転生とらぶる2   作:青竹(移住)

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番外編149話 はじめの一歩編 第05話

「アクセル、新人王のトーナメント表が出たよ」

 

 そう言い、仲代ジムのトレーナーの1人が俺に紙を持ってくる。

 そのトーナメント表を見ると……

 

「Aブロックか。って、1度勝つと次は速水か」

 

 懐かしい名前……という表現はどうかと思うが、予想外の名前がそこにはあった。

 ちなみに俺の対戦相手は荒川ジムの川口英樹という選手らしい。

 他にも宮田や間柴、一歩といった藤井から聞いたり、知り合いだったりする名前が散らばっている。

 

「アクセルなら、もしかしたらシード選手になるかもしれないと思ったんだけどな」

「まぁ、その辺は仕方がない」

 

 そう言いつつも、残念に思わないでもない。

 速水を勝利し、その後も相応の強さを持つ外国人選手に勝利している。

 圧倒的なまでの強さと、自分で言うのもなんだがルックスも悪くないので、速水を持ち上げていた者達が現在は俺を持ち上げている。

 なら、俺を第1シード……とまではいかずとも、第2シードや第3シードにしてもいいと思うんだが。

 今までの試合で1度の被弾もないという点であったり、圧倒的な攻撃力だったりで、それなりに実力は知られていると思うんだが。

 ジムの力がない……というのも、ないだろう。

 仲代ジムの規模は相応に大きいし、伊達という王者や、去年の新人王優勝の沖田もいる。

 他にも俺は詳しくないが、ランカーとかはそれなりにいるらしいし。

 また、金もある。

 ……というか、金がなければそもそも外国人選手を、それもランカーを俺の試合相手として引っ張ってくるのは無理だろう。

 そうしてジムに力があり、俺も実力が高くて3戦全部1RでKO勝利。

 なのに、何故シードじゃないのか。

 あるいは、シードはくじ引きとかで決めてるとか?

 うーん……けど、どうだろうな。速水や宮田、間柴といった、以前藤井から聞いた面子がシードになってるのを考えると……まぁ、いいか。

 そもそも余程の相手でなければ、また1RでKOする事になるんだろうし。

 

「まぁ、会長が言ってるようにアクセルなら問題ないと思うけど……実は、会長からちょっとアクセルに聞いて欲しいって言われてる内容があるんだけど」

「俺に? おやっさんが? 何だ?」

「鴨川ジムにスパーに行ってくれないかって」

「……何でまた? というか……俺が鴨川ジムに行くのは不味くないか?」

 

 改めてトーナメント表を見ると、準決勝で俺は一歩と戦う事になる。

 勿論、それはあくまでも一歩がトーナメントを勝ち抜いてきたらの話だが。

 

「ああ、いや。幕之内じゃなくて……その、鷹村とだよ」

「は?」

 

 それは俺にとっても予想外の言葉だった。

 普通、鴨川ジムにスパーをしに行って欲しいと言えば、同じ階級の一歩とのスパーを想像するだろう。

 だが、それが鷹村というのは……

 

「何でまた?」

「うちの会長は鴨川会長とも知り合いでね。それで相談されたらしい。何でも鷹村は試合相手が決まらなくて、それどころかスパーの相手もろくにいなくて、不満が溜まっているとか」

「それで俺か? ……普通に考えれば、自殺行為だと言うと思うんだがな」

 

 フェザー級の俺とミドル級の鷹村。

 階級差を考えると、普通ならとてもではないがスパーをさせようとは思わないだろう。

 勿論、お遊びのスパーとかなら別だが、わざわざ俺を呼んでのスパーとなると……うん。明らかに無謀だ。

 あくまでも客観的に考えての話で、実際にはやっても問題はないと思っているのだろうが。

 おやっさんが引き受けた理由はそれか?

 

「アクセルが嫌だと言うなら、断ると言っていた、あくまでもアクセル次第だって話だけど……どうする?」

 

 その言葉に、俺は少し考えてから口を開くのだった。

 

 

 

 

 

「ここが鴨川ジムか」

 

 結局鷹村とのスパーを引き受けた俺は、早速鴨川ジムにやって来ていた。

 この時代は防犯カメラの類もない……訳ではないが、数が少ないので、影のゲートを気軽に使えるというのは大きい。

 そんな訳で、早速鴨川ジムの扉を開けると……

 

「待ってたぜ」

 

 サンドバッグを叩いてた鷹村が、俺を見てそう声を掛けてくる。

 その目には好戦的な光があった。

 俺がスパーの相手をする為に来ると、そう予想していたらしい。

 今日の件は鴨川ジム側から話があったから、それを予想していてもおかしくはないが。

 

