俺がクーデリアの告白を受け入れた事は、その日のうちに話が広まった。
その辺については、それこそ女同士のやり取りがあったらしい。
マーベル、シーラ、クーデリア、フミタン、ラフタ、アジー、アトラ、メリビット……俺達と行動を共にしている女達にとって、やはり恋愛というのは非常に大きな意味を持っているのだろう。
食事が終わった後も、女達が集まってキャーキャー騒いでいた。
クーデリアが恥ずかしそうにしながらも嬉しそうにしていたので、問題はなかったのだ。
そんな訳で……クーデリアに告白された翌日。
今日はいよいよ俺達が地球に来た総決算とでも呼ぶべき日だ。
既に島にある蒔苗の屋敷の前には、現在この島にいる全員が集まっている。
それぞれの目には、やってやるといった強い意思があった。
何しろ、今日は俺達が地球にやって来てからの総決算とでも呼ぶべき日だ。
今日の出来事……蒔苗の代表指名選挙、そして恐らくはあるだろうこの島を封鎖しているギャラルホルンの艦隊による攻撃が双方共にこちらにとっての予定通りに終われば、それはまさしく俺達の……シャドウミラー、鉄華団、タービンズ、蒔苗一派の勝利という事になるのだから。
この状況で燃えない訳がない。
「アクセルの兄貴、頼みます」
オルガに促され、俺は皆の前に立つ。
これから派手に動くのだ。
その為に士気を高める為に俺に話をして欲しいというのだろう。
あまりこういうのは好きじゃないんだがな。
それこそ蒔苗に任せた方が……そう思わないでもなかったが、ここにいる多くの者は実際に戦う者達だ。
それだけに、蒔苗よりも実際に戦場に出る俺が演説をした方が士気が上がるという事で、俺がこうして演説をする羽目になった訳だ。
俺もシャドウミラー……国としてのシャドウミラーを率いる身として、何度か演説をした事はある。
あるのだが、それでも出来るか出来ないかではなく、好むか好まないかとなると、やはり好まない。
「さて、あまりこういうのは好きじゃないんだが、オルガから押し付けられた以上は仕方がないな」
「ちょっ、兄貴!?」
いきなりの俺の言葉に、オルガが不満そうな様子で言う。
そんなオルガと俺のやり取りに、周囲には笑いが漏れる。
見ていた者達の多くは、自覚の有無はともかく緊張している筈だ。
それを笑いで軽く解すと、俺は再び言葉を続ける。
「そんな訳で、これから演説をする。もっとも、さっきも言ったが、あまり好きじゃないからそこまで長く話はしないから安心してくれ」
その言葉に何人かが……特に鉄華団の面々の中に安堵した様子を見せる者もいる。
多分だが、CGSの時にマルバ辺りが無意味に長い演説とかでもしたのだろう。
これが学校なら、校長の挨拶とかそういうのが長くて面倒だと思う者もいるかもしれないが、この中に学校に通った事があるのは……俺、マーベル、クーデリア、クランク、アイン、サヴァラン、蒔苗、その秘書や護衛といったところか?
