俺がいるのは、外。
そして俺の前にはクーデリアの姿があり、月明かりに照らされているその姿は革命の乙女やジャンヌ・ダルクと呼ばれるのは決して間違いないと思う。
そんなクーデリアの口から出た言葉は、俺にとって予想外のものだった。
俺を好きだと、そうクーデリアが言ってきたのだ。
「本気か?」
「……冗談で私がこのようなことをすると思いますか?」
そう言ってくるクーデリアだが、月明かりでも頬が赤く染まっているのは間違いない。
冗談でも何でもなく、本気で言ってるのだろう。
しかし、予想外だったのは間違いない。
「だろうな。こういう状況で冗談を言うとは俺も思わないよ」
もしこの状況でクーデリアが冗談でしたとか言ったら、そんな事をするのが本当にクーデリアなのか? と疑問すら覚えてしまうだろう。
「けど、何で今こういう状況でそんな事を? いや、勿論クーデリアに好意を抱かれるのは嬉しいけど。このタイミングで何故?」
「……このタイミングだからこそ、です。明日、私はアーブラウの全体会議で演説をします」
「……そうだな」
個人的にはクーデリアの演説は止めた方がいいと思うんだが、半ば強引に押し切られた形だ。
今日の一件で蒔苗の派閥の何人にも顔見せをした以上、今はもう止めるというのは無理だろう。
「だからこそ、今日のうちにアクセルに私の気持ちを伝えておきたかったのです」
「……そうか」
クーデリアにしてみれば、明日は一世一代の大勝負と呼ぶべき時だ。
だからこそ、その前に俺に告白をしておきたいと思ったのだろうが……それで俺はどう返事をすればいい?
いやまぁ、俺がクーデリアに好意を持ってるのは間違いない。
それは勿論男女間の好意の一種ではあるのだが、俺はそれを可能な限り表に出さないようにしてきた筈だ。
……勿論、それはクーデリアが女として魅力的ではないからという事ではない。
俺から見ても、クーデリアは顔立ちが整っており、十分美人と呼ぶに相応しい。
100人に聞けば、恐らく全員が美人だと答えるだろうくらいにはクーデリアの顔立ちは整っている。
もっとも、世の中には色々な趣味の者がいるので、中にはクーデリアを見ても趣味ではないと言う者もいるだろうが、それでも美人であるというのは認めるだろう。
また、その身体付きも十分起伏に富んでおり、男好きのする身体なのは間違いない。
フミタンには負けるが、クーデリアも十分に巨乳と呼ぶに相応しい大きさの胸を持っているし。
「けど、俺とマーベル、シーラの関係は知っていた筈だろう?」
「ええ、知っていました。ですが、それは特に問題ないでしょう。私が3番目になればいいだけなのですから」
……ああ、そう言えばそうだったな。
火星は……というか、オルフェンズ世界は一夫多妻制や同性婚、一妻多夫といった具合に、性に関してはオープンというか、結婚に関してはオープンというか、そんな感じだったな。
名瀬とか、名瀬とか、名瀬とか、名瀬とか。
そういう世界だと納得しておけばそこまで問題でもないんだろうが。
考えられる可能性としては、厄祭戦で人口が減りすぎた結果、少しでも人口を増やす為に一夫多妻制とかが推奨されたのが長い間続き、それが普通になったのかもしれないな。
とはいえ、人口を増やすという意味では一夫多妻や一妻多夫は分からないでもないが、同性婚はどうなんだろうな。
まぁ、あくまでもこれは俺の予想だし、この予想とは全く違う何かがあったという可能性も十分にある訳で。
とにかく重要なのは、一夫多妻制の存在が普通に許容されているという事だろう。
そういう意味では、俺がマーベルとシーラと同時に付き合っているのはクーデリア的には問題がないのだろう。
そのような常識があるからこそ、恋人や妻がいる相手であっても好きになればこうしてアタックをしていると。
そうなると、どうするべきか。
勿論、俺がクーデリアに好意を抱いているのは間違いない。
そういう意味ではクーデリアを受け入れてもいいと思う。
思うのだが、それでも俺がクーデリアに向けている好意はまだそこまでの強さではない。
自分で客観的に判断するのは難しいが、友人以上恋人未満といったところか。……ちょっと違うか?
