ミロンガ改で島に戻ってくると、既に戦闘は終わっていた。
その事に安堵しつつ、まずはクーデリア達を置いてきた場所に向かう。
するとそこには特に何か戦いの被害を受けた様子がないクーデリアとフミタン、そして多数の炎獣の姿があった。
その事に安堵しつつ、俺はミロンガ改のコックピットから下りる。
「アクセル! 無事ですよね!?」
地上に着地した俺に、クーデリアが走って近づき……そのまま飛び付いてくる。
そんなクーデリアを受け止めると、柔らかな感触とクーデリアの甘い体臭が鼻をくすぐる。
数秒、クーデリアの感触を楽しむと、その両肩を軽く叩いて問題ないと態度で示す。
「見ての通り、全く問題はない。戦いも終わった」
クーデリアに説明しつつ、そういえば通信機とかを持たせてなかったなと思い出す。
通信機の類があれば、先程俺がミロンガ改で行ったオープンチャンネルでの通信を聞けたのだろうが。
そういうのがないまま、エドモントンから直接島に戻ってきたしな。
だからこそ、余計にクーデリアは俺が心配だったのだろう。
……こう言うのも何だが、俺はクーデリアにとって初めての恋人らしいし。
クーデリアは上流階級の出身で、美人と呼ぶに相応しい顔立ちをしていて、身体付きも年齢以上に女らしい。
そんなクーデリアだ。
小学校はまだ男に恋愛感情とかないだろうし、中学生は思春期でそういうのが照れ臭くても、高校生や大学生なら男に言い寄られてもおかしくはない。
もっとも、火星の学校教育が俺の知ってるようなのと一緒なのかどうかは、正直なところ分からなかったが。
何しろオルフェンズ世界は色々な点で俺の常識を越えてくるし。
まさか普通に一夫多妻制が認められているとは思わなかったし、蒔苗のように長生きする技術があるというのも予想外だった。
とはいえ、それはつまりシャドウミラーの国是的に美味しい世界であるという事を意味しているのだが。
「本当ですか?」
「本当です、お嬢様。先程から戦闘音が聞こえてきません」
いつものように冷静にフミタンが言う。
ああ、なるほど。クーデリアが男に言い寄られなかったのは、あるいはフミタンがそれを阻止していたのかもしれないな。
あるいはもっと単純に、クーデリアとフミタンが一緒にいると男が近付きにくかったか。
美人が1人でいると口説こうと思うかもしれないが、それが2人になるといきなり近付きにくくなる。
勿論それでも普通なら強引に口説こうとする者がいるかもしれないが、フミタンは明らかにクーデリアよりも年上だし、そういう意味で近付きにくいのかもしれない。
まぁ、この辺はあくまでも俺の予想でしかないのだが。
「島の周囲にいた軍艦を全て撃破……撃沈した。そうなれば、MSは母艦がなくなったから、頑張っても最終的には負けるのが確定している」
この島は蒔苗が亡命先として選んだだけあり、近くに他の島はない。
MSだけでは、この島から脱出出来ないのだ。
救援要請をしたりすれば話は別だが、それでも救援が来るまでの間、生き残っていられるかどうかは別問題だろう。
そう考えれば、降伏勧告に従った方が生き残る可能性は高い。
……もっとも、アインやクランクから話を聞いた限りだと、ギャラルホルンの中には火星の人間に差別意識を持っている者が多いらしい。
相応の裕福な家の出なのだろうアインですら、差別の対象なのだ。
スラム街出身やヒューマンデブリ、元海賊……そんな面々に、そのような者達がどう思うのかは考えるまでもないだろう。
そうした者達が降伏するのはプライド的に許せないと考え、最後まで戦い続けるという可能性は十分にあった
……それでいながら、実際に本当の命の危機になったりした場合は即座に降伏してくるんだよな。
「そうですか。よかった……アトラさんやメリビットさんも無事なんですね」
安堵した様子で言うクーデリア。
そういえば、アトラやメリビットと仲良くなっていたか。
アトラに対しては、同じ年頃の女というのがあったり、何だかアトラの恋愛相談に乗ったりもしているらしい。……もっとも、クーデリアも恋愛経験はないらしいが。
いやまぁ、今では俺の恋人の1人になっているので、そういう意味では恋愛経験があるのだろうが。
