転生とらぶる2   作:青竹(移住)

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3973話

「これは……」

 

 ラスカーが周囲の光景を見て驚きの声を上げている。

 無理もない。身体が影に沈んだと思ったら、次の瞬間には明らかに今までと違う場所にいたのだから。

 それも南国の島とでも呼ぶべきこことアンカレッジでは、空気そのものが違う。

 

「ほっほっほ。どうじゃ、驚いたじゃろう?」

 

 一緒に転移してきた蒔苗が、驚いているラスカーの様子を見て愉快そうに笑っている。

 ちなみに蒔苗は2回目という事もあってか、影に沈む感触については特に騒いだりはしなかった。

 ラスカーはいきなり身体が影に沈んだことで驚いた様子だったが、こちらもその感触に耐えられないといった程ではなかったらしい。

 実際に影の転移を経験した衝撃がそれだけ大きかったのかもしれないが。

 

「信じられない……魔法などというものが、本当にあるなんて」

「炎獣を見せただろうに」

 

 ちなみに子狐の炎獣は、影のゲートを使う前に消している。

 俺達がいない状況で下手にラスカーの用意した部屋に子狐の炎獣だけが残っていると、もし部屋に誰かが入ってきた場合、どういう風に勘違いするか分からないからだ。

 

「いや、それは……だが……」

 

 何か反論をしたい様子ではあったが、それでも実際に何かを言うような事は出来ない。

 そろそろラスカーも衝撃から復活してもいいと思うんだが。

 

「ほっほっほ。アクセル、魔法を実際に経験したのじゃ。そのような驚きからすぐに戻れる訳がなかろう。少しは時間を置く必要があろう」

「……蒔苗の場合はそうでもなかったと思うけどな」

 

 蒔苗が影のゲートを使った時、驚きはしたものの、比較的すぐ我に返った。

 そういう意味では、ラスカーが我に返るのは遅い。

 この辺が政治家としての格の違いといった感じなのかもしれないが。

 

「っ!? いや、失礼。まさかこんな……その、少し部屋の外を確認してみても?」

「別にこれは手品とかイリュージョンとか、そういうのじゃないぞ」

 

 そう言うが、それでもラスカーとしては自分の目で色々と確認したいのだろう。

 

「構いませんか?」

 

 俺の言葉を聞いても、ラスカーは重ねて蒔苗にそう尋ねる。

 蒔苗は笑みを浮かべて頷く。

 それを見たラスカーは、そのまま部屋を出る。

 

『うわぁっ! ラ、ラスカー先生!?』

 

 遠くから聞こえてくるその声に、蒔苗に視線を向ける。

 

「本当に構わなかったのか? お前の秘書が思い切り驚いてるようだが」

「ほっほっほ。構わんよ」

 

 そう蒔苗が言うが、誰かが走ってくる足音が次第にこの部屋に近付いてくる。

 そして部屋の中に飛び込んできたのは、予想通り蒔苗の秘書。

 

「蒔苗先生、もう戻っていたのですか!?」

「一時的なものじゃよ。ラスカーにも実際に転移というのを経験して貰った方がいいと思ってな。彼が戻ってきたら、またアンカレッジに向かう予定じゃ」

「……はぁ」

 

 何と表現すればいいのか分からない様子で、秘書がそんな声を漏らす。

 秘書にしてみれば、色々と予定外、想定外の事がありすぎて、どう反応すればいいのか分からないのだろう。

 

「そんな訳で、お主は自分の仕事をしておくように」

「……分かりました」

 

 完全に納得した様子ではなかったものの、それれでも秘書は部屋から出ていく。

 蒔苗が亡命する時に一緒に来たんだから、有能な人物なのは間違いないんだろうが。

 あるいは将来有望なので育てている最中なのか。

 

「取りあえず、ラスカーが戻ってくるまでは特にやる事もないし、これからの予定について話しておかないか?」

 

 元々アンカレッジに行ったのも、俺の転移魔法が本物かどうかを確認する為だ。

 そのついでに、ラスカーと会って全体会議や代表指名選挙について色々と話しておく必要があると思ったのかもしれないが。

 そんな訳で、俺の転移魔法が本物だと判明した以上、これからどうするのかを決めておく必要があった。

 もっともクーデリアも一緒に行くと言ってるし、その辺についても……まぁ、これはこれで、後で決めればいいのかもしれないが。

 

「ふむ。そうじゃの。とはいえ……転移魔法が本物であると判明した以上、もうこちらの勝ちは決まったようなものじゃ」

「ギャラルホルンに見つからずに全体会議に出席するのは問題ないだろうが、肝心の代表指名選挙はどうなんだ? 昨日話を聞いた限りだと、蒔苗の方がかなり有利だという話になっていたけど」

