転生とらぶる2   作:青竹(移住)

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番外編146話 はじめの一歩編 第02話

「えっと、何でこんな事になってるんだ?」

 

 俺は仲代ジムのリングの上で、鷹村を前にそんな風に思う。

 普通なら、プロテストが終わったその日のうちに、ミドル級のランカーでもある鷹村とスパーをやるというのは……一体どういう流れでこうなったのやら。

 そう思うも、結局のところおやっさんが俺と伊達のスパーについて鷹村に話したのが原因なのは明らかだった。

 

「えっと、その……アクセル君、頑張って生き残ってね!」

 

 リングの外で、一歩が必死になってそう叫んでいる。

 一歩にしてみれば、これはある意味で鷹村の苛めのようにすら思えるのだろう。

 ちなみにその鷹村はやる気満々といった様子で身体を暖めている。

 そんな鷹村のセコンドにいるのは、何故か伊達。

 というか、伊達と鷹村は友人だったらしい。

 もっとも、この世界でボクシングというのはそんなにメジャーなスポーツではない。

 これがアメリカのラスベガスとかだったら、それこそ1試合に勝利すれば100万ドルの賞金が手に入ったりするのだが、日本ではマイナーな競技でしかない。

 そんなマイナーな競技だけに、チャンピオンとランカーは知り合いであってもおかしくはないのだろう。

 

「こんにちはー……ってうおっ、これは一体……」

「あー……不味い奴に見られちまったな」

 

 聞こえてきた声に視線を向けると、そこには髭面の中年の男がいた。

 その男は俺も知っている。

 何しろこのジムにはチャンピオンの伊達や……去年の新人王で優勝した、沖田佳吾といった者達がいるのだから。

 ちなみにこの沖田と俺は微妙に関係が悪い。

 何しろこの沖田というのは、伊達のファンだ。……いや、ファンというよりは信者と言ってもいいかもしれない。

 そして俺は、ボクシングについては素人に近いのに身体能力や……何よりボクシング以外で鍛えてきた能力によって、その伊達とスパーを成立させる事が出来るのだから。

 伊達信者である沖田にしてみれば、それが面白くないのだろう。

 とはいえ、自分では伊達のスパーで役に立てないと理解しているからこそ、俺が伊達のスパーの相手をするのに不満はあっても口に出さない。

 この辺が沖田の感心すべきところだよな。

 沖田本人は面白く思っていないとしても、それが伊達の為になるのなら俺に絡んできたりはしない。

 友好的な存在という訳でもないが、敵対もしてこない……そんな感じだ。

 ともあれ、その沖田もいるのでボクシングの雑誌を書いている記者にしてみれば、取材に来る事も多く、おやっさんと話しているのが藤井とかいう記者だった。

 そして当然のように、藤井はこのジムにもそれなりに頻繁に顔を出しているので、俺の事も知っており……

 

「アクセル君、今日はプロテストじゃなかったのかい?」

「ああ。そっちは問題なく終わった」

「アクセル君ならそうだろうね」

 

 藤井がそう納得した様子を見せるのは、俺が伊達とスパーをやってるところを何度か見ているからだ。

 とはいえ、それはオフレコという扱いになっているので、記事にもなっていないし、外部で喋ったりもしていないが。

 何しろ仲代ジムは、この業界の中ではかなりの力を持っている。

 世界に挑戦し、破れたとはいえカムバックして現フェザー級の王者である伊達に、去年の新人王の沖田が所属しているのだから。

 そんな訳で、この業界で仲代ジムに睨まれると不味い。

 それが分かっているからこそ、藤井は俺の事を秘密にしてるのだ。

 ……もっとも、藤井もただでそんな事をしてる訳ではなく、俺が表舞台に立ったら優先的に取材をさせるという事になっているが。

 

「それに一歩君も……」

「こんにちは、藤井さん」

 

 どうやら藤井は一歩とも知り合いらしい。

 鷹村はランカーなので知っていても珍しくないが、今日プロテストを受けた一歩の事を知ってるのは驚きだな。

 

「知り合いだったのか?」

「おい、アクセルだったか。こっちはもういいぞ。俺様の身体は十分に暖まった。お前はいいのか?」

 

 俺が藤井や一歩と話をしようとするものの、薄らと汗を掻いた鷹村がそう言ってくる。

 ……へぇ、さっきまでと違って、今はかなり真剣な表情で俺を見ているな。

 伊達から何かを聞いたのか。

 

「分かった。こっちも問題はない。……ミドル級ランカーの力、見せてくれよ?」

「ふんっ! 俺様の力を見せつけてやる。おっさんと同じだと思うなよ!」

 

