転生とらぶる2   作:青竹(移住)

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番外編153話 はじめの一歩編 第09話

 1Rも残り1分。

 その頃になると、一歩の顔は腫れ上がり、とても見られるような状態ではなかった。

 鼻と口も膨れ上がり、傷つき、裂け、息をするのも難しいのではないかと思える程の状態。

 それでも一歩は諦めず、何とか俺に一撃を与えようとしてくる。

 しかし、その攻撃は全て回避し、もしくはパーリングで打ち落とす。

 そんな一歩に対し、俺は全くの無傷……どころか、汗も掻いていない。

 鴨川会長がタオルを握り締めている。

 このままタオルを投げるか、あるいは試合を続けさせるのか迷っているのだろう。

 ジャブだけとはいえ、普通のボクサーならこれだけ俺のパンチを食らえば気絶していてもおかしくはない。

 あるいは、顎の先端を揺らすようにして脳震盪が起こっているか。

 ただ、一歩は愚直なまでにピーカブースタイルを貫き、顔……特に顎を守っていた。

 俺が今まで何度か顎の先端を狙い、脳震盪を起こすような一撃を放ってきたのを知っているのだろう。

 一歩が打たれ強いのは間違いない。

 筋肉の鎧もそうだが、一歩自身が我慢強いというのもある。

 そんな一歩でも、脳震盪はどうしようもない。

 その為、顎の守りを外すことはするなと、指示されているのだろう。

 このまま一方的に攻撃し続けるのもどうかと思うし、1Rでの勝利についても、ボクシングを盛り上げるという意味では逃すことが出来ない。

そうなると、ここで一気に倒してしまった方がいいな。

 そう判断すると、俺は一気に前に出る。

 一歩の顔が腫れ上がった事で唯一一歩にとって有利になったのは、瞬きをするのを俺に見抜かれなくなった事か。

 そんな風に思いつつ、俺は一歩が迫ってくるのを待ち……こちらの狙いに気が付かれないよう、ジャブを放つ。

 一瞬にして放たれる5発のジャブが全て一歩の顔に命中する。

 これ、慣れればもっとジャブの数を増やせるな。

 そう思っていると、一歩が俺のボディを狙ってパンチを放ち……

 

「いかん、小僧! 罠じゃあっ!」

 

 不意に聞こえてきた鴨川会長の声。

 凄いな。別に罠と見破られるような行動はしてなかった筈だが、一体どうやって見ぬいたんだ?

 そんな風に思いつつ、俺はカウンターとして左フックを放つ。

 一歩が俺の腹に一撃を狙うということは、ピーカブースタイルが崩れたことを意味している。

 そして一歩の右拳が俺のボディを狙うという事は、必然的に俺から見て左側は空いてる訳で……ボディの一撃にカウンターとして左フックを放ち、その一撃が一歩の顎の先端に擦るように命中すると、てこの原理によって激しく脳が揺らされ……そのまま一歩は白目を剥いてリングに崩れ落ちるのだった。

 

 

 

 

 

「強いのはそうだったが、何より防御力が高かったな。まさかあそこまで俺の拳に耐えられるというのは、予想外だった」

 

 KOで勝利した後、俺は控え室で記者達のインタビューを受けていた。

 昨日の計量の時も結構な人数がいたと思ったが、今日はそれを上回る数の記者がいる。

 それだけ注目を集めているという事なのだろう。

 

「その割には、アクセル選手にしては倒すのに時間が掛かったと思いますが? パンチ力不足なのでは?」

 

 嫌味ったらしい様子で1人の記者が聞いてくる。

 ……ボクシングに詳しい記者に呆れの視線を向けられているのに気が付いているのか、いないのか。

 

「そうだな。今までの試合の全てを1RでKO勝利しているけど、俺のパンチ力は足りないのかもしれないな」

 

 クスクスと、俺の言葉に他の記者達から笑い声が漏れる。

 俺にパンチ力不足だと口にした記者は、顔を真っ赤にしながらこっちを睨み付けていた。

 ……まぁ、ボクシングに詳しければ、1RでKOをしてきたからといって、パンチ力が十分にあるとは言えないというのは分かるのだが。

 一発のパンチで相手をKOするのに対し、俺の場合は1発のパンチではなくショットガンシェルのように多数のパンチを叩き込んで気絶させたり、あるいは今日のように顎の先端を狙って脳を揺らしてKOしているのだから。

 とはいえ、ボクシングについて詳しくなければ、その辺は分からず、だからこそ記者も何も言い返せないのだろう。

 ともあれ、その記者以降は馬鹿な質問をする者はおらず、ボクシングの試合らしい質問が行われる。

 