 

 蒔苗を嵌めたアンリという女がどのくらいの勢力を持っているのか、俺には分からない。

 ただ、後ろにイズナリオがいるというのは、かなり大きいだろう。

 そんな相手に本当に代表指名選挙で勝てるのか。

 もし転移魔法を使って蒔苗を代表指名選挙に立候補させても、アンリが多くの議員を従えていると、結局負けてしまいかねない。

 その辺りが大丈夫なのかどうかは、これからの事を考える上で重要だろう。

 勿論、蒔苗が前代表のネームバリューを活かして、アンリと互角に戦えるのは間違いないだろうが。

 

「心配いらんよ。儂がここで動ければ、こちらに味方する者も多い。それに……何の為に彼を頼ったのだと思う?」

 

 蒔苗が誰の事を言ってるのかは、明らかだった。

 ラスカーに議会工作をやらせようというのだろう。

 それでアンリを相手に勝てるのかどうかは、俺にも分からないが……蒔苗の様子を見る限り、相応の自信があるのは間違いないらしい。

 

「そうか。なら、問題ない。こちらとしても、折角交渉出来たのに代表指名選挙で落選して交渉は意味のないものになりましたとなるのはごめんだしな」

 

 蒔苗ではなくアンリがアーブラウの代表となった場合、火星の扱いがどうなるのかは容易に予想が出来る。

 アーブラウの植民地となっているのは、火星の一部でしかない。

 ないが、それを考えた上でも今までより圧政となるのは間違いない。

 また、堂々とギャラルホルンに逆らったシャドウミラーや鉄華団もまた、色々な圧力を受けるだろう。

 タービンズは現在のところ表に出ていないので、取りあえず心配はないと思うが。

 ただ、それだってギャラルホルンが本格的に調べれば、その辺は見抜かれる可能性は十分にあるだろうし。

 そんな訳で、ここまで来た以上は絶対に蒔苗に勝って貰う必要があった。

 

「分かっておる。儂もここで負けるつもりはない。もし儂がここで負ければ、それこそアーブラウはギャラルホルンに支配されてしまう」

 

 それは今も同じでは?

 そう思ったが、それについて突っ込むような事はしない。

 アーブラウの上位組織としてギャラルホルンがいるのは間違いない。

 間違いないが、上位組織であっても露骨にアーブラウに干渉をするといった事は出来ないのだから。

 だが、イズナリオの後ろ盾を持つアンリがアーブラウの代表になれば、話は別だ。

 アンリはイズナリオの代理人として行動するだろう。

 蒔苗にとって、それは絶対に避けたいところなのは間違いなかった。

 そういう意味では、俺達の利害は一致しているのだろう。

 

「それはこっちも避けたいところだな。……うん? 戻ってきたみたいだ」

 

 先程の秘書とは違うが、それでも興奮や驚きで足音を立てながら誰かがこの部屋に近付いてくるのが分かった。

 それがラスカーなのは、気配からして間違いない。

 そして予想通りラスカーが部屋の中に入ってくる。

 

「……本物でした」

 

 この場合、何が本物なのかというのは考えるまでもないだろう。

 影のゲートによって転移してきたここが、アラスカではなくオセアニア連邦にある、蒔苗が亡命してきた島なのは間違いないと、そう認識したのだ。

 

「確認して貰えたようで何よりじゃ。……では、そろそろアンカレッジに戻るとするか?」

 

 蒔苗のその言葉に、ラスカーは何も言えずに頷くしか出来なかった。

 

 

 

 

 

「さて、これで俺の転移魔法が事実だというのは分かって貰えたと思う。つまり蒔苗は、一瞬にして全体会議の行われる議事堂まで転移が可能な訳だ。これがどれだけ有利なのかは、考えるまでもないな?」

 

 再度影のゲートを使ってアンカレッジに戻ってくると、そうラスカーに尋ねる。

 ラスカーはそんな俺の言葉に素直に頷く。

 魔法という存在に色々と思うところはあったようだったが、それでも実際に転移を経験すれば、それが手品とかそういうのがある訳ではないというのは理解出来るのだろう。

 

「そうですな。……この転移を自由に使えるのなら、大きな意味を持つでしょう。ただ……」

 

 そこで言葉を止めたラスカーは、俺に真剣な視線を向けてくる。

 

「私は魔法というのは空想のものしか知りませんが、物語の中では魔法というのは何らかの代償が必要と言われています。そう考えると、この転移魔法というのは何らかの代償は必要ないのですか?」

