エドモントンに行った日の夜、俺は夕食を楽しんでいた。
俺達がエドモントンに行ってる間、島に残った面々が獲った魚や貝といった魚貝類をふんだんに使った夕食だ。
いつもより豪華な夕食なのは、やはり明日の一件があるからだろう。
明日の代表指名選挙は、アーブラウにとって非常に大きな意味を持つ。
それこそこれまで通り独立独歩の道を行くか、もしくはギャラルホルンに操られるか。
……いやまぁ、今の時点でもギャラルホルンによる影響を受けているのは間違いないのだが。
ただ、それでも今のところは最低限……とまではいかないが、それでも限定的だった。
だが、アンリが代表指名選挙で勝利すれば、今までよりも露骨にギャラルホルンはアーブラウに干渉してくるだろう。
しかもそれは、アーブラウだけとは限らない。
アーブラウで味を占めれば、他の国も……といったように思うのはおかしな話ではない。
だからこそ、蒔苗は年齢を考えずそれを阻止しようとしているのだろう。
何しろ、180歳だ。
延命技術のあるこの国であっても、蒔苗の180歳というのは普通ではない。
それは蒔苗の外見年齢を見れば明らかだろう。
基本的には外見年齢の半分の年齢と思えばいいのか?
そうなると蒔苗は90歳くらいになる訳で……それはそれでちょっと疑問か?
世の中には90歳でも普通に仕事をしている老人とかもいるから、不思議ではないのかもしれないが。
それでもやっぱり少し無理がある……か?
うん、多分だけど無理があると思う。
そんな風に考えていると、オルガが近付いてくる。
「兄貴、ちょっといいですか?」
「何だ?」
「明日の件でちょっと相談があるんですけど」
「島を封鎖している連中の件か?」
「はい。もしかしたら、明日には攻めてくるかもしれないので」
「……だろうな」
オルガの言葉にそう頷く。
イズナリオが今まで島を攻撃しなかった――実際には攻撃してきたが、それも1度だけだ――のは、あくまでもアーブラウの代表指名選挙において、蒔苗を立候補させたくなかったからだ。
だが、明日になれば既に代表指名選挙は始まる。
なら、もうこの島に蒔苗を閉じ込めておく必要はなくなる訳だ。
もっとも、この世界の常識から考えれば、この島からエドモントンまでは結構な距離があるので、今日から出発しても間に合わない。
そういう意味では今日のうちに攻撃してきてもおかしくはなかったのだが。
その辺はイズナリオの方にも色々とあるのだろう。
「兄貴がいないとなると、戦力的に少し心配があるんですよ」
「そうでもないと思うけどな」
そう返すが、この辺は俺とオルガの認識の違いがあってのものだろう。
俺にとってこのオルフェンズ世界は、原作があるというのを前提にした世界だ。
そして原作では俺という存在がおらず、それはつまりシャドウミラーという組織がない事を意味している。
だとすれば、原作においては鉄華団だけで……いや、ラフタとアジー、つまりタービンズの協力がればもう少し戦力はアップするかもしれないが、ともあれシャドウミラーという組織は存在しなかった筈だ。
しかしこの歴史においてはシャドウミラーが存在している。
シャドウミラーを率いる俺がいないのは戦力ダウンかもしれないが、マーベルや昌弘、クランク、アイン……他にもMSのパイロットはいる。
特にマーベルは、通常のコックピットに乗っていながら阿頼耶識を使うパイロット達を相手にしても勝利出来るだけの技量を持っているのだ。
そんな戦力がいる事を考えれば、間違いなく原作よりも戦力は上がっている筈だ。
……もっとも、オルガはその原作を知らないから俺が戦力として使えるのを基準にしてるのだろうが。
何しろアリアンロッド艦隊や地球外縁軌道統制統合艦隊との戦い、それ以外にも多くの戦いで俺の力を見せてきたしな。
