転生とらぶる2   作:青竹(移住)

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3972話

「蒔苗先生! まさか、本当に……」

 

 俺と蒔苗がいたのは街の中でも細い通路。

 影のゲートで転移してきたのを見られないようにしていたのだから、人目に付きにくい場所に転移をするのは当然だろう。

 そんな場所で待っていると、ちょうど通路の先に黒い車……いかにも高級車といった車が停まると、そこから1人の男が飛び出してきたのだ。

 蒔苗を先生と呼んでいるこの男が誰なのかは、俺にも容易に想像出来た。

 ラスカー・アレジ。

 蒔苗の派閥の1人……というより、蒔苗が転移魔法と聞いた時に真っ先に会いに行くといった事を考えると、腹心とか、蒔苗の派閥のNo.2とか、そういう感じの人物なのだろう。

 頭が大きく禿げ上がっている男が。

 外見年齢だけなら蒔苗とそう違いはないように思えるが、何しろ蒔苗は延命技術で180歳だ。

 そう考えると、もしかしたらこのラスカーという男も外見通りの年齢じゃないのかもしれないな。

 まぁ、その辺は特に気にする必要もないのだが。

 何しろ俺はエヴァという存在を知ってるし。

 ……もっとも、エヴァは人じゃないのに対して、蒔苗は人のまま180歳というのだから、そういう意味では驚くべき事ではあるのだろうが。

 そんな風に考えている間にも、蒔苗とラスカーと思しき男は何やら話をしている。

 ラスカーの後ろには何人か秘書や護衛と思しき者達の姿もある。

 俺と蒔苗がいるのは、決して治安のいい場所じゃないしな。

 アーブラウのお偉いさんが来るのには、護衛が一緒なのはそうおかしな話ではない。

 すると蒔苗がこちらに視線を向ける。

 蒔苗だけではなく、ラスカーもまた俺に視線を向けてくる。

 

「アクセル、まずはラスカーが部屋を用意してくれたそうなので、そこに行こうと思うのじゃが、構わんか?」

「問題ない。俺はともかく、蒔苗にはこの寒さは身体に悪いだろうし」

 

 そう言うと、ラスカーが俺の側にやって来る。

 

「その、アクセルさんですか。蒔苗先生をこのアンカレッジに連れて来た……」

「そうだ。まぁ、色々と言いたい事や聞きたい事はあるだろうが、今はまずそれよりも用意した部屋とやらにいかないか?」

 

 ラスカーにしてみれば、本当に……それこそ、心の底から俺に聞きたい事があるだろう。

 何しろ、オセアニア連邦の領土に亡命していた蒔苗が、いきなりアンカレッジに姿を現したのだから。

 だが、実際にこの寒い街中に蒔苗そのままにしておくのは色々と不味い。

 それはラスカーも理解したのか、俺の言葉に不承不承頷くのだった。

 

 

 

 

 

「ふぅ」

 

 そう言いつつ、蒔苗は着ていたコートの類を脱ぐ。

 現在俺達がいるのは、ラスカーが用意した屋敷の一室だった。

 恐らくはここがラスカーの拠点なのだろうと思われるくらい、大きな屋敷。

 ただ、あの島にあった蒔苗の屋敷と違うのは、ここが洋風の屋敷だという事か。

 この辺はそれぞれの趣味の差といったところなのだろう。

 

「蒔苗先生、そしてアクセル君だったね。そろそろ事情を説明して貰えるかな?」

 

 そう言うラスカー。

 どうやらラスカーの俺に対する呼び方は、アクセル君というものになったらしい。

 どう見ても俺の方が年下だし、そういう呼び方になるのはそうおかしな話ではないのだろう。

 

「構わんよ。じゃが……この件については、出来るだけ知る者を少なくしたい。秘書や護衛も外して貰えるかな?」

 

 蒔苗の言葉の、ラスカーの秘書や護衛は不満そうな表情を浮かべる。

 ……護衛はともかく、ラスカーの秘書が不満を表すのはどうかと思う。

 まぁ、この件については俺がどうこう言うつもりはないが。

 

「分かりました。では、少し部屋から出ていなさい」

「先生……いえ、分かりました」

 

 ラスカーの言葉に秘書が何かを言おうとするものの、最終的には納得して黙り込む。

 もっとも、本人的には必ずしも完全に納得したといった様子ではなかったようだが。

 ラスカーの身を案じれば、それも当然か。

 それでも納得したのは、蒔苗がこうして目の前にいるからこそだろう。

 もしこれが俺だけだったりしたら、ラスカーの秘書も護衛も絶対に納得しなかった筈だ。

 もっとも俺だけでラスカーに会いに来るというのは、そもそも有り得ないことだろうが。

 あ、でも何か理由があったりすればそういう可能性もあるのか?

