転生とらぶる2   作:青竹(移住)

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3969話

 アラスカのアンカレッジへの転移。

 そう言った蒔苗だったが、正直なところアンカレッジという場所の詳細がすぐには思い出せなかった。

 それでも誰かに言われるよりも前にアラスカの地名だと思い出せたのは、いつかどこかでその辺について聞いた事があった為か。

 具体的にそれがいつなのかは俺にも分からなかったが。

 ともあれ、蒔苗はすぐにではなく、一度アンカレッジという場所にいる人物と連絡を取りたいと言ってきた。

 そんな訳で、アンカレッジに転移をするのは明日以降……恐らくは明日ということになり、その場は解散となる。

 蒔苗にしても、まさかいきなり魔法なんてものが出てくるとは思っていなかったのだろう。

 180年を生きた蒔苗であっても、魔法という存在は驚きだったらしい。

 実際、俺は別にこの世界の出身ではない訳だから、蒔苗の判断はそう間違っている訳でもないのだが。

 ともあれ、そんな訳で俺達……俺とクーデリア、オルガの3人は浜辺に向かっていたのだが……

 

「ちょっと待って下さい!」

 

 不意に後ろから聞こえてきた声に、視線を向ける。

 するとそこには、護衛の黒服ではなく緑茶を持ってきた蒔苗の秘書と思しき者の姿があった。

 その手には発泡スチロールを持っている。

 発泡スチロール……この時代にもあるんだな。

 そんな風に思いつつ、俺達は足を止める。

 すると秘書は俺達に追いつき、手にしていた発泡スチロールを差し出す。

 

「はぁ、はぁ、はぁ。その……蒔苗先生がこれを持っていけと」

「へぇ……これはまた」

 

 発泡スチロールの中には、鯛や伊勢エビ、アワビ、サザエ、それ以外にも多数の魚介類が入っている。

 生憎と俺はそこまで魚介類に詳しい訳でもないので、名前も分からない魚の姿もあったが。

 

「う……」

 

 微かに聞こえてきた声は、オルガからのものだ。

 そこには嫌悪感すら滲ませている。

 ん? 一体何だ?

 それでもわざわざこの魚介類を持ってきた秘書に聞かれないように声を口の中で押し殺したのは、褒めるべきところだろう。

 混沌精霊の俺の耳にはしっかりとその声が聞こえてきたが。

 とはいえ、今はまずオルガよりも秘書か。

 

「ありがとうございます。蒔苗先生にも喜んでこの差し入れを受け取ったとお知らせ下さい」

 

 クーデリアが笑みを浮かべて秘書にそう言う。

 そんなクーデリアの笑みに、秘書は一瞬見惚れたのが分かった。

 蒔苗の秘書なら、それこそ美人を見る機会は多いと思うんだが、

 そういう機会があっても、それはそれで話は別といったところだったりするのかもしれないな。

 

「い、いえ。その……では、失礼します!」

 

 頭を下げると、秘書はその場から立ち去る。

 そんな秘書を不思議そうに見るクーデリア。

 クーデリアにしてみれば、秘書の様子に疑問を思ったのだろう。

 元々、クーデリアは以前から顔立ちが整っていた事もあり、美人と評しても間違いはなかった。

 また、フミタン程ではないにしろ年齢相応……いや、年齢不相応にか? 女らしい身体をしている。

 そういう意味でも人の注目を集めるクーデリアだったが、革命の乙女と呼ばれるようになり、そしてシーラからの教えを受ける事によって、雰囲気が凛としたものに変わっていき、一種のカリスマ性を持つようになった。

 それによって、クーデリアが以前よりも魅力的になったのは間違いないだろう。

 本人にはその実感がない為か、今の秘書の態度に戸惑っている様子だったが。

 

「どうしたのでしょう?」

「あの秘書にも色々と事情があるんだろう。それより、浜辺に戻るぞ。……いや、その前に聞いておく必要があるか。オルガ、お前達……正確には鉄華団だが、生の魚とか見た事はないのか?」

「魚って……これ、ですよね?」

 

 俺の持つ発泡スチロールを見て、嫌そうに視線を逸らす。

 その視線の先にはまだ生きているタコがいて、それを見た瞬間に本当に嫌そうな表情を浮かべたのだ。

 まぁ、その気持ちは分からないではない。

 タコはデビルフィッシュと呼ばれ、忌み嫌われている地方も多い。

 俺はたこ焼きにタコの唐揚げ、それ以外にも普通に茹でたのとかマリネとか、好きな食材ではある。

 だが、ホワイトスターでタコが出た時、俺の恋人達の中でも最初はタコに拒否感を持っている者がいた。

 実際に食べてしまえば、その美味さと吸盤のコリッとした食感にあっさりと負けるのだが。

 オルガもタコの外見から、嫌悪感を持っているのだろう。

 