「俺が来なかったらどうするつもりだったんだ?」

「その時は、俺様が仲代ジムに乗り込んでいたさ」

 

 道場破りじゃないんだがな。

 そう突っ込みたくなったが、その件についてはこれ以上何を言っても無駄のように思えたので、まずはやるべき事をやっておくか。

 

「鴨川会長は?」

「待ってろ。すぐにジジイを連れてくる」

「それには及ばん」

 

 鷹村の言葉を遮るように、そんな声が聞こえてきた。

 声のした方に視線を向けると、老人がそこには立っていた。

 ただし、老人と一口で言って思い浮かべるような感じではなく、元気一杯の老人といった感じだ。

 その目には強い光が宿っている。

 そんな目で、俺を観察するように見て……

 

「すまぬが、本当にお主がこの馬鹿をスパーで倒したのか?」

 

 目の力を若干弱め、そう聞いてくる。

 無理もないか。

 今の俺は戸籍では10代後半という事になっているが、外見的には15歳くらいの姿なのだから。

 

「おい、ジジイ。俺様の言葉を疑うのか?」

「ふん……この男の外見からすれば、そのように思っても仕方があるまい」

「……だが、俺様に比べれば小物だが、速水とかいう奴を1Rで倒したんだろう?」

「お主と速水を一緒にするでないわ。……気分を悪くしたらすまんが、この馬鹿はこう見えてもミドル級のランカーじゃ。そんな相手と本気で戦って怪我をさせたら……お主も小僧と同じく新人王にエントリーしているのじゃろう?」

 

 なるほど、俺の事を心配しての言葉か。

 その頑固そうな見掛けとは違い、気遣いも出来るらしい。

 ……あ、でもそうだな。恐らくはこの世界の主人公だろう一歩の所属するジムの会長なのだと考えれば、そうおかしな事でもないか。

 

「気にするな。鷹村とのスパーで怪我をする事はないからな」

 

 取りあえず鴨川会長に心配させないよう、挑発気味に言う。

 そんな俺の挑発にピクリと反応したのは、鷹村。

 ……ちなみにジムには俺達以外にも練習をしている者達がそれなりにいるのだが、そんな者達が俺に信じられないといった表情を向けている。

 この鴨川ジムにおいて、鷹村というのはそのような存在なのだろう。

 

「ふんっ、そこまで言うのであればいいじゃろう。この馬鹿もお主を相手にやる気十分といった感じじゃからな。準備をせい」

 

 鴨川会長の言葉に頷き、俺は着替えるのだった。

 

 

 

 

 

 着替えて軽く身体を動かしてから、俺はリングの上で鷹村と向き合っていた。

 リングには鴨川会長の姿があり、他にも練習生達やトレーナーだろう者達の姿もあった。

 もし藤井がいれば、絶対に見逃さないだろうスパーだろうな。

 それを記事にするかどうかはともかく。

 

「スパーは5R。ただし3度ダウンした時点で終了とする。構わんな?」

 

 その言葉に俺と鷹村はそれぞれ頷く。

 それを確認した鴨川会長は、リングから下りるとゴングにある場所まで移動し……

 カーン、とゴングを鳴らす。

 そのゴングが鳴ると同時に、鷹村が一気に前に出る。

 仲代ジムでスパーをやった時は、伊達から俺の情報を聞いた為か最初は様子見していたのだが……どうやら今日は違うらしい。

 前回のスパーで俺の力を理解し、だからこそ今度はしっかりとやってやると思って……というか、前回一撃で負けたので、その悔しさを我慢して我慢して我慢して……それが爆発したといったところか。

 ジャブ、ジャブ、ジャブ。

 左の3連続のジャブ。

 ボクシングの世界には左を制する者は世界を制すとか、そんな感じの名言があるらしいが、鷹村の左ジャブは間違いなく一級品だろう。

 だが、俺はその全てのジャブを回避しつつ右ストレートを放つ。

 

「ぐっ!」

 

 へぇ、反応した。

 鷹村は俺の右ストレートを、肩で受ける。

 ショルダーブロックという技術だったが。

 確か防御方法の中でもかなりの強固さを持つとか何とか。

 実際、鷹村は今の一撃でロープ際まで吹き飛んだものの、それでもまだ意識がある。

 前回のスパーの時は一撃で吐いたのだが……成長してるな。

 

「嘘だろ!? ミドル級の鷹村さんが吹き飛ばされたぞ!?」

 

