「はい、これで最後……って、今度はそっちもか」
見渡す限りの歩兵達を倒したところで、MWが動き出す。
実は俺が歩兵の大部分を倒した時にはもうMWも動こうとしていたのだが。
ただ、それを察した俺は歩兵から極端に離れるような事はしなかった。
そうなると、MWは味方に対する誤射を恐れて迂闊に撃てない。
1発だけなら誤射かもしれないが、あの状況で撃っていれば1発だけではなく数十、あるいは数百の誤射が発生してもおかしくはない。
さすがにそこまでの事は出来なかったらしい。
出来なかったらしいが、こうして歩兵が全員気絶したとなれば話は変わってくる。
というか、今更の話だがMWに乗ってる連中は俺が別に歩兵を殺した訳ではなく気絶させているだけだって知ってるのか?
まさかとは思うが、全員死んでいるとか……そんな風には思ってないよな?
そんな疑問を抱くも、こちらを攻撃しようとしているMWを見れば、楽観的な判断は出来なかった。
MWに付属している銃口をこちらに向けようとしているのを見れば、地面に倒れている気絶した兵士達に当たるかもしれないのだから。
……まぁ、俺がそこまで気にする必要もないか。
出来るだけ殺さないようにしてはいるものの、仲間同士の攻撃で死んだとしたら、それは俺のせいではない。
さすがにそこまでの面倒は見切れなかった。
「っと!」
そんな風に考えている俺に対し、数機のMWがバルカンを放ってくる。
ギャラルホルンのMWは、以前鉄華団が使っていたMWと比べても明らかに大型で、武器も豊富だ。
それこそミサイルや大口径の砲弾を放ったりも出来るのだが……それでもバルカンの類を使ったのは、仲間の被害を恐れたというのもあるが、ここがエドモントンの中だからというのもあるのだろう。
しかも全体会議を行う会場の前。
そのような場所である以上、派手な攻撃を行ったりすれば、それはギャラルホルンの失態となる。
しかも攻撃する相手はMSは勿論、MWにも乗っておらず、生身の状況であるというのが大きい。
……なるほど、そう考えれば生身でこうして出て来たのはそんなに悪くない選択肢だったのかもしれないな。
もっとも、そういう事が出来るのは生身で戦っても問題がないだけの技術や特徴を持っている俺だからこその事かもしれないが。
そんな風に思っていると、真っ先に攻撃の準備が整ったMWが攻撃を仕掛けて来る。
「甘いな」
放たれた弾丸を回避しながら、攻撃をしてきたMWとの距離を詰める。
ただ攻撃するだけで……いや、考えてみればそんなにおかしな事ではないのか?
普通なら生身の相手1人に対して、MWの攻撃であっさりと殺せるのだから。
……あくまでも普通ならの話だが。
俺の危険性を理解しているのなら、それこそMWを使って全機でタイミングを合わせ、逃げ場がない状態で攻撃をするといったくらいはしてもおかしくはなかった筈だ。
だが、俺がここにいた歩兵を全員生身で……しかも無傷で倒したのを見ても、それでもMWならどうにか出来るとでも判断したらしい。
しかし、それは甘すぎる考えだった。
既に俺はMWのすぐ近くまでやって来ている。
ここにいたってMWのパイロット達も俺が普通ではないと判断したのだろうが、その判断は遅い。
そして俺がMWに近付いてしまえば、他のMWが攻撃を躊躇するのはおかしな話ではなかった。
何しろこの状況で攻撃をすれば、仲間のMWに当たるのだから。
ようは先程歩兵でやっていたのと同じ事をやっている訳だ。
近付かれたMWは俺から離れようとする。
俺に恐怖したというのもそうだが、同時に距離を開けて仲間のMWが攻撃出来るようにしたというのもあるのだろう。
だが……逃がすと思うか?
