転生とらぶる2   作:青竹(移住)

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番外編154話 はじめの一歩編 第10話

「アクセル選手、OKです」

 

 計量の日、いつものように特に苦労することなく計量をパスした俺は、先に計量をパスした宮田を見る。

 少し苦しそう……か?

 減量というのは、ボクサーにとって必須のものだ。

 俺や一歩のような特殊な例を除いては、それこそ食事制限は当たり前、水も極限まで飲まないようにし、サウナで汗を掻く。

 ……これは嘘か本当か分からないが、どうしても体重を落とせないボクサーが、一時的に血を抜いて計量をパスしたという事もあったらしい。

 宮田はそこまでではないが、減量にかなり苦しんだのは間違いない。

 というか……フェザー級として考えると、結構身長が高いよな。

 減量で苦しんでいるのは、その辺も関係してるのかもしれないな。

 

「その、インタビュー……構いませんか?」

 

 俺と宮田がお互いを見ていると、記者の1人がそう言ってくる。

 記者にしてみれば、少しでもこの試合を盛り上げたいところなのだろう。

 森田のインタビューの件もあって、俺はそれなりに有名になっている。

 ……ただ、自分で言うのもなんだが、俺が森田を口説こうとしている……もしくは狙っているように見える件もあり、女のファンはあまり増えていないが。

 かといって、男のファンが増えているのかと言われれば、それもまた微妙だ。

 森田はアイドルとして人気が高いので、その森田を狙っている俺が気に食わない男は多い。

 勿論、中にはそういうのが凄いといったようにファンになってくれる者もいるが。

 うーん、これはちょっと失敗だったか?

 そう思わないでもなかったが、既にこの方向でインタビューを受けてしまった以上、どうしようもない。

 ともあれ、俺のファンは微増といった感じか。

 そして、宮田は宮田で顔立ちが整っているので、女のファンが多かったりする。

 ボクシングの記者や、TV局にしてみれば、自分で言うのも何だが美形同士の戦いという事で話を盛り上げやすい。

 ましてや俺のインタビューのお陰で、現在ボクシングはそれなりに話題になっている。

 ここで一気にボクシングをブームにしたいと、そう思っての行動なのだろう。

 

「俺は構わない」

「俺もそれで問題ない」

 

 俺と宮田がそれぞれ答えると、記者達がほっとした様子を見せる。

 俺はともかく、宮田はぶっきらぼうな雰囲気があるしな。

 あるいはストイックと称してもいいかもしれない。

 そんな訳で、決して人当たりがいい訳ではないのが宮田だ。

 

「お互いに、明日が初めての対戦となりますが、勝算はありますか?」

 

 宮田が視線で促してきたので、俺が最初に答える。

 

「宮田はかなり完成されたボクサーだ。それは間違いない。だが……だからこそ俺にとって戦いやすい相手ではある」

 

 その言葉が面白くなかったのか、宮田は一瞬俺を睨む。

 だが、すぐに視線を逸らすと、次は自分の番だと口を開く。

 

「アクセルが強いのはこれまでの試合を見ているので知っている。だが……俺も負けるつもりで試合に挑む気はない。あいつを倒したお前に負ける訳にはいかないからな」

 

 あいつというのは、やはり一歩の事だろう。

 宮田的には、やはり決勝の相手は俺ではなく一歩が良かったのだろう。

 宮田にとって運が悪かったのは、一歩がAブロックで宮田がBブロックだった事か。

 もしこれで宮田と一歩がどちらも同じブロック……それも俺と違うブロックであれば、決勝までに宮田と一歩の試合が行われていたのかもしれないのだから。

 とはいえ、それが分かるのは俺が一歩から色々と話を聞いたからだろう。

 質問をした記者は、宮田の言葉の後半部分の意味が分からずに首を傾げている。

 藤井を始めとした何人かの記者は、宮田が元鴨川ジムであるというのを知っているので、その言葉の意味を理解して頷いていたが。

 

「森田クミコさんが毎試合応援に来ていると聞いていますが、お二人の関係は?」

「インタビューで言った通り、俺が新人王になったらデートをする約束をしている」

 

 海にデートに行ったという話は広まっていないらしい。

 まぁ、その件を知ってるのは……森田の事務所の者達か?

