転生とらぶる2   作:青竹(移住)

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番外編158話 はじめの一歩編 第14話

 2月、俺の姿は大阪にあった。

 俺と一緒に来たのは、おやっさんとトレーナーが数人。そして……

 

「まさか、沖田がついてくるとは思わなかったな」

「仕方がないだろ、伊達さんに仕事が入ったんだから」

 

 そう、本来なら伊達がスパーリングの相手として一緒に来る筈だったのだが、TVの仕事が入ってキャンセルされる事になったのだ。

 ……とはいえ、考えてみれば伊達はフェザー級のチャンピオンだ。

 そうである以上、伊達をスパーリングパートナーとするのは、仲代ジムでならともかく、他の場所では色々と無理がある。

 そういう意味では、伊達じゃなくて沖田が一緒に来たのは悪くない話だったのかもしれないな。

 

「それで、どうする? 大阪に来たんだし、やっぱりお好み焼きやたこ焼きを食べるか? それとも串カツか」

 

 そんな俺の言葉に、沖田は呆れの視線を向けてくる。

 おやっさんは既に慣れたといった様子だったが。

 トレーナーは、沖田よりの感じか。

 ただ、考えてみれば無理もないか。

 普通、ボクサーなら体重について神経質になる必要がある。

 それこそ近いうちに千堂との試合があるというのに、計量前に食事をしようと言ったのだから。

 とはいえ、俺の場合は混沌精霊としての力で体重はどうとでもなる。

 それに食べた料理も腹の中で即座に分解され、魔力となって身体に吸収される。

 そういう意味では、ドカ食いをしても実は全く構わないんだよな。

 ……だからといって、そんな事をすれば体重がどうなっているのかと怪しまれるので、人前でそういう事をするつもりはないが。

 ともあれ、今回の主役は俺だ。

 そして俺が今まで減量で一度も苦労していないのを知るおやっさんは、俺の要望通りお好み焼き屋に行くのだった。

 

 

 

 

 

「うおっ! 待て待て。そこまでだ!」

 

 その声が響き、俺は倒れた選手を見る。

 お好み焼きを食べた後でやって来たのは、おやっさんとコネのあるジム。

 試合前の調整という意味でも、練習をする場所は必要だった。

 そういう意味ではジムは必須で、さっそく挨拶代わりにスパーをしたのだが……相手はフェザー級の俺よりも階級が上のライト級の選手だったが、結果はこの通りだった。

 ライト級らしく、俺よりも大きな身体を使ったボクシングをしたのだが……動きが鈍い。

 あっさりと相手の懐に入ることが出来てしまった。

 うーん、これはやっぱり沖田に来て貰ってよかったな。

 

「いやぁ……これでもうちだとそれなりの選手なんやけど。参ったな」

 

 このジムの会長が、困った様子でそう言ってくるが……この選手がそれなりって、大丈夫か?

 いやまぁ、俺の所属しているジムが業界でも大手の仲代ジムだし、他に知ってるジムの鴨川ジムもこの世界の主人公だろう一歩がいると考えれば、相応の選手がいるのはおかしくない。

 そう考えると、もしかしたらこれが普通のジムなのかもしれないな。

 まぁ、俺のインタビューでそれなりに盛り上がってはいるものの、この世界においてボクシングはマイナーだ。

 どのジムにも一流の選手がいるというのは、難しい話なのだろう。

 勿論、そのジムの中で最強の選手というのは、当然ながらどのジムにもいるのだろうが。

 

「それにしても……うわぁって感じやな。千堂も偉いもんやと思ってたんやが……あのインタビューも納得出来るもんや」

 

 このジムの会長の言葉に、インタビューを見ていたのかと納得する。

 もっとも、あのインタビューはゴールデンタイムに放映されたのだ。

 関西でも普通に見た者が多いのはおかしな話ではない。

 

「あのインタビューを見てたんですか。そうなると、アクセルの事をよく知らない関西では評判が悪かったでしょう」

 

 おやっさんの言葉に、ジムの会長は笑って誤魔化す。

 この様子を見る限り、どうやらおやっさんの言葉は正解らしい。

 あのインタビューが放映された時は、まだ西日本新人王は決まっていなかった。

 だが、千堂が有力な選手だったのは間違いないし、そして千堂には一種のカリスマ性がある。

 そんな千堂を前に、俺が優勝するというのを前提のような感じでクミコと食事に行くという話をしたのだから、関西のボクシング関係者……特にフェザー級の選手を有するジムにしてみれば、面白くないと思うのはおかしくはない。

