「これは、また……少しやりすぎじゃろう」
蒔苗の呆れた声が俺の耳に入ってくる。
現在俺達がいるのは、議事堂の前。
蒔苗に対するインタビューが終わると、蒔苗に声を掛けられてここに来た訳だが……その結果が、これだった。
蒔苗が見ているのは、腰を抜かして騒いでいるアンリや、その周囲にいる取り巻き……ではなく、少し離れた場所に手足を縛られ、猿轡までされて転がっているギャラルホルンの兵士達だろう。
本来なら、ここで護衛をしていた者達。
その兵士達が纏めてこのような状況になっているのだから、やりすぎと言われてもおかしくはない。とはいえ……
「そう言ってもな。蒔苗が代表指名選挙で勝利した以上、イズナリオが蒔苗の暗殺とかそういう行動に出てもおかしくはないと思わないか?」
「……ふむ。その可能性がないとは言えんのう」
「だろう? なら、これについては受け入れてくれ」
「別に受け入れんとは言っておらん。ただ、見たところ少しやりすぎじゃとは思ったが」
それが受け入れてないという証なんだが。
まぁ、その件についてはともかくとして、今は蒔苗をどこかに隠すのを優先した方がいいか。
「それで、これからの予定についてはどうなっている? エドモントンの周囲にいるMSが蒔苗を殺そうとして近づいてくるかもしれないが」
「アクセルの不安については分からんでもないが、今の儂は既にアーブラウの代表じゃ、そうである以上、既に色々とやるべき事がある。それこそ、代表として動けばギャラルホルンの暗殺も前もって阻止出来るじゃろう」
それは甘くないか?
俺にとってはそう思うのだが、どうやら本人にしてみれば必ずしもそういう訳ではないらしい。
「本当に大丈夫なんだろうな? この状況でお前が死んだら、洒落にならないぞ?」
これは蒔苗を心配しているというのもあるが、それ以上にハーフメタルの件で交渉した内容が本当に実行されるのかというのが、大きな問題となる。
「儂も死ぬつもりはないから、心配せんでも構わんよ。それより、アクセルは島に戻った方がいいのではないか? 島がギャラルホルンによって襲撃されておるかもしれんのじゃろう?」
「……分かった。じゃあ……」
パチンと指を鳴らし、右手を白炎にして炎獣を生み出す。
ただし、先程の犬の炎獣のような大きさではなく、リスの炎獣だ。大きさも普通のリスと変わらない。
「これは?」
「炎獣だ。こんな見た目でも、兵士の数人くらいなら倒せるだけの実力を持っている。お前の護衛だよ」
炎獣を護衛にするというのは、今までもそれなりにやってきたので、それなりに安心感はある。
X世界でティファの護衛として炎獣を作った奴とか。
とはいえ、これはあくまでも敵が姿を現した時とかでないと意味はない。
例えば、MSで遠くから銃撃するとか。
蒔苗個人を狙うのではなく、蒔苗のいる場所を纏めて攻撃するといったような感じの時とか。
「ふむ、分かった。ありがたく受け取っておこう」
「そうしてくれ。取りあえずある程度時間を掛ければ、蒔苗が狙われるといったことはなくなるだろうし」
まだ島の方は終わっていないが、今回の本命とも言うべきアーブラウの一件は、失敗に終わった。
それこそ島に戦力を差し向けたのもそうだが、イズナリオが自分の欲望の為にギャラルホルンという戦力を使ったのは間違いない。
腐敗しているギャラルホルンだが、その辺りを込みで考えてこれはちょっとやりすぎだろう。
そしてマクギリスは、ギャラルホルンの改革、あるいは革命を企んでいる。
それはつまり、義父が起こしたこの騒動について見逃すような事は出来ない。
……というか、見逃すどころか寧ろ嬉々としてイズナリオを断罪するだろう。
それが実際に公にして罪を償わせるのか、それともファリド家当主の座から強制的に引退させて、マクギリスがファリド家の当主になるのか。
その辺りは俺にも分からないが、それでもイズナリオが失脚するのは確実だろう。
そしてイズナリオが失脚すれば、蒔苗が狙われる心配もなくなる。
あくまでもこれは上手くいけばの話だが。
この場合、マクギリスがどこまで素早く動くかに掛かっているだろう。
あるいは、イズナリオが自分の失態にいついてどうしようとするか。
今回の一件を隠すのなら、イズナリオは蒔苗ではなく、それこそアンリを消すという道を選ぶかもしれない。
