転生とらぶる2   作:青竹(移住)

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番外編148話 はじめの一歩編 第04話

「ここまで落ち着いていられるのは、伊達の試合以外では滅多にないな」

 

 試合当日。

 控え室で俺はおやっさんにそう言われる。

 その言葉に控え室の中を見てみる。

 この控え室は俺だけじゃなくて数人が使っている。

 これがメインの試合に参加する選手であれば個室を貰えたりするのだろうが……何しろ俺はこれが初めての試合だ。

 とはいえ、前座は前座でもそれなりに後の方の前座なのだが。

 その理由は、俺……ではなく、速水だ。

 全戦全勝、無敗の男。

 それでいながら顔立ちも整っており、女のファンが多い。

 ビッグマウスで試合前に盛り上げるのも上手い。

 そんな速水だけに、試合はメインに近い順番に配置されていた。

 そういう意味では、これが初試合の俺はラッキーだったな。

 

「沖田はどうだったんだ?」

「沖田は……実力はあるんだが、そこまで安心して見ていられる程じゃないな」

 

 そんな風に会話をしている間に、1人また1人といったように控え室の中から選手の数が減っていく。

 どうやら試合は順調に行われているらしい。

 俺にしてみれば、それは嬉しい事だった。

 そうして時間が経過し……

 

「アクセル選手、準備をお願いします」

 

 スタッフにそう声を掛けられ、俺は立ち上がる。

 俺とおやっさん以外にも、他に何人かのトレーナーがいる。

 伊達はさすがにここにはいなかったが、観客席で見ると言っていたな。

 

「よし、じゃあ行くか。アクセル、お前なら大丈夫だ。速水が相手でも楽に勝てる。それは忘れるなよ」

 

 そんな声に頷き、部屋を出る。

 そして向かうのは、試合会場。

 ちなみに試合会場に通じる通路の壁には、何かの痕がずっと続いていた。

 おやっさんの話によると、どうやらこれは試合会場に向かう途中に選手が緊張を解そうとして壁を殴っているらしい。

 そうして話を聞きながら進み続け……やがて試合会場に出る。

 するとすぐに試合会場に放送の声が響く。

 

『プロ試験合格後、初めての試合。その相手が速水龍一! だが、そんな速水を相手に勝利宣言をしたのは知ってる人も多いでしょう。仲代ジム所属、アクセル・アルマー!』

 

 その声に乗るように通路を進む。

 俺のイメージからすると、こうして選手が入場する時はテーマ曲を流したりすると思ったんだが、そういうのはメインの試合の時にやるらしい。

 あるいは他の試合でもやるのだが、取りあえず俺の試合では音楽を鳴らす事はなかった。

 それを残念に思いながら、リングに向かう。

 その途中で自殺行為だとか、速水君に負けちゃえとか、頑張れよとか、色々な声が掛けられる。

 速水は女のファンが多い事で有名だったが……なるほど。リングに上がって見ると、観客席の一部に女の観客が固まっている。

 速水の名前が書かれたハチマキだったりうちわだったりを持っている事からも、速水のファンなのは間違いないだろう。

 とはいえ、だからといってそれに気を遣って負けるという事はないが。

 リングの向かい側を見ると、そこには速水がいる。

 俺を鋭い視線で一瞥すると、自分のファンに向けて手を振ったりといったサービスをする。

 そうして一通りの時間が経過すると、俺と速水はそれぞれリングの中央に移動する。

 レフェリーからの注意を受け……それが終わるとゴングが鳴り、試合が始まった。

 速水が右手を出してきたので、俺もそれに合わせるように右手を出し、グローブとグローブがぶつかる。

 これはボクシングの試合を始める上での……なんだろうな。儀式とまではいかないが、暗黙の了解とでも呼ぶべき行為だった。

 中にはこの時に相手のグローブを横に叩いて一気に距離を詰めるといったことをしたりする奴もいるらしいが、速水にそういうつもりはなかったらしい。

 まぁ、速水はそういうダーティな印象で売ってるボクサーじゃないしな。

 そうして試合が始まると、まずはお互いに様子見から入る。

 真っ先に前に出てもよかったのだが、これが俺の初めての試合である以上、まずは様子見をするようにとおやっさんから言われていたのだ。

 そんな訳で距離を取っていると……焦れたのか、それともこっちのお手並み拝見といったつもりなのか、一気に前に出て来る。

 そして放たれるのは、ジャブ。

 その一撃は鋭い。

 鋭いが……当然ながら伊達には劣る。

 だからこそ、俺はあっさりとその一撃を回避する。

 俺の顔のあった場所を貫く速水の左拳。

 速水はまさか回避されると思っていなかったのか、一瞬驚きの表情を浮かべ……次の瞬間には、再びジャブを打ち込んでくる。

 最初に回避したのが偶然とでも思ったのか?

