転生とらぶる2   作:青竹(移住)

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3967話

 180歳。

 そう口にした蒔苗の言葉に、俺は唖然とする。

 しかし、蒔苗は笑みを浮かべて言葉を続ける。

 

「珍しいかもしれんが、このくらいの年齢の者は珍しくないじゃろう?」

 

 そうなのか?

 そう聞き返したくなったが、それを口にすると危険だという事も理解は出来た。

 もし蒔苗が口にした、珍しくないという言葉が正しい場合、それはオルフェンズ世界における常識の場合があるからだ。

 この世界にやって来てから色々と調べたりもしたが、それでも180歳まで生きる者がいるといった情報はなかったと思う。

 あるいはその情報があっても見逃していたが。

 それにしても……180歳か。

 延命の技術という意味では、これはかなり大きい。

 もっとも、シャドウミラーに所属した者であれば受信機を持っており、ゲートに時の指輪を埋め込んだことによって不老になる。

 魔法的な効果と科学的な効果。

 不老や延命という似たような効果ではあるが、現時点においては時の指輪の方が圧倒的に性能は上だろう。

 何しろ蒔苗を見れば分かるように、見るからに老人だ。

 いやまぁ、180歳でこうして元気に歩き回っているという時点でその延命治療……いや、この表現は正しくないか? とはいえ、ならどう表現すればいいのかと言われても……別に治療をしている訳じゃない以上、延命技術が正しいか。

 何か他に相応しい名前を思いつくまでは延命技術という表現にしておこう。

 オルフェンズ世界の延命技術がかなりの効果を持っているのは分かる。

 だが時の指輪の受信機は、それを身に付けている間は不老になるのだ。

 あくまでも不老であって不老不死ではないが、それは延命技術も同様だろう。

 そんな訳で、この延命技術……もしゲートが繋がったら、非常に大きな意味を持つことになる可能性がある。

 何しろ寿命の倍近い延命技術だ。

 それを欲する者は幾らでもいるだろう。

 ……なるほど、このオルフェンズ世界とホワイトスターがゲートで繋がったら、どういう品物で貿易をすればいいのか考えていたんだが、延命技術というのは目玉になるだろう。

 勿論、ハーフメタルであったり、木星メタルであったりと、この世界特有の資源もあるが、資源はやはり資源だ。採掘を続ければいずれなくなってしまう。

 それに対して、延命技術ならその心配はない。

 それどころか、今以上に寿命を延ばしたり……技術の進歩によって若返るといった事すら可能になるかもしれない。

 まぁ、これはあくまでも楽観的な予想であって、本当にそうなるかどうかは分からないけど。

 

「こうして実際に見るのは多分初めてだな」

 

 頭の中で延命技術について色々と考えていたものの、蒔苗の言葉にはそう誤魔化しておく。

 取りあえず、この世界で調べる重要項目が1つ増えたな。

 延命技術が、本当に蒔苗が言うようにそこまで珍しくないものなのか……あるいは、情報はそれなりに広がっているものの、実際には金持ちや権力者じゃないと使えないのか。

 他に可能性が高いのを考えると、延命技術はあるがそれにも幾つかの段階があるという事か。

 分かりやすい例で言えば、SEED世界のコーディネイターの技術がある。

 あれもまた、遺伝子操作をする時にどこをどう変えるのかというので値段が決まっており、金持ちであれば多くの能力を遺伝子操作で与えられるものの、金がないと限定された能力しか与えられないらしい。

 実際、誰から聞いたのかはちょっと忘れたが、とんでもない美形になるように遺伝子操作はされたものの、そこで両親の金がなくなったらしく、コーディネイターではあるものの、美形である以外の能力はナチュラルという者もいるらしい。

 オルフェンズ世界の延命技術も、そういう感じで金によってどのくらい寿命を延ばせるかが変わるのかもしれないな。

 あくまでもこれは俺の予想であって、正しいかどうかは分からないが。

 

「ほう、そういうものか。……まぁ、儂の年齢の事はいいとして。ギャラルホルンからの追っ手が来る可能性が高いというのなら、今は少しでも早く交渉をする必要があるじゃろう。来なさい、儂の家で話そう」

 

 俺との話を途中で切り上げ、蒔苗は歩きだす。

 

「どうする?」

 

 蒔苗が歩きだしたのを見た俺は、そうクーデリアに尋ねる。

 結局のところ、蒔苗との交渉についてはクーデリアこそが主役なのだ。

 だからこそ、ここでどうにかするのを決めるのはクーデリアだと思ったのだが……

 

「行きましょう」

 

