「……なるほど。アクセルは随分と特殊な立ち位置なのですね」
俺の事情……それこそシャドウミラーとしての俺であったり、その国是であったり、あるいは他にも色々と話を聞いたクーデリアの口から出たのはそのような言葉だった。
一番大きく反応したのは、やはりホワイトスターには俺の恋人が20人近くいるという事だったが、幸か不幸かクーデリアは俺からその辺りの話を聞くよりも前に、名瀬に会っている。
20人どころか、100人単位で妻を持つ名瀬と比べると、少し多いといったような認識にでもなるらしい。
……これって交渉の際に最初に大きな数字を出し、それから少ない数字を出すというテクニックに近いような気がする。
後から出した少ない数字も、何も知らない者にしてみれば明らかに大きな数字なのだが、最初の大きな数字で感覚が麻痺しているのだ。
こんな事で本当に大丈夫か?
そう思わないでもなかったが、そんな俺の思いはクーデリアの顔を見た瞬間に氷解する。
クーデリアは全てを分かった上で、理解した上で今のように言っているのだと理解した為だ。
……実際、名瀬と比べれば俺の恋人の数がかなり少ないのは事実だし。
「そういう事になる。……それでも構わないか?」
「ええ、構いません。私はアクセルが好きなのです。つまり、私がアクセルと一緒にいることこそが大事なのですから」
「……そうか。けど、もし俺がクーデリアを受け入れても、本当にずっと一緒にいられるのかは分からないぞ?」
今はいい。
ゲートが起動しておらず、その影響もあって俺はずっと火星に……というか、オルフェンズ世界にいる。
だが、もし呪いが解呪されれば、俺はホワイトスターに戻るだろう。
オルフェンズ世界においても、明日行われるアーブラウの代表指名選挙が終われば、恐らく今回の騒動も一段落する。
そうなると、この世界での原作は終わる……かどうかは微妙なところか。
火星とアーブラウの一件はどうにかなるものの、マクギリスが行おうとしているギャラルホルンの改革はまだ何も行われていない。
そうである以上、その件について大きな騒動となるのは間違いない。
以前マクギリスが言っていたのを考えると、ラスタル・エリオンが率いるアリアンロッド艦隊が最大の敵となるだろう。
また、セブンスターズの中にも日和見をしたり、もしくはラスタルに味方をする者がいるかもしれない。
セブンスターズが持つ戦力は、ラスタルのアリアンロッド艦隊、カルタの地球外縁軌道統制統合艦隊を見れば明らかだろう。
他のセブンスターズの代表も同じような戦力を持っている可能性は高い。
あるいはアリアンロッド艦隊や地球外縁軌道統制統合艦隊程ではないにしろ、もっと小規模で独自の戦力を持っている可能性は十分にあった。
……イズナリオの場合は、それこそ地球にあるギャラルホルンの戦力をそのまま使えるしな。
他のセブンスターズがどのような戦力を持っていてもおかしくはない。
ともあれ、マクギリスがギャラルホルンに起こす革命が、恐らくオルフェンズ世界の原作における一大決戦なのだろうとは思う。
ただ、具体的にそれがいつなのかは分からないんだよな。
そんな訳で、今のアーブラウの一件が終わった後、どうなるのかは俺にも分からない。
もしかしたら、俺達がアーブラウの一件に関わっている間に、マクギリスが戦力を整えてギャラルホルンに反旗を翻そうとしている可能性もあるのだから。
特にカルタがいるので、地球外縁軌道統制統合艦隊を使えるというのは大きいだろう。
……もっとも、地球外縁軌道統制統合艦隊ではアリアンロッド艦隊に勝てるとは思わないが。
マクギリスやガエリオが腕利きだったとしても、それは精鋭揃いのアリアンロッド艦隊を相手にどうにか出来るだけの実力まではない。
勿論、アリアンロッド艦隊のMS隊の1機や2機ならどうにかなるが、これが10機や20機となると難しくなってくるだろう。
もっともアリアンロッド艦隊は俺の操縦するサラマンダーとの戦いで大きな被害を受けている。
ドルトコロニーに派遣されてきたのは本隊ではないとはいえ、それでもアリアンロッド艦隊が受けた被害は大きい。
「アクセル? どうしたのですか?」
「ん? ああ、悪い。クーデリアと一緒にいる件について考えていた」
