蒔苗との間で行われた軍事顧問の話については、大まかに纏まった。
とはいえ、それはあくまでも俺達……シャドウミラーと鉄華団と蒔苗の間での話だが。
つまり、これはアーブラウとの間で正式に結ばれた契約という訳ではなく、言ってみれば口約束程度のものだ。
ただ、その口約束をしたのがアーブラウの代表に返り咲いた蒔苗である以上、その意味は大きい。
あとは他の議員達に上手く話を通してくれるのを祈るだけだ。
問題なのはアンリの派閥だが……今の状況では、アンリ達もそう簡単に動けないだろう。
いや、あるいは動いて他の国に亡命する可能性もあるが。
ともあれ、大体話が纏まったところで俺達は議事堂を出て、街中を見て回る事にした。
「じゃあ、これから自由行動とする。ただし、約束の時間までには戻ってくるように。……いいな?」
「ちょっ、何で俺だけを見てそんな事を言うんだよ! それだと、まるで問題児みたいじゃねえか!」
俺がじっと見て話してたシノが叫ぶが、周囲にいる者達……特に鉄華団の面々は、そんなシノを見ても何も言わない。
いや、寧ろ俺の言葉に同意するような者すらいる。
多分だが、このまま自由行動をさせればシノは娼館とか、もしくは街中に立っている娼婦に声を掛けるのだろう。
それを分かっているからこそ、鉄華団の面々はシノをフォローする様子もないらしい。
……もっとも、シノにしてみれば恋人が2人、いや、今となっては3人いる俺にそんな事を言われたくないと思ってはいるのかもしれないが。
「まぁ……シノも今回は頑張ったしな。そういう店に行くのは、これ以上もう止めはしない」
本来なら全員で行動する予定だったので、シノがその手の店に行くのを阻止しようと思っていた。
だが、最終的には各自自由行動という事になったので、その手の店に行くにしろ、路上で客を捜している娼婦を相手にするにしろ、集合時間に遅れないのなら構わないと判断したのだ。
実際、島での戦いでシノはかなりの戦果を残している。
それだけ頑張ったのだから、多少の行動には目を瞑っても構わない。
それに、数日中には火星に戻る事になるのだから、地球でのいい思い出くらいは作ってもいいだろう。
……火星に行くまでは女を抱くのも無理だし。
あ、でも鉄華団として有名になった今だったら、火星にある娼館とかそういう場所でなら思う存分女遊びは出来ると思う。
給料も……鉄華団ではどのくらい貰っているのかは分からないが、それでも命懸けの仕事である以上は相応に貰えるだろうし。
CGSだった時は、それこそ最低限の給料しか貰っていなかったとは思うけど。
「へへっ、悪いな」
「……羽目を外しすぎないようにな。俺が言うのもなんだけど、シャドウミラーも鉄華団も、エドモントンの住人にとっては厄介な人物、乱暴者と見られたりするかもしれない。横暴な態度をしたりすれば、後々面倒があるかもしれないから気を付けろ」
もしここでシャドウミラーや鉄華団の者達がエドモントンの住人に対して横暴な態度を取って、それが広められたら、本当に面倒な事になるだろう。
それこそ場合によっては、蒔苗にも迷惑を掛ける事になるかもしれない。
そうなったら、取引の上でもこっちが譲歩する……そんな事にもなりかねないのだ。
「う……分かったよ。だから、オルガもそんなに睨むなって」
シノの言葉に横にいるオルガに視線を向けると、そこではオルガがシノを強い視線で見つめている。
睨むというよりは……何だ? 目力が強い?
「シノ、兄貴に迷惑を掛けるような事をしたら……分かってるな?」
「分かってるって。そういう事はしないから、安心してくれ。俺は女には優しいんだから」
それって、男に対しては優しくないのか?
