転生とらぶる2   作:青竹(移住)

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番外編151話 はじめの一歩編 第07話

 インタビューの件は、予想通り……いや、予想以上に爆発的な話題となった。

 何しろ別の放送局でもあのインタビューの一件が取り上げられる程だったのだから。

 その最大の理由は、やはり森田の一件だった。

 どうやら俺が予想していた以上に森田の人気は高かったらしい。

 そんな相手に、もし新人王で優勝したらデートをしてくれと頼んだのだから……仲代ジムには、森田のファンからの苦情の電話とかも来ているらしい。

 うん、正直ごめん。

 大きな騒動になるといいなとは思っていたが、それでもまさかここまでとは正直予想していなかった。

 ちなみに、おやっさんからはデートの件はともかく、新人王で優勝しなければボクシングを辞めるというのを問題視された。

 ……それでもそこまで怒られなかったのは、俺の実力なら新人王の優勝は半ば確定事項だからだろう。

 俺があのインタビューで伊達のスパーリングパートナーをしているというのは、嘘でも何でもない事実だ。

 そして……これは意図的に言わなかった事だが、伊達とのスパーで俺が負けた事は1度もない。

 つまり、新人王で戦う者の中にチャンピオンである伊達以上の強者がいない限り、俺の優勝は半ば確定事項だ。

 もっとも、ボクシングというのは相性の問題もある。

 例えば伊達はチャンピオンだが、一歩の攻撃力を考えると、パンチが当たれば一歩が勝利出来る可能性も十分にある。

 そんな訳で、伊達より強いからといって俺が絶対確実に勝利出来るという訳ではないのは間違いない。

 だからといって、決して俺が負けるつもりはないのだが。

 そんな訳であのインタビューについてはかなりの騒動となり……

 

「インタビュー、見たよ」

 

 新人王の2回戦、俺と速水の試合の前日の計量で顔を合わせると、速水は俺に向かってそう言ってくる。

 言ってくるのだが……何だ? 俺に対する恨みとかそういうのがないな。

 無敗の記録を破り、そしてあのインタビューにおいても速水について色々と口にしたのだ。

 そうである以上、てっきり俺を恨んでいる……そこまでいかなくても、不満を持っていてもおかしくはないと思ったんだが。

 

「その割には怒っているようには見えないけどな」

 

 そう言うと、何故か速水は周囲の様子を確認する。

 当然ながら、そこには多数の記者がいる。

 以前の俺と速水の計量の時にも結構な記者が集まってきていたが、今日はその時よりも明らかに多かった。

 それはつまり、あのインタビューが原因だろう。

 実際、仲代ジムにもボクシング関係者ではない者達からのインタビュー要請とか、場合によってアポも取らずに直接インタビューしようとする者がいたりしたし。

 そんな訳でいつも以上に……それこそチャンピオンの試合に負けないくらいの記者がいるのも関係してるのか、速水は結局俺に対して何かを言う事はなく計量を終える。

 そして計量が終われば記者達のインタビューが行われるのだが……うん、分かっていた。

 ボクシングについて詳しい記者からは具体的なインタビューをされたものの、そういうのと関係ない記者からは、本当に負けたらボクシングを辞めるのか、森田と付き合うつもりがあるのか、好きな食べ物は何か……といったような事を聞かれる。

 正直、最後の質問にはゴーヤクレープとでも答えてやろうかと思ったが、もしそれを本気にしてゴーヤクレープの差し入れをされても困るので、エビフライと言っておいた。

 それ以外の質問は適当に返事をし……最後に速水と握手をした時、後で話があると告げられるのだった。

 

 

 

 

 

「試合前にこうして会ってるのを見られると、色々と不味いんじゃないか?」

「だからこの店にして貰ったんだよ。この店は馴染みの店でね」

 

 計量が終わり、現在俺は速水と共に喫茶店の中にいた。

 計量をした場所からかなり離れた場所にあるこの喫茶店は、知る人ぞ知る隠れ家的な店といった感じか。

 店の中にはクラシックの曲が静かに流れており、店の中も客をリラックスさせられるように考えた作りになっていた。

 そんな喫茶店の中で、俺達がいるのは店の奥の方……どこからも見えないようになっている場所だった。

 俺は紅茶を一口飲む。

 ……この喫茶店の売りはコーヒーらしいのだが、紅茶派の俺にコーヒーを飲めというのが間違っている。

 速水のテーブルにはコーヒーがあり、それをブラックで飲んでいた。

 