 

 魔法を使う際の代償か。

 実際にそういう考えは決して間違いではない。

 魔法によっては何らかの代償が必要だったりする事もある。

 ただ……俺の場合は、話が別だ。

 

「そうだな。代償と言えるかどうかは微妙だが、転移魔法を使う際に使っているのは俺の魔力だ。そういう意味では魔力が代償だな」

 

 もっとも、その魔力も今の俺なら急速に回復出来るのだが。

 そう考えると、代償らしい代償はないまま魔法を使えるということを意味していた。

 

「魔力……そのような力が……」

 

 いや、転移魔法を経験していながら、何で魔力という単語にそういう反応をする?

 魔法を使う以上、魔力を消費するのは自然な流れだと思うんだが。

 

「魔法を使うんだから、魔力はあって当然だろう?」

「……こちらの常識では、魔法や魔力というのがそもそも……」

 

 言葉を濁すラスカーだったが、何を言いたいのかは何となく理解出来る。

 ラスカーが今まで生きてきて、魔法や魔力について本気で考える必要は今までなかったのだろう。

 もっとも、オルフェンズ世界の人間にしてみれば、それが普通なのだろうが。

 

「ともあれ、ある以上は認めろ。そして使え。……魔法はこっちだけの大きなアドバンテージだ。アンリに……いや、イズナリオに対する大きなカードなのは間違いない」

 

 これは、間違いのない事実だ。

 まさか向こうも転移魔法などというのがあるとは思わないだろう。

 現に今も、蒔苗はオセアニア連邦にあるあの島にいるとイズナリオは思っている筈だ。

 

「しかし……その、アクセルが魔法を使えるのなら、それこそギャラルホルンにも魔法を使えるような者がいてもおかしくないのでは?」

 

 ああ、なるほど。

 そういう考えになるか。

 俺が異世界から来たというのを知ってるのは、俺以外はマーベルとシーラの2人だけだ。

 そうである以上、ラスカーが言うように、このオルフェンズ世界に魔法があるのなら、ギャラルホルンにも同じように魔法を使える奴がいてもおかしくはないと、そう思うのはおかしくない。

 とはいえ……さて、これはどうしたものか。

 自分が異世界から来たので、この世界に俺以外の魔法使いがいないのは知っている。

 ……いやまぁ、俺が知らないだけで、世界には実は魔法使いがいるという可能性も否定は出来ないんだが。

 とはいえ、この世界がガンダム系の世界である以上、魔法使いはいないと思ってもいい。……いいよな?

 じつはオルフェンズ世界を支配するギャラルホルンの裏には魔法使いがいて、ギャラルホルンの上層部も魔法使いだとか……ないか。

 もしそんなことが本当にあるのなら、それこそマクギリスから聞かされているだろうし。

 

「ない。そう断言出来るな」

「何故ですか?」

 

 即座にそう聞いてくるラスカー。

 蒔苗も興味深そうに俺に視線を向けている。

 こうもしつこく聞いてくるとは。

 いやまぁ、ラスカーや蒔苗のこれからが掛かってるのだから、敵に魔法使いがいるかどうかというのは、ラスカーや蒔苗にとっては死活問題だ。

 そういう意味では、こうしてしつこく聞いてくるのも分からないではない。

 

「何故と言われてもな。そもそも魔法使い自体が少ないんだ。ラスカーはともかく、蒔苗は俺の仲間がそれなりに多いのは分かるだろう? その中でもマーベルとシーラという2人が以前から……シャドウミラーを作る前からの仲間だが、その2人ですら魔法使いではないというのが、その証拠か」

 

 実際にはマーベルは一時期魔法使いになる修行はしていたのだが、何だかんだと途中で終わっている。

 いや、俺がダンバイン世界から鬼滅世界に転移したから、それまでだったんだが。

 合流した今となっては、また魔法使いの修行をしてもいいんだが……ホワイトスターと繋がれば、それこそエヴァに訓練をして貰えるのだ。

 魔法のプロフェッショナルと呼ぶべきエヴァから訓練を受けられるのに、半ば感覚で魔法を使っており、だからこそ決して人に教えるのが得意ではない俺が教えるのは止めておいた方がいい。

 そういう訳で、現在マーベルは魔法の修行をしていなかった。

 

「……分かりました。それで納得しておきましょう」

 

 ラスカーはとてもではないが俺の言葉に納得した様子ではなかったものの、それでもこれ以上俺に何を言っても無駄だと判断したのか、そうして頷くのだった。

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