「逃げるなよ」
そう言い、俺から距離を取ろうとしたMWの一部を掴む。
ギュリリリリとMWの車輪が音を鳴らす。
俺に掴まれた事で、その場から移動出来なくなったのだが……さて、このMWのパイロットは、そして周囲にいる他のMWのパイロット達は、状況を十分に理解出来ているだろうか。
もし理解出来ていないのなら、はっきりとどういう事なのかを見せてやろう。
そう思い、腕……というか、手……いや、指の力だけで掴んでいた場所を捻るような動きで、MWを転ばせる。
それがギャラルホルンの兵士達にとっては完全に予想外の動きだったのだろう。
他のMWも一体何が起きたのか理解出来ないといった様子で動きが止まる。
勿論、それはずっと動きが止まっている訳ではなく、数秒から10秒程度だろう。
その時間を無駄にせず、俺はMWのコックピットに続く扉を見つけると……それを毟り取る。
扉の隙間となっている部分に無理矢理指を入れ、指の力で強引に扉を毟り取ったのだ。
こういう指の力を何と言うんだったか。
ピンチ力? ピッチ力? とにかくそういう感じの名称だったと思うが……
「みーつけた」
MWの中にいたパイロットの2人は、扉を毟り取って姿を現した俺がそう言うと、一瞬にして気絶した。
……いや、それは幾らなんでも……まぁ、いいか。
ともあれ、2人乗りだったMWのコックピットからパイロットの2人を引きずり出す。
そしてすぐにMWを空間倉庫に収納し……次に俺が向かったのは、別のMW。
そのMWのパイロットは、俺がMWを空間倉庫に収納するという行為を目にして、あまりの光景に驚き、混乱したのか、MWの銃口をこちらに向けてくる。
おいおい、俺の後ろにはお仲間のパイロットがいるんだぞ?
そんな風に思いつつも、相手を威圧するには丁度いいかと判断し、そのまま撃たせる。
ガガガガガガ、という連続した銃撃音。
だが……放たれた弾丸は、その全てが俺の両手によって止められる。
ジャラララララ、と掌の中にあった弾丸が地面に落ちる音が響く。
目の前の光景が理解出来なかったのか、MWの動きが止まり……その隙を見逃したりはしない。
MWとの間合いを詰め、最初のMWと同じように扉を無理矢理開く。
最初のMWと違うのは、MWを転ばせていないという事か。
「あーそびーましょ」
「ひぃっ!」
1人のパイロットが悲鳴を上げ……あ、もう1人はもう気絶しているな。
既に気絶しているパイロットをコックピットから引きずり出し、悲鳴を上げたパイロットも同時に引きずり出す。
悲鳴を上げたパイロットも、引きずり出そうとした瞬間に気絶したので、面倒はなかった。
にしても、そこまで驚かしているつもりはないんだが。
そう思うが、ギャラルホルンの兵士達にとって目の前で見た光景は信じられないものだったのだろう。
そうして他のMWも同じようにコックピットからパイロットを引きずり出すと気絶させ、MWを空間倉庫に収納する。
既に魔法を使えるというのを全く隠していないが、蒔苗を影のゲートでエドモントンまで連れて来た時点で、それは隠しようがないしな。
どうしても隠そうと思えば、それがまた面倒な事になるのは間違いない。
だからこそ、ここで俺が魔法を使えるというのを見せつける必要があった。
そうすれば、魔法という手段によってシャドウミラーは一種特別な存在となる。
この先、どう行動するにしろ、魔法を使うシャドウミラーというのは敵に回したいとは思わないだろう。
……火星のギャラルホルンの基地でMSや物資が根こそぎ奪われた一件を知れば、余計にそう思う筈だ。
だからこそ、今のこの状況で魔法という存在を見せつける意味は大きい。
もっとも、俺が魔法を使えるという情報が広まれば、何らかの理不尽な事は全て俺のせいになったりもしかねないが。
そうなったら……まぁ、そうなったらそうなったで、こっちも相応の対処をすればいい。
ともあれ、議事堂前にいたギャラルホルンの兵士達は全滅した。
ちなみにコックピットを開けた時、必死に狙撃兵に連絡をしていた奴もいたが……当然ながら、狙撃兵は全員気絶している。
しかも、もし目が覚めたとしても狙撃銃とかは全て回収してるので、どうしようもない。
あ、でも俺がスライムで探索した範囲外に狙撃兵がいれば面倒だったんだが、幸いな事にそういう連中はいなかったらしい。
いれば、俺が狙われた可能性も十分にあるが、それがなかったし。
ギャラルホルンにしてみれば、そこまで念を入れる必要はないと思ったのか。
あるいはもっと単純に、そんな実力の持ち主がいなかったのか。