そう思ったが、武士の情けで突っ込まないでおいてやる。
「じゃあ、そんな訳で集合時間を忘れないように。解散」
このままシノと話していても話が長引くだけだと思ったので、解散させる。
集まっていた面々は、それぞれに散っていく。
時間的にはもう夜だから少し危ないとは思うが……いや、それはないか。
地球よりも危険な火星のスラム街出身だったり、ヒューマンデブリの出身だったりする者達、あるいは元海賊だ。
出身だけではなく、今はシャドウミラーや鉄華団でそれぞれ鍛えている。
その辺のチンピラやマフィアといった者達が絡んできても、呆気なく倒せるだけの実力はある。
それこそ子供組でも。
……いやまぁ、銃とかを使われたらどうしようもないが。
そういう時の為に、1人で行動するのではなく複数人で行動するように言ってはある。
シノは……うん。まぁ、誰か大人と一緒にそういう店や、あるいは路上で客待ちをしてる女に会いにいくのだろう。
そんな訳で、俺もマーベルやシーラ、クーデリア……それとメイドのフミタンと一緒に行動しようかと思ったのだが……
「アクセル、私達はいいからクーデリアと一緒にデートしてきなさい」
そう、マーベルが言う。
そのように思っているのはマーベルだけではなかったらしく、シーラもそんなマーベルの隣で頷いていた。
「アクセルとのデートは楽しみでしたが、今日はクーデリアに譲りましょう」
「いいのか?」
「構いません。クーデリアも私達と同じ立場になりました。ですが、アクセルとの一時を楽しむといったことは出来ていませんでしたから。今回はいい機会でしょう」
その言葉にクーデリアを見ると、薄らと頬を赤くしながらも笑みを浮かべる。
「私もアクセルとデートをしたいです」
「分かった。じゃあ、そうしよう。……ちなみに、フミタンはどうする?」
そう聞いてフミタンに視線を向けると、フミタンは首を横に振る。
「お嬢様がデートをするのであれば、私が一緒に行くのは無粋というものでしょう」
そう言ってくる。
これは正直なところ、かなり意外だった。
今のフミタンは、ノブリスを切り捨ててクーデリア一筋だ。
そうである以上、フミタンならデートについてくると言っても不思議ではないと思ったのだ。
「いいのか?」
「はい。……それに、アクセル様であればお嬢様を危険な目に遭わせるようなことはないと思っていますので」
「まぁ、それはな」
フミタンが言うように、クーデリアを危険な目に遭わせるつもりはない。
クーデリアは強いカリスマ性を持ってはいるが、身体能力では普通の女でしかない。
ちなみに同じ恋人という事であれば、マーベルは元々が聖戦士だったのでかなり鍛えられている。
シーラもまた、シャドウミラーに所属するようになってから相応に鍛えてはいる。
元女王のシーラが身体を鍛えているとナの国の者達が知ったら、一体どうなるのやら。
そんな風に思わないでもなかったが、実際俺の恋人である以上はいつ何があるのか分からないので、しっかりと鍛える必要があった。
というか、今はまだ甘い鍛え方だろう。
ホワイトスターに繋がったら、魔力や気の習得もする必要があるし。
エヴァによってしっかりと鍛えられるだろう。
魔法球もあるし。
それに時の指輪の受信機もあるから、魔法球を使っても問題ないし。
というか、時の指輪……うん。まさか俺がネギま世界でこれを入手した時はこれだけ恋人が出来るとは思っていなかったから問題ないと思ったが、今となっては……うん。明らかに足りないんだよな。
なので時の指輪の受信機を渡すようになっている。
それでもある程度の特別感は出したいので、受信機の指輪は特別に作った奴だけど。
ともあれ、ホワイトスターと行き来出来るようになったらエヴァによる訓練が待っているのは間違いない。
いざという時の事もあるので、頑張って貰うとしよう。
「何かがあっても、クーデリアは俺が守る」
「……あの、アクセル。こんなところでそんな風に言われるのはちょっと……その……」
クーデリアが照れたように言ってくる。
別にそこまで照れるような事はないと思うんだが。
まぁ、いいか。
「そうか? じゃあ、今度からは気を付けるよ。……そんな訳で、折角マーベルやシーラ、フミタン達が用意してくれたデートの機会だ。時間もそこまでないし、行くか」
「ええ、行きましょう」
そうして俺とクーデリアは、マーベル達に見送られながらデートに向かう。
とはいえ、今はもう夜だ。
観光名所とかがあっても、見に行くような時間はない。
買い物とかならある程度出来るけど。
「エドモントンで有名なのって何か分かるか?」
「うーん……そうですね。今が昼間なら、ロイヤル・アルバータ州立博物館にちょっと行ってみたかったのですが」
「……有名なのか?」
「ええ。エドモントンやカナダの歴史が学べるところらしいです。何でも厄祭戦の時にある程度の被害は受けたらしいけど、今はもう直ってるそうよ」
クーデリアが言うのなら行ってみたいとは思うけど、今の時間だとやってないんだろうな。
「そこに行けなかったのは残念だったな」
「そうね。でも、他にもエドモントンは1年中色々なイベントをやってるから、ザ・フェステバル・シティと呼ばれたりもするような場所なのよ。探せば色々と面白い光景もあるのかもしれないけど……夜なのがやっぱり残念ね」
「そうなのか?」
エドモントンというのは、カナダにあるというのは知っていた。
だが、ザ・フェステバル・シティと呼ばれる程だというのは、俺にとっても初めて聞く話だった。
クーデリアは、一体どこでそんな情報を手に入れたのやら。
蒔苗から話を聞いたのか。
あるいは、火星にいる時に地球での事を勉強したのか。
とはいえ、火星にいる時はエドモントンに来る予定はなかったのに、勉強するというのは……いや、けど考えてみればそうでもないのか?
