いきなり蒔苗の口から出た言葉は、俺を驚かせるのに十分だった。
こうして話の主導権を握るのが蒔苗の話術なんだろうが……実際、蒔苗から出た言葉、アーブラウの軍事顧問という言葉は、驚くのと同時に興味深いのも事実。
「アーブラウの軍事顧問?」
「うむ。知っての通り、儂らは……いや、アーブラウとギャラルホルンの関係は悪い」
「だろうな」
セブンスターズの1つ、ファリド家の現当主であるイズナリオと真っ向から対立したのだ。
マクギリスとは友好的な関係を結べるかもしれないが、マクギリス達の派閥は小さい。
そう考えると、ギャラルホルン全体として考えた場合、アーブラウとしては決して良好な関係とは言えないだろう。
「つまり、いざという時にギャラルホルンは頼りに出来ん。……いや、もしかしたら行動してくれるかもしれぬが、アーブラウの代表としては、そのもしかしたらに賭ける訳にはいかないのも事実」
「だろうな」
再度同じ返答をする。
蒔苗の言ってる事は事実であると俺にも思える以上、それに同意するのはおかしな話ではない。
そんな俺の様子を気にせず、蒔苗は言葉を続ける。
「それに今回の一件があって、他の議員にもギャラルホルンに頼るのは危険だと、自分達で戦力を持つべきだと主張する者もおる。……儂もその1人じゃがな」
蒔苗の場合は、それこそギャラルホルンによって1度は代表の座を追われた身だけに、余計にギャラルホルンに警戒心を抱いているのだろう。
「つまり、軍隊……国軍を作ると?」
国に軍隊がいるというのは、俺にしてみれば普通の事だ。
……まぁ、どこぞの国は軍隊を持ちながら軍隊ではないとか言ってるが、それは色々な意味で特殊な例として。
ともあれ、国である以上は軍を持つというのはおかしくはない。
おかしくはないのだが、それはあくまでも普通であればの話だ。
このオルフェンズ世界においては、軍隊……というか武力についてはギャラルホルンが取り仕切っており、国にある武力らしい武力は、警察とかそういうのくらいだ。
しかし、蒔苗はそこに軍を作りたいと、そう口にしているのだ。
「うむ。そして当然ながら、儂が望むのは見せかけだけの軍ではない。きちんと相応の力を持った軍が必要じゃ」
「だろうな」
見せかけだけの軍であれば、作るのはそう難しくはない。
ちなみにこの場合の見せ掛けというのは、地球外縁軌道統制統合艦隊のMS隊は入らない。
地球外縁軌道統制統合艦隊のMS隊は式典とかに参加するのが主な任務だったらしいが、その式典に参加する為にしっかりと操縦技術を磨いていた。
アリアンロッド艦隊のMS隊と違って実戦経験がなかったので、教科書通りの動きをし、だからこそ相手が次にどのような行動をするのかが読みやすかった。
ましてや、そこで戦っているのはPPによってステータスを大きく強化し、しかも数え切れない程の戦いを経験してきた俺だ。
相性的には、最悪と言ってもよかった
……とはいえ、後でマクギリスと一緒にカルタやガエリオと会った時に聞いた話……ギャラルホルン内で不正が横行してる中で、地球外縁軌道統制統合艦隊はかなり不正が少ないというのを聞いて、しくじったと思ったが。
不正が少ないというのは、不正がないという訳ではない。
あくまでも他の部隊に比べて不正が少ないという事だ。
それは間違いないものの、それでも不正が少ないというのは……カルタに何だかんだと相応の統率力というか、カリスマ性があるという事なのだろう。
そんなカルタの部下である、MS隊のパイロットを俺は結構な人数殺してしまった。
これはつまり、地球外縁軌道統制統合艦隊におけるカルタの影響力が下がるという事を意味していた。
うん、まぁ……その辺については、カルタやマクギリス、ガエリオに頑張って貰う必要があるだろう。
ともあれ、地球外縁軌道統制統合艦隊のMSパイロットは基礎的な技術という点では非常に高く、外見だけの軍隊という評判には当たらない。
「そこでじゃ。お主達……より正確には、シャドウミラーと鉄華団にはアーブラウ軍の軍事顧問となって欲しい」
そう言う蒔苗。
まぁ……その気持ちは分からないでもない。
このオルフェンズ世界において、1から軍隊を作ろうと思えば誰かに教えて貰うのが一番手っ取り早い。