「まぁ、問題ないならいいけどな。……それで? 俺をこんな場所に呼んで何の用件だ?」

「感謝を伝えようと思っただけだ」

「……感謝?」

 

 速水の口から出たのは、俺にとっても完全に予想外の言葉。

 八百長を持ち掛けるとか、そういう事をするとは思わなかったが、それでもまさか感謝するとはいうのは完全に予想外だった。

 

「何でまた感謝を? それこそ、てっきり恨まれてるのかとも思ったが」

 

 紅茶を一口飲むが……うん。まぁ、しょうがない。

 この店はあくまでもコーヒーが売りの店で、紅茶は取りあえず置いてあるだけらしいし。

 

「俺のやりたい事を、アクセルがやってくれたからだよ。それも俺がやるよりも劇的に」

「……速水がやりたかった事?」

「ああ、そうだよ。アクセルも知ってるだろう? 俺がビッグマウスと呼ばれていた事を。それもこれも、全て……というのは少し言いすぎかもしれないが、少しでもボクシングに興味を持って貰う為だった」

「なるほど」

 

 そう言われれば、速水が感謝の言葉を口にした理由も分かる。

 俺のインタビューはゴールデンタイムに流され、多くの者が俺に……そしてボクシングの興味を持った。

 森田へのデートの申し込みの件を考えると、ふざけるなといったような思いを抱く者もいるだろう。

 それ以外にもいわゆるアンチが大量発生しているのは間違いない。

 間違いないが、それでもボクシングが大きな注目を浴びているのは事実。

 勿論、このままだと一過性のもので、俺の試合が終われば再びボクシングはマイナーな競技となるだろう。

 だが、俺が勝利を続ける限り、そして派手に動き続ける限り、多くの者は俺に……そしてボクシングに注目する。

 現在の日本は野球一強の状態だ。

 その野球に勝つ……というのは難しいだろうが、それでも野球に次ぐスポーツとしてボクシングを持っていく事が出来ればな。

 Jリーグが出来ると、サッカーは野球に次ぐどころか、並ぶ程のメジャースポーツになる。

 そして恐らく数年以内にJリーグが発足する以上、それまでがタイムリミットとなる。

 それまでにボクシングというスポーツの地位を確固たるものにしておけるかどうか。

 俺が何故この世界に来たのかは分からないが、ボクシング漫画の世界に来たのだから、そのくらいはやってもいいだろう。

 

「お前の話は分かったが、あれは別にお前の為にやった訳じゃない。あくまでも俺の為にやった事だ。別に感謝する必要はないぞ」

「それでもだ。ボクシング界全体の事を考えれば、あのインタビューは間違いなくプラスだ」

 

 ボクシング界全体って……こういうのを、意識高い系とか言うんだったか?

 別に俺はそこまで考えてやった訳じゃないが……いや、そこまで考えていなくても、やった事そのものは違わないのか?

 

「俺にはそんなつもりはなかったが、お前がそう思うのなら感謝すればいい。……だが、言うまでもないだろうけど、明日の試合で手加減をするとは思うなよ」

「勿論だ。俺も全力で戦わせて貰うよ」

 

 その言葉を最後に、俺達は席を立つのだった。

 

 

 

 

 

 翌日、既に選手紹介も終わり、俺はリングの上で速水と向かい合っていた。

 聞こえてくるのは、速水に対する応援、俺に対する応援、そして俺に対するブーイングといったところか。

 今日、客の数はかなり多かったらしい。

 これもまた、インタビューの成果だろう。

 ちなみにリングに上がる前に確認したところ、森田の姿もきちんとあった。

 俺がリングに向かう途中に視線が合うと、笑みを浮かべて手を振ってきたので、俺もそれに手――正確にはグローブだが――を振り替えしておいた。

 当然ながら、森田のファンにはそれを見られてブーイングされたが。

 ちなみに、チケット……こういう大会で選手に支払われる金額というのは、基本的にチケットで支払われる。

 つまり、そのチケットを知り合いに売って初めてファイトマネーとなるのだ。

 今までの俺の試合もそうだったが、今回の試合は注目度が高くなっているので、特例として現金でファイトマネーを貰っている。

 ただ、森田と約束したので森田の事務所にチケットを送るようには頼んでおいたが。

 

「アクセル、随分と余裕だな」

 