エドモントンはアーブラウの議員達が会議を行う場所だ。
アーブラウの代表をしていた蒔苗と交渉するとなると、エドモントンで会う可能性が高いので、エドモントンについて勉強していてもおかしくはない。
その勉強のついでに、エドモントンがどのような場所なのかを知る事になってもおかしくはなかった。
「取りあえず観光は今日は無理だからまた今度するとして……そうなると、名物料理くらいは食べたいな。クーデリアはエドモントンの名物料理とかは知らないか?」
観光名所とかについても詳しかったクーデリアなので、名物料理の類も知ってるのではないかと思ったのだが……俺のその問いに、クーデリアは難しい表情を浮かべる。
「どうした?」
「うーん……私が調べた限りでは、それっぽいのはなかったわ。エドモントンの名物料理とか、カナダの名物料理とか。アクセルは何か知りませんか?」
「そう言われてもな」
「アクセルは異世界から来たんですよね? なら、異世界のカナダで有名な料理とか」
「……そう言われてもな」
クーデリアの言葉に再度同じ言葉を返す。
実際、カナダで名物料理と言われても、ちょっと分からない。
これが例えば、和食やフランス料理、トルコ料理、中華料理、イタリア料理とか、そういうのだったらすぐにこれというのが出てくるけど。
具体的には、和食ならすき焼きや寿司、トルコ料理なら鯖サンド、中華料理なら麻婆豆腐や青椒肉絲、イタリア料理ならパスタやピザ……正式にはピッツァか。
カナダで思い浮かべるのは……メープルシロップか?
となると、それを使ったお菓子とか?
まぁ、本格的に食事をするんじゃなくて、喫茶店とかそういう場所で食べてもいいとは思うけど。
「おや、そこのお二人さん。ちょっといいかい?」
俺とクーデリアが会話をしていると、不意にそんな声が飛んでくる。
これで若い男の声なら、あるいはクーデリア狙いという事もあるのかもしれないが、聞こえてきた声は女の声。
声のした方に視線を向けると、そこには買い物籠を持った中年の女の姿があった。
「何でしょう?」
俺に代わってクーデリアがそう女に答える。
そんなクーデリアに、女は笑みを浮かべて口を開く。
「エドモントン……というか、カナダの名物料理の話をしていただろう? なら……ほら、あそこの店に行ってみるといいよ。美味しいプーティンを食べられるから」
「プーティン……ですか?」
「ええ、そうよ。カナダの名物料理といったらプーティンでしょうね。このご時世にわざわざエドモントンまで来たんだから、折角なら美味しい料理を食べていって欲しいしね。……それに、この時間に来たのはラッキーだったわよ。今日の日中なんか、酷かったんだから」
「あ、あははは……」
女が何を言ってるのか分かったのだろう。クーデリアは笑って誤魔化す。
いやまぁ、隣にいる俺がその騒動を起こしたのだと言える筈もないしな。
「えっと、その、それでプーティンというのはどんな料理なんです?」
「それは食べてのお楽しみよ。もっとも、別にそこまで肩肘を張って食べる料理じゃないから、気楽に食べられるけど。じゃあ、エドモントンの観光を楽しんでね」
そう言い、女は俺達の前から立ち去るのだった。