「……それで?」
「アーブラウの件が終わって、マクギリス達のギャラルホルンの革命の件も終わって……全てが無事に終わった場合、恐らくクーデリアは火星の女王となる。セイラが月の女王となったようにな」
「ちょっと待って下さい」
俺の言葉を遮るクーデリア。
何故かジト目をこちらに向けている。
「どうした?」
「……私が火星の女王になるかもしれないというのもそうですが、そもそもそれ以前に月の女王というのは何ですか?」
その疑問に、そう言えばその件について話してなかったなと頷く。
「さっきも言ったが、シャドウミラーというのは色々な世界と交流している。その中にUC世界という世界があってな。その世界はこの世界と同じくガンダムが存在する世界でもある」
「……え? ガンダム・フレームが?」
俺の言葉にそう返すクーデリアだが……そうか、このオルフェンズ世界においては、ガンダムはそのままガンダム・フレームの事を意味してるんだったな。
「微妙に外れだ。世界によっては色々と違う。UC世界については……まぁ、詳しい説明は置いておくとして、とにかくガンダムの存在する世界があって、そこで色々とあった結果、セイラという女が月に建国して女王となったんだよ」
「本物の……女王……」
「いや、女王という事で驚いているようだが、女王というだけならシーラもこことは違う別の世界で女王だったぞ? しかも結構な大国の」
「え?」
俺の言葉を理解出来ないといった様子のクーデリア。
俺達の出自を隠していたのだから、そのように思うのはそうおかしな話ではない。
とはいえ……シーラの言葉遣いとか、上に立つ者について教えるとか、そういうのを見てきたクーデリアだ。
シーラが普通の……それこそ一般人ではないというのは、予想出来ていた筈だ。
もっとも、シーラもナの国の女王を辞めてマーベルと一緒に行動していた事で、言葉遣いとか態度とか認識とかそういうのが一般人に近くなっている。
それでクーデリアが気が付かなかった……といった可能性はあるかもしれないな。
とはいえ、それでもシーラはその生まれや育ちから、言動に気品があるのは間違いない。
「シーラは元大国の女王だったんだよ。それで……まぁ、色々とあって、こうしている訳だ」
「その色々というのを聞きたいのですが」
クーデリアにとって、シーラというのは上に立つ者として色々と教えてくれた尊敬すべき人物だ。
それだけに、シーラについて知りたいと思うのはおかしな話ではなかった。
……とはいえ、だからといって何を話すのかは迷うところだが。
「そう言われてもな。……簡単に言えば戦乱があって、その中で俺がシーラと出会って最終的に結ばれたといったところか」
短く、そして大雑把にそう告げる。
実際、今の説明は決して間違っている訳ではない。
聞かされたクーデリアが納得するかどうかは別として。
「……もう少し、詳しく聞かせて欲しいのですが」
「詳しく話していると、それこそ1日では足りないな」
実際にどのくらいの時間が必要なのかは別として、かなり長くなるのは間違いない事実だ。
だからこそ、今この場で話すようなことではないだろう。
「だから、そうだな。アーブラウでの騒動が終わって火星に戻ったら、その時には色々と教えるし、ゆっくりするのも悪くない」
「それは……私とアクセルで、ですよね?」
「そのつもりだ。他にもマーベルやシーラがいるかもしれないが。ともあれ、今回の一件が終われば忙しいのも終わるだろう。そうすればゆっくり出来ると思わないか?」
「そうね。私もアクセルと一緒にゆっくりと出来るのを楽しみにしています」
そう言い、クーデリアは月明かりに反射する、潤んだ瞳を向けてくる。
何を期待してるのかを知り、俺はそっと手を伸ばす。
クーデリアは俺の手を握り……俺が手を引くと、全く抵抗する様子もなく、俺の胸の中に飛び込んできた。
そんなクーデリアの腰を抱く。
クーデリアもまた俺の身体に体重を預けてくる。
潤んだ瞳のままこっちを見るクーデリアの唇をそっと自分の唇で塞ぐのだった。
舌を絡めるような情熱的なキスではなく、唇を重ねるだけのキス。
そんな時間が1分程経過し、俺はそっと唇を離す。
「アクセル……好きです」
