転生とらぶる2   作:青竹(移住)

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番外編152話 はじめの一歩編 第08話

「何で俺、こんな場所にいるんだっけ?」

「あら、今更そういう事を言うんですか? デートに決まってるでしょう」

 

 伊豆の海岸で、水着姿の森田がそう言う。

 勿論、人気のアイドルだというのを知られる訳にもいかないので、麦わら帽子の中に長い髪はしまわれ、サングラスも掛けている。

 特徴的なロングヘアーがないので、今の森田を見ても本人だとは思わないだろう。

 ……もっとも、その非常に女らしい身体……特にその巨乳は隠しようがないので、砂浜にいる男の視線を集めていたが。

 森田も自分の身体には自信がある為か、その巨乳がはっきりと分かる赤いビキニを着ているし。

 現在は8月で夏真っ盛りだけに、この伊豆に海水浴に来ている者も多い。

 そういう意味では、俺がここにいるのは問題ないのだが……

 

「大丈夫なのか?」

「何がです?」

 

 ビーチパラソルの下で横になりつつ、森田がそう聞いてくる。

 本気で分かっていないのか、それとも何かを考えてこんな感じにしてるのか。

 その辺は生憎と俺にも分からないが、本人がこうして気楽にしているのを見れば、問題はないのだろう。

 

「アイドルが男と……それも自分で言うのはなんだが、噂の相手と海に来てるのがだよ」

「日帰りだから大丈夫ですよ。それに……私ももう少しアクセルさんと話してみたいと思っていましたし」

 

 森田が言うように、今日のデートは日帰りの予定だ。

 だが、日帰りデートでも国民的なアイドル……とまではいかないが、アイドルとしてかなり顔が知られている森田が俺とデートしてるのを知られれば、問題になりそうな。

 あくまでもイメージだが、この1990年代のアイドルって男とデートをしているだけでも大問題になったりそうだし。

 その辺についてはあまり詳しくないから分からないが……まぁ、いいか。森田からの誘いなんだし。

 

「分かった。なら……どうする? ちょっと泳ぐか?」

「うーん、波打ち際で遊ぶのはともかく、本格的に泳ぐとなると麦わら帽子とか邪魔になるので……」

 

 そんな訳で、俺と森田は波打ち際で遊ぶ事にした。

 捕まえてごらんなさーいという奴をやっても面白いと思ったのだが、海水浴に来た者達が多くて、とてもそういうのが出来る様子ではない。

 そんな訳で、波打ち際で海水を掛け合いとか、そういう事をして遊んでいたのだが……

 

「は?」

 

 森田と遊んでいる時、不意に目に入ってきた光景にそんな声が出る。

 

「アクセルさん? どうしました?」

 

 今更ながら、俺の名前を呼ぶのはいいのか? そう思ったが……まぁ、他の海水浴客も自分達の事で精一杯なので問題はないのだろう。

 もし問題があるとしても、俺の名前を口にしたのはあくまでも森田なので、その辺については気にしないでおこう。

 

「いや、あれ……」

 

 俺が森田にとある方向を指さすと、そこには砂浜の中を走っている4人の男達の姿があった。

 その4人のうち、2人は見覚えがある。

 鷹村と一歩だ。

 残りの2人も、以前俺が鴨川ジムにスパーに行った時にいたような……

 そんな風に見ていると、やがて鷹村が俺の視線に気が付いたのか、不意に足を止める。

 他の3人はそんな鷹村の様子に疑問を抱いているようだったが……やがて鷹村が見ている俺の方を見ると、驚愕の表情が浮かぶ。

 やがて鷹村がずんずんといった様子でこっちに向かってくる。

 

「久しぶりだな、鷹村。まさかこんな場所で会うとは思わなかったが」

「そうだな。俺もまさかここでアクセルと会うとは思っていなかったよ」

 

 ……俺?

 鷹村の一人称は、俺様だったと思うんだが。

 あれ? それとも前から俺だったか? ……いや、違うな。多分俺様で間違いなかった筈だ。

 

「俺様じゃないのか?」

「ふんっ、お前に呆気なく負けたからな」

 

 不満そうに鼻を鳴らす鷹村。

 俺に負けたから、俺様から俺に一人称を変えたのか?

 まぁ、そういうものだと理解すれば納得は出来るが。

 

「それで? こうして4人で走っているところを見ると、合宿か?」

 

 聞いた話だと、今月鷹村はミドル級のチャンピオンとの試合がある筈だったし、一歩も新人王の試合がある筈だ。

 他の2人もこの合宿に参加している以上、試合があるのかもしれないな。

 

「そうだ。……アクセルはデートか? ふん……」

 

 不満そうにしながらも、鷹村の目は森田の身体に……水着姿にしっかりと向けられていた。

 一歩も顔を隠しながらも何度か見ているし、俺が名前を知らない2人のうち、片方はじっと見ている。

 パンチパーマの男は、唯一特に興味がないといった様子だったが。

 

「ん? おい、ちょっと待て。この身体……もしかして……」

 

 あ、これ何か不味い?