 鷹村には微妙に森田の変装を見破られたような気がしないでもなかったが、その辺は特に問題になっていないので気にしないでおく。

 

「えっと……でも、毎試合見に来てるんですよね? そうなると、向こう側にも脈があるのでは?」

「だと嬉しいけどな」

「失礼。今までアクセル選手は試合をする度に信じられない技術を見せてきましたが、次の試合にもそのようなものはあるのでしょうか?」

 

 俺と森田の関係をしつこく追及してくる記者の質問を遮るように他の記者が……ボクシングに詳しい記者が質問してくる。

 質問に割り込まれた記者は不満そうな様子を見せていたが、俺はそれを無視して新しい質問に答える。

 

「その辺は見てのお楽しみだな」

「そうですか。では、楽しみにさせて貰います。……宮田選手の方はどうでしょう?」

「対抗策は練っている。ここで具体的に何かというのを言うつもりはないがな」

「ありがとうございます」

 

 そうしてインタビューは少し荒れつつも、何とか終わるのだった。

 

 

 

 

 

 計量の翌日、俺は試合会場に向かっていた。

 そんな俺の後ろには、おやっさんと伊達、他にも何人かがいる。

 人数がここまで多くなったのは、やはり今回の戦いが東日本新人王戦の決勝戦だからだろう。

 そんな風に思いつつ、会場に出る。

 

『さぁ、アクセル選手の登場です! これまでの試合で多くの者を驚かせてきたその実力は、今日も見せてくれるのか。新人王にならなければ、ボクシング選手を辞めるとまで言ってるのだから、ここで負ける事は避けたい筈。背水の陣で戦うアクセル選手の強さからは目が離せない!』

 

 そんな声を聞きつつ、リングに向かう。

 すると分かりやすい場所……俺から見つけやすい場所に森田の姿があり、俺と目が合うと手を振ってくる。

 そんな森田に手を振り返すと、そのままリングに上がる。

 俺に続いて宮田が試合会場に入ってくると、何人もの女が黄色い悲鳴を上げていた。

 うーん……こうして見ると、女のファンの数ではやっぱり負けているな。

 やっぱり森田との関係によるものだろう。

 そんな風に思っていると、レフェリーが近付いてくる。

 リングの中央で俺と宮田は向き合う。

 レフェリーからの諸注意が行われ……そして、ゴングが鳴る。

 いつものように右グローブを前に差し出すと、宮田も同様に右グローブを前に出し、そしてグローブが合わさった瞬間、宮田は動き出す。

 素早いその動きは、さすがと言うべきだろう。

 アウトボクサーのお手本のように、リングの中を自由に動き回る。

 それを見た会場の観客達からは、感嘆の声が聞こえてくる。

 それを暫く見ていたが……さて、俺もいつまでもこのままという訳にはいかないし、行動に移させて貰うか。

 キュ、キュ、と。宮田に負けないようにリングの上を移動する。

 一瞬、宮田の表情が驚きに染まる。

 まさかここで俺がこうして足を使ったボクシングをするとは思わなかったのだろう。

 宮田にしてみれば、俺の為に用意してきた対策の意味がなくなってしまった形だ。

 伊達と何度も……それこそ数え切れないくらいにスパーをやってるのだから、俺にとってもこのくらいの芸当は出来る。

 こうしてリングの上では、俺と宮田がそれぞれに動き回る。

 とはいえ、いつまでもこのままだと観客も飽きるだろう。

 それに俺の1RでのKO記録を途切れさせる訳にもいかない。

 そんな訳で、リングの上を移動する速度を一気に上げる。

 

「っ!?」

 

 いきなり目の前に現れた俺の姿に驚き、宮田は半ば反射的にジャブを打つ。

 そのジャブに合わせ、カウンターを放つ。

 俺は顔を動かしてジャブを回避し、宮田の唇にこちらのパンチが当たる。

 

「へぇ」

 

 少しだけ驚きつつ、俺は宮田から距離を取った。

 今の一撃、俺が狙ったのは宮田の顎先だ。

 一歩の時と同じく、顎先を揺らして脳震盪を狙ったのだが、宮田は反射的に顎を引き、唇で俺の拳を受けたのだ。

 マウスピースと俺のグローブによって、宮田の唇が切れる。

 とはいえ、唇が切れるのはボクシングをやっていれば珍しくはない。

 ……俺は今までそういう経験はないが。

 脳震盪を起こす事は出来なかったが、それでも宮田にそれなりのダメージはあった筈だ。

 だが、宮田はそのダメージを気にした様子もなく、素早く動く。

 勿論ダメージを感じていない訳ではないだろうが、唇に対する一撃だったので、そこまでダメージそのものは大きくなかったのだろう。

 それを感じつつ俺を近づけまいと鋭く打ってくるジャブを回避しながら……

 

「ふっ!」

 