まぁ、その中で校長の長話を経験した者がどれくらいいるのかは分からないが。
「今日、俺と蒔苗、クーデリアはエドモントンに行く。それ以外の者達はこの島で恐らくは襲ってくるだろうギャラルホルンを相手に戦う。……今日を乗り切れば、俺達の勝ちだ。それに……戦力的な意味では、いざとなったら俺がすぐに戻ってくるから、安心してくれ」
これには何人もが安堵した様子を見せる。
ここにいる者達は、全員が俺の強さを知っている。
グシオンを使っての戦いであったり、サラマンダーを使っての戦いであったり。
そんな俺の戦いを見てきた者達だけに、俺の言葉には強い説得力があったのだろう。
……三日月辺りは、俺の言葉を聞いても特に気にしている様子はなかったが。
三日月は自分だけでどうにかすると考えているんだろうし。
オルガと三日月の共依存とも呼ぶべき関係……何とかした方がいいんだろうけどな。
ただ、それをどうにかするのはそう簡単な事ではない。
「だから、敵がギャラルホルンであっても気後れする事はない。地球にいるギャラルホルンのMS隊は、そこまで精鋭という訳じゃないからな。それは以前一度島を攻撃してきた時の件で分かっているだろう?」
そう言うが、実際には精鋭も存在するだろうとは思う。
何しろ地球にはギャラルホルンの本部があるのだから。
ただ、そのような精鋭がいたとしても、そういう本部の護衛とかを任されている可能性が高い。
何しろ今回の一件は、イズナリオの独断なのだろうから。
さすがにアーブラウの実権を握ろうとしているのに、それに他の者……具体的にはイズナリオと同格のセブンスターズとか、あるいは少し格下の存在を相手に手伝わせる訳にはいかない筈だ。
その辺の状況を考えると、やはりここはそこまで精鋭を使ったりは出来ない。
とはいえ……イズナリオの子飼いの精鋭部隊とか、あるいは腕は立つものの軍紀違反の多い部隊とか、使い捨ての囚人部隊とか、そういうのがいれば投入してくる可能性も否定は出来なかったが。
もっとも、マーベルや三日月、ラフタ、アジーといったエース級の面々がいる。
クランクやアイン、昭弘といった腕利きもいる。
そう考えれば、もし俺が想像したような一部の精鋭が襲ってきたところで、対処は可能だろう。
「だから、心配するな。何があっても最後は俺達が勝つ。……お前達は、死ぬようなことは勿論、可能なら怪我もしないようにしろ。ビスケットのように怪我をしたら、色々と大変だぞ?」
俺の言葉に、多くの者がビスケットに視線を向ける。
以前の戦いでオルガと一緒にMWに乗っていたところ、戦いに巻き込まれる形で怪我をしたビスケットだったが、その怪我そのものは腕の骨折と打撲や切り傷といった程度で、重傷ではない。
客観的に見れば、腕を折っている時点で重傷ではあるのだが。
ただ、命に別状はなく、腕が折れているので多少不自由だろうが、自由に移動出来たりもする。
そういう意味で、この世界……というか、鉄華団基準では今のビスケットの状況は重傷とは言わないらしい。
それでもオルガは、怪我をしているので仕事とかもその辺に配慮してるんだが。
……これがCGS時代だったら、それこそ軽傷という扱いになって健康な者達と同じように仕事を割り振られていたのだろう。
あるいは、子供達をいたぶるのが趣味の連中がいた事を思えば、それこそこれ幸いと怪我をした場所を殴る蹴るといった行為に及んでもおかしくはない。
「ちょっ、アクセルさん……」
俺の言葉に、ビスケットが困った様子でそう言う。
ビスケットにしてみれば、あの戦いの怪我は恥ずかしい事なのだろう。
あの戦いで死人はいないが、怪我人はそれなりにいる。
そんな怪我人の中で一番重傷だったのが、ビスケットなのだ。
そしてビスケットは鉄華団の中でも幹部と呼ぶべき人材だった。
スラム街出身でも、ヒューマンデブリ出身でもなく、ドルトコロニーの出身だけに、常識もそれなりにある。
ある意味、鉄華団の良心とでも呼ぶべき存在だ。
……保守的すぎるという問題もあるが、鉄華団の多くは積極的というか、イケイケというか。そんな感じの性格だ。
だからこそ幹部にビスケットのような性格の奴がいるのは、そんなに悪くない事だったりする。
「ビスケットは今回後方での仕事になると思うが、それもまた大事な仕事だ。頑張れよ」
「あ……はい」
ビスケットが俺の言葉に頷くのを見ながら、再び口を開く。
「まぁ、そんな訳で……言おうと思えば他にも色々と言えるんだが、長話をしてもどうかと思うし、この辺にしておく。……いや、その前についでに言っておくか」
そろそろ演説を止めようとしたところで、ふとそう言う。
視界に入った人物……昨夜から俺の恋人の1人になったクーデリアの様子が目に入ったからだ。
上流階級の出身らしく、自分の内心を表に出さないようにするのは慣れているクーデリアだったが、こうして見ればクーデリアが緊張しているのが分かる。
……無理もないか。
クーデリアが今まで一番大きな舞台で話したのは、火星で行われたノアキスの7月会議、あるいはドルトコロニーでTVを使った演説か?