だからこそ、その辺の基準というか、認識の違いがあるのだろう。
「俺はいないが、シャドウミラーには腕利きの連中が揃っている。それに……鉄華団にいる戦力は頼れないか?」
「いえ、そんな事はないです」
一瞬の躊躇もなく、即座にそう返事をしてくるオルガ。
鉄華団のエースである三日月や、昭弘、シノ……他にもMWに乗って活躍する者は多い。
もっとも、MWは死傷率が高いのが難点だが。
実際、この前の戦いでビスケットは命には別状がないものの、怪我をした。
そう考えると、本来なら戦いはMSに任せた方がいいんだろうが……鉄華団の面々は、それこそ以前からMWに乗って戦っていただけに、MWで戦場に出るのを躊躇しない。
実際にそれが原因でビスケットは怪我をした訳だし。
ただ、出来ればこれからの事を考えると戦闘はMSだけに専念したいんだが。
MWが役立たずという訳ではなく、例えば街中での戦闘とかそういうのではMWを使ってもいい。
その辺は今回の件が片付いてから、色々と相談した方がいいかもしれないな。
MSがないのならともかく、数だけは結構あるんだし。
「だろう? なら、戦闘においてもそこまで不安になる必要はない。もし攻撃をしてきても、対処は出来る筈だ。それに……もし本当にどうしようもなくなったら、俺が来るから安心しろ」
影のゲートがあるので、この島とエドモントンとの行き来は文字通りの意味で一瞬で可能だ。
ただ正直なところを言わせて貰えば、恐らく俺が来る必要がないだろうとは思っているが。
素直にここにいる戦力を考えれば、ギャラルホルンを相手にしてもどうとでもなるだろうから。
これが精鋭であるアリアンロッド艦隊であったり、あるいは実戦経験はなくても基礎的な操縦技術は高いレベルの地球外縁軌道統制統合艦隊であったりすれば、俺も多少は心配になる。
だが、地球にいるギャラルホルンのMS隊の練度はそこまで高くはないし、実戦経験も多くはない
勿論、中には地球にいるギャラホルンのMS隊であっても強い部隊とかはいるのかもしれないが。
ただ、そのような者達がいたとしても、俺達のいるこの島の周囲にいないのなら意味はない。
「分かりました。アクセルの兄貴がそう言うのなら信じます」
俺じゃなくて仲間を信じろ。
そう言いたくなったが、実際にはオルガはしっかりと仲間を信じてはいる。
だが、信じるのと同時に、仲間に被害を出したくないと思っているのも間違いないのだ。
実際、ビスケットが怪我をしている訳だし。
ビスケット以外の者でも、それなりに怪我をした者はいる筈だ。
……このような状況で死人が出ていないのは、俺やオルガ、他にも多くの者達にとって幸運なのだろう。
「そうしろ。それよりメリビットとの件はどうなったんだ?」
「へあ?」
いや、へあって何だよ、へあって。
オルガは本当にこっち系の会話が苦手だな。
オルガも立派な男なんだから、そういう方面に興味があってもおかしくはないのだが。
実際、シノは歳星とかではそういう店に行っていたらしいし。
この辺は本人の資質とか、そういうのも影響してるのかもしれないな。
「へあじゃなくてだな。メリビットとはどうなったんだ? あるいは……ラフタやアジーか? ラフタやアジーは一応名瀬の妻なんだし、その2人は止めた方がいいぞ」
あとはアトラがいるが、アトラは完全に三日月一筋だしな。
そうなると……うん、いっそ蒔苗にオルガの恋人候補を用意して貰った方がいいかもしれないな。
オルガの様子を見る限り、オルガの自主性に任せていると恋人を作るのは難しいというか、無理なような気がするし。
もしくは、この一件が終わって火星に戻ったら動いてみるのもありか?