そしてギャラルホルンにそういう事を頼めないとなれば、それこそ俺達のようなMSを使った業務を行っている者達に頼むのが一番だろう。
ましてや、シャドウミラーも鉄華団も蒔苗に協力した。
つまり、蒔苗にとっては頼れる相手なのだ。
とはいえ、1つの国の軍事顧問となると、それをこの場ですぐに決められる訳ではない。
というか、普通に考えれば蒔苗も同様だろう。
蒔苗にとって俺達が信頼出来る相手であったとしても、仮にも自分の国の軍隊の軍事顧問を決めるのだ。
蒔苗はあくまでもアーブラウの議員の代表でしかない。
つまり議員の中ではトップではあるものの、独断で今回のような大きな出来事を決められる程の権力がある訳でもない。
代表指名選挙の結果を見る限り、蒔苗の派閥に所属している議員は多いのだろう。
それらが全員蒔苗の意見に賛成するのなら、あるいは蒔苗の意見もすぐに通るのかもしれない。
だが、蒔苗の派閥だからといって別に蒔苗に絶対服従という訳ではない。
蒔苗の判断が間違っていると思えば、その意見には反対するだろう。
場合によっては、これ以上蒔苗と一緒の派閥でやっていけないと思えば派閥を抜けるという事もあるだろう。
問題なのは、今回のこの一件……シャドウミラーや鉄華団を軍事顧問にするという話を聞いて、他の議員がどう思うか。
アンリがいなくなった……いや、いなくなる? 今はどうなのかは分からないが、近い将来いなくなるのはほぼ確定なので、その派閥にいた者達が蒔苗の派閥に合流するのか、もしくは新しい神輿を担ぎ上げてまた別の派閥を作るのか。
その辺は俺にも分からないが、その辺りについても決して放っておけるような事ではない筈だ。
「軍事顧問か。俺達にとっては嬉しい話だが、俺達の本拠地はあくまでも火星だ。そうなると、地球に誰かを派遣するといった事になるんだが?」
「うむ、それでも構わん」
「……高いぞ」
このオルフェンズ世界において、軍事顧問という仕事でどのくらいの報酬を貰えるのかは、生憎と俺には分からない。
だが、それでも1国の軍事顧問となれば結構な金額になるだろう。
また、軍隊を作るとなると当然ながら主戦力はMSになる筈だ。
MWもそれなりに戦えるし、何より街中での戦闘になれば必須なので、相応に数は必要になるだろう。
それらを用意するとなると、アーブラウにとってもかなり厳しい筈だ。
それにMSやMWを購入するだけではなく、維持費も必要となる。
何だかんだと、結構な金額が必要になるだろう。
それも込みで高いと言ったのだが、蒔苗は少し考えながら口を開く。
「金は用意しよう。じゃが、MSを購入するとなると伝手が必要となる。そちらはアクセルの方でどうにかならんかの?」
蒔苗のその言葉は、当然なのかもしれない。
だが、それでもこの状況で金だけを出してフリーハンドでこちらに任せるというのは、素直に凄いと思う。
とはいえ……MSか。
俺達がMSを入手する先となると、それこそ手段は限られる。
地球と火星の間にある高密度デブリ帯とかで活動している海賊からMSを鹵獲するのが一番安上がりな方法だろう。
とはいえ、海賊の数が限られる上、場合によっては厄介な事になりかねない。
例えば、夜明けの地平線団と揉めるとか。
MSの数はかなりのものだろうが、そもそも海賊としての規模が大きい相手だけに、下手に揉めると間違いなく面倒な事になるだろう。
まぁ、今のシャドウミラーの戦力と鉄華団の戦力。後はこっちはあればラッキー程度の認識だが、タービンズの戦力があれば夜明けの地平線団を相手にしても勝利出来るとは思う。
思うのだが、そうなると大きな騒動となるのも間違いない。
……まぁ、それで目立っても、俺達の場合は既にこの一件で目立っているから今更の話だろうが。
ともあれ、総合的に見ると夜明けの地平線団とすぐにぶつかるのは問題がある。
それに、MSを鹵獲するとなると、普通に撃破する以上に面倒なのも事実。
普通ならコックピットを破壊して鹵獲するのだが、下手に強い攻撃だとコックピット以外の場所にも被害が出たりするし、それが成功してもコックピットを破壊した時の影響でコックピットを換装しても上手く動かなかったりしてもおかしくはない。
まぁ、鹵獲の場合は普通にMSを買うよりは安くつくというメリットもあるのだが……今回の場合には向いていない。
なら、ギャラルホルンの基地からグレイズを盗むか?