「そうだ。……正確にはそれはタコで魚じゃないんだが。魚介類という意味だと同じだな」

「……このでっかい虫もその魚介類って奴なんですか?」

 

 そう言い、次にオルガが指さしたのは伊勢エビだった。

 いや、実際には伊勢エビという名前ではないのかもしれないが、俺から見れば伊勢エビにしか見えないのも事実。

 

「そうだ。エビだな。虫じゃない」

 

 いやまぁ、生物の分類学上どうなのかは俺にも分からないが。

 しかし、俺の認識としてはエビは虫ではない。

 

「で、えっと、この妙なのもですか?」

 

 次にオルガが指さしたのは、アワビ。

 貝殻の方はともかく、身の方は見る者が見れば不気味に見えてもおかしくはない。

 とはいえ、魚介類の類は慣れていなければどのようなのも不気味に思ってもおかしくはないが。

 ……アンコウとか見せたら、一体どうなるんだろうな。

 

「ああ、それはアワビだ。伊勢エビや鯛もそうだが、どれも高級食材だぞ」

 

 もっとも、これはあくまでも俺の認識だ。

 厄祭戦があって大きく世界の変わったこのオルフェンズ世界において、鯛や伊勢エビ、アワビが高級食材ではない可能性も十分にある。

 

「へぇ……これが高級食材……痛ぅっ! ちょっ、兄貴!? 何でこんなのまで入ってるんですか!? あの爺さん、俺達に敵意を持ってるんじゃ!?」

 

 指を押さえながら騒ぐオルガ。

 その視線の先にあったのは……ウニ。

 多数のトゲがあるウニは、確かに何も知らないとオルガが言うように蒔苗が敵意を持っているのではないかと思ってしまうだろう。

 

「落ち着け。これはウニという魚介類で、美味いぞ」

「美味いって……これを食うんですか!?」

 

 一体何を言っているのか理解不能といった様子のオルガは、両目を大きく見開いて俺を見ている。

 クーデリアも俺に似たような視線を向けている事から、多分クーデリアもウニは知らないんだろうな。

 

「ああ、これも高級食材だ。勿論、このトゲの生えた殻を食べるんじゃなくて、この殻に入っている部位を食べるんだけどな」

 

 ウニの食べられる部分ってどの部位だったか。

 そこまではちょっと分からないが、高級食材なのは間違いない。

 とはいえ、オルガとクーデリアは俺の言葉に不信の視線を向ける。

 俺の言葉であっても、容易に信じることが出来ないらしい。

 仕方がないか。

 発泡スチロールを地面に置き、ウニを1個取り出すと魔力で強化した手で切断する。

 ウニの体液が地面に零れるが、それを気にせず半分にした殻をそれぞれオルガとクーデリアに渡す。

 えぇ……といった表情を浮かべる2人。

 まぁ、ウニの中身は可食部分の黄色い部位以外にも色々とあるのだから、そのように思ってもおかしくはないのかもしれないが。

 

「アクセル、その……これを食べるの? どうやって?」

 

 恐る恐るといった様子で尋ねるクーデリア。

 俺は指を伸ばしてウニの可食部分……黄色い部分を指で掬い、自分の口に運ぶ。

 本来なら食べる前に水とかで洗った方がいいのだろうが……まぁ、これで食べられない事もない。

 実際、ウニを口の中に入れると濃厚な甘みが口一杯に広がる。

 このウニは分類的にはムラサキウニだ。

 エゾバフンウニとか、そういうのがウニの中でも美味いと言われているウニなのだが、このウニを食べる限りだと、十分に美味い。

 これはこの辺りで獲れたムラサキウニだから美味いのか、あるいはこのオルフェンズ世界のムラサキウニが美味いのか。

 その辺は俺にも分からないが、とにかく美味いのは間違いない。

 

「ほら、美味いぞ。食べてみろ」

「……分かりました」

「ちょっ、お嬢さん!?」

 

 クーデリアが大きく息を吸ってからそう言うと、オルガは慌てたように言う。

 いや、そこまで決意するようなものじゃないんだが。

 まぁ、美味いからって自分の常識にはなかったものを食べろと言われれば、そういう風に思ってもおかしくはないか。

 俺だって……そう、例えば昆虫食とかを美味いから食べてみろと言われても、即座に食べるのは躊躇するだろう。

 そういう意味では、クーデリアの判断は素早かったのだろう。

 クーデリアはそっと指を伸ばし、俺と同じようにウニの可食部分を掬うと、それを口に運ぶ。

 そして数秒が経過し……

 