オルガの合コンとかそういうのをやってみても面白い。
ただ問題なのは、俺に火星で女の知り合いが少ないという事か。
普通ならこういう時は友人の女とかに頼んで合コンの面子を集めたりするのだろうが、俺の女の知り合いとなると、まず真っ先に挙がるのはクーデリアとフミタン。
だが、クーデリアは上流階級の出身だけに、合コンをやるような友人がいるとはちょっと思えないし、フミタンもメイド一筋といった感じで女の友達がいるとは思えない。
次はラフタやアジー達だが、さっきオルガに言ったようにタービンズの女は全員が名瀬の妻だけに、色々と不味いだろう。
かといって、ラフタの知り合いで名瀬のお手つきではない女がいるのかと言われれば微妙だし。
そうなると、残るのはアトラか。
勿論アトラ本人は三日月一筋なのでオルガの相手にとは出来ないが、アトラの知り合いの女を合コンに誘うという事は出来るだろう。
鉄華団に入る前は街中で普通に働いていたアトラなので、女の友達も多いだろうし。
「合コンでもやるか?」
「へ? ……何です、そりゃ?」
合コンという言葉に疑問の表情を浮かべるオルガ。
ああ、そうか。
どうやらオルガは合コンという行為そのものを知らないらしい。
スラム街で生まれ育ち、CGSで働いていた時はそれどころじゃなかったのを思えば、合コンとかそういうのを知らなくても仕方がないのかもしれないが。
「合コンってのは、一種の飲み会だな」
ここで素直に女との出会いの場と言わないのは、もし言えばオルガが警戒するような気がしたからだ。
オルガの性格を考えると、そういうのはあまり好まないように思えるし。
ならいっそ、オルガには合コンがどういうのかを教えないまま、いきなりその場に連れ出せばいい。
そうなれば本人も流れに任せて合コンに参加する……と思いたい。
もっとも、俺がオルガの合コンを見る事は出来ないと思うが。
何しろ合コンとなれば、当然ながら酒が出る。
そんな場所に俺がいたら、それこそ気が付かない間に俺が酒を飲んでしまい……うん。一体どういう結果になるのかは自分でもあまり考えたくはない。
とはいえ、酔っ払った影響で気が付いたらホワイトスターに戻っていたという事になる可能性も……ない訳ではない。
もっとも、それがどれくらい可能性の低い内容なのかというのは、俺にも想像出来る。
実際、今まで何度か酒を飲んで酔っ払った経験があるが、その中で別の世界に行った事があるのはマクロス世界の1度だけなのだから。
そのマクロス世界の時も、別に魔力とかそういうのを使ってマクロス世界に行った訳ではなく、ゲートを使ってマクロス世界に行ったのだから、呪いの影響を考えると、酒を飲んでホワイトスターに戻るというのはまず無理だろう。
何だったか……微レ存? うん。確かそんな感じの言葉があったが、まさにそんな感じだと思う。
それどころか、酔っ払った影響で周囲に大きな被害を出す可能性の方が大きいので、酒を飲むのは止めておいた方がいい。
「アクセル、少しいいですか?」
「シーラ? どうしたんだ?」
「オルガと話しているところ悪いですが、こちらに来て貰えませんか?」
シーラのその言葉にオルガを見ると、オルガは素直に頷く。
オルガも別に俺とだけずっと話していればいいという訳ではないのだから、それは別におかしくないか。
「分かった。じゃあちょっと行ってくる」
シーラに頷き、オルガに短く言葉を掛けると俺は立ち上がってシーラと共に部屋を出る。
「うん? ここじゃ駄目だったのか?」
「ええ。明日の事を考えると、やはりアクセルに任せた方がいいと思いましたので」
「……うん?」
シーラが何を言ってるのか、ちょっと分からない。
とはいえ、シーラは何の意味もない事はしない。
それはつまり、この行動にも何らかの意味があるという事だ。
具体的にそれが何なのかは分からないが。
ともあれ、シーラは黙って移動する。
そんなシーラの様子を見ると、何か聞いても答えるようには思えなかった。
このままシーラと一緒に行動すればその意味が分かるのだから、無理に聞き出そうとは思わないが。
そうして歩き続け、数分。
「何だ、クーデリアか」
シーラの歩く先にクーデリアがいるのを見て、その行動の意味を理解する。
もっとも、何故わざわざクーデリアのいる場所に俺を連れて来たのかというのは分からなかったが。
「では、クーデリア。後は任せましたよ」
「はい」
シーラとクーデリアの間で俺には理解出来ない何らかの前提条件があるのだろう言葉が交わされ、シーラはその場から立ち去る。
おい? と思わないでもなかったが、シーラは俺について全く気にした様子もなく、立ち去った。
どうやら今はクーデリアの件に集中しろという事らしい。
「……で? 一体どうしたんだ? というか、フミタンは」
いつもクーデリアと一緒にいるフミタンが、ここにはいない。
以前はノブリスのスパイだったフミタンだったが、そのフミタンは既にノブリスとの縁を綺麗に切って、クーデリア一筋といった具合になっている。
何気に色々と有能なフミタンだけに、多くの者に頼られたりもしているんだよな。
それでもクーデリアを最優先にする筈のフミタンがいないことに疑問を抱く。
「フミタンには、少しお願いして離れた場所にいて貰っています」
「そうなのか? まぁ、話は分かった。それで?」
「……アクセル、私は貴方が好きです」
不意に、そう告げられたのだった。