 俺がこれから始まる試合に集中していないのを察したのか、速水がそう言ってくる。

 そうだったな。今はこっちの方が先だった。

 幾ら実力で勝っているからとはいえ、試合に集中しないのは速水に失礼か。

 それに……こう言ってはなんだが、俺は速水に対してそれなりに好意を持っている。

 以前まではそうでもなかったのだが、昨日の喫茶店での一件で、ただの自意識過剰な男ではなく、ボクシングというスポーツの未来を考えての事だと理解したからだ。

 それは、俺がやろうとしているのと近い。

 正確には速水の方が先にやろうとしていたというのが正しいのだが。

 ともあれ、そういう理由から俺は速水をそれなりに気に入っている。

 気に入っているが……だからといって、試合で手を抜くというつもりはないが。

 

「悪いな。きちんと集中して試合をするよ。とはいえ、以前の試合と同じ展開はごめんだぞ?」

「ショットガンシェルか。……全く」

 

 会話を交わしていると、近くにいたレフェリーが口を開く。

 

「その辺にしておくように」

 

 そうしてレフェリーから注意をされ……試合のゴングが鳴る。

 以前と同じように、右手のグローブを前に出し、速水も同様にし、グローブとグローブが接触したところで一旦退き、本格的に試合が始まる。

 速水は華麗なフットワークで俺との間合いを計る。

 おやっさんからは相手のペースに引き込まれるなと言われていたので、速水の様子を少し見て……速水が瞬きをした瞬間、前に出る。

 極限まで力をセーブしてるので、当然ながら瞬動とか程の速度は出ない。

 出ないのだが、それでも瞬きをした……つまり一瞬、本当に一瞬だけだが速水の視界が遮られたのは事実。

 普通であれば、目を開けた時に俺の姿を見つけることも出来るだろう。

 もしくは、その一瞬で動いても視界に手足のような俺の一部があれば、自然とそちらに意識が向けられる。

 だが……瞬間的に俺の姿が消えていれば、完全に俺の姿を見失ってしまう。

 俺の姿は既に速水のすぐ横にあった。

 そうして両手を使った連続パンチ……ショットガンシェルを放つ。

 本来ならこの技はショットガンにカウンターをする為の技……という設定になっているのだが、実質的にはショットガンの上位互換的な技だ。

 速度も、そして一撃の威力もショットガンよりも上のその攻撃は、速水に回避する隙間を与えずに命中する。

 1発2発3発4発5発……10発15発……そこまでいったところで、レフェリーが割って入る。

 いわゆる、ブレイクという奴だな。

 素直にそれに従い、自分のコーナーに戻っていく。

 さて、これで試合も終わりか。

 そう思ったのだが……

 ざわり、と。観客のざわめく声が聞こえてきた。

 それに気が付いて後ろを向くと、そこには立ち上がっている速水の姿があった。

 

「マジか」

 

 思わず俺の口からそんな声が出る。

 勿論、速水はかなりのダメージを受けている。

 整っている顔も腫れているし、足も震えて立っているのがやっとなのは間違いない。

 だが……それでも、立っているのだ。

 手加減しすぎたか?

 そう思ったが、先程の一撃は鴨川ジムで鷹村とスパーをした時、鷹村の意識を奪った一撃と同じくらいの威力が込められていたのは間違いない。

 それだけに、まさか速水が立ち上がるというのは信じられない思いだった。

 こう言っては何だが、今の速水は鷹村でさえ意識を失った一撃を受けて、それでもまだ立ち上がっているのだから。

 

「やれるか?」

「やれますよ。まだ試合は始まったばかりですし」

 

 朦朧としつつも、速水はそう言い……だが、レフェリーはそこでTKOを宣言するのだった。

 

 

 

 

 

「正直なところ、ショットガンシェルを食らって立ち上がるとは思わなかった」

 

 試合後、控え室で記者のインタビューを受ける。

 インタビューをしてくる記者の中には森田の件で初めてボクシングを直接見たという者もいたので、とんちんかんな質問も来たが。

 今日の昼食は何を食べましたかとか、一体それを聞いてどうする?

 そんな質問を受けながらも、藤井を始めとしたボクシング記者から出る専門的な質問にはきちんと答えていく。

 

「俺の目には、アクセル選手が一瞬にして速水選手の真横に移動したように見えましたが……速水選手も気が付いてませんでしたよね?」

「そうだな。色々と種はあるんだが……それについては秘密にしておこう」

 

 その言葉に何人か不満そうな様子を見せたが、俺はそれを気にせずインタビューを続けるのだった。

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