それに……クーデリアからの話を聞く限りだと、それなりに前から俺の事が好きだったらしいし。
それならアトラと恋愛関係について話したりも出来るのかもしれないな。
メリビットとは、アトラと違って実務的な話をしているらしいが。
そんな訳で、クーデリアとしては戦いが起こったこの島の中で2人が無事かどうか心配だったのだろう。
一応避難はしている筈だから、大丈夫だとは思うが。
ちなみに当然ながら、避難をしている場所は破壊された蒔苗の屋敷ではない。
あそこは露骨に攻撃目標になるだろうと予想出来ていたしな。
そして実際、こうして攻撃目標になった訳だし。
そんな訳で、その判断は間違いなく正解だった訳だ。
「だろうな。まだ確認した訳じゃないが、見た感じだと海岸でそれぞれMS戦が起きていたようだったが、ギャラルホルンのMS隊に対して優勢だったし。それ以外に島で破壊されていたのは蒔苗の屋敷だけだった。なら、隠れているアトラやメリビット、ビスケット、他にもメカニックの面々は無事な筈だ」
「屋敷が……では、ギャラルホルンは、蒔苗先生を殺すつもりだったのでしょうか?」
「だろうな。代表指名選挙が始まったんだから、もう見張っておく必要がないとでも考えたのか、もしくはそれ以外に何か殺す理由があったのかは分からないが」
マクギリスから聞いたイズナリオの性格を考えると、もう必要がないから殺してもいいというような気もする。
ただ、エドモントンで蒔苗が姿を見せたのを知ったから、もうこれ以上島を封鎖する必要はないと判断した可能性もある。
その場合は蒔苗に組みする者達がいるので、それらを排除する為に攻撃の指示を出したとか。
理由はともあれ、前回の島の攻撃と今回の島の攻撃でギャラルホルンが受けた被害は結構なものだ。
特に今回は軍艦も8隻失っている。
これイズナリオにとって、ちょっと洒落にならないくらいの失態だろう。
他のセブンスターズが責めるのは間違いないだろうし、アンリの一件でマクギリスも動く筈だ。
ギャラルホルンの改革や革命をするというのなら、この状況で動かないという選択肢はないだろう。
もし動かなかったら、その時はマクギリスの行動を怪しむべきだ。
「そうですか。……アクセルのお陰で色々と助かりましたね」
「今回の一件は、火星にも色々と影響してくるしな。そうなると、火星に拠点のある俺達にとっても悪くない事だし。それに一番大きいのはハーフメタルの件だ。それも俺達にとっては大きな意味を持つ」
今回、シャドウミラーがクーデリアに協力し報酬として、上手くいった場合はハーフメタルの利権を貰う事になっている。
ハーフメタルの利権は、このオルフェンズ世界で活動する上で非常に大きいし、何よりもオルフェンズ世界特有の物質だけに、ゲートが繋がった後でも大きな意味を持つ。
何しろその世界特有の物質というのは、ホワイトスターにあるキブツでも作る事が出来ないのだから。
それを残念には思うものの、そのお陰で積極的に未知の世界に行ってるのも事実だから、そうである以上、それはそれで仕方がないとは思うんだが。
「ともあれ、まずはアトラやメリビット、それに雪之丞を始めとしたメカニック達と合流しよう。そうすれば、お互いに色々と事情を説明したり出来るだろうし」
幸いなのは、既に戦闘が終わっている事だろう。
……もしかしたら中にはまだ俺の降伏勧告を聞いた上でも戦おうとする者がいるかもしれないが、その時はその時だ。
殺してしまえばそれでいい。
もしそのような者達が襲ってきても、炎獣がいれば俺がいなくてもある程度はどうにかなるだろうし。
「そうですね。では、早速行きましょう」
クーデリアもアトラやメリビットの事が心配なのか、俺の言葉に勢いよく頷く。
そんな訳で俺とクーデリアとフミタンは、ミロンガ改を空間倉庫に収納した後で炎獣に囲まれたままで移動を始める。
とはいえ、避難場所……いや、後方部隊のいる場所は前もって決めてあるので、俺達は特に迷う事なくそちらに向かい……
「おう、アクセル。無事だったか」
雪之丞が俺達の姿に気が付くと、そう言ってくる。
既に戦闘が終わったという事で、何機ものMSが戻ってきており、雪之丞はMSの補給や整備を指示していたのだが、そんな忙しい中でも雪之丞は俺達の姿に気が付いたのだ。
