共同宇宙港を出発したグラン、ガラン、ジャコバ、そしてイサリビとハンマーヘッドは集団で火星に向かっていた。
「けど、こうして堂々と出て来ていいのか? ハンマーヘッドがこうして堂々と俺達と一緒に行動していれば、地球での一件にタービンズが関わってるのは間違いないとギャラルホルンに思われるぞ? 具体的にはラスタル陣営にだろうけど」
『兄貴の言いたい事は分かる。実際、地球に来た当初の状況なら、俺もこういう事はしなかっただろう。だが……兄貴達の活躍によって、地球の状況は大きく変わったからな』
映像モニタの向こうでそう言う名瀬だったが、言葉では褒めているように思えるのだが、その表情には若干の呆れがある。
「地球の状況が変わったのに俺達が関わっているのは間違いないが、実際にはマクギリス達が派閥を作ったのが大きな理由だろう? なぁ、オルガ」
『ははは。そうですね。ただ、名瀬の兄貴が言うように、マクギリスがそういう行動に出たのはアクセルの兄貴がいたからこそだと思いますよ?』
『ほらな』
名瀬がそれ見た事かといった様子で言ってくる。
まぁ……実際マクギリスがこうして活発に動くようになったのは、俺を見たマクギリスがアグニカであると思い、そんな俺からのアドバイスによってマクギリスが今のように動いたのは間違いない。
そう考えると、名瀬やオルガの言葉はそう間違ってはいないのだろうが。
「まぁ、その件はともかくとしてだ。……火星に戻ったらタービンズというか、テイワズはどう動くつもりだ? 何か連絡は来ているか?」
話を逸らす。
もっとも、これについては聞いておきたい内容ではあったが。
それは名瀬も理解しているのだろう。
話を逸らした件に突っ込んだりせず、名瀬は難しい表情を浮かべる。
『どうだろうな。親父からは色々と動いてるって話を聞いてるが』
『名瀬の兄貴、ノブリスの件についてですが……』
『ああ、ラフタやアジーからは聞いてるよ。とはいえ、テイワズの方でも利用された以上は相応の対処をする必要がある。アクセルの兄貴やオルガ達が独自にノブリスに何かをするのなら止めないが、こっちもこっちで落とし前について止めるつもりはない』
これは退けないといった様子で、名瀬が鋭い視線を向けてくる。
実際、ここで自分達を利用したノブリスに報復をしなければ、テイワズという組織が侮られる事になるというのは間違いないしな。
とはいえ、あまりにテイワズの落とし前が激しかった場合、俺達にとっても不利になりかねない。
具体的には、慰謝料とか謝罪金とかそういう名目でテイワズがノブリスから搾り取りすぎると、アーブラウが軍を作る上でMSやそれ以外の諸々を用意させるというのが難しくなる。
あるいは用意出来ても足りなくなるのか。
そんな諸々を考えると、やはりある程度は加減をして欲しいというのが正直なところだ。
テイワズとして、それを許容出来るかどうかはまた別の話だろうが。
「俺の方から一度マクマードに連絡をした方がいいか?」
『アクセルの兄貴の気持ちは分かる。だが、親父もこの場合はそう簡単に退けないと思うぜ』
名瀬のその言葉に、そうかと頷く。
マクマードは俺の力を知っている。
だからこそ、こう言っては何だが出来たばかりのシャドウミラーというPMCを、テイワズと同等の組織という扱いにしてるのだ。
それはつまり、シャドウミラーはタービンズやJPTトラストといった組織よりも格上となる事を意味する。
……もっとも、それはあくまでもテイワズの判断だ。
テイワズの影響力がない者達にしてみれば、シャドウミラーをテイワズと同等の組織と認めるかどうかは微妙なところだろう。
もっとも、今回のアーブラウの一件でシャドウミラーは鉄華団と共に大きく知られるようになった。
だからこそ、テイワズと関係のない相手であっても、シャドウミラーという存在をきちんと認識するだろうが。
そんなシャドウミラーを率いる俺が、本当にどうしても……何としてもと言えば、マクマードも俺の要求を聞くかもしれない。
だが、そうなれば同格の存在だからこそ、俺はマクマードに……もしくはテイワズに対して借りを作る事になる。
そこまでしてノブリスに対する落とし前を止めたいかと言われれば、正直微妙なところなんだよな。