普通に考えれば、クーデリアのような美人が俺を好きだと言う以上、据え膳食わぬは……といったようになるかもしれないが。
ただ、クーデリアと付き合う――恋人的な意味ではなく――ようになってから、それなりに時間が経っているので、気軽に手を出すようなつもりにもならない。
ともあれ……クーデリアが俺を見る目は真剣だ。
冗談でも何でもなく、本気で俺に告白をしてきたのは明らかだ。
そんなクーデリアの気持ちを考えると、俺も適当にはぐらかすといった訳にはいかない、か。
「クーデリア、俺に告白するのをマーベルは知ってるのか?」
シーラが俺をここに連れて来たのだから、シーラが知ってるのは間違いない。
シーラも女王、それもバイストンウェルというファンタジー世界の女王だったり、マーベルとの件もあって、一夫多妻とかそういうのを受け入れる下地は最初からあったから、クーデリアの件も受け入れたのだろう。
だが、マーベルはどうか。
シーラの件であったり、何よりホワイトスターには大量の恋人がいるというのを知っているマーベルだけに、クーデリアの件も受け入れる余地は十分にあるが……
「はい、彼女にも話はしてあります」
「……そうか。さて、そうなると何から話せばいいのか、ちょっと迷うな」
「どういう事でしょう?」
「お前の気持ちは分かった。そうである以上、俺もお前に隠し事はしたくないって話だ。その辺りについてはシーラやマーベルからは何も聞いてないんだよな?」
「何について言ってるのか分かりません」
こういう言葉が出るという事は、つまり俺達の秘密について知らされていないと思って間違いない。
もっともマーベルもシーラも、ダンバイン世界から直接オルフェンズ世界に転移してきたのだ。
ホワイトスターについては、全く知らない。
だからこそ、何も言ってないのかもしれないな。
もっとも、知らないのは間違いないが、俺がその辺りの事情については話しているので、知識としては知ってるのだろうが。
「まず……そうだな。魔法について話した時に少し聞いたけど、お伽噺とかがあるのなら、映画とか漫画とか小説とか、そういうのもあるよな?」
「え? ええ。まぁ……」
「なら分かりやすいかもしれないが……簡単に言えば、俺とマーベル、シーラはこの世界の人間じゃない。異世界からやってきた存在だ」
「……アクセル。貴方が私の告白を受け入れる気がないのは分かりますが、それでもそのような話で誤魔化そうとするのは酷いのではありませんか?」
だよな。
まぁ、これが異世界とかそういうのの反応を聞いた者にとって一般的な反応だろう。
それは分かっているが、妙な勘違いをしているようなので、訂正する。
「別に俺はそういうつもりでこういう事を言ってる訳じゃない。……そもそもの話、俺が使う魔法を見て、何とも思わなかったのか? この世界に魔法なんていうのが存在すると、本当に思っていたのか?」
「……え?」
俺の言葉が意外だったのだろう。
クーデリアの口からそんな間の抜けた声が出る。
「魔法だ。この世界……オルフェンズ世界と呼んでいるが、こんな世界にそういうのが本当にあると思うのか?」
「それは……でも……」
「俺が使う魔法は、こことはまた違う別の世界、魔法が存在する世界で使えるようになった力だ」
実際には俺の転生特典とかそういうのもあるので、魔法だけで片付ける事は出来なかったりするんだが。
ただ、それでも影のゲートは魔法だし、炎獣は混沌精霊になった俺が使える能力だが、混沌精霊になったのもネギま世界特有の事情でだ。
そういう意味では俺の言ってる内容は決して間違ってはいない。
「魔法……」
「そうだ。魔法だ。この魔法もそうだが、俺の国の名前はシャドウミラーという」
「え?」
「分かりやすいだろう?」
俺が率いるPMCもシャドウミラーにしたのだから、そういう意味では本当に心の底から分かりやすいのは間違いない。
「……国?」
「そうだ。こう見えて、俺は国の代表だしな。もっとも、このオルフェンズ世界ではあまりそういう思いはないのかもしれないが」
ギャラルホルンという組織が、この世界においては実質的に国よりも更に上の存在となっている。
その為、オルフェンズ世界の者にしてみれば、国というのはギャラルホルンの下という認識があってもおかしくはない。