もしくは、今回の一件が失敗した怒りを晴らそうとすれば、俺が予想した通り蒔苗を攻撃しようとするかもしれない。
その辺りが一体どうなるのか……
ともあれ、一般的な暗殺者……兵士とか、もしくはギャングやテロリストを雇うのかもしれないが、ともあれそういう者達が相手なら、炎獣がいればある程度はどうにかなるだろう。
「じゃあ、俺は行くけど……クーデリアとフミタンはどうする?」
「私も一緒に行きます。本来であれば、こちらに残った方がよろしいのでしょうが……」
「構わんよ。……いや、既に他の議員やマスコミはお主の正体を知っている。そうなると、ここに残ると面倒な事になるじゃろうて」
そう言う蒔苗だったが、火星の現状を訴えようとするクーデリアにしてみれば、アーブラウのマスコミの取材を受けるというのは決して悪くない話だ。
蒔苗と友好的な関係にあるので、意図的な偏向報道とかは……まぁ、ギャラルホルンの介入とか、アンリと親しいマスコミならそういう事をする可能性もあるだろうが。
「分かった。じゃあ、行くか。取りあえずここで影のゲートを使うのは問題だから、どこか人目のない場所に移動する。……蒔苗、今日の夜にまたここに来る」
「うむ。儂も今日は色々と忙しいじゃろうが、夜になればある程度は落ち着くじゃろう。それで構わんよ」
そうして言葉を交わし、俺はクーデリアとフミタンを連れて誰もいない場所に移動するのだった。
「やっぱりか」
「これは……」
「凄いですね」
島に影のゲートで戻ってくると、予想通り戦闘が行われていた。
ただし、俺のいる場所から見た限りだけだが、戦局はこちら側が圧倒的に有利だ。
ギャラルホルン側の被害はかなり大きい。
……以前1度この島に攻撃を仕掛けて来た時、ギャラルホルンは結構な被害を出したと思うんだが。
俺のいる海岸に来たMSは島に到着する前に撃ち落とされたし、他の海岸線でもギャラルホルン側は結構な被害を受けていた。
それでいながらこっちの被害は……死人は0で、一番重症なのがビスケットの腕の骨折。
前回の戦いはこっちの完勝なのは間違いなかった。
なのに、また同じような戦力で攻めてくるというのは……どうなんだ?
やっぱり前回の襲撃はイズナリオに無断で攻撃をしてきたのか?
その為、イズナリオにはこの島の戦力についての情報が届いておらず、前回と同じ規模の戦力になったとか。
いや、けどな。
イズナリオは分からなくても、こうして実際に戦っている者達……特に指揮を執っているのだろう軍艦の艦長達は、こっちの実力を十分に理解している筈だ。
なのに、こうして同じような戦力を出してくるというのは……一体何がどうなってそうなったんだ?
まぁ、そういうものだと納得するしかないのかもしれないが。
あるいは何かもっと別の理由があるとか?
ともあれ、今はまず島全体の戦況を把握した方がいいか。
「俺はちょっと島全体の戦況を確認する。クーデリア達はどうする?」
「私達は……フミタン、どうしたらいいかしら?」
「どこかに隠れているのがいいでしょうが、こうも島全体で戦いが起こっているとなると、流れ弾の可能性があります」
「分かった。なら、護衛を残す」
そう言い、俺は指を鳴らして右手を白炎にし、炎獣を生み出す。
炎獣を護衛とするのは、蒔苗と同じだ。
ただし、エドモントンの議事堂で行動する蒔苗と違い、この島では派手に動いても構わない。
そんな訳で、生み出された炎獣の数は二十匹。
それも蒔苗の護衛に残してきたリスのような小型ではなく、獅子や虎、狼、サイ……他にも多数の大型の炎獣がいた。
中にはペガサスやユニコーン、グリフォンといった、いわゆるファンタジーに出てくる存在もいる。
もし流れ弾で砲弾とかが飛んできても、これだけの炎獣がいれば対処可能だろう。
「これは……アクセル、少しやりすぎでは?」
大量の炎獣に、クーデリアが呆れた様子でそう言ってくる。
「そうか? 蒔苗の時とは違って目立っても特に問題はないだろう。それに、蒔苗の件がようやく終わったんだ。こんなところで流れ弾とかを受けて死んだり怪我をするのは避けたい」
俺の口から出た言葉に、クーデリアが薄らと頬を赤くする。
いや、別に今ので照れるようなところがあったか?
