転生とらぶる2   作:青竹(移住)

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3986話

 議事堂から聞こえてきた歓声。

 本来なら全体会議を行っている場所は、完全ではないにしろ防音になっている筈だ。

 だというのに、こうして歓声が聞こえてきたのを思えば……代表指名選挙が終わったのだろう。

 だとすると、問題なのは一体誰が代表になったか。

 前もってラスカーから話を聞いている限りでは、代表指名選挙に立候補したのは蒔苗とアンリの2人だけの筈だ。

 そうなると、当然だが代表になったのはその2人のどちらかであり……さて、どっちだろう。

 ラスカーから聞いた前評判によると、アンリの派閥はかなり不利だという話だった。

 それも蒔苗に賄賂のスキャンダルをでっち上げて追い出したのはいいものの、その後でアンリとイズナリオの関係が明らかになったり、あるいは蒔苗がいなくなった事によってその存在の大きさを知ったという者が多かったという事か。

 結果として、蒔苗の方が選挙的には有利な状況だった。

 それでもアンリが勝負を捨てなかったのは、イズナリオの手によって蒔苗が島に閉じ込められていたからだろう。

 幾ら蒔苗が有利であっても、代表指名選挙に蒔苗本人がいなければ意味がない。

 そうなればアンリが自動的に勝利し、代表となる訳で……それこそがアンリの狙いだったのだろう。

 だが、蒔苗は俺の影のゲートによってあっさりと議事堂に現れ、代表指名選挙に立候補した。

 ……そう考えれば、やはり勝利したのは蒔苗と思うべきだろう。

 そうだな。ちょっとこの場を離れて様子を見てくるか

 とはいえ、この場に誰もいないのはいざギャラルホルンが攻めてきた時に不味い訳で。

 狛治でも召喚するか?

 そう思ったが、俺が魔法を使えるとはいえ明らかに人ではない存在がいるのを誰かに見られると、それはそれで問題になる。

 となると……パチン、と指を鳴らして右手を白炎にして炎獣を生み出す。

 犬の炎獣。

 ただしその大きさはかなりの大きさだ。

 

「ここにいろ。誰か来たら……ああ、いや。誰かが攻めてきたら迎撃しろ。ただし、それ以外の人物が姿を現したら隠れろ」

 

 そう言うと炎獣が頷くのを確認してから、俺は議事堂の中に入る。

 歓声の聞こえる方……全体会議を行っている会議場に向かう。

 扉の前には警備員の姿があり、俺を見ると訝しげな視線を向けてくる。

 ちなみに議員以外にもその秘書であったり、報道関係なのだろう者達も集まっているが、そのような者達も俺に訝しげな視線を向けてきた。

 ……議事堂の前で結構派手に戦ったんだが、警備員やマスコミは何でその様子を見に来なかったんだ?

 そう思ったが、恐らくアンリ……より正確にはイズナリオの指示を受けたアンリによって、何らかの騒動が起きても外に出ないように言われていたのかもしれないな。

 前情報では蒔苗が来る事が出来ない以上はアンリが圧倒的に有利だったのだから、そういう意味ではアンリの忠告――実質的な警告――には従うしかなかったとしてもおかしくはない。

 また、ラスカーからも同じように言われていた可能性は十分にあった。

 ラスカーも俺の行動の邪魔をしようとは思わないだろう。

 もし邪魔をすれば、それこそ蒔苗にとって不利な状況になってもおかしくはないのだから。

 そんな諸々の事情もあり、議事堂の外にマスコミとかが姿を現すという事はなかった。

 ……もっとも、マスコミというのは少しでも自分達が独占してニュースを流したいと思う者がいる。

 そう考えると、本当に誰も姿を現さなかったのかというのは……少し疑問ではある。

 とはいえ。もしマスコミの中の誰かが議事堂の表にやって来るような事があれば、その時はその時で俺に気配で察知されていた筈だ。

 そういうのがなかったのだから、本当にそういう事がなかったのは間違いない。

 アンリやラスカーの忠告の件を考えたとしても、少し不自然ではあるが。

 まぁ、その件については気にせず、近くにいたマスコミの1人に声を掛ける。

 

「ちょっといいか?」

「え? 俺か? いや、それは構わないけど……あんたは一体?」

 

 その言葉に、会議場の扉の前にいる警備員達も視線を向けてくる。

 俺が何と言おうとしているのか、気になっているのだろう。

 ここで俺が迂闊な返事をした場合、それこそ警備員は俺を捕らえようと動く可能性も否定は出来なかった。

 