「全く。俺が言うのもなんだけど、もう少し男を見る目を鍛えた方がいいんじゃないか?」
「それで、アクセル以外の人を好きになるのですか? それなら私は今の自分の状態で全く問題はありません。アクセルを好きになった事に後悔などはありませんから」
「……自分で言うのもなんだが、一体俺のどこをそんなに好きになったんだ?」
「ふふっ、本当に……何ででしょうね。でも、アクセルには色々と助けて貰いました。そして気が付いたら、私はいつの間にかアクセルを目で追うようになっていたのです」
ここで男を見る目がないなと言えば、それは即ちマーベルやシーラも男を見る目がないという事を意味してしまう。
そしてホワイトスターに残してきたレモン達も。
だからこそ、見る目がないといったような事を言うのではなく……
「物好きだな」
そう告げるのだった。
その言葉の選び方が面白かったのか、クーデリアは面白そうに……そして幸せそうに笑みを浮かべる。
「ふふっ、そうかもしれませんね。けど、アクセルと会った時からこうなる事は決まっていたように思います。……あくまでも今にして思えばですが」
「そうかもしれないな」
普段なら今の言葉を信じたりはしなかっただろう。
だが……今こうして聞いていると、素直にクーデリアの言葉を信じてもいいのではないかと、そんな風に思えてしまう。
「ともあれ、この続きは明日の一件が終わってからだ」
「……え……」
キスの続きという言葉の意味を理解したのか、クーデリアの頬が薄らと赤く染まる。
何を……いや、ナニを想像したのかは、考えるまでもないだろう。
「もう……アクセルは本当に……」
不満というよりは照れ隠しといった様子で俺の身体を叩いてくるクーデリア。
そのまま少しの間、俺は新しい恋人とイチャついていたが……
「コホン。……いつまでも主役が留守にするのは不味いのではないかしら?」
不意に聞こえてきた声に、俺とクーデリアは揃って動きを止める。
そしてギギギといった様子で声のした方に視線を向けると、そこにはマーベルの姿があった。
ただし、その表情に浮かんでいるのは呆れだったが。
……って、呆れ?
あれ? もしかしてマーベルも今日の一件は知っていたのか?
いやまぁ、俺をここに連れてきたのがシーラだと考えれば、それは分からないでもないのか?
「マーベルも今日の事を知ってたのか?」
「ええ。まぁ……」
クーデリアに確認すると、そんな返事だった。
この様子からすると、どうやらクーデリアもマーベルに話を通していたらしいな。
まぁ、シーラがこの件の裏で糸を引いていたのだから、それにマーベルも関わっているのはそうおかしな話ではないか。
「クーデリア……言っておくけど、アクセルの恋人というのは簡単な気持ちで出来る訳ではないから注意しなさい」
「えっと……どういう事でしょう?」
「貴方もアクセルに抱かれるようになれば分かるわよ」
そう言い、笑みを浮かべるマーベル。
だが、それは……俺から見ても、バイストン・ウェルにおいて最高の聖戦士と呼ばれた者の笑みではなく、どことなく不吉さを感じさせるような笑みだった。
……いやまぁ、そういう笑みを浮かべる気持ちは分からないでもなかったが。
クーデリアもシーラやマーベルに話を通してるって事だったんだが。
「抱かっ!?」
そしてクーデリアは、マーベルの口から出た言葉に顔を真っ赤に染める。
クーデリアにしてみれば、マーベルの口から出た言葉はそれだけ衝撃だったのだろう。
「ふふっ、悦楽地獄……という言葉を知る事になるでしょうね」
「……」
再度マーベルの口から出た言葉は、クーデリアに強い衝撃を与えるのに十分だったらしい。
そんなクーデリアを笑みを浮かべて見た後で、マーベルは俺に視線を向けてくる。
「アクセル、取りあえずクーデリアの事は私に任せておいて。女同士で色々と話したい事もあるから」
そう言われると、俺としても反対は出来ない訳で……
俺に抱きついているクーデリアの頬に軽く口づけをすると、その場をマーベルに任せる。
クーデリアは……うん。頬を赤く染めたまま、マーベルと何か話している。
そうして少し離れた場所で……フミタンが俺に向かって頭を下げているのに気が付くのだった。