マクギリスの言葉に、沈黙が続く。
ガエリオにしてみれば、家族思いっぽいので父親が不正をしてるとは思っていないのだろうが、それを明確に否定する事も出来ないといった感じか。
カルタの方は、マクギリスの義父が後見人になってるって話だったから、それはつまりカルタの両親は死んでいるとかの可能性が高いので、何らかの不正をしているとかはない……今の時点ではやっていないと思っているからなのか。
もっとも、セブンスターズの家とはいえ、いわゆる分家とか、その家に仕えている者達とか、そういう連中もいる筈で、そのような者達が何らかの不正をしている可能性は否定出来ないが。
「話は分かった。……いや、色々と納得出来た訳ではないが、マクギリスがやろうとしているのは分かったと言った方がいいか。それで、ギャラルホルンで革命をするという事だが、具体的にどうするつもりだ? まさか、内乱を起こそうとでも言うつもりか?」
ガエリオの言葉に、マクギリスはあっさりと頷く。
「そうだな。それしかないとなれば、最後の手段として戦いで……力で強引に革命をするというのは考えている。もっとも、それは本当に最後の手段だ。そうならないで革命が起こせるのなら、その方がいい」
「……力でどうこうではなく、もっと穏便な手段でどうにかならないのか?」
「無理だ」
ガエリオの言葉を即座に否定するマクギリス。
その言葉は力強く、穏便な手段でどうにかなるとは本当に思っていないのだろう事が分かる。
もっとも、穏便な手段と言っても色々とあるが。
普通に話し合いをして、それによってギャラルホルン内部の改革をしていくという方法もあるだろう。
もしくは不正を働いている者達を告発するといった手段もある。
乱暴な方法としては、不正を働いている者を次々に暗殺していくとかか。
どれも穏便……まぁ、暗殺についてはとても穏便とは言えないだろうが、それでもギャラルホルンを真っ二つに割っての内乱と比べると、死者は少なくてすむ。
「ギャラルホルンが出来てから300年。既に組織の自浄能力は失われた。それこそセブンスターズの一員である義父がアーブラウに干渉しているのを見れば、それは明らかだろう?」
そう言うと、ガエリオは何も言えなくなる。
監査局というのがあって、本来ならそれが自浄能力を発揮するのだろうが……それでもセブンスターズを構成している家についてはどうにも出来ないというのがあるのだろう。
あるいはギャラルホルンが結成された当初ならどうにかなったかもしれないが、300年の間に暗黙の了解とでも呼ぶべきものが出来ていても不思議ではない。
そしてマクギリスが革命を起こしてまでどうにかしたいのは、そういうのが大きいのだろう。
「それは……そうだが」
何とか言葉を口にしたガエリオだったが、それでも言えたのはそれだけだ。
マクギリスと同じ監査局にいたからこそ、その言葉に反論は出来ないのだろう。
「だからこそ、最後の手段として力による革命を考えたのだ」
そう断言するマクギリス。
うん。まぁ、マクギリスの話術の上手さもあるんだろうが、実際に話を聞く限りだとそうするしかないという風に思えてしまうところがあるのも事実だな。
何より、ギャラルホルンが出来てから300年というのが非常に大きい。
その300年によって、暗黙の了解が出来てしまい、それが完全に固定化してしまったのは、自浄作用的な意味ではどうしようもないだろう。
これが出来たばかり……とはいかなくても出来てから数年、もしくは10年くらいなら暗黙の了解をどうにか出来たのかもしれないが。
「……マクギリス。それで私やガエリオの坊やに力を貸せと、そう言いたいのかしら?」
今まで黙っていたカルタが、マクギリスにそう尋ねる。
マクギリスに見惚れているだけかと思ったら、きちんとその辺についても考えていたらしい。
いやまぁ、そう思うのは当然の流れかもしれないが。
「そうだな。力を貸してくれると助かる。私も色々と動いてはいるが……そこに地球外縁軌道統制統合艦隊が入ってくれたら嬉しいと思うよ」
「そう。分かったわ。なら、貴方に協力してあげる。感謝しなさい」
「カルタ!?」
あっさりとマクギリスの言葉というか、提案というか、誘いに乗ったカルタに、ガエリオが思わず叫ぶ。
……うん。本当にチョロインだな。