そう思うも、それを口にするような事はしない。
もしここでそのような事を言えば、恐らく……いや、間違いなくクーデリアは俺に向かって照れ隠しに何かやってくるだろうと思った為だ。
だからこそ、今はその事は放っておく。
「じゃあ、俺はちょっと戦況を見てくるから、炎獣と一緒に避難していてくれ」
「分かりました。気を付けて下さい」
「お気を付けて」
クーデリアとフミタンからそれぞれそう言われ、頷くとそのまま空中に浮き上がっていく。
やがて島の上空500m程まで上がると、島の様子をしっかりと確認出来るようになった。
こうして空中にいる俺を見つければ、それこそギャラルホルンが攻撃をしてきてもおかしくはないんだが、そういう事はない。
戦闘に夢中でそれどころではないのか?
そんな風に思いながら島の様子を見ると……
「うわ、マジか」
蒔苗の屋敷が、完全に破壊されていた。
それこそ無事な部分がどこにもないくらいに。
多分だが、これはMSの攻撃ではなく軍艦の艦砲射撃なんだろう。
MSでも出来ない事はないが、それでもここまで完全に破壊するとなるとそれなりに労力が必要だし。
何よりも、見た感じではまだギャラルホルンのMSは海岸線で足止めを食らっている。
そうなると遠距離攻撃をするのも難しいだろう。
というか、遠距離攻撃をしている間にシャドウミラーや鉄華団、タービンズの面々によって潰されてしまうだろう。
タービンズはラフタとアジーの2人だけだが、操縦技術は非常に高い。
それこそ今この島で戦っている者達の中で上位に位置する。
阿頼耶識を使っている者達が込みでそれなのだから、やっぱり操縦技術は高いよな。
ともあれ……さて、どうしたものか。
こうして見た感じだと、戦闘そのものはこっちが圧倒的に有利なんだよな。
となると、わざわざ手を出す必要はない。
勿論、危なければ手を出してもいいが……見た感じ、そういうのはない。
どん、どん、どん、と。
そんな音が響き、再び蒔苗の屋敷に軍艦からの砲弾が着弾する。
軍艦からでは、蒔苗の屋敷がまだ破壊されたのかどうか分からないのか?
いや、それこそ偵察機なりなんなり、あるいは宇宙から衛星で確認すれば、その辺は分かる筈だ。
そういうのがないという事は……考えられるのは、全てを分かった上で、MS隊の援護として行っている感じか?
MSは既に近接戦闘が行われているので、援護射撃をすれば味方に命中する可能性がある。
その為、蒔苗の屋敷に攻撃して牽制しているとか。
……ともあれ、島を囲んでいる軍艦は邪魔だな。
島で行われているMS戦については、俺がわざわざちょっかいを出す必要はない。
なら、島を包囲している軍艦を撃破するか。
とはいえ、俺が生身でそういう戦闘力を持っているというのを知られるのは不味い。
なら、サラマンダーか?
いや、サラマンダーはアリアンロッド艦隊との件で目立ちすぎた。
グシオンは空を飛べないし、ニーズヘッグは俺の呪いで使えない。
となると、残っているのはミロンガ改だけか。
幸いなことに、軍艦であっても宇宙船ではなく海で使う軍艦の為か、ナノラミネートアーマーではないらしいし。
それにミロンガ改はサラマンダーのように変形したりしないから、普通にMSと判断されるだろう。
……かなり華奢な作りになっているので、どういうMSだ? と思われそうではあるが。
とはいえ、MSの中にはそういうのもあってもいいだろう。
もっとも、エイハブ・リアクターの周波数を調べられると、ミロンガ改がエイハブ・リアクターを動力源にしてる訳ではないというのは容易に察知されてしまうが。
そうなると、サラマンダーでもアリアンロッド艦隊にその件については恐らく知られているだろうし、関係性を疑われるのは間違いない。
間違いないが、今回の一件が片付けばマクギリスも動くだろうし、アーブラウもこっちに味方をしてくれる筈だ。
他の国がどう動くのかは分からないが。
ともあれ、そのような状況になるだろうし、サラマンダーやミロンガ改について色々と調べるのにも時間は掛かる筈だ。
なら、ある程度の時間がある。
その猶予時間のうちに解呪が出来ればいいんだが。
そうなれば、ギャラルホルンを真っ向から敵に回しても対処は出来るし。
そんな風に思いつつ、俺は地上に……蒔苗の屋敷の跡地に下りていくのだった。