 そんな風に思っている間に秘書と護衛がいなくなり、部屋には俺、蒔苗、ラスカーの3人だけとなる。

 

「それで、これは一体どういう事でしょうか? 蒔苗先生は亡命していたのに、一体どうやってここに? 昨日の連絡はどこから?」

 

 続けざまに聞いてくるラスカー。

 ラスカーにしてみれば、一体何が起きているのか全く理解出来ないのだろう。

 それでも聞くのは俺ではなく蒔苗なのは、それだけ蒔苗の事を信頼しているという事か。

 もしくは、初対面の俺を信用出来ないのか。

 ……どちらかと言えば、後者のような気がするな。

 

「まずは落ち着け。しっかりと説明をするから、慌てるでない」

 

 蒔苗は、勢い込んで聞いてくるラスカーの言葉にそう言う。

 こちらは特に動揺している様子はない。

 蒔苗にしてみれば、自分が転移を経験したからこそ、そこまで驚いた様子はないのだろう。

 泰然自若とした様子の蒔苗を見たラスカーも、それでようやく落ち着いたらしい。

 小さく咳払いしてから、再び口を開く。

 

「すみません、取り乱しました。ですが……一体何がどうなっているのです?」

「そうじゃな。何から話せばいいか……まず、儂が火星のクーデリア・藍那・バーンスタインという人物とハーフメタルの件で交渉する事になっていたのは覚えておるか?」

「え? はぁ……はい。もっとも、その交渉が本格的に行われる前に蒔苗先生が嵌められてしまいましたが」

「その件にも関わってくるのじゃが……それは後に回すとして、この者はアクセル・アルマー。クーデリア嬢の護衛として火星からやって来た人物じゃ。アクセル、自己紹介を」

 

 蒔苗にはそう促されるが、今のでもう大体自己紹介は終わってるように思えるんだが。

 まぁ、こういうのは礼儀か。

 

「火星のPMC、シャドウミラーの代表を務めるアクセル・アルマーだ。現在はクーデリアの護衛として地球に来ている」

「ラスカー・アレジだ。アーブラウの議員をしている」

 

 そうして短く挨拶を交わすと、再び蒔苗が口を開く。

 

「さて、では話を戻そう。クーデリア嬢達はオセアニア連邦の領土にある、儂の屋敷のある島に直接宇宙から降下してきた。そして現状について説明し、交渉についても今のままではどうしようもないと説明したところ……アクセルが儂をアーブラウの指名選挙が行われる全体会議の場まで送ると言ってくれての」

「よく言う」

 

 まるで俺が自分から進んで蒔苗を送ると言ったみたいに聞こえる言い方だったが、実際にはそうするように仕向けたんだろうに。

 実際、そうしなければクーデリアの交渉の意味がないので、仕方がないとは思うが。

 蒔苗はそんな俺の言葉をスルーし、説明を続ける。

 

「そして儂を送る方法じゃが……儂はそれこそMSに護衛をされて移動するといったような事を考えておった。しかし、アクセルが提案したのは、儂にとって完全に予想外の方法じゃった」

 

 そう言い、蒔苗はこちらに視線を向けてくる。

 言ってもいいのかと、そう許可を求めているのだろう。

 この状況になって隠すようなことでもないので、俺はそんな蒔苗に対して素直に頷く。

 

「恐らくラスカーも話で聞いただけでは信じられんと思う。じゃが、儂がこの場にいる事がその証明になるじゃろう」

「……一体何が?」

 

 蒔苗の口から出た言葉が仰々しいのもあってか、一体何を言ってるのかと疑問の表情を浮かべるラスカー。

 まぁ、このオルフェンズ世界の住人であれば、そういう風に思ってもおかしくないよな。

 

「魔法じゃ」

「……は?」

 

 蒔苗が一体何を言ったのか理解出来ないといった様子のラスカー。

 そんなラスカーに、蒔苗は言い含めるように再度口を開く。

 

「魔法じゃ」

「……えっと……」

 

 ラスカーは蒔苗の言葉に戸惑った様子を見せる。

 無理もない。

 寧ろこれが普通の反応なのだろう。

 困った様子で俺に視線を向けてくるラスカー。

 これで、俺が蒔苗を騙しているといった責める視線でないのは、蒔苗が言うように実際にこの場にいるというのが、ある種の証明になっているのだろう。

 もっとも、それを込みで考えても魔法という蒔苗の言葉を素直に信じる事は難しそうだったが。

 なので、俺は分かりやすく魔法を見せてやる。

 パチンと指を鳴らし、生みだしたのは蒔苗にも見せた炎獣。

 ただし、今度は狐……子狐の炎獣だ。

 

「……は?」

 