 リングサイドのいる男がそんな風に叫んでいるのが聞こえてくる。

 まぁ、ミドル級とフェザー級の体格差を考えれば……いや、でも一歩ならそのくらいの事は出来そうだけどな。

 そんな風に思いながら鷹村を見ると、俺の右ストレートをガードした左肩が青くなっている。

 ……うん、力加減はどうやらこの程度でよかったらしい。

 もう少し力を込めていれば、最悪鷹村の左肩の骨が折れていた可能性もあるし。

 そんな風に思っていると、再び鷹村が俺に向かって突っ込んで来た。

 今の一撃を食らっても怯える様子はなく、それどころかこうして突っ込んでくるのは……鷹村の負けん気の強さを表している。

 勿論負けん気の強さだけではなく、そこには少しでも俺に食らいつきたいという思いもあるのだろうが。

 とはいえ、この世界の人間は心構えだけで急速に強くなったりはしない。

 そういう覚醒の類は、それこそネギま世界とかでならあるだろうが……この世界ではないのだ。

 この世界であるとすれば、今までの努力の成果が実るとか、そういう感じか。

 素早く……それこそミドル級のパンチとは思えない速度で放たれる左右のジャブを身体を動かす事で回避していく。

 ちなみにボクシングにはインファイター、アウトファイター、万能型と大雑把に分けられる。

 例えば一歩のように近接戦闘の間合いで戦うのがインファイターで、速水のように足を使って素早く移動しながら戦うのがアウトファイター。そして鷹村のように両方を使うのが万能型。

 勿論これは本当に大雑把な分類で、詳細に分類するとすればもっと細かく分けられるのだが……ともあれ、その中で俺はアウトファイターという扱いになっている。

 個人的にはそんなつもりはないのだが、そういう風に認識されている以上は仕方がない。

 それに実際、それが俺に向いているのも事実だし。

 そんな訳で、アウトファイターらしくステップを踏みつつ間近で振るわれる鷹村の攻撃を回避し続ける。

 そのまま数十秒。

 鷹村にとっては全てのジャブが回避されるような状態になっており……その身体に急速に汗が浮かんでくる。

 鍛えているボクサーがそこまで汗を掻くのか?

 そう思わないでもなかったが、ボクシングにおいて空振りというのはかなり体力を消耗する。

 ましてや……自分で言うのもなんだが、前回あっさりと鷹村に勝利した俺だ。

 鷹村にしてみれば、普段通りの精神で戦えというのも無理だろう。

 コン、と。

 鷹村の鋭いジャブに合わせるように、その顎をフック……いや、より動作の小さいショートフックで撃ち抜く。

 ぶん、と。拳を振るいながら鷹村が膝をリングに突く。

 

「ぐ……が……」

 

 立ち上がろうとする鷹村だったが、足が動かない。

 当然だろう。今の一撃は顎の先端を狙って放った一撃で、それによっててこの原理で脳を揺らす……つまり、脳震盪に近い症状を起こさせる一撃なのだから。

 鷹村にしてみれば、足を動かそうとしても動かせ……

 

「は?」

 

 足は動かせないだろう。

 そう思ったのだが、予想外のことにすっくといった擬音が相応しい動きで立ち上がる。

 ……脳震盪を起こした状態で、こうして立ち上がるのか?

 というか、これって鷹村は大丈夫なのか?

 そんな疑問を抱きつつ、鴨川会長に視線を向ける。

 このままスパーを続けても大丈夫なのかという確認だったのだが……

 

「っと!」

 

 そんな俺の行動の隙を突くように、鷹村が近付いてジャブを打ってくる。

 何だ……? これは、違う?

 先程までの鷹村も、勿論強かったし、ボクサーとしても一流だったのは間違いない。

 だが、今の動きとジャブは、何かがこう違う。

 動きそのものは大きく先程までとは変わらない。

 だが、それでいながら冷静に……いや、冷酷にか? とにかく、そんな雰囲気を感じる。

 その事を疑問に抱きながら、先程よりも鋭くなったジャブを回避するが……これは、こっちの急所だけを狙っているのか?

 先程までは、当たればいいといった感じの戦い方だったのだが、今は違う。

 まさか、ここで鷹村が覚醒したのか?

 そう思うが、まさかこの状況でこのような事になるのは予想しなかった。

 だが……急所を狙うというのは、つまり狙いが分かりやすいということを意味している。

 それはつまり、カウンターを取るには最適な訳で……

 がん、と。

 そんな音と共に鷹村の頭部に一撃を放つと、リングに崩れ落ちる。

 

「そこまでじゃ!」

 

 鷹村が倒れ込んだ瞬間、鴨川会長の叫び声が鴨川ジムの中に響き渡る。

 リングの周囲にいた何人かが倒れた鷹村に駆け寄る。

 そんな中で、俺を信じられないような視線を向ける者が何人かいたが……ともあれ、これでスパーが終わったのは間違いなかった。

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