 きっぱりとそう告げる。

 クーデリアにしてみれば、蒔苗と交渉をする為に地球まで来たのだ。

 その交渉をこれから行うという以上、それを避けるという考えはなかったらしい。

 ……もっとも、交渉をしても俺達が蒔苗をアーブラウまで連れて行って、再度代表にしなければ何の意味もないのだが。

 イズナリオの傀儡のアンリとかいう奴がアーブラウの代表になったら、間違いなくクーデリアと交渉はしないだろう。

 植民地である火星は今まで通りにしろと言ってくる。

 なるほど。そういう意味では蒔苗と交渉出来るというのは大きいのか。

 不利な方に味方をすれば、その分だけ見返りは大きいというのはオルフェンズ世界でも変わらない。

 ……いや、海賊とかが大量にいるオルフェンズ世界だからこそ、その辺はよりシビアな感じになるのかもしれないな。

 ともあれ、蒔苗が危ない状況だというのは俺達にとっては悪いことではない。

 

「分かった。……オルガはどうする?」

「行きます。俺達も護衛を仕事として受けている身なので」

「なら、俺とクーデリアとオルガ。取りあえず3人でいいな」

 

 本来なら他にも一緒に行きたい者達はいるだろう。

 それこそフミタンやシーラ、三日月……といった具合に。

 だが、これから起こる交渉は大きな意味を持つ以上、参加出来る人数は少数の方がいい。

 ……他にも蒔苗の護衛達の事を考えても、やはり人数は少ない方がいいだろう。

 護衛達がどこまで現実を……自分達よりも子供達の方が実戦慣れしており、戦えば負けると認識してるのかは分からないが、それでも護衛である以上は警戒する対象が少ない方がいい。

 もっとも、俺がいるという時点で護衛の仕事は……うん。まぁ、それは仕方がないか。

 このオルフェンズ世界において、魔力や気といった存在は架空のものでしかないのだから。

 話を聞いていた他の面々もそれには異論がなく、素直に頷く。

 そうして俺達3人は蒔苗の後を追ったのだが……

 

「これはちょっと意外だったな」

 

 蒔苗が住んでいる家は、和風の屋敷だった。

 もっとも、蒔苗という日本風の名前を考えれば、和風の屋敷であってもおかしくはないのか?

 実際、蒔苗が着ているのも着物だったし。

 

「ほれ、こっちじゃ」

 

 蒔苗に呼ばれ、俺達は屋敷の中に入る。

 そうして気が付けば、和室に俺達の姿はあった。

 部屋の中で向かい合う俺達の前にはお茶が用意される。

 ……普通こういうのってメイドとかがやるんだろうが、持ってきたのはスーツ姿の男だ。

 スーツ姿ではあるが、護衛の黒服達ではない。

 見た感じ荒事に向いているようには思えない事から、恐らく蒔苗の部下……秘書とかそういう感じだろう。

 ちなみに屋敷に合わせたのか、あるいは単純に蒔苗の趣味なのか、用意されたのは緑茶だった。

 一口飲んだオルガが、微かに眉を顰めている。

 まぁ、オルガには緑茶を飲むような機会なんてなかっただろうしな。

 そんな風に思いながら俺も緑茶を一口飲むが……甘いな。

 いや、砂糖とかを口にした時のような強烈な甘みという訳ではないが、それでもこの緑茶にはまろやかな甘みがある。

 これ、多分かなり高級品の緑茶なんだろうな。

 俺は元々紅茶派だが、あくまでも軽い……もしくは浅い意味での紅茶派だ。

 本当の紅茶好きなら、缶紅茶とかそういうのは許容出来ないと言う者もいるだろうが、俺の場合は缶紅茶も普通に美味いと思って飲める。

 そんな紅茶派の俺だけに、紅茶についてそこまで詳しい知識がある訳でもない。

 ……だからこそ、当然ながら緑茶についてもそこまでの知識がある筈もないが、それでもこの緑茶は美味いと素直に思った。

 

「どうやら喜んでくれたようじゃな」

 

 俺を見て満足そうな笑みを浮かべる蒔苗。

 自分の用意した――正確には緑茶を淹れたのは蒔苗ではないが――緑茶を美味そうに飲んでいた事が嬉しかったのだろう。

 

「ああ、今までも緑茶はそれなりに飲んできたが、その中でもトップクラスに美味い」

「ほっほっほ」

 

 俺の言葉がお世辞でも何でもない、真実だと理解したのだろう。

 蒔苗は嬉しそうに笑う。

 ちなみにクーデリアは、上流階級出身だけに緑茶は飲み慣れているとまでは言わずとも、それなりに飲んだ経験はあったのか、オルガのように妙な様子は見せず、普通に飲んでいた。