この辺は厄祭戦以後にずっとそのような体制だった事を思えば、仕方がないのかもしれないが。
「ちょっと、実感が……」
「だろうな」
俺の言葉を理解はしつつも納得は出来ないといった様子を見せるクーデリア。
そんなクーデリアが少し落ち着くように5分程黙ったところで、再び言葉を口にする。
「ちなみに俺の国はホワイトスターという……そうだな、クーデリアに分かりやすく説明するとすれば、コロニー的な存在だな。勿論コロニーとはいっても、ドルトコロニーを全て合わせたよりも大きいが」
ホワイトスターは正確にはコロニーではなく、エアロゲイターの宇宙要塞的な存在なんだが、その辺はいいだろう。
実際に今の説明の方がわかりやすいだろうし。
「後は……そうだな、これはちょっと分かりにくいのもかしれないが、世界というのはそれぞれに存在している。パラレルワールドや並行世界とか、そんな感じで。そして俺の国であるシャドウミラーの本拠地、ホワイトスターがあるのは、そんな世界と世界の狭間とでも呼ぶべき場所だ。そしてシャドウミラーはその技術を使って色々な世界に接触している訳だ」
「じゃあ……アクセルも何か目的があってこの世界に来たの?」
「それがちょっと違う。ペルソナ世界……いや、他の世界で行動していた時にその世界の神の1人……いや、神なら1柱と呼ぶべきか? 個人的には1匹って感じなんだが。ともあれ、その神と戦いになって勝利したんだが、その神が自分の残り少ない命と引き換えに俺をその世界から追放したんだ。呪いを掛けてな」
「神、ですか?」
異世界の次は神が出て来たのだから、クーデリアにとっても素直に納得出来ないところがあるのだろう。
とはいえ、それが事実である以上は仕方がない。
「そうだ。神だ。……クーデリアが俺を想ってくれるのは嬉しい。だが、俺とそういう関係になるという事は、いつ何が起きるのか分からない。それこそ相手が神であったりしてもおかしくはない」
これは事実だ。
実際、ペルソナ世界での一件では俺と行動を共にしていた者達も神と……伊耶那美大神と戦う事になったのだから。
まぁ、その伊耶那美大神も俺に殺されたのだが。
そういう意味では、俺は神殺しだったりするんだよな。
「少し、驚きましたね」
俺の言葉にクーデリアはそう言うが、少しだけかよと突っ込みたくなったのは俺の気のせいではないだろう。
「驚いて貰えたようで何よりだよ」
「ですが、今はそのホワイトスターという場所ですか。そこに行けないのですよね?」
「呪いのせいでな。……こうして説明した俺が言うのもなんだが、よく信じたな。普通、こういう話を聞いても信じたりは出来ないと思うんだが」
何も知らない者が俺の話を聞いても、それこそ妄想だと……あるいはよく出来たストーリーだと、そういう風に言うだろう。
それは別に俺も責めるつもりもない。
俺がこういう話を聞かされた方であれば、そうして常識というのを知っていれば、それは余計にそのように思うのだろうが。
「何を言っているのですか?」
だが、クーデリアは俺の言葉にそう疑問の声を口にする。
「この状況で、アクセルが嘘を言う必要がありますか? それに、今までのアクセルの行動を思えば、アクセルの言う事には普通に納得も出来ますし」
クーデリアの言葉に、俺はどう返せばいいのか少し困る。
実際、俺のやってきた事は色々とこのオルフェンズ世界の常識から外れているのは間違いない。
しかし、それでもここまで素直に信じるというのは、かなり意外だった。
「それに、私はアクセルにその……好意を抱いているのですよ。そのような相手の言葉を信じないというのは、女としてどうかと思いますし」
いや、それはちょっと危険だ。
クーデリアの言葉にそう突っ込みたくなるが、何とか堪える。
クーデリアは男慣れしていない。
普通ならクーデリアのような上流階級の出身であれば、パーティとかそういうので男と接することもある筈なのだが。
そうする事で男にも慣れていったりする。
……まぁ、これはあくまでも俺の認識だ。
このオルフェンズ世界においては、違うのかもしれない。
「分かった。なら、他にも色々と俺の事を教えよう。それを聞いた上でも俺を想う気持ちがあるのなら、俺もお前を受け入れる」
そう、告げるのだった。