もっとも後者はTVカメラの前で演説したのは間違いないが、その時はあくまでもTVカメラの前……つまり、演説を聞いている者がどれくらいいるのか、本人は分かっていなかったのだ。
そういう意味では、やはりノアキスの7月会議が一番か。
そんなクーデリアだが、今日の演説はアーブラウという一国の代表、議員達が集まってきている場所で行われる。
人数的にはノアキスの7月会議の時よりも少ないだろうが、人選という意味では間違いなく今日の方が上だろう。
何しろ火星は植民地でしかなく、アーブラウは火星を植民地している宗主国とでも呼ぶべき存在の国の1つなのだから。
だからこそ、そのような場所で演説するのに緊張するのはおかしな話ではない。
おかしな話ではないのだが……だからといって、放っておく訳にもいかない。
緊張は解すべきだろうと判断し、口を開く。
「こういう時に言う事じゃないと思うが……昨夜から、俺はクーデリアと付き合う事になったので、最後に報告しておく」
「ちょ……アクセル!? 一体何を!?」
緊張しながらも俺の演説を聴いていたクーデリアが、突然の発表に顔を赤くして叫ぶ。
一瞬前までの緊張は既にそこにはない。
クーデリアにしてみれば、まさかこのような場所でそのような事を言われるとは思っていなかったのだろう。
ちなみに昨夜、シーラとマーベルから話が伝わっていたのか、アトラ、ラフタ、アジー、メリビットといった女達は俺の言葉を聞いても特に驚いている様子はない。
そんな女連中とは違い、男達の中には驚いている者が多い。
どうやら男達にはその辺の情報が伝わっていなかったらしい。
……いやまぁ、それでもおかしくはないか。
これが戦いについて必要な情報であったのなら、まだ話は分かる。
だが、これは戦いには関係のない、プライベートな事なのだ。
もっとも、クーデリアは俺達にとっては依頼人だ。
そうである以上、その動向が大きく影響してくるのは間違いないのだが。
「いいだろう? ここにいるのは基本的に身内なんだ。なら、その辺りについての話をするくらいは構わないだろう」
「ふぉふぉふぉ。儂も身内と認めて貰っておるようで嬉しい事じゃな」
蒔苗がそう呟く声が聞こえてくる。
蒔苗は……まぁ、そうだな。
身内と呼ぶには正直なところどうかと思わないでもなかったが、全員が身内じゃないといけない訳でもないので、それはそれで構わない。
「まぁ、そんな訳で……俺とクーデリアが付き合うようになったのは間違いない」
「でもよ……その……いいのか?」
シノが心配そうというか、不思議そうに聞いてくる。
「何がだ?」
「いや、だって……アクセルはその……そっちの2人と付き合ってるんだろう? なのに……」
そう言いつつ、シノの視線が向けられたのはマーベルとシーラの2人だ。
そしてシノが何を言いたいのかが分かった俺は、問題ないと頷く。
「その件については、特に何も悪影響はない。マーベル達も承知の上だしな」
正確には、シーラが俺を連れてクーデリアのいる場所まで連れていったのだ。
そうである以上、それはつまりシーラも承知の上という事になる。
マーベルやフミタンもそれは同様で、つまり今回の件で問題になったりはしないのだろう。
もっともフミタンの場合は、別に俺を好きだとかそういうのではなく、自分の仕えるクーデリアが俺とくっつくといった意味での問題にはならないのだが。
「ずりぃっ!」
即座にそんな声が出るのは、シノが女好きだからこそだろう。
……そういう風に言うって事は、多分俺と同じような状況、あるいは似たような状況になった事があるのかもしれないな。
とはいえ、シノはそういう店には行くものの、それはあくまでもプロの女だけだ。
風俗業界以外の女でとなると……そもそも接触する機会がないのか。
あ、でも歳星に行った時とかはそれなりに自由に移動出来る余裕が……いや、JPTトラスト……というか、ジャスレイとの一件でそこまで自由に歳星の中を出歩けなかったか。
もっとも、それでもある程度は出歩ける余裕があった事を考えると、シノの実力不足といったところか。
シノが女好きなのはいいんだが、がっつきすぎなんだよな。
それは女にしてみれば、決して好ましくはない。
勿論、趣味は人それぞれなので、中にはそうした相手を好む者もいるのだろうが、残念な事にシノがそういう女と出会えなかっただけだ。
「ずるいと思うのなら、シノも頑張るんだな。この件が終わって火星に戻れば、モテるようになるかもしれないぞ?」
もっとも、そうして言い寄ってくる相手はシノではなく、シノの金や名声を求めての事かもしれないが。
そんな風に思いつつ、最後は若干グダグダだったが演説を終わるのだった。