 当然ながらその一撃も回避し……観客席の方から驚きの声が聞こえてくる。

 無理もないか。

 普通に考えれば、俺は速水よりも格下の噛ませ犬と思われても仕方がないのだから。

 そんな俺が、速水のジャブ2発を容易に回避したのは、それだけ驚くべき事だったのだろう。

 とはいえ、いつまでもこのままってのはちょっとな。

 そろそろ俺の方でも手を出すか。

 ショットガンを使うように仕向ける為に、半ば挑発の意味を込めてジャブを1発。

 パン、と。

 速水の顔面に当たり、その瞬間速水の顔が大きくのけぞる。

 あれ? このくらいの手加減でいい筈だったんだが。

 そう思ったが、考えてみれば今のは伊達とスパーをやる時くらいの力加減だった。

 もう少し弱めた方がいいのか?

 いや、速水を追い詰めるにはこのくらいの方がいいだろう。

 そう思っていると、大きくのけぞった状態から急いで俺から距離を取り……こちらを見る目に驚愕の色があるのが理解出来た。

 今の一撃は速水にとってそれだけ予想外だったのだろう。

 クイクイと右手のグローブで挑発するように手招きをする。

 それを見た速水は苛立った表情を浮かべて一気に間合いを詰めてくる。

 おいおい、ちょっと挑発されたくらいで……いや、格下と思っていた俺に挑発されたからか?

 ともあれ、俺との間合いを詰めると両腕で素早く連打をしてくる。

 これが、ショットガン。

 そう納得しつつ、俺は待ってましたとその連打1発ずつに対して、それぞれ全てにカウンターを決めていく。

 ショットガンの速度は速い。

 速いが、それはつまり同時にその回数だけ速水の顔にカウンターが入った事を意味し……

 バタン、と。

 ショットガンを打った状態のまま、意識を奪われた速水はリングに倒れ伏す。

 するとすぐにレフェリーが近付いて来て、空中で手を交差する。

 カンカンカンと、ゴングの音が響き……俺のKO勝利が決まったのだった。

 

 

 

 

 

「それにしても、凄かったですね。アクセル選手のハンドスピードは信じられない程です」

 

 試合が終わった後、俺は控え室で記者達のインタビューを受けていた。

 本来ならこれが初試合となる俺が勝ったところで、インタビューを受けたりはしない。

 あるいは藤井のように顔見知りの記者であれば、お情けでインタビューをするかもしれないが。

 だが、今日の試合はボクシング界でも名前を知られている速水の試合だ。

 しかも今まで全勝し、1度も負けはないという速水の。

 それだけに速水を目当てにした記者は多く、だからこそ速水に勝った俺にもインタビューをする者が多かったらしい。

 

「ショットガンに対応する為に生みだした技だからな」

 

 いや、実際には技でも何でもないのだが。

 ……おやっさんが、呆れの表情を俺に向けている。

 実際には別にそれを目的に作った技という訳じゃないのは理解しているからだろう。

 

「ショットガンに対抗する為に……? その、よろしければ技のお名前を……」

 

 そう言われ、困る。

 特に技の名前というのは……いや、ショットガンか。なら……

 

「ショットガンシェルだな」

「えっと、それは……?」

 

 何人かの記者は俺の言葉に納得した様子で頷いていたが、肝心の質問をしてきた記者は分からなかったらしい。

 

「ショットガンシェルというのは、簡単に言えば撃ち終わったショットガンの空薬莢だ。ショットガンに対抗する為の技としては、悪くない名前だと思う」

 

 その説明に記者は納得したらしい。

 実際には別にそれらしい名前を適当にでっち上げただけなんだが……まぁ、それで納得して貰えるのなら、それはそれでいい。

 それにショットガンの全てにカウンターを当てたというのは、つまりショットガンの上位互換の技と認識されてもおかしくはないだろうし。

 だとすれば、これを俺の代名詞的な技にしてもいいかもしれないな。

 実際にそれを使うかどうかは分からないが、速水というフェザー級の中でも目立っていた男を倒したのだから、そのくらいのことはしてもいいだろう。

 

「なるほど、あの速水を相手にそうした勝算があったので試合を引き受けた訳ですね」

 