 カウンターを放つ。

 ただし、今度はボディに対してのカウンターだ。

 足を使うボクサーとの戦いでは、腹を狙うのがセオリー。

 それに腹は顔と違って動かしにくく、攻撃する方にしてみれば命中させやすい。

 ……実際、一歩も俺の腹を狙ってきたしな。

 そんな訳で放った一撃だったが……

 

「あれ?」

 

 片膝をリングに突いた宮田を見て、そんな声が漏れる。

 どうやら宮田は、俺が顔を狙ってくるのだとばかり思っていたのだろう。

 実際、今までの試合でボディを狙った事は殆どなかったし。

 だからといって、俺が絶対にボディを狙わないとは宮田も思っていなかっただろう。

 だが、それでもやはり顔を狙ってくるという認識が強く……だからこそ、今の一撃をまともに食らったのだろう。

 そして宮田にとって不運だったのは、アウトボクサーだった事だろう。

 もしこれが一歩であれば、鍛え抜かれた腹筋によってダメージはあるものの、まだ試合を続けられた筈だ。

 だが、宮田は典型的なアウトボクサーであり……今の一撃は、予想以上に効いたらしい。

 

「1、2、3……」

 

 片膝を突いた状態のまま立ち上がれない宮田に、レフェリーがカウントを数え始める。

 これが本物の実戦ならカウントを数えているところで追撃をするのだが、これはボクシングというスポーツだ。

 俺はコーナーに戻り、宮田の様子を確認する。

 するとレフェリーのカウントが8まできたところで宮田は立ち上がり、構える。

 レフェリーはそれを見て、まだやれると判断したのだろう。

 後ろに下がりながら……

 

「ファイッ!」

 

 レフェリーが試合の再開を宣言し、俺は前に出る。

 宮田は今の状況ではどうしようもないと判断したのだろう。

 俺から距離を取ろうとするが……その足は震えており、ダウン前の華麗なフットワークは既に見る影もない。

 相手にとってのピンチは、当然ながら俺にとってのチャンス。

 一気に距離を詰め……ここだ。

 宮田が瞬きをした瞬間を見逃さず、速度を上げる。

 そして宮田の右横に。

 宮田はいきなり俺の姿がなくなったことに気が付き……その頭部にショットガンシェルが命中し、意識を奪うのだった。

 

 

 

 

 

 試合が終了すると、表彰式が行われ……うん、最優秀新人賞に選ばれた。

 自分で言うのもなんだが、ゴールデンタイムのインタビューでボクシングに注目を集め、そして全ての試合を1RでKO勝利という圧倒的な強さを見せつけたのだから、最優秀新人賞も自然な流れだろう。

 表彰式には他の階級で優勝した選手もいたが、複雑な表情をしている者が多い。

 中には睨み付けてくる奴もいる。

 ……まぁ、無理もないか。

 この大会は色々な意味で俺を中心に回っていたようなものだ。

 実力もそうだが、森田の件がやっぱり大きかったな。

 それだけに、自分達の試合が注目されなかったのは面白くないのだろう。

 あるいは、単純に森田のファンだったりするのかもしれないな。

 ともあれ俺はそれについてはスルーし……表彰式は無事に終わるのだった。

 

 

 

 

 

「アクセルの優勝と、そして最優秀新人賞を祝って……乾杯!」

『乾杯!』

 

 おやっさんの声と共にコップを持ち、声を合わせる。

 俺達がいるのは、居酒屋。

 俺が東日本新人王トーナメントで優勝した祝勝会だ。

 当然ながら俺は酒を飲めないので、飲んでいるのはウーロン茶だったが。

 というか、伊達……お前はまだ試合がないからって、酒を飲んでもいいのか?

 そんな風に思いながらも、俺はウーロン茶を飲み終わると料理に手を付ける。

 ちなみに祝勝会……つまりただ飯だという事もあってか、ほぼ初対面に近い者達の姿もある。

 そんな中には……

 

「えっと、何でいるんだ?」

 

 何故か俺の側には森田の姿があった。

 海に行った時のように変装をしているのが、せめてもの救いか。

 ただし、海に行った時はサングラスに麦わら帽子だったのが、今は居酒屋でそういうのが出来ないので、伊達眼鏡で顔を隠し、カツラで髪を隠していたが。

 

「いいじゃない。アクセルさんのお祝いなんだから」

「アイドルがこういう場にいるのはちょっと不味いんじゃないか?」

「どうでしょうね。変装してるから見つからないとは思うけど」

 

 そんな風に会話を交わしながら、祝勝会を楽しんでいたのだが……

 

「あ」

 

 不意に聞こえてきた声に振り向くと、そこでは沖田が転んでいて、その持っていたコップが俺に向かって飛んできて……そして俺の意識は失われるのだった。

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