掃するとか、そういう事だったと思うんだが。
それが何でギャラルホルンの革命なんて言葉になるんだ?
とはいえ、マクギリスの表情には特に動揺した様子はない。
多分だが、ギャラルホルンの革命というのは最初から考えていて、それを俺に言う時は誤魔化してそういう風に言ったんだと思う。
あくまでも俺の予想なので、実際にどうなのかは分からないが。
「本気で言ってるのか?」
そこでようやくガエリオがそう尋ねる。
しかし、マクギリスはそんなガエリオの言葉に平然とした様子で頷く。
「ああ、勿論だ。ガエリオ、君は私と一緒に火星に行って、ギャラルホルンの腐敗をその目にしただろう?」
「それは……」
この腐敗というのは、まさに俺達が関係した一件のことだろう。
クーデリアを自分達の手で捕らえようと、鉄華団の拠点……当時はCGSの拠点にギャラルホルンのMS隊を派遣してきたのは、まさにその典型だった。
勿論それだけではなく他にも色々と後ろ暗い事をしていたのは間違いない。
だからこそ、監査局にいるマクギリスやガエリオが火星までやって来る事になったのだから。
また、火星の件だけではない。
監査局という場所にいれば、火星の一件以外にも不正をしている者を何人も見ているだろう。
「カルタが率いる地球外縁軌道統制統合艦隊は、例外的に汚職をしている者は少ない。それは監査局で仕事をしている者なら誰でも知っている」
そう言うマクギリスに、カルタは頬を赤く染める。
地球外縁軌道統制統合艦隊の規模はそれなりに大きい以上、中には勿論汚職に手を染めている者もいるだろう。
とはいえ、マクギリスの様子からすると、カルタに近い位置にいる者の中には汚職を働いている者はいないらしい。
……しまったな。そういう意味では、地球外縁軌道統制統合艦隊はそちら方面では非常に優秀だという事を意味している。
そこに所属するMSパイロットを結構な数殺してしまったのは、これからの事を思えばミスったかもしれない。
とはいえ、マクギリスにしてみればその点は織り込みずみなのだろうが。
何しろ降下船についての交渉をした時に、地球外縁軌道統制統合艦隊についての情報は既にあった。
もしマクギリスが諸々について言っていれば、それはそれでこっちも相応の対処をしただろう。
だが、マクギリスは交渉の時に何も言わなかった。
それはつまり、マクギリスにとってあの戦いは必要な事だったのだろう。
あの戦いがなければ、カルタが大人しく交渉に応じるとは思えない……いや、どうだろうな。
カルタのマクギリスに対する想いを考えると、マクギリスが交渉を持ちかけていれば大人しく交渉に応じた気がする。
そうなると、俺には知らない何らかの事情があったのは間違いないといったところか。
気にならないと言えば嘘になるが、マクギリスの性格を考えると、恐らく聞いても決してそれを口にしたりはしないだろう。
「そうでしょう。私の部下達は優秀だもの」
マクギリスに褒められたカルタが嬉しそうに言う。
こういうのをチョロインって言うんだよな。
実際にはカルタは別にマクギリスに会ったばかりという訳ではなく幼馴染みらしいから、チョロインというのとはちょっと違うかもしれないが。
「だが、そんな地球外縁軌道統制統合艦隊とは違い、ギャラルホルンの中には腐敗が蔓延している。……知ってるかい、私の義父であり、ファリド家の現当主、そしてカルタの後見人であるイズナリオ・ファリドは現在アーブラウの内政に干渉して自分の息の掛かっているアンリ・フリュウを擁立しようとしているんだ」
「……何……だと?」
つらつらと並べられた内容。
しかもそれは、義理とはいえマクギリスの父親の悪事だ。
というか、蒔苗が失脚したのはそういう理由からだったらしい。
もしクーデリアがこの件を知ったら、どう思うだろうな。
不満を持つのは間違いないが、それを表に出すかどうかは微妙なところだろう。
「セブンスターズのファリド家の当主が、このような事をしている。そんなギャラルホルンが正しいと言えるかい? それに私が言うのはどうかと思うが、うちの義父がそのようなことをしている以上、他のセブンスターズの面々も似たような事をしていてもおかしくはない」
「マクギリス、それは父上も何かやっていると、そう言うのか?」
ガエリオのマクギリスを見る目が厳しくなる。
どうやらガエリオは父親思いらしい。
それだけに、自分の父親が汚職に手を染めているとは思えない……あるいは思いたくないのだろう。
しかし、マクギリスはガエリオにそのような視線を向けられても特に気にした様子もなく、口を開く。
「分からない。だが、うちの義父ですらこの有様だ。他にも汚職をしている者がいないと言い切れるのかい?」
そう言うマクギリスの言葉に、ガエリオは反論が出来ないのだった。