 鷹村の言葉に、伊達は苦笑を浮かべている。

 この様子を見ると、恐らくこの2人はそういう風に言い合いが出来るくらいには親しいんだろうな。

 

「じゃあ、始めるか。おやっさん」

「おう。……一応言っておくが、このスパーについては他言無用だぞ」

 

 ジムにいる面々……特に雑誌記者の藤井を見ながらそう告げるおやっさん。

 多分だけど、本当ならこういうスパーをする時はジムの窓にも外から見えないように目隠しとかをした方がいいんだろうな。

 そんな風に思っていると、カンとスパー開始のゴングがなる。

 その瞬間、鷹村はのそりといった表現が相応しい動きでこちらに近付いてきた。

 ミドル級の動きらしい、圧力を感じさせる動き……なのは間違いない。

 なるほど、伊達もそうだがボクシングという世界で上位に位置する存在だけはある。

 だが……

 

「行くぞ」

 

 そう呟くと同時に、前に出る。

 速度は出さず、普通に歩きながらの移動。

 それこそ鷹村ののそりとした動きと同じ感じだ。

 リングの周囲にいる何人かから、半ば悲鳴のような声が聞こえてくる。

 どうやら俺の実力を知らない練習生……いや、藤井の声もあるな。

 とにかく、俺の行動は自殺行為以外にしか見えていないらしい。

 そうしてある程度近付いたところで……

 シュッ、と。

 空気を斬り裂くような音が響く。

 俺の間合いの外で、鷹村の間合いの内側。

 今の俺の身体は10代半ばのものだ。

 役所にあるのでは18歳になっている筈だったが。

 とにかく20代の身体ではないので小さく、だからこそ俺の腕の長さと鷹村の腕の長さでは、どうしても差がある。

 鷹村はそれを理解している為に、自分にとってのメリットを十分に使おうと思ったのだろう。

 とはいえ……遅い。

 あっさりと回避する。

 真剣な表情の鷹村の顔に、一瞬だけ驚きが浮かぶ。

 鷹村にしてみれば、まさかこうもあっさりと自分のジャブが回避されるとは思わなかったのだろう。

 実際、ボクシングのジャブは全ての格闘技の中で最速のパンチとも呼ばれる。

 鷹村の階級はミドル級で、日本人にとっては数少ない重量級の選手ではあるが、さすがランカーと言うべきか、それとも主人公である一歩の仲間だからか、そのジャブはその辺のフェザー級のジャブよりも素早く、鋭い。

 けど……ネギま世界では銃弾並の速度の攻撃も珍しくはないし、場合によっては雷の速度で攻撃してくる者もいる。

 また、ペルソナ世界や鬼滅世界においても、このくらいの攻撃は寧ろ鈍いと言える。

 そんな訳でジャブを回避した俺は一瞬にして自分の間合いまで張り込み、拳を振るう。

 ただし、俺が今までやってきた実戦でのそれではなく、おやっさんや伊達から習ったボクシングとしての拳の振るい方。

 ボディに1発拳が埋まり……

 

「うげぇ……」

 

 その1発で、鷹村はリングに膝を突く。

 あれ? ちょっと手加減が足りなかったか?

 

「おい、大丈夫か? ……バケツを持ってきてくれ!」

 

 鷹村の様子から危険だと判断した俺は、素早くそう指示を出す。

 すると練習生がすぐにバケツを持ってきたので、それを蹲っている鷹村の前に置く。

 鷹村もすぐにそれが何なのか理解したのだろう。

 我慢することなく、胃の中のものを吐き出す。

 

「嘘だろ……」

 

 聞こえてきたその声に視線を向けると、そこでは藤井が信じられないといった表情を浮かべている。

 鷹村の実力を知っている藤井にしてみれば、まさかプロになったばかりの俺が鷹村に勝つとは思わなかったのだろう。

 一歩の方は? と見てみると、こちらは言葉も出ない程に目を大きく見開いている。

 一歩にしてみれば、同じジムだけに鷹村の力をよく理解しているからこその驚きだろう。

 取りあえず一歩が我に返るのを待つ方がいいか。

 そんな風に思いながら、俺は鷹村側のコーナーにいた伊達の方に近付く。

 すると伊達は、俺を見て呆れたように言ってくる。

 

「ったく……まさか鷹村にも勝つとは思わなかったぜ。しかも1発で」

「そうか? 自分で言うのも何だけど、鷹村にとって俺は相性悪すぎるだろ」

 