 別にそんな訳でもないのだが、取りあえずその言葉に頷いておく。

 それを見て、他の記者達も次から次に質問をしてくるのだった。

 

 

 

 

 

「へぇ……見ろよ、これ。『ショットガン対策にショットガンシェル! 超新星現る!』だってよ」

 

 試合の翌日、仲代ジムにやってきた俺に伊達がそう言って新聞を見せてくる。

 そこには昨日の試合の写真が載っており、伊達が言うような見出しが書かれていた。

 とはいえ、それでもやはり俺の記事が載ってるのはスポーツ新聞くらいで、普通の新聞には何もなかったし、TVのスポーツコーナーでも放映される事はなかった。

 うん、やっぱりこの世界でボクシングって人気がないんだな。

 いやまぁ、それはどのスポーツとかでも同じだけどな。

 スポーツの数というのは多いが、そのスポーツに人気があるかどうかで、扱いは大きく変わってくる。

 マイナーなスポーツであれば……それこそ、世界大会で優勝するとか、そういうのでもなければ大々的に取り上げられるような事はないだろう。

 そういう意味では、ボクシングはスポーツ新聞なら取り上げられるし、一応専門の雑誌もあるのだから、ある程度は恵まれているのだろう。

 とはいえ、野球一強の状況を崩すのは難しいだろうが。

 あ、でも今は1990年だと……Jリーグってそろそろだったりしないか?

 そう思って新聞を読んだが、どこにもJリーグの記事は載っていない。

 どうやらまだJリーグは発足していないらしい。

 Jリーグの始まる詳細な日時を覚えてる訳でもないので、そのくらいは不思議だったが。

 

「どうした? 何か気になる記事でもあったのか?」

「いや、そうでもない。他にどういう記事が載ってるのか気になっただけだ」

「……なるほど、アクセルもそういうのに興味があるのか」

 

 伊達の言葉に首を傾げたが、スポーツ新聞をよく見ると、その言葉の意味を納得する。

 スポーツ新聞には、風俗関係の記事も載っているのだ。

 ……まぁ、そっち方面に興味がないと言えば嘘になる。

 20人以上の恋人がいる身としては。

 

「ほら、新聞はもういいから。俺とスパーの時間だ。……アクセルとスパーするようになってから、自分でも信じられない程に強くなってるのが分かるからな。今のうちに強くなれるだけ強くなっておくぜ」

 

 そう言う伊達の言葉に俺はスポーツ新聞を畳んでリングに上がるのだった。

 

 

 

 

 

「新人王? 以前、藤井とかと話していた奴だよな?」

 

 速水との試合で勝利してから、それなりに時間が経つ。

 その間に他に2試合やったが、どちらも1R……どころか、1分……でもなく、1発KOで勝利している。

 ちなみに当然ながら相手は噛ませ犬という訳ではなく、外国人選手で、それも相応にキャリアを積んでいる者だ。

 何しろ速水を1Rで倒したのだ。

 その件で俺の試合を引き受けてくれる奴がいなくなり……おやっさんが苦肉の策として、外国人選手を呼んでくる事になったらしい。

 とはいえ、それで噛ませ犬を呼んできても俺の為にはならないと考えたのか、呼んできたのは海外のランカーだった。

 もっともそれでも俺があっさり勝利したのだが。

 もっとも、その甲斐もあって俺は何気にボクシング業界では有名になっていた。

 ……というか、無敗の速水を持ち上げていた層が、その速水を倒した俺に乗り換えたといった方がいい。

 自分で言うのもなんだが、俺の顔は決して速水に負けている訳でもないし、強さも申し分がない。

 そうなると、乗り換えるのに全く問題はないと判断したのだろう。

 そんな訳で、最近ではそれなりに新聞とかTVの取材が来るようになっていた。

 個人的にはそういう取材もたまにならいいんだが……頻繁に来られると、ちょっと面倒だ。

 とはいえ、仲代ジムの名前が売れるのは悪くないので、素直に受け入れていたが。

 

「そうだ。当然だがアクセルにもエントリーして貰おうと思っている。アクセルなら優勝間違いないだろうし、そうなれば以前も言ったと思うが2年連続新人王だからな」

 

 嬉しそうに言うおやっさん。

 ……まぁ、普通なら始まる前から勝った気になるのはとか言うんだろうが……うん。自分で言うのもなんだけど、伊達や鷹村より強い奴でも出て来ない限り、俺の優勝は決まったようなものだろうな。

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