「とある議員の知り合いだよ。それよりも、代表指名選挙がどうなったのか……いや、聞かなくてもいいな」

 

 最後まで聞くよりも前に、会議場の扉が開いて顔を真っ赤にした女が出てくる。

 そのすぐ後ろからは、取り巻きと思しき者達。

 あの女が誰なのかは、前もって蒔苗やラスカーに聞いてるので知っている。

 あれが、アンリだ。

 蒔苗と代表指名選挙を行い、負けたのだろう。

 もし勝っていれば、ああして顔を真っ赤にし不満全開といった様子は見せないだろうし。

 そんなアンリの周囲にはすぐに多くのマスコミが集まっていく。

 俺と話していた男も、俺を放っておいてアンリに向かっていった。

 今更の話ではあるが、俺からしっかりとインタビューをした方が、恐らく価値はあっただろうに。

 とはいえ、それはあくまでも俺が自分の事を知っているからこそ、そう思うのだ。

 さっきの男にしてみれば、俺は不審者でしかないだろう。

 だからこそ、俺から詳しい話を聞くよりも、アンリから色々と情報を手に入れた方がいと判断するのはそうおかしな話ではない。

 そんな訳で、アンリに人が集まったのを見ていると……

 

「お、おい。あれ……蒔苗氏じゃないか!?」

 

 マスコミの1人が、思わずといった様子でそう言う声が聞こえてきた。

 その言葉が聞こえたのだろう。

 アンリの周囲に集まっていたマスコミが、即座に蒔苗に向かって駆け寄る。

 一瞬にして見捨てられた――という表現が正しいのかどうかは分からないが――アンリは、先程よりも顔を真っ赤にし、足早にこの場を立ち去る。

 そんなアンリを慌てて追う取り巻き達。

 アンリにしてみれば、自分が負けた代表指名選挙についてインタビューされるのは面白くなかったのだろう。

 かといって、自分に群がっていたマスコミ達が蒔苗を見つけた瞬間にそっちに行くというのも、自分と蒔苗の存在感の大きさを見せつけられるようで面白くないといったところか。

 

「蒔苗先生、一体どうしてここにいるのですか?」

「蒔苗さんは現在オセアニア連邦に亡命していた筈では!?」

 

 そんなやり取りが聞こえてくる。

 

「ふぉふぉふぉ。儂の冤罪が晴れたという事じゃよ」

 

 慣れた様子で蒔苗が言う。

 そんな蒔苗の様子に、マスコミ達は急いでシャッターを切る。

 インタビューをしている者達にしてみれば、とにかく写真を撮っておく必要があると判断したのだろう。

 

「なるほど、それで代表指名選挙についてですが……」

 

 マスコミの1人が本題に入る。

 先程のアンリの様子を見れば……そして蒔苗がここにいるのを思えば、どちらが勝ったのかは明らかだろう。

 それでも蒔苗の口からしっかりと答えが出るまで、それはあくまでも予想でしかない。

 だからこそ、今ここではっきりと蒔苗に自分の勝利を宣言して欲しかったのだろう。

 

「うむ、儂が代表指名選挙で勝利をした。彼女の応援もあってな」

 

 そう言い、蒔苗が前に出したのは……クーデリア。

 

「えっと……その、彼女は一体?」

 

 蒔苗にインタビューをしていた男が、いきなり紹介されたクーデリアを見て戸惑った様子を見せる。

 ……それでいながら、クーデリアの美貌に見惚れているのは、男である以上仕方がないのかもしれないな

 というか、マスコミ関係なのにクーデリアについて知らないのはどうなんだ?

 火星について知らないのは仕方がない。

 だが、ドルトコロニーでの一件は地球でも知ろうと思えば知る事が出来た筈だ。

 その情報を入手していれば、クーデリアについて知っていてもおかしくはないのだが。

 

「おや、知らぬのか。勉強不足じゃな。儂が以前から交渉をしていた相手だというのに。火星で改革の乙女、ジャンヌ・ダルクの生まれ変わりと言われておるクーデリア嬢じゃ」

 

 そうか、その件もあったな。

 ドルトコロニーの件を知らなくても、蒔苗が以前から火星にいたクーデリアと交渉を……正確には交渉をする為の前交渉とも言うべき事をしていたのは間違いない。

 蒔苗の性格を考えれば、この件について情報公開をしていてもおかしくなかった筈だ。

 あるいは情報公開をしていても、クーデリアについての情報……顔とかそういうのを知る事は出来なかったとか、そういう感じか?