「幕之内選手はアクセル選手のパンチにこれまでにない程に耐えましたが、何故だと思いますか?」

「それだけ鍛えてきたんだろうな。一歩の身体を見れば、どれだけ鍛えてきたのかは分かりやすいだろう?」

 

 記者が俺の言葉に納得する。

 実際、今までの試合とは違って、一歩は俺の攻撃に耐えたのだから。

 そこまで鍛えた一歩も凄いが、そういうメニューを作った鴨川会長も凄い。

 ……さすがこの世界の主人公だけはあるな。

 

「決勝の相手は宮田選手か間柴選手になると思いますが、どちらが出てくると思いますか?」

「間柴とは、一緒のプロ試験だったからどういう戦い方なのかは分かっているが、宮田の方は直接見てないんだよな」

 

 勿論録画された映像では見たが、やはりこういうのは直接自分の目で見ないと何とも言えない。

 

「ただ……宮田は元々鴨川ジムにいたと聞く。そこで育った選手である以上、弱いとは思わないけどな。とはいえ、アウトボクサーとは相性がいい。そういう意味では、フリッカージャブを使う間柴よりは宮田に勝ち残って欲しいとは思う」

 

 その言葉に、何人もの記者がメモを取る。

 実際、これは俺にとって正直な気持ちだ。

 勿論、俺の身体能力と五感があれば、普通のジャブと違って不規則な軌道を描くフリッカージャブであっても回避は出来るだろう。

 だが、戦う上でやはり有利……というか、やりやすいのは宮田だろう。

 別にこれは宮田が弱いと言っている訳ではなく、単純に宮田が真っ当な……奇をてらうような事をしてくる訳ではないボクサーだからだ。

 映像で見た限りだと、典型的なアウトボクサーでカウンターの名手といった感じだ。

 そういう相手である以上、俺にとっては戦いやすい相手なのは間違いなかった。

 

 

 

 

 

「は? 本当か?」

 

 一歩との試合が終わってから数日。

 俺はその知らせに少しだけ驚く。

 だが、おやっさんは俺の言葉に頷く。

 

「そうだ。宮田と間柴、勝利したのは宮田だ」

「……なるほど」

 

 いや、でも考えてみれば不思議でもないのか?

 この世界がボクシング漫画、あるいはアニメかゲームかは分からないが、とにかくボクシングがメインの原作の世界なのは間違いない。

 そして俺という存在がいなければ、主人公の一歩が恐らく決勝戦に進んでいた筈で、そうなると決勝戦で一歩と戦うのは同じジム……つまり、何らかの因縁のある宮田というのは、おかしな話ではない。

 とはいえ、そうなると……間柴は一体どういう存在なんだ?

 プロテストでの一件から、間柴は一歩にとってのライバルになるのだとばかり思っていた。

 そんな風に考えていると、おやっさんが複雑な表情をしているのに気が付く。

 

「おやっさん? 何かあったのか?」

「あ、いや。……アクセルにはもう関係のない話なんだが、昨日の試合でちょっとな」

「昨日の? 宮田の試合か?」

「……聞いても面白い話じゃないぞ?」

 

 俺の様子から、話さないと理解されないとでも思ったのか、おやっさんは不承不承口を開く。

 昨日の宮田と間柴の試合において、不利になっていた間柴は宮田の足を踏んだらしい。

 宮田はアウトボクサー……つまり、足を使って敵の攻撃を回避するのだが、その足を踏まれてしまえば間柴の攻撃は回避出来ない。

 ましてや、間柴は痩せ気味だが身体は大きいので、フェザー級の選手としては一撃の威力が強い。

 一歩には劣るだろうが。

 間柴にしてみれば、そこまでやらなければ勝てる相手ではなかったのだろうが……宮田は足を踏まれた状態であっても間柴の攻撃を回避し、カウンターを打ち込んだらしい。

 結局それが決め手になって、宮田の勝利となったとか。

 

「間柴にしてみれば、踏んだり蹴ったりだな。文字通りの意味で」

「そうだな。今日のスポーツ新聞でも結構酷評されてるよ」

 

 だろうな。

 あるいは卑怯な手を使ってでも、勝利していればまた話は別だったかもしれない。

 だが、そんな卑怯な手を使った上で負けてしまったとなれば……間柴の評判は駄々下がりだろう。

 勿論、勝っても評判は下がっていただろうが。

 ただ、スポーツにおいてはレフェリーが気が付かなければ反則ではない。

 ……ある意味、それもまた技術なのだ。

 

「とはいえ、足を踏んだのが意図的かどうかは分からないだろう?」

「いや、試合後のインタビューで意図的だと本人が口にしたらしい」

「……何でまた?」

 

 もし意図的なものであっても、あるいは意図的ではないにしても、わざわざそれが意図的だったと口にする必要があるのか?