 これは冗談でもなく、本当にそう思っている。

 何しろ鷹村はミドル級のボクサーで、動きは鈍重……とまではいかないが、どうしても軽い階級の者に比べると劣る。

 それでいながら、俺は一撃で鷹村をダウンさせるだけの威力がある。

 そういう意味では、寧ろフェザー級の伊達の方が俺との相性はいいだろう。

 もっとも、その伊達も俺とスパーをやるとすぐにダウンしてしまうのだが。

 

「いや、そうだけどよ。……何て言えばいいんだ? 俺は自分がアクセルにダウンさせられるのはもう慣れたが、こうして他人が……しかも鷹村がダウンするのを見ると、ちょっと信じられないんだよ」

「とはいえ、鷹村もこれがスパーだという事で油断をしていた一面はあるだろうけど」

 

 ボクシングの試合というのは、それこそ試合をする日に向けて減量し、集中力を高めていくのだ。

 刃物を研ぎ上げていくのに似ている……というのは、伊達が以前言っていた事か。

 そういう風に万全の状態――減量失敗とか例外として――で最高の状態で試合に挑むのがボクサーだ。

 それを考えれば、今回の鷹村とのスパーは成り行きで行ったものでしかない。

 鷹村はスパーを始める前に十分に身体を暖めていたものの、それでも試合と比べるとコンディションは決していいとは言わないだろう。

 

「いやいや、そういう問題で片付けていい話じゃないからな」

 

 俺と伊達の会話におやっさんが近付いて来てそう言う。

 

「だよな。おやっさんもそう思うよな。……これ、新人戦はアクセルが本命で決まりだな」

「俺もそう思うが、ちょっと待ってろ。……ああ、いや。丁度いいところに来た。おい、藤井。新人戦について聞かせてくれ」

「いや、それどころじゃないですって。一体何なんですかこれは。アクセル君が強いとは思ってましたけど、まさか……」

「その辺については、さっきも言った通りオフレコで頼む。それで新人戦だ。アクセルがいる以上、2年連続新人王はうちが貰うのは確定しているが、他に有力な選手は誰がいる?」

「え? えー……あっと、そうですね。まずは個人的に気になっている一歩君」

 

 藤井がいつの間にかリングに上がって鷹村の背中を撫でている一歩を見てそう言う。

 実際、一歩の破壊力はプロテストの時に見てるし、何よりこの世界の主人公だろう存在だと思えば納得出来た。

 

「後は、東邦ジムの間柴了君。アクセル君も今日のプロテストで見たんじゃないかな?」

「もしかして、妙なジャブを使う奴か? 背の高い……フェザー級でやるのはちょっと無理があるように思える、悪人顔の」

「ああ、そうそう。それだ」

「なるほど、俺も見たが……凶悪そうな奴だったな」

 

 俺のプロテストを見に来ていたおやっさんが、納得したように言う。

 

「後は……音羽ジムの速水龍一君。アマのエリートって奴だな。何しろ53戦53勝46KO無敗だってんだから、その凄さが分かるだろう。正直なところ個人的な感想を抜きにして客観的に見れば、この速水が新人王の最有力候補だと思っていたよ。……アクセル君を知るまではだが」

 

 藤井の口から出たのは、結構な戦績だった。

 プロとアマという違いはあれども、それでもボクシングはボクシングだ。

 その実力は間違いなく一級品だろう。

 

「後は……一歩君と同じ鴨川ジムにいたけど、今は川原ジムに移籍した宮田一郎君。彼はプロデビューする前から評判の強さを持っていた。……この四人が僕が注目している新人王の面子だね。もっとも、一歩君はあくまでも僕の贔屓目でしかないから、勝ち上がるのはちょっと難しいかもしれないけど」

「どうだろうな」

 

 半ば自嘲の交ざった藤井の言葉に、俺はそう告げる。

 そんな俺の言葉が意外だったのか、藤井は俺に驚きの視線を向けてきた。

 

「そんなに一歩君を評価してるとは思わなかったよ。一体何でと聞いてもいいかい?」

「プロテストで見た一撃の破壊力だな。あの一撃を食らえば、大抵の奴は一撃で気絶してもおかしくはない」

 

 実際にはそれ以外にも、一歩がこの世界の主人公だからという俺の予想もあるが……その辺については、俺が話してもあまり意味はない。

 何しろこの世界に原作があるというのは、俺しか知らないのだから。……いやまぁ、もしかしたら原作も何もないオリジナルの世界という可能性も否定は出来なかったが。

 

「なるほど。確かに一歩君の破壊力はもの凄いからね。……アクセル君の一撃を見た後だと、説得力はないけど。正直なところ、アクセル君の一強で、他の面々はその下……というのは、今のスパーを見た正直な気持ちだよ」

 

 そう言う藤井に、おやっさんは2年連続新人王だと嬉しそうに笑うのだった。

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