 鷹村の様子からすると、変装をしている森田の姿に気が付いたのかもしれないな。

 そんな風に思い、俺は鷹村達の視線に怯えたのか、俺の後ろに隠れていた森田を連れてその場から離れるのだった。

 

 

 

 

 

 森田とデートをしてから3ヶ月程……俺は明日、一歩との試合があるので、計量に来ていた

 実際には速水との試合の後でもう1試合あったのだが、そっちは1Rどころか1発でKOしてしまったので、本当に通過点といったところだった。

 ちなみに森田とのデートの一件については、全く情報が広まっていない。

 そんな訳で、特に騒動もなく……いやまぁ、まだあのインタビューの影響が残っているので、それなりに騒がしかったりもするのだが。

 ともあれ、それでも特に騒動もなくこうして一歩との試合の前日までやって来たのだ。

 そうして俺は計量でOKを貰い、続いて一歩も計量をする為に服を脱いだのだが……

 ざわり、と。

 一歩の身体を見た記者達……特にボクシング専門じゃなく、あくまでもあのゴールデンタイムのインタビューからボクシングの取材をするようになった者達がざわめく。

 

「凄いな、あいつの身体」

 

 今日もまた、俺の付き添いとしてやってきた伊達の口からそんな言葉が漏れる。

 実際、一歩はそこまで背が高い訳ではないが、その身体はみっしりとした筋肉で覆われている。

 それに対すると、俺の身体は引き締まって筋肉はついているが、一歩の身体のように見て分かるような筋肉ではない。

 インナーマッスルだったか? あれ? ちょっと違うかも。

 ともあれ、俺の身体はそんな感じで決して一歩のような迫力がある訳ではない。

 

「そうだな。羨ましいとは思う」

 

 俺と伊達が話している間に一歩の計量が終わると、恒例のインタビューとなる。

 

「その……精一杯頑張ります!」

 

 一歩の性格からすると、こういう感じなるのは仕方がない。

 だが、俺の場合はボクシングを多くの者に知って貰う為に、印象的な……センセーショナルと評してもいいかもしれないが、そういうのを求められている。

 

「一歩の拳の破壊力は知っている。俺が言うのもなんだが、これまでの試合のKOの多さから、それは明らかだ。だが……それは俺も同じ事が言える。全試合1RKOの実力、しっかりと見せてやろう。それに……俺は東新人王だけじゃなくて、全日本新人王でも優勝しないと森田とデートが出来ないしな」

 

 そう言った瞬間、何人かの記者の目が光る。

 

「アクセルさん、やはり新人王になるのは彼女とのデートを為なんでしょうか?」

 

 選手ではなくさんづけで呼んでる時点で、ボクシングに詳しくないのは明らかだな。

 

「そうなったら嬉しいとは思うが……それを阻止したい奴がいたら、一歩に期待するんだな」

 

 そうしてインタビューはもう少しだけ続くのだった。

 

 

 

 

 

「お前、本当にあの子を狙ってるのか?」

 

 伊達がパスタを食べながら、呆れたようにそう言ってくる。

 計量が終わり、現在俺は伊達と一緒にパスタ専門店にいた。

 ……正直なところ、伊達がこういうお洒落な店を知ってるのはちょっと驚きだったが、聞いた話によると伊達が以前家族でこの店に来た事があったらしい。

 とはいえ……1990年という事もあって、そこまで目新しいメニューはなかったが。

 ただ、タラコパスタがあったのは嬉しい。

 タラコパスタってもっと後で出来た料理だとばかり思っていたんだが。

 

「どうだろうな。向こうにしてみれば、俺は面白い奴って感じだと思うけどな」

 

 一見すると森田というのは打算とかを考えるようには思えない。

 だが、実際に以前のインタビューの時の会話からすると、そういう訳ではないのは明らかだ。

 それに……何だかんだと、芸能界で売れている存在だ。

 その辺の駆け引きとか、普通に出来てもおかしくはないだろう。

 つまり、打算で俺に近付いてきたといった可能性も否定は出来ないのだ。

 勿論、それが悪いという訳ではない。

 最初は打算でも、一緒にいるうちにそういうのを抜きにして好意を抱くというのは十分にあるのだから。

 