 そんな疑問を抱くが、おやっさんも首を横に振る。

 

「さあな。俺には分からん。ただ、選手の中には悪ぶりたい奴もいる。間柴はそういう性格だったのかもしれないな。……ともあれ、決勝の相手は宮田だ。アクセルなら問題はないと思うが、どう試合を進める?」

 

 間柴の話は終わり、宮田との戦い方について話題が移る。

 

「相手がカウンターの名手である以上、どうやってカウンターを受けないようにするか……ってのが普通なんだろうけどな」

「アクセルに普通は求めるのは無意味だろ」

「カウンターに対するカウンター。アウトボクシングにはアウトボクシングで挑もうとかと思う」

 

 今までの試合も、俺はそれなりに足を使っていた。

 だがそれでも、インファイトの間合いで戦っていたのも事実。

 本格的に足を使って戦ってみるのもおかしな話ではないだろう。

 言うまでもなく、宮田は俺との試合を前にしっかりと対策を練ってくる筈だ。

 今までの試合のビデオとか見て。……DVDとかじゃなくて、VHSなんだよな。

 その辺も1990年代らしい。

 DVDっていつから使われるようになったんだったか。

 確かDVDと競合した別の奴もあった筈だが。

 まぁ、その件については別に今ここで考えなくてもいいので気にしないとして。

 とにかく宮田も俺の試合のビデオを見て対策を練っているのは間違いない。

 ……間違いないとか思っておきながら、実は宮田がそういう研究をしないタイプだったりしたら自意識過剰としか言いようがないな。

 とはいえ、俺は自分で言うのもなんだが、色々な意味で特殊だ。

 これまでの全ての試合を1Rで、それもKOで勝利しているのが俺だ。

 また、試合ごとにショットガンシェルであったり、瞬きの瞬間に動いたりといったことをしているので、それらを分析する為にはしっかりとビデオを見る必要がある筈だった。

 

「アウトボクシングか。アクセルならその辺についての心配もいらないだろうが……ただ、宮田は素質も一級品だ。咄嗟の時の危機対処能力が高いのも、間柴戦ではっきり分かってるしな。そういう意味ではアクセルとの相性はちょっと悪いのかもしれないな」

「真っ当なボクサーという意味では相性が良くて、危機対処能力的な意味では相性が悪いのか。複雑だな」

「笑い事じゃない。……まぁ、アクセルの事だから心配はないと思うが、それでもいつ何があるのか分からないのがボクシングだ。間柴に足を踏まれても冷静に対処した宮田の能力は決して侮っていいものじゃない」

 

 真剣な様子でそう言ってくるおやっさんに、俺は分かっていると頷く。

 おやっさんも別に、俺が負けると思って今のようなことを言ってる訳ではないのだろう。

 それだけおやっさんから見て、宮田というボクサーは完成度の高い存在なのだろう。

 

「宮田はいいボクサーかもしれない。けど……伊達と比べたら、どうだ?」

「それは……」

 

 おやっさんにとって本当の意味で最高のボクサーというのは、伊達だ。

 いやまぁ、そんな伊達を相手にスパーで全勝してるのが俺なんだが。

 ただ、俺は色々な意味で特殊……それこそ突然変異と呼ぶに相応しい存在だしな。

 だからこそ、おやっさんにとって俺は最強のボクサーではあっても、最高のボクサーではない。

 伊達こそが、おやっさんにとっては最高のボクサーなのだ。

 そんな伊達と比べると、宮田はやはり劣る。

 ……実際、もし伊達と宮田が試合をしたら、間違いなく伊達が勝つだろう。

 そんな伊達より強い俺なのだから、宮田に負けるつもりは全くなかった。

 もっとも、こういうのはお互いの相性というのもある。

 AとBではAが強く、BとCではBが強い。

 なら、AとCが試合をした場合、必ずしもAが勝利をするかと言われれば……それは否だ。

 それこそ戦闘スタイルの相性であったり、その日の体調によってCがAに勝利する可能性は十分にある。

 もっとも今回の場合、俺が混沌精霊で宮田が人間であるという時点で覆しようもない程の差があるのだが。

 実力差ではなく、性能差とでも呼ぶべきものが。

 もっとも、混沌精霊として全力を出す訳にはいかないので、そういう意味ではもしかしたら宮田にも勝ち目は……うーん、正直どうだろうな。

 そんな風に思いつつ、俺は宮田との試合前の計量の日を迎えるのだった。

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