これは問答無用で却下だろうな。
何しろグレイズはギャラルホルンだけしか使っていないMS……いや、今はシャドウミラーや鉄華団も使っているか。
とにかくそんなMSだけに、アーブラウの国軍がグレイズを使ったりすれば、今でもギャラルホルンとの関係は良好であるとは言えないのに、余計にその関係が悪くなってしまう。
だからこそ、グレイズを使うというのは論外だった。
それに、ギャラルホルンにとっても何度もMSを奪われるといった事になれば、俺達を付け狙うようになるだろうし。
マクギリス達がいれば多少はその辺もどうにかなるかもしれないが……止めておいた方がいいのは間違いない。
となると、次に思い浮かぶのは……テイワズからの購入か。
これはどうだろうな。
百里は宇宙用なので基本的に地球上では使えないだろうが、百錬なら地上でも十分に使える。
漏影は……うん。それを使うとタービンズが俺達に協力してきた事も分かってしまうから、駄目だな。
漏影は百里だと分からないようにカモフラージュをした百里なのだが、その性能は地上においては百里よりも上だ。
しかし、それを使えば今回の一件にタービンズやテイワズが関わっていたのを知られてしまう。
だからこそ、漏影は無理だが……百里か。
あるいは百里ではなくても、普通にテイワズを通してMSを売る……いや、待て。MS、……つまり兵器か。
そして兵器となると思い浮かぶのは、ノブリスだ。
俺達を切り捨てようとした落とし前を付ける必要があったが、これは使えないか?
正直なところ、ノブリスは殺した方がいいかもしれないと思う。
思うのだが、残念な事に武器商人として有能な人物なのは間違いないんだよな。
なら、ノブリスにMSを……それもアーブラウの国軍を作るだけの数のMSを俺達に譲渡し、俺達がそのMSをアーブラウに格安で売るという事にすればアーブラウに恩を売れる。
そんな諸々の情報を考えれば、この話は悪くない。
勿論、ノブリスが集めるMSはグレイズや百里といったような最新鋭のMSとはならないだろう。
それこそ、現在海賊達が使っているようなマン・ロディかガルム・ロディ、ユーゴーといった大量に作られたMSになるだろう。
アーブラウにしてみれば、どうせ国軍を作るのなら最新鋭のMSを欲するかもしれないが……そう言ってきたら、グレイズと言えばいいだろう。
「オルガ、俺は蒔苗からの仕事を受けてもいいと思う。お前はどうだ?」
「兄貴!? 本気ですか?」
オルガはまさか俺が蒔苗の依頼を受けるとは思わなかったのか、驚きの声を上げる。
「ああ。……蒔苗、ちょっと待ってくれ。オルガと話をしたい」
「構わんよ。儂にとっては、依頼を受けてくれるのなら大歓迎じゃ」
蒔苗は笑みを浮かべてそう言う。
実際、蒔苗にしてみれば俺がここまで素直に依頼を受けるとは思わなかったのだろう。
何しろ軍事顧問だ。
いや、正確には軍事顧問というだけではなく、アーブラウの国軍を作るとこから俺達に任せようとしている。
頼れる相手が俺達しかいない以上、蒔苗に選択肢はないのだろうが……それでも、俺達にとって悪い話ではない。
そんな訳で、俺はオルガを部屋の隅に連れていく。
他の面々は俺とオルガの話に興味津々といった様子だったが、無理に話に割り込んでくる様子はない。
蒔苗の方を見ると、クーデリアやシーラと何かを話しているのが見える。
「それで、兄貴。一体どういうつもりです?」
部屋の隅まで行くと、オルガは不満そう……というよりは、納得出来ないといった様子で聞いてくる。
「まぁ、聞け。上手くいくかどうかは分からないが、勝算はある」
そう言い、俺はノブリスを利用する事について説明する。
最初は不満そうなオルガだったが、説明を聞くうちに段々と納得の表情になっていく。
ノブリスを殺すのは、落とし前として悪くない選択だ。
だが、それでは結局こっちの利益にはならない。
……まぁ、ノブリスが死ねばこれから何かを企んだりしないという意味では利益かもしれないが。
ともあれそんな訳で、殺すよりは俺達の利益になるようにした方がいいのは間違いなかった。
この方法なら、ノブリスにとっても非常に痛いのは間違いないし。