 そしてフェザー級というのは日本人の平均的な体重に近い階級だけに、そこに所属する人数は多い。

 このジムにおいても、当然ながらフェザー級に所属する選手はいる。

 ……ただ、フェザー級ということであればこっちにも去年の全日本新人王の沖田がいる。

 その沖田の前で、俺に絡むようなことは出来なかったのだろう。

 あるいは、このジムの会長が前もってその辺りに釘を刺していたのかもしれないが。

 

「まぁ、色々とあったとだけ言っておきますよ。それより……どうします? スパーを続けますか? それとも、今日は来たばかりですからこの辺に?」

「あー……どうする?」

 

 おやっさんの言葉に、俺はもう少しスパーをするように頼むのだった。

 

 

 

 

 

「全日本新人王を決める試合だってのに、全く緊張してる様子がないな」

 

 試合当日、控え室にいる俺に、沖田が呆れた様子でそう言ってくる。

 沖田にしてみれば、去年自分も通った道ではあるのだろうが、それだけに俺が緊張していないのが気になったのだろう。

 俺達が大阪に来てから数日。

 ジムではそれなりにスパーをやったり、あるいはたこ焼きやお好み焼き、それ以外にもいわゆる粉物と呼ばれる料理であったり、串カツやうどんとを食べたりした。

 計量が全く問題ない俺だからこそ出来た事だが……うん。一番驚いたのは、たこ焼きだ。

 元々たこ焼きは結構好きな方なので、東京でもたこ焼きはそれなりに食べていた。

 それらのたこ焼きも美味いとは思っていたが、大阪で食べるたこ焼きはどれもそれ以上の味だった。

 有名店とかではなく、普通にその辺で売ってるたこ焼きであっても、東京では美味いと評判の店のたこ焼きと同じか、それ以上の味だったりする。

 ボクシングはともかく、たこ焼きについては圧倒的に大阪の方がレベルが上なのは間違いない。

 さすが、家庭に1つはたこ焼き器があるだけはあるな。

 あれ? それは都市伝説だっけ?

 ともあれ、たこ焼きが美味いのは間違いない。

 ただ、俺が食べたたこ焼きは全てソースオンリーで、マヨネーズを掛けるのは邪道……というか、そもそもそういう考えすらないような感じだった。

 それと比べると、東京のたこ焼きはソース以外にマヨネーズとかもあるし、ちょっと代わったところではワサビマヨネーズとか、明太子マヨネーズがあったりする。

 他には葱のみじん切りがあって、ポン酢で食べるとか。

 明石焼きがそんな感じだったか。

 そんな風にたこ焼きについて考えていると……

 

「たこ焼き食べたくなってきた」

「おい、これから試合だってのに、一体何を考えてるんだよ」

 

 おやっさんが呆れたように言ってくる。

 

「いや、大阪に来てから大分たこ焼きを食べたけど、東京の有名店で食べるよりも普通に美味かったからな。それを思い出したら、たこ焼きを食べたくなった」

「……はぁ、分かった分かった。もしアクセルが全日本新人王になったら、祝勝会でたこ焼き屋を特別に呼んでやる。だから、今は試合に集中しろ」

 

 そう言われると、俺もやる気になってきた。

 千堂との試合が、どうなるか。

 正直なところ、俺は自分が負けるとは思っていない。

 ただ……そうだな。恐らくこの世界の原作からすると、一歩が千堂と戦う予定だったのだろうとは思う。

 だが、一歩は準決勝で俺に負けてしまった。

 その為、宮田とも俺が戦う事になってしまい、結果として東日本新人王になってここにいる訳だ。

 そうして一歩の出番を奪ってしまった以上、相応の活躍は必須だろう。

 おやっさん達の為にも、ボクシングをもっとメジャーなスポーツにする必要もあるし。

 そう考えれば、全日本新人王というのは決して悪い話ではないのだろう。

 

「会場にどうぞ」

 

 部屋に入ってきたスタッフが、そう言う。

 それを聞き、俺は立ち上がる。

 既に準備は整っていたので、特にこれから何かをするつもりはない。

 ああ、そう言えば……

 

「おやっさん、俺の入場曲の件だけど……」

「安心しろ。ちゃんとお前の持っていたCDを使った」

 