 そうしてお茶の時間が一段落したところで、オルガが口を開く。

 

「それで、爺さん。俺達にはあまり時間はねえんだ。早く話を進めてくれねえか?」

「そう慌てるでない。ここはアーブラウではなくオセアニア連邦の領土じゃ。ギャラルホルンであってもそう簡単に手は出せんよ。……と、少し前なら言っておったのじゃがな」

 

 蒔苗が息を吐く。

 その少し前というのは、イズナリオの件を知るまでか。

 あるいは、地球外縁軌道統制統合艦隊は動かないと知っての事か。

 地球外縁軌道統制統合艦隊の司令をしているカルタの後見人は、イズナリオだ。

 その辺の関係もあって、イズナリオが地球外縁軌道統制統合艦隊を動かすといった選択肢もあったのだろう。

 だが、今の地球外縁軌道統制統合艦隊を率いるカルタは、イズナリオの味方ではない。

 マクギリスの味方だ。

 自分の後見人……しかもギャラルホルンの役割を無視してアンリを傀儡にアーブラウの実権を握ろうとした男と、愛する男のどちらに手を貸すかと言われれば、カルタは即座に後者を選択した。

 ……それでいながら、本人は自分の想いが知られていないと思っているようだったが。

 その辺について疎い俺でも分かるのだから、それこそマクギリスはその辺について十分以上に理解しているだろう。

 ガエリオは、友人と友人の義父では前者を選んだらしい。

 この辺は2人共若いというのがあるんだろうな。

 もしもっと老練な性格をしていれば、イズナリオを選んでもおかしくはないのだから。

 確かにマクギリスはギャラルホルンの革命を……本来あるべき姿に戻そうとしている。

 しかし、それを行ってしまうと今のギャラルホルンの中には破滅する者も出て来る筈だ。

 セブンスターズにも、それをやられると困る者がいるだろう。

 その最たる存在が、イズナリオな訳だ。

 カルタとガエリオは、言ってみれば若さに任せて自分達の利益――腐敗した利益だが――を捨てる事にした訳だ。

 まぁ、俺としてもそっちの方が嬉しいけどな。

 マクギリスの性格を考えれば、ガエリオとカルタが自分の味方になると理解したからこそ、仲間に誘ったんだろうが。

 俺達と戦わせる意味があったのかは、未だに疑問だけど。

 ともあれ、地球外縁軌道統制統合艦隊を使えないとなればイズナリオも何か別の手段を使ってくる可能性がある。

 それこそアーブラウではなくオセアニア連邦の領土だからというのを全く気にせずに。

 蒔苗もそれを理解しているからこそ、話をしようとしているのだろう。

 

「まず大前提として、ハーフメタルの件についてはそちらの要望通りにするつもりじゃ。儂も以前からその件については考えていたからのう」

「……」

 

 いきなりの蒔苗の言葉に、クーデリアは黙り込む。

 まさかの展開だったのだろう。

 ……実際、そのクーデリアの反応は俺にも分からないではないが。

 

「交渉はもう終わりだな」

 

 そう言うと、蒔苗は笑みを浮かべる。

 ただし、先程緑茶について褒めた時の笑みとは違い、長年政治の世界にいた者特有の老獪な笑みだが。

 

「そうじゃな。ただし、この交渉が実際に行われるかどうかは、儂がアーブラウの代表である時に限るが」

 

 やっぱりそう来たか。

 蒔苗にしてみれば、交渉そのものはこっちの要望を受け入れると前もって決めていたのだろう。

 だが、その交渉した内容が現実に反映されるかどうかは……蒔苗が今のままここにいては駄目で、以前のようにアーブラウの代表になる必要があると。

 もっとも、さっきも思ったがこの話そのものはそう悪いものではない。

 アンリとかいう女がアーブラウの代表になれば、それこそイズナリオの指示通りに動く人形となり、火星は植民地のまま……いや、クーデリアという存在が現れた以上、再度同じ事が起きないよう、火星をより厳しく締め付けてもおかしくはなかった。

 

「爺さん、てめえ……どういうつもりだ?」

 

 オルガが蒔苗を睨み付ける。

 そんなオルガの行動に、部屋の外にいた護衛達が動く気配が感じるが、部屋の中に突入する様子はない。

 前もって蒔苗から言い含められているのか、あるいはオルガが蒔苗に危害を加えないと思っているのか……後者だな。

 そう思いつつ、俺は蒔苗に視線を向けるのだった。

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