 小さいからこそ愛らしい炎獣を見て、ラスカーの口からそんな声が上がる。

 それを見ながら、どうせなら九尾の狐にしてもよかったと思う。

 勿論、炎獣はそういう外見の疑似生物とでも呼ぶべき存在なので、例えば九尾の狐にしても特殊な能力を使うとか、そういう事は出来ないのだが。

 あくまでも外見がそういう風になるというだけでしかない。

 

「魔法だ」

「……魔法」

 

 ラスカーは俺の言葉を繰り返しながら、床の上を歩く子狐の炎獣を見る。

 無理もないか。

 俺にしてみれば、魔法というのはあって当然のものだ。

 ただ、それはあくまでも俺だからというのが大きい。

 もっとも、俺もネギま世界に行くまでは魔法を使えなかったのだが。

 代わりに転生特典があり、スライムと空間倉庫とか、これは転生特典とは関係ないが念動力とか、そういうのがあったので、魔法についてもそこまで問題なく受け入れられた。

 後は魔法じゃないがギアスとかそういうのもあったな。

 ギアスなんかは正確には違うのだろうが、起きている現象だけを見れば魔法のように見えてもおかしくはない。

 

「そうだ。魔法だ。そして俺が使える魔法は、この炎獣以外にも幾つかある。その中の一つが、蒔苗をここまで連れてきた転移魔法になる」

 

 そう言うと、ラスカーはその目を大きく見開く。

 

「転移魔法とは……その名の通り、一瞬にして転移をするといった能力を持つ魔法という認識でいいのかね?」

「その通りだ。実際、蒔苗がいた島からこのアンカレッジまで来るのに、影に沈む数秒程度しか掛かっていないしな」

「影に……沈む?」

 

 俺の言葉の意味が分からないといった様子で繰り返すラスカー。

 まぁ、転移魔法としか言ってないんだから、そこでいきなり影に沈むとか言われても疑問に思うなという方が無理だろう。

 とはいえ、実際にそういう魔法なんだから仕方がない。

 

「ああ、影に沈むんだ。転移魔法というのは色々と種類があるが、俺が使えるのは影を使った転移魔法となる」

 

 他にもフェイトが水を使った転移魔法を使えるが……そう言えば、他の転移魔法ってどんな感じなんだろうな。

 炎の転移魔法なら炎の輪を潜ったりするのか?

 なら、風の転移魔法はどうなる? 土の転移魔法も。

 ……まぁ、今はそんな事はどうでもいいか。

 俺が使えるのは、あくまでも影の転移魔法でしかないのだから。

 

「魔法……そんなものが本当にあるとは……」

「それについては、その炎獣を見れば分かるだろう? まさに種も仕掛けもありませんって奴だな」

 

 子狐の炎獣は、まだその辺を歩き回っている。

 蒔苗の視線に優しい色が混じっているのは……うん。まぁ、この炎獣が愛らしいのは間違いないしな。

 とはいえ、炎獣もいつまでも出している訳にもいかない。

 魔法については可能な限り知られたくないし。

 もっとも蒔苗に知られ、しかも今度の全体会議の一件を考えると、俺の魔法について知る者は間違いなく増えるのだろうが。

 ラスカーの秘書も、その立場を考えると知る事になるだろう。

 それが今すぐという訳にはいかないだろうが。

 

「いや、それは……だが……」

 

 ラスカーは俺の言葉に何と反論していいのか分からないらしい。

 今の状況を思えば、そのように思うのはおかしくはないが。

 今まで魔法の存在など全く知らなかったのだから。

 

「アクセル、どうせならラスカーにも実際に転移魔法を経験して貰ってはどうかの? 先程まで儂等がいた屋敷に転移すれば、そこがアンカレッジ……いや、アラスカではないとすぐに分かる筈じゃと思うが」

 

 ラスカーの様子を見た蒔苗がそう提案してくる。

 なるほど、その選択はありだな。

 

「……どうする? 蒔苗からの提案に乗るか? 俺は構わないが」

 

 ちなみに俺にとっては影のゲートを使うのは何も問題はない。

 このオルフェンズ世界はそれなりに自然も豊かで魔法を使う際の魔力の消費も少ないし、何より大きいのは俺に掛かっている呪いを解呪する為にPPを全てSPに……魔力に注ぎ込んだ事だろう。

 スキル欄も一杯で特に習得するスキルはなく、PPもかなり貯まっていたので、SPは一気に強化された。つまり、保有魔力量も大きく上がったのだ。

 解呪にはまだ結構な時間が掛かりそうだけど。

 ともあれ、それによって魔法を使う際に魔力の消費は以前よりも楽になった。

 その為、あの島からアンカレッジまでの転移も問題なく出来た訳だ。

 

「分かった。試させて貰おう」

 

 ラスカーは俺の言葉に素直に頷くのだった。

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