「甘い……ですね。美味しいです」

 

 驚きと共にそう言う。

 クーデリアにとって、ウニというのは初めての味だったのだろう。

 火星の上流階級出身である以上、ウニくらいは食べたことがあってもおかしくはないと思うんだが。

 

「嘘だろ……美味いってのか、これが……?」

 

 クーデリアの様子から、嘘ではないと判断したのだろう。

 オルガもまた、そっと指を伸ばしてウニの可食部位を口に運び……

 

「美味い」

 

 オルガが思わずといった様子でそう言う。

 

「だろう?」

 

 そう聞く俺の表情は自分でも分かる程に自慢げだった。

 別にこのウニは俺が獲った訳じゃないんだが。

 とはいえ、この島は海に囲まれている。

 俺達が乗っていた降下船が着地したのは砂浜のところだったが、探せば多分岩の海……岩浜と言えばいいのか? ともあれ、そんな場所もあるだろう。

 鯛はともかく、ウニや貝類、伊勢エビは砂ではなく岩に棲息している。

 勿論砂浜にもヒラメとかの魚がいたり、カニがいたりするので、漁をしようと思えば出来るのだが。

 地引き網だったか? 砂浜とかでやるのを知っている。

 魚介類を食べて評判がよかったら、地引き網をやってもいいかもしれないな。

 何しろ、基本的に今のシャドウミラーや鉄華団、それとラフタやアジーといった派遣されてきた者達にはやる事がない。

 俺がいなければ、それこそ全員で蒔苗を全体会議のやる場所まで送っていかないといけないのだろうが、影のゲートを使える俺がいる以上、わざわざそんな目立つ事をする必要はない。

 そして地球外縁軌道統制統合艦隊のMS隊が攻めてくる心配がない以上、警戒すべきは地球にいるギャラルホルンのMS隊となる。

 もっとも、ここに引き籠もっているとイズナリオが知れば、寧ろ俺達を……より正確には蒔苗をこの島に軟禁しておけば、代表指名選挙に参加は出来ないからと、MS隊を出しても下手に攻撃せず、この島を封鎖するといった事で終わらせるような気がしないでもない。

 そうなったらそうなったで、色々と面白そうではあるが。

 ただ、この島を封鎖しているにも関わらす蒔苗が全体会議に出て代表指名選挙に参加したら、イズナリオがブチ切れてこの島にいる戦力を殲滅するといったような事をしかねないが。

 そうならないようにするには、こっちも色々と手を打っておいた方がいいか。

 

「兄貴? どうしました?」

「いや、お前達がウニを美味いと言ったのはいいが、他の面々はどうなるかと思ってな」

「あー……まぁ、その、実際に食べれば美味いと言うと思いますよ?」

 

 それはつまり、やはり魚介類の見た目は駄目だという事を意味していた。

 そうなると、いっそこの状態では見せないで料理にしてから食わせた方がいいのか?

 ただ、そうなると塩焼きとかそういう単純な料理は駄目だろう。

 何しろ外見がそのまま残っているのだから。

 そうなると、きちんと捌いて……分かりやすいのは切り身にして焼くとか、あるいはフライにするとか?

 とはいえ、ここまで新鮮な魚介類を刺身で食べないというのもどうかと思うが。

 あ、でもアワビは刺身だとコリコリとした食感を楽しめるんだが、熱を通すと驚く程に柔らかくなるんだよな。

 アワビのステーキ……とまではいかずとも、アワビをそのままオーブントースターで焼くだけでその柔らかい身を楽しめる。

 

「料理して出すか。……けど、これから暫くはこの島で暮らすんだ。食料とかも自給自足した方が都合がいい。そうなると、やっぱり魚介類の外見に慣れて貰う必要があるな。……クーデリアとオルガはどうだ? 慣れる事が出来そうか?」

 

 そう言いつつ、俺は地面に置いておいた発泡スチロールを持ち上げる。

 それを見た瞬間、オルガもクーデリアも微妙な表情を浮かべるが……それでも、最初に見た時よりは幾分マシだ。

 ウニの味がそれだけ美味かったのだろう。

 先程はまだ未知の存在という事で、魚介類にちょっかいを出したいとは思わなかった。

 だがこうして一度ウニを食べ、しかもそれが美味いというのを知れば、他の魚介類ももしかして……といったように思ってもおかしくはない。

 勿論、タコやアワビのように外見からして本当に美味いのか? と思うようなのもあるが、それでも最初に比べれば抵抗は少なくなったのだろう。

 その事に安堵しつつ、俺は砂浜に戻るのだった。

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