改めてそう思ってしまうのは、決して俺だけではないだろう。
いやまぁ、チョロインという概念が厄祭戦を終えたオルフェンズ世界に残ってるのかどうかは分からないが。
そんな俺の思いとは裏腹に、カルタはガエリオに対して特に動揺した様子もなく口を開く。
「私の耳にも、ギャラルホルンの腐敗については入っていたわ。マクギリスが言うように、この地球外縁軌道統制統合艦隊においてはそのような事がないように心を砕いてきたつもりよ。けれど……ギャラルホルン全体がそのような状況になっているのなら、セブンスターズとして、いえ、セブンスターズの第1席のイシュー家の者として、それに対処する事が必要でしょう。それも、私の後見人だったイズナリオ司令……いえ、イズナリオ・ファリドまでもが不正をしているとなれば、黙っている事は出来ないわ」
「それは……いや、しかし……マクギリス、妹の事はどうするつもりだ?」
ガエリオのその言葉に、マクギリスは微かに眉を動かす。
ガエリオの妹とマクギリスがどういう関係なのかは知らないが、その言葉にはマクギリスにも思うところがあるのだろう。
……もっとも、マクギリスやガエリオは気が付いていないようだったが、ガエリオの妹という言葉を聞いた瞬間、カルタの目に苛立ちとも嫉妬とも憎悪ともつかない色が浮かんだのだが。
これについては、俺は関わらない方がいいだろう。
「アルミリアか。彼女に関しては……私が幸せにするつもりだ」
「ギャラルホルンで革命をするというのに、妹が喜ぶと思うのか?」
「だからこその革命でもある。アルミリアがこれから育つのに、今のままのギャラルホルンで本当にいいのか? もっとしっかりとした……アグニカ・カイエルが作った時のギャラルホルンこそが必要ではないか?」
「……それは……」
マクギリスの言葉に、ガエリオも何か色々と言いたい事はある様子だったが、実際にそれを口にしたりはしない。
恐らくマクギリスの言葉に一理あると、そう思っているのだろう。
もっとも、今のやり取りからするとアルミリアというのはまだ小さい子供だろう。
それがマクギリスにどんな関係がある?
そんな疑問を抱いたものの、これもまたカルタの様子を見れば何となく納得出来てしまう。
ギャラルホルンのセブンスターズというのは、この世界の支配者……言い換えれば、王族や貴族といった表現が相応しい者達だ。
そうなると政略結婚とかそういうのは普通にあってもおかしくはないだろう。
そうなると……多分、そういう事だと思った方がいい。
もっとも政略結婚といえども、既に20代のマクギリスと、話を聞く限りではまだ子供のアルミリアとなると……まぁ、マクギリスが幸せにすると言ってる以上、その言葉に嘘はないのだろうが。
まさかこの場で……カルタとガエリオを説得する場で、嘘を吐くとは思えないし。
「……分かった。いや、完全に納得している訳ではないが、お前が……マクギリスに止まるという選択肢がない事は分かった。なら、私も付き合おう。だが、もしお前が間違った道に進む場合、マクギリスを殺してでも止めてみせる」
そう断言するガエリオに、カルタが苛立ち混じりの視線を向ける。
多分この苛立ちは、マクギリスを殺してでもとかそういうのも関係してるんだろうが、それ以上にガエリオの妹の件が関係しているような気がする。
もっとも、それについては俺は関わらない方がいいような気もするので、迂闊に触れるつもりはないが。
「分かってくれて嬉しいよ。それに私が暴走した時に止めてくれる者がいるのなら安心出来る。特にそれがガエリオなら余計に」
そう言うマクギリスの言葉に、ガエリオは微妙な表情を浮かべる。
てっきり喜ぶのかと思ったら、別にそういう訳でもないらしい。
ガエリオにしてみれば、やはりこの件で思うところは色々とあるのだろう。
ちなみにそんなガエリオに対し、嫉妬の視線を向けているカルタがいるんだが……うん、そういうのは俺の関係のないところでやって欲しいものだ。
「さて、ともあれこれで話は決まったという事でいいのか?」
マクギリスから少し離れた場所で様子を見ていた俺がそう口に出すと、カルタとガエリオの2人は俺に向けて驚きの視線を向けてくる。
どうやらマクギリスの話が衝撃的だったこともあり、俺の存在をすっかりと忘れてしまっていたらしい。