ノブリスで足りない分は、それこそ海賊を倒してMSを入手するとかした方がいい。
……残念なのは、ギャラルホルンの基地に忍び込んでMSを盗むというのがもう使えなくなった事だろう。
これで新たな火星支部長がこちらに敵対的な相手であれば、そういう事をしてもいい。
だが、現在火星支部長をしている者は、マクギリスの派閥の奴なんだよな。
そうなると、俺達とも友好的な関係にある訳で。
さすがにそういう相手が率いる組織の基地からMSを奪う事は出来ない。
いざとなれば、グレイズを……いや、グレイズは無理でも、前の量産機のゲイレールを売るくらいの事はしてくれるかもしれないが、そうなるとアーブラウに売る時にも相応に値段が高くなる。
格安でというのを条件にしている以上、価格は出来るだけ上げたくない。
「分かった。無理にとは言わない。だが……そうなると、テイワズが落とし前を付けた後で俺達が落とし前を付けるのか。ノブリスは破産するかもしれないな」
ノブリスが具体的にどのくらいの財産を持っているのかは、俺にも分からない。
分からないが、それでも火星周辺で……いや、それどころか木星のテイワズにまで知られているとなると、その財産は俺が想像している以上であっても間違いない。
というか、そうであって欲しいという思いの方が強い。
とにかくノブリスの財産が多ければ多い程、こっちにとっては有利になるのだから。
アーブラウ軍を何もないところから作るというのは、それだけ金が必要だ。
金があれば、そしてMSやMW、武器……これらが多ければ多い程、俺達にとっては利益になるのだから。
『分かって貰えて嬉しいよ。……それで、話を変えるけど、アリアンロッド艦隊……来ると思うか?』
「来るだろうな」
名瀬の言葉にそう返す。
シャトルに乗っていた時は、ガエリオ達が来たからどうにかなった。
もっとも、あれは地球外縁軌道統制統合艦隊のMS隊が来たからという訳ではなく、セブンスターズの1家、ボードウィン家の次期当主であるガエリオが来たからだろう。
ラスタルの指示だったのかどうかは分からない。
本人は自分の独断だと言っていたが。
ともあれ、ラスタルがその場にいればどうにか出来たかもしれないが、ラスタルがいない状態でボードウィン家の次期当主を相手に、我を通すような事は……出来る奴なら出来るのかもしれないが、あの連中には無理だった。
そういう意味で非常に厄介だったガエリオだったが、そのガエリオも今はいない。
そしてガエリオがシャトルを包囲したMS隊を追い返した、管轄外というのも地球を離れれば使えない。
だとすれば、アリアンロッド艦隊が俺達を狙うのを躊躇する必要はなかった。
もっとも、シャトルではMSがなかったのに対して、今は自分達の母艦に戻っている。
移動を始めてある程度落ち着いたところで、イサリビにも行って鉄華団のMSは置いてきたので、戦力的にも問題ない。
漏影については……まぁ、一応出してあるが、多分出番はないだろう。
漏影は百錬の隠蔽用というだけではなく、地上用に調整されているMSでもある。
宇宙でも使おうと思えば使えるんだろうが、相応に調整をしないといけない。
それならいっそ、百錬に戻した方がいいとすら思う。
そこら辺りはハンマーヘッドに戻ってからやればいいので、もしアリアンロッド艦隊が攻撃をしてきた場合は、漏影は出撃しない方向で考えている。
『そう、か。やっぱり来るか。兄貴はどうするつもりで?』
「撃退する。グレイズとかが入手出来るのは美味しいし、間接的にだがマクギリス達の援護にもなるだろう」
名瀬にそう返事をする。
マクギリスと俺達は、正式に協力をしている……という訳ではない。
だが、緩い協力関係にあるのは間違いないし、このオルフェンズ世界で行動する上で、現状のギャラルホルンと、マクギリスが主導権を握ったギャラルホルンのどちらがいいかと言われれば……やはり後者だろう。
これでラスタルが現状を良しとしていないのなら、まだ分からなかったが。
もっとも、ラスタルについての情報はあくまでもマクギリスから聞いただけでしかないので、実は違うという可能性もある。あるのだが、マクギリスが俺に嘘を吐くとは思えない。
もし嘘を吐いたとなれば、それこそ俺達との協力関係はなくなり、最悪敵となるんだし。