……まぁ、炎獣を連れているしな。
どうしても目立つ。
実際、雪之丞は炎獣に驚きの視線を向けてはいるが、それ以上に鉄華団のメカニックとして働いている子供達が興味津々といった様子で炎獣を見ている。
子供達にしてみれば、炎獣という存在は非常に珍しいのだろう。
あるいはこれで、炎獣が凶悪そうな様子を見せていれば子供達も怖がって炎獣に興味を示したりはしなかっただろうが。
しかし炎獣は、俺が生みだした存在だ。
そんな炎獣が、鉄華団の子供達に襲い掛かるといった事はない。
「おら、まずはMSの補給と整備だ! アクセル達が気になるのは分かるが、全部終わってからにしろ!」
雪之丞が子供達にそう怒鳴りつける。
その怒鳴り声に、子供達は慌てて仕事に戻っていく。
そんな様子を見た雪之丞は、俺に向かって申し訳なさそうに頭を下げてくる。
「悪いな、アクセル」
「いや、気にするな。炎獣を珍しがるのは、そうおかしな話じゃない。……それに、戦いはもう終わったと思っていい。補給や整備はする必要はあるが、そこまで急ぐ必要はない」
戦っている者達が戻ってくるので、補給や整備を滞らせる訳にはいかない。
「分かってるよ。……っと、話していれば何とやらだ」
雪之丞の視線の先には、こちらに向かって歩いてくるバルバトスやグレイズの姿がある。
バルバトスに乗ってるのは勿論三日月だ。
さすがと言うべきか、MSの損傷らしい損傷はない。
どうやらこの戦いは無傷で潜り抜けたらしい。
……上空から見た感じ、エースらしいMSもいなかったようだし。
この場合のエースというのは、特別なMSに乗っている存在だ。
例えば、ガンダム・フレームとか。
もしくはシュヴァルベ・グレイズとか。
そういうのに乗っている者は、当然ながらエース級と認識してもおかしくはない。
もっとも、シュヴァルベ・グレイズに乗っていたアインはそれなりに腕は立つが、エースと呼ぶ程ではなかった。
まぁ、俺の認識以外でも、普通にMS隊の中で一番強いパイロットがエースという風に認識されていたりするのだが。
そんな事を考えていると、MWが1機こっちにやって来る。
当然ながらギャラルホルンのMWではない。
……いや、実際にはギャラルホルンから俺が奪ったMWなので、そういう意味ではギャラルホルンのMWと表現してもいいのかもしれないが。
「兄貴!」
MWから姿を現したのは、オルガ。
嬉しそうな様子でこっちに走ってくる。
それはいいのだが、島での戦闘の指揮を執っているオルガが、それを放り出して俺に会いに来てもいいのか?
もしかしたらこちらの降伏勧告に全員が素直に従ったのかもしれないが。
「オルガ、無事だったようだな」
「はい。色々と危なかったりもしましたが、ミカを始めとした他の皆が頑張ってくれたおかげで、怪我人はいますが死人はいません」
「そうか。それは最高の結果だったようで何より」
死人が1人も出ていないというのは、MSが大量にあったお陰というのもあるのだろう。
MWは小型だが、その分どうしても防御力も低い。
ナノラミネートアーマーを使えれば防御力もそれなりに向上するのだろうが、ナノラミネートアーマーはエイハブ・リアクターとセットで運用するのが基本だ。
そうである以上、どうしてもMWに乗っている者は死にやすい。
だが、今の鉄華団には俺がギャラルホルンから入手したMS……しかも最新鋭の量産型MSであるグレイズがかなりある。
そしてMWに使われている阿頼耶識対応のコックピットに換装すれば、グレイズをすぐに戦力化出来る。
……もっとも、敵もまたグレイズを使っているので、戦場にはグレイズだけとなってしまうのは正直どうかと思うが。
特に敵味方の判別において、間違ってしまう事も十分にある。
とはいえ、それでもライフル弾とかが命中しても、ナノラミネートアーマーのお陰で撃破まではされないのだが。
これ……俺がいない原作だったら、どうなっていたんだろうな。
そもそも蒔苗をエドモントンまで連れていくのに影のゲートを使えない訳で……そうなると、エドモントンの周囲を守っていたギャラルホルンのMS隊とまともに戦う必要があった訳で。
うん、やっぱり俺がいてよかったなと心の底からそう思うのだった。