「すまないね、アクセル。……とはいえ、今の話はアクセルにも知っておいて貰った方がいいだろう?」
「そうだな。正直なところ驚いた」
「その割には、表情に驚きの色がないように思えるが?」
そう言ってくるマクギリスだったが、実際にここでマクギリスの目論見を知る事が出来たのはいい。
以前からマクギリスの目的はギャラルホルンの不正を正す事だと言っていたものの、その方法として革命……内乱すらも考えていたというのは驚きだった。
本人が言うには、武力でどうにかするのは最後の手段という事だったが。
しかし、その手段があるのとないのでは……使えるのに使わないのと使えないのでは、大きく意味が変わってくる。
自分の所属している組織だとはいえ、それでもここまでやるというのは素直に凄いとは思う。
それに巻き込まれる方としては、微妙な思いがない訳でもなかったが。
「マクギリス、今更の話だけど一体何故部外者を連れてきたのかしら?」
カルタが不審そうな……というか、不満そうな視線を俺に向けてくる。
無理もないか。
ここにいるマクギリス、ガエリオ、カルタの3人は幼馴染みだ。
そんな者達でギャラルホルンの不正を正すという話をしていたのに、そこに部外者の俺がいるのだから。
とはいえ、俺はこの旗艦に来た時から一緒にいたのだから、その台詞は今更のものだと思うが。
「アクセルには、色々と協力して貰った……あるいは協力して貰おうと思ってね」
「火星の人でしょう? しかも地球に騒動の種を持ってきた。そのような人物の協力はいるのかしら?」
「彼の力は、それこそカルタがよく理解しているのでは?」
マクギリスのその言葉に、カルタは不満そうな様子を見せつつも力強い視線を俺に向けてくる。
マクギリスも、何だってカルタを刺激するような事を言うんだろうな。
「そうね。でも、だからといってMSの戦闘力があるだけでギャラルホルンの革命がなると思ってるのかしら?」
「……アクセルならそれでも何とかしそうなのが怖いんだけどね。ナノラミネートアーマーを無効化する何らかの方法も持ってるようだし。それに……ドルトコロニーでアリアンロッド艦隊を相手に戦った、いや蹂躙した可変型のMSについても、アクセルなら知ってるんじゃないかと思ってるよ」
そう言い、俺に視線を向けるマクギリス。
サラマンダーの件は既に半ば……いや、ほぼ俺の仕業だと確信しているものの、それでも証拠がない為か今のようにふんわりとした様子で聞いてくるが。
「どうだろうな。俺の使っているMSはグシオンだけど」
これは決して嘘ではない。
実際に俺がこのオルフェンズ世界において使っているMSはグシオンだ。
……いやまぁ、グレイズだったり、百錬だったりあるが、グシオンがメインなのは間違いない。
そしてサラマンダーはMSではなくVFなのだから、俺は決して嘘を言ってはいなかった。
後で種明かしをされた時、それを聞いた者が納得するかどうかは微妙なところだったが。
「なるほど。まぁ、そういう事にしておこう。……それで、私の目的とそれを成し遂げる為の手段を聞いて貰ったのだが、その感想は?」
いや、何でそれを俺に聞いてくる?
そうも思ったが、マクギリスにしてみればアグニカ・カイエルと間違えた件もあって俺が少し特別な存在なのは間違いないのかもしれないな。
もっとも、カルタやガエリオにしてみれば、それを知らないだけに納得も出来ないだろうが。
……ガエリオは初めて会った時、三日月と揉めていたし。
「そうだな。まず聞きたいのは、セブンスターズというからには7つの家があるんだろう? そしてここには3人。しかもそのうちの1人は父親……義父が明らかに不正を行っている。そうなると、革命を起こすにしろ派閥を作るにしろ、不利なのは間違いないんじゃないか?」
話を聞くところ、カルタはイシュー家の当主という立場らしい。
だが、イズナリオが後見人になっているという事は、それはつまりセブンスターズにおいて1人前の当主とは認められていないのだろうと予想出来る。
ガエリオは……次期当主という意味ではマクギリスと同じ立場だが、それでも父親が不正に手を染めていない――実際は分からないが――という違いはあるが。
ともあれ、俺はマクギリスにそう尋ねるのだった。