その危険性を考えれば、マクギリスが俺に嘘を言うとは思わない。
……あるいは絶対に嘘だと俺に知られないのなら、そういう手段もあるかもしれないが。
ただ、一緒にいたガエリオやカルタも嘘だと言わなかった事からも、恐らくあの言葉は真実という判断で間違ってはいないだろう。
だからこそ、俺はマクギリスの言葉を信じているのだが。
『もしアリアンロッド艦隊が来たら、うちからも戦力を出します。ミカの奴もやる気でしたし』
オルガのその言葉に、そうなのか? と少し疑問に思う。
三日月の場合、別に好戦的といった訳ではないと思うんだが。
仲間を守る時には躊躇しないのは知ってるが。
ともあれ、三日月がこっちの味方をしてくれるというのは助かるのも事実。
アリアンロッド艦隊がどの程度の戦力を出してくるのかは分からないが、こっちの戦力は多ければ多い程にいいのだから。
「分かった、そうなったら頼む」
『すまねえな、兄貴。こっちからは出せる戦力が1機しかいねえ』
「タービンズは漏影の件があるから、仕方がないだろう。百里を出してくれるだけでも助かるよ」
百里は百錬と違って宇宙用のMSなので、漏影として俺達と一緒に地球には行かなかった。
そしてその百里に乗るのは、タービンズのエースであるアミダ。
1機だけの戦力だったが、それでも十分に強力な戦力なのは間違いない。
それこそアリアンロッド艦隊を相手にしても、互角以上にやり合えるくらには。
……というか、アリアンロッド艦隊は確かにギャラルホルンの中でも最精鋭なのは間違いない。
しかしそれは、あくまでも全体的に見て精鋭という事だ。
勿論、軍隊として運用する以上、それは大きな意味を持つ。
持つのだが、それはつまり突出した存在がいないという事を意味している。
例えば、平均的なMSパイロットを50点とした場合、地球外縁軌道統制統合艦隊のMS隊は65点くらいか。そしてアリアンロッド艦隊のMSパイロットは70点、もしくは75点。
平均的に見た場合、明らかに高い能力を持ってはいるが……120点や150点、200点……場合によっては500点といった突出した個が存在しない。
つまり、そのような突出したエースのいる部隊との戦いになると、被害が馬鹿にならないのだ。
そうした突出した個というのが、タービンズではアミダ。鉄華団では三日月。そしてシャドウミラーでは、俺とマーベルといったところか。
勿論これはあくまでも突出した個であって、今思い浮かべなかった者達も相応の実力の持ち主であるというのは理解している。
ラフタやアジー、昭弘、クランクといった面々は、準エースと呼ぶに相応しい。
それ以外の面々も……まぁ、平均よりは上の実力を持つ。
そう考えると、何気に結構負けていないような気がするな。
「何だかアリアンロッド艦隊が襲ってきてもどうとでもなりそうな気がするな」
『兄貴……いやまぁ、兄貴ならそういう風に出来てもいいんだろうけどよ』
名瀬の呆れた声が聞こえるが、実際にどうにかなりそうな気がするのは間違いないのだ。
「いや、シャトルの時はともかく、MSとかが普通に使える今の状況なら、本当にどうとでもなりそうな気がしないか?」
そう言うと、聞いていたオルガや名瀬も微妙な表情になる。
何とかなりそうな気がするが、危ないような気もするといった感じか。
『兄貴の言いたい事は分かった。けど、ギャラルホルンと……それもアリアンロッド艦隊と揉めるのは、これからの事を考えると不味いだろう?』
「その辺はマクギリスに任せればいいだろ。向こうでどうとでもしてくれる筈だ」
『けど、それだと最悪向こうに切られないか?』
この場合の切られるというのは、切り捨てられるという意味だが……
「多分、問題ないと思うけどな。マクギリス達にとって、現在俺達は最高の戦力だ。それを切り捨てるような事はしないだろう」
これで地球外縁軌道統制統合艦隊のMS隊がもっと……それこそアリアンロッド艦隊並の練度で、規模もそのくらいならともかく、今のマクギリスの派閥はどうしても戦力が足りない。
シャドウミラーや鉄華団という、傭兵的な存在の集団を切り捨てるというのは、それこそ余程の出来事がない限りはない筈だった。
そしてアリアンロッド艦隊との戦いは、恐らくその余程の出来事には入らないというのが、俺の予想だった。