 その言葉に安堵する。

 全日本新人王を決める場なので、入場曲を流してもいいと言われ、俺が真っ先に考えたのは当然ながらシェリルの曲だった。

 あるいは円達のでこぴんロケットでもいいんだが……やはりシャドウミラーの中で音楽となると真っ先に浮かぶのはシェリルだろう。

 そして幸いな事に、空間倉庫の中にはシェリルがネギま世界で出しているCDがあった。

 これが他の世界だと、CDという媒体そのものがもうなくなっていたりするんだが。

 とはいえ、当然ながらそのCDについては公に出来る訳ではないので、ケースとかは隠して、CDだけで渡して曲を録音して貰った。

 ただ、この世界でシェリルの歌がどう受け止められるのかは、実際に聞いてみないと分からないのがちょっと怖いけど。

 基本的に歌というのは、その世界の流行とかにも大きく関係する。

 例えば演歌が流行っている中でシェリルの歌を出しても……うーん、どうだろうな。

 シェリルの歌なら、そういう流行とかを関係なしにヒットしそうな気もするが……まぁ、それはそれで特殊な例として。

 なので、可能性は限りなく低いとは思うが、この世界においてシェリルの歌が一般受けしない可能性は十分にあったのだ。

 もっとも、シェリルの歌を聴いた者達は絶賛していたので、その辺の心配はいらないと思うが。

 

「なら、行くか。今日で俺が全日本新人王だ。仲代ジムは2年続けての全日本新人王を排出したジムで、そうなると入門希望者も多くなるかもしれないな」

「だといいんだけどな。まぁ、うちのジムの事はそこまで心配しなくてもいい。まずは勝利する事を最優先に考えろ」

 

 おやっさんの言葉に頷き、俺は部屋を出る。

 おやっさん、トレーナー、沖田。

 それぞれを率いて試合会場に入る。

 するとその瞬間、ブーイングが飛んできた。

 

「アクセル、千堂に勝てるとは思うなよ!」

「そうだそうだ、俺達のロッキーは強いからな!」

 

 そんな風に聞こえてくるブーイング……ブーイング? まぁ、取りあえずブーイングという扱いにでもしておくか。

 ここは大阪……千堂のホームだ。

 しかも千堂はそのカリスマ性と実力から、多くの者達に好かれている。

 そうなると、このような状況になるのはそうおかしな話ではないのだろう。

 もしここが俺のホームである東京の後楽園ホールであれば……あれば……うーん、どうだろうな。

 自分で言うのもなんだが、俺は色々な意味で有名だ。

 クミコのインタビューの件もあるし、試合は全て1RでKOしてきた。

 戦歴という意味では、それこそ圧倒的な実力を見せつけている。

 いるのだが……だからといって、俺のファンが多いのかと言えば、それは微妙だったりする。

 いや、勿論俺のファンがいるのは間違いない。

 速水しかり、宮田しかり。

 俺もそんな2人と比べて顔立ちは美形と言ってもいい。

 何しろ、アクセル・アルマーの顔なのだから。

 もっとも顔立ちというのは生まれつきもそうではあるが、周囲の環境……食事とか運動とか睡眠時間とか、そういうのによっても代わってくる。

 そういう意味では、俺の顔も本来のアクセル・アルマーの顔とは違っているのだろうが……それでも顔立ちが整っているのは間違いなく、それでいて強いので女のファンはそれなりに多い。

 ただ、その数はあくまでもそれなりでしかない。

 その最大の理由は、やはりクミコとの一件だろう。

 日本新人王になったら、クミコと食事に行くという件は、女のファンにしてみれば好ましくない事だったのだろう。

 ……実は食事どころではなく、既に身体の関係があると言ったら、どう思うんだろうな。

 何となく……本当に何となくだったが、シェリルの歌と共にリングに向かっていると、微妙に責められているように思える。

 とはいえ、実際にはシェリルもその辺は大らかだったりする。

 そんな風に思っていると……

 

「あ」

 

 応援席にいるクミコの姿を見て、思わず声を出す。

 来るとは言っていたし、そういう意味ではいてもおかしくはない。

 おかしくはないのだが、俺にとってここは完全に敵地……アウェイだ。

 それはつまり、クミコにとってもアウェイに近いのではないかと思っていたのだが……ああ、なるほど。何気にクミコの側にはボディーガードっぽい者達がいる。

 何かあっても、あの連中が守ろうというのだろう。

 クミコが自分で雇ったボディガードなのか、それともクミコの所属する事務所で用意したボディーガードなのかは分からないが。

 そんなクミコは俺と目が合うと手を振ってくる。

 ……すると気のせいか、俺に対するブーイングがより強くなったような。

 クミコの人気を考えると、多分クミコのファンが嫉妬から俺に向かってブーイングしてるんだろうな。

 肉体関係の件は絶対に知られないようにしないと。

 そう思いながら、俺はリングに上がるのだった。

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