「はぁ……全く、言っておくがくれぐれも問題行動は起こさないでくれよ? ただでさえ、今のジムはクレームが入ったりするんだからな」

「その辺は悪いと思ってるよ」

 

 ある程度の騒動は予想していたが、まさかここまで酷いとは思わなかったというのが正直な感想だ。

 おやっさんは気にするなと言ってくれてるが……いっそ、問題行動を起こした奴を訴えるとかした方がいいのかもしれないな。

 そんな風に考えつつ、減量後のパスタを楽しむのだった。

 ……もっとも、俺は減量らしい減量はしていないので、その辺の苦労は全くなかったのだが。

 聞いた話によれば、一歩も俺と同様に減量苦というのはないらしい。

 そういう意味では、俺と一歩は似ているのかもしれないな。

 

 

 

 

 

 翌日、俺はレフェリーの紹介……色々と盛りに盛った紹介だったが、とにかくそんな紹介を聞きながらリングに上がる。

 その途中で観客席にいる森田と目が合うと、森田は笑みを浮かべながら手を振ってくる。

 そんな森田に手を振り返すと、森田のファンなのだろう者達のヤジを受けながらも、リングの上に上がる。

 既に一歩もリングの上にいて、俺を待っていた。

 昨日見た時と同じく、その身体はとてもフェザー級の選手とは思えない程の筋肉がついている。

 一体どういう訓練をすればここまで筋肉がつくんだろうな。

 ちょっと羨ましいと思ってしまう自分がいる。

 そんな一歩は、俺の方を見ると闘志に満ちた視線を向けてきた。

 普段の気弱な性格とは違うな。

 これが、ボクサーとしての一歩なのだろう。

 そう考えていると、レフェリーがそれぞれに注意事項を告げる。

 そしてゴングが鳴り……俺の伸ばした手に一歩も自分のグローブを当て、本格的に試合が開始された。

 今までの敵は、最初は様子見をするといった行動だったが、一歩はグローブで顔の前を隠すような……ピーカブースタイルだったか? それで突っ込んで来た。

 ちなみに俺の構えはオーソドックスなスタイルだ。

 その踏み込みは素早く、一瞬の速度だけで考えれば伊達をも上回る。

 そんな一歩を見ながら、咄嗟に後ろに跳ぶ。

 ぶん、と。

 空気を斬り裂く……というよりは、殴り砕くかのような音が聞こえてきた。

 一瞬前に俺の身体があった場所を、ボディに対する一撃が通りすぎた音だった。

 これはまた。

 プロ試験で見た時と比べても、一段とパンチの威力が上がっているな。

 ボクシングにおいて、パンチ力というのは天性のものだ。

 勿論、身体を鍛える事で誰でもある程度までは延びる。

 だが、一定以上からは生まれ持った身体能力や体質による。

 この辺、魔法に似ているよな。

 そんな風に思いつつ、一歩が瞬きをした瞬間にリングを蹴って前に出て、一歩の横に回り込む。

 速水との試合の時に見せたのと同じ動きだったが……

 

「んんんんんっ!」

 

 ショットガンシェルを放った瞬間、一歩は横からの一撃であるにも関わらず防御を固める。

 ピーカブースタイルは、ボディの守りは弱いが、その分顔の守りは強い。

 そして今までの俺の試合は、基本的に頭部を殴ってのKOだった。

 また、一歩の身体を見れば筋肉の塊である以上、腹筋も相応に鍛えられており、俺のパンチにもある程度は耐えられると判断したのだろう。

 なるほど、そう考えるとピーカブースタイルというのは悪くない選択だったらしい。

 それに、こうも早く防御したとなると……俺が何をやったのか、気が付いているのか?

 

「っと」

 

 ショットガンシェルの連打に耐えながら、一歩がフック気味の一撃でボディを狙ってくる。

 その一撃をパリィ……いや、パーリングだったか?

 ようは一歩の拳を狙ってパンチを出して弾く。

 その瞬間、一歩は信じられないといった驚愕の表情を浮かべる。

 今の一撃はそれだけ一歩にとって自信のある一撃だったのだろう。

 実際、俺の手に返ってきた衝撃もかなり強かったし。

 そんな風に思いつつ、俺はジャブを放つ。

 ただでさえボクシングのジャブは格闘技の中で最速の一撃と評される。

 そんなジャブを俺が放てば……ショットガンシェルとはまた違う、1発しか打ってるように見えないのに、5発が連続して一歩の顔に命中する。

 ショットガンシェルとはまた違う攻撃方法。

 とはいえ、それでもジャブである以上はどうしても攻撃の威力は劣る。

 一歩はジャブによって顔を腫らしつつも、それを耐えながらこちらに踏み込んでくるのだった。

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