 それでも名前を言われれば、クーデリアが誰なのか分からなくてもおかしくはないと思うが。

 

「そ、そうなのですか。そのような……」

 

 蒔苗と言葉を交わしていた男が驚きに何と言えばいいのか分からなくなり、同時にそれは他の面々にも話が伝わる。

 アーブラウのマスコミ、大丈夫なのか?

 一瞬そう思ったものの、考えてみればマスコミというのはそんな感じだったな。

 ともあれ、マスコミ達にとって蒔苗やラスカー、それにクーデリアといった面々はかなり興味深いらしく、暫くはインタビューが続けられる。

 

「アクセル様、こちらにいても構わないのですか?」

 

 そうしてインタビューの光景を見ていた俺に、フミタンが近付いて来てそう言ってくる。

 ちなみにそんなフミタンに視線を向けるマスコミの面々もいたが、今は視線を向けるだけだ。

 フミタンに視線を向ける者は、男が多い。

 ……フミタンは服の上から見ても分かるような、女らしい身体をしてるしな。

 クーデリアも年齢以上に女らしい身体をしているが、女としての成熟度という点で考えれば、どうしてもフミタンに劣ってしまう。

 そんなフミタンの言葉に、そう言えば……と思い出す。

 

「そうだった。俺はちょっとこっちの様子を見に来ただけだ。一応議事堂の前にいるギャラルホルンの兵士達は気絶させておいたから、蒔苗が代表指名選挙で勝利しても攻撃してきたりとかはしないと思う。……マスコミがいる前でそういうのは出来ないだろうけど」

 

 マスコミの中には生放送をする者もいるだろう。

 録画とかなら、ギャラルホルンとしての権力で対処出来るかもしれないが、生放送ではどうしようもない。

 とはいえ、それはつまり炎獣の存在を生放送されたりしたら困る訳でもある。

 ここまで大々的に魔法を使った以上、俺も別に魔法の存在を隠そうとは思わない。

 だが、隠そうとしないからといって、誰にでも教えてもいい訳ではない。

 最善なのはやはり俺が魔法を使えると誰も知らない事だが、それは既に無理だ。

 そうなると、次点としては俺の魔法を知っているのは限られた者だけという事になる。

 だからこそ、ここでは決して炎獣について知られる訳にはいかなかった。

 

「じゃあ、そんな訳で、ちょっと……」

「ぎゃあああああああああああっ!」

 

 行ってくる。

 そう言おうとした俺の言葉を遮るかのように、悲鳴が周囲に響き渡る。

 ちっ、しくじったな。

 パチンと指を鳴らして炎獣を消す。

 蒔苗が来た事によって、注目を失ったアンリ。

 そのアンリは取り巻きを連れて議事堂から出たのだろう。

 ……まさか、こうも堂々と正面から出るとは思わなかった。

 勝つ気というか、不戦勝する気満々だった代表指名選挙で負けて、マスコミからは蒔苗が出て来た瞬間にスルーされたアンリだ。

 今の自分を他の者に見られたくないと思えば、堂々と正面から出ていく事はないと思っていたのだが。

 だが、そんな俺の予想は外れ、堂々と正面から出ていき……結果として、俺が用意してきた犬の炎獣、それもかなり大きめの犬の炎獣と遭遇したらしい。

 その炎獣は既に消したので、幻だったと思って貰えないだろうか。

 

「おい、何だ今の声は!」

 

 マスコミの1人がそう叫びながら声の聞こえてきた方に向かって走り出す。

 あー……やっぱりそうなるよな。

 マスコミにしてみれば、何らかの騒動があったと思えばそっちに向かうのは当然の話だろう。

 そして1人が走れば他の者も遅れないように追う。

 そうして気が付けば、半分以上のマスコミがこの場から姿を消していた。

 ……それでもある程度ここに残ったのは、蒔苗から話を聞きたいと思っての行動だったのだろう。

 

「アクセル」

「お、そっちはもういいのか?」

「はい。元々今日の主役は私ではありませんから」

 

 クーデリアが俺の近くに寄ってきてそう言う。

 ここに残ったマスコミの何人かは、そんなクーデリアを見て、そしてフミタンを見て、最後に俺に嫉妬の視線を向ける者もいる。

 そもそもの話、俺はクーデリアとはそういう関係になったが、フミタンとは別にそういう関係ではない。

 フミタンにとって、俺はあくまでも仕える主人の恋人というだけだ。

 まぁ、その辺りの事情を知らない者にしてみれば、俺がクーデリアとフミタンを侍らせているといったように見えるのかもしれないが。

 ともあれ、そのような視線についてはスルーし、俺は蒔苗に対するインタビューが終わるのを待つのだった。

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