ギャラルホルンは精鋭というイメージがあるが、実際には必ずしもそういう訳ではないのは、俺も知っている。
何しろこれまで何度もギャラルホルンの兵士達と戦ってきたのだから。
もっとも、それは俺達が強い……というのもあるが、もっと単純にこのオルフェンズ世界においては基本的に国が武力を持っておらず、それを持つのはギャラルホルンだけだからというのがあるのかもしれないが。
勿論、実際には国もある程度の戦力……警察的な意味の戦力は持っていたりするし、海賊を始めとした各種組織も相応の戦力を持っているが。
特にテイワズなんて、エイハブ・リアクターは無理でもMSのフレームは独自開発出来るようになっているし。
エイハブ・リアクターだけなら、俺達のようにテイワズに売る奴もいるだろうから、安定的にではないにしろ、それなりにMSの製造は出来るようになってはいる。
もっとも純粋な性能という意味ではまだそこまで高くないらしいが。
MSの話はともかくとして。
エドモントンにおいて、俺のやるべき事はやった。
後は……島の方がどうなっているのかというのと、エドモントンの周囲に配置されたMSがどうなるか、だな。
特にエドモントンの周囲に配置されているMS隊が街中に入ってきたりしたら面倒だ。
普通ならエイハブ・リアクターによる電子機器の障害の為に街中に入るという事はない。
ないのだが、それはあくまでも普通の場合だ。
イズナリオにしてみれば、代表指名選挙で蒔苗が勝利した場合、それを認める訳にはいかないと判断し、全てをなかった事にするといった手段に出ても驚かない。
グレイズを奪ったシャドウミラーや鉄華団の仕業とするか、ここで俺が魔法を使えるのを逆手にとって俺の仕業にするか。
そこまでは分からないし、もしそうしてもエドモントンの市民を騙せるのかどうかも分からない。
あるいは、いっそエドモントンそのものを消滅……さすがにこれは事態が大きくなりすぎるだろうから無理か。
ともあれ、今の状況ではギャラルホルンが……より正確にはイズナリオがどのように動くか分からない以上、この場を離れる訳にはいかなかった。
出来れば代表指名選挙についての詳細を知りたいところだが……いっそスライムでも出すか?
そうも思ったが、そちらにばかり意識を集中するのは不味い。
それこそ新たに狙撃兵が用意され、遠くから俺を狙うといった事をしかねなかったのだから。
「待つか」
呟くも、ただここで待っているだけというのも暇なのは事実。
なら、取りあえず気絶した連中を一ヶ所に纏めておくか。
そうなれば、何かあった時に面倒も少ないだろうし。
あ、どうせならついでに手足を縛って猿轡もしておいた方がいいな。
代表指名選挙が終わる前に気が付いて、それで騒ぎ出したりしたら、それはそれで面倒だし。
だからこそ、そうなった時の為にしっかりと前もって準備しておくのは重要だった。
そうして気絶した者達を一ヶ所に集め、ロープで手足を縛って猿轡を嵌めていく。
素人が縛ったりしたら、本職なら容易に解いたり、縄抜けをしたりも出来るのだが、生憎と俺は軍人としての経験があるし、何より多くの戦いを経験している。
ちょっとやそっとでは抜け出せないような特殊な縛り方も知っているので、それを使って縛りあげていく。
狙撃兵の方もそれは同様だった。
影のゲートを使ってここまで運び、他の兵士同様に縛っていく。
……ちなみに何人かの兵士は縛っている途中に気が付いたりしたので、その時は再度気絶させておいた。
そうして気が付けば、議事堂の前……正確にはそこから出る時に邪魔にならないような場所に、ギャラルホルンの兵士が大勢縛られて並べられるといった状態になっていた。
何も知らない者がこの光景を見れば、間違いなく大きな騒動となるだろう。
こうして縛られた連中も、ギャラルホルンの恥を晒したという事で出世とかに影響してくるかもしれないが……それについては俺は知らない。
今日この時、ここの護衛をしなければならなかった事を不幸だったと思ってくれ。
そんな風に思いつつ、他に何か異常がないか周囲の状況を警戒する。
だが幸いなことに、今のところ特に何かそれらしい動きはない。
この調子で、エドモントンの周囲に配備されたMSも妙な動きはしないでくれるといいんだが。
イズナリオがどう動くかだよな。
というか、イズナリオは今どこにいるんだ?
もしかして、アンリと一緒にこの議事堂にいたりするのか?
そんな風に思いつつ待っていると……わぁっ、といった歓声が議事堂から聞こえてくるのだった。