転生とらぶる2   作:青竹(移住)

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番外編160話 はじめの一歩編 第16話

「では、アクセルの全日本新人王の獲得に……乾杯!」

『乾杯!』

 

 おやっさんの言葉に、俺達はそれぞれコップを掲げる。

 ちなみに何故かこの祝勝会の場には伊達の姿もあった。

 ……どうやら、仕事が終わってから大阪に向かっていたらしい。

 それでも時間が時間なので、試合には間に合わなかったが。

 こうして俺の祝勝会にやって来てくれたんだから、嬉しいとは思う。

 なお、この祝勝会にクミコの姿はない。

 ……前回の祝勝会の時の事を思えば、色々と不味いんだろうな。

 ただでさえ、ここは大阪だ。

 クミコにとっても、あまり詳しくないしな。

 そんな訳で、もし俺が酒を飲んだり、あるいは酒を飲まなくてもクミコと夜の街に消えるのは不味いと、そういう事なのだろう。

 

「いやぁ、めでたいな。アクセルが勝つとは信じていたが、それでもこうして実際に勝利をしたのは嬉しい」

 

 コップに入っていたウーロン茶を飲むと、俺は早速たこ焼きに手を伸ばす。

 俺達がいるのは居酒屋だったが、この居酒屋の店長は俺達が大阪で世話になっているジムの会長と親しいらしい。

 つまりボクシング好きな訳だ。

 そんな店長だけに、おやっさんから会長に、会長から店長に俺が美味いたこ焼きを食べたいと主張したところ、大阪でも美味いと評判のたこ焼き屋を店に呼んでくれたらしい。

 そんな訳で、居酒屋の料理もそうだが、たこ焼きも食べ放題になっている訳だ。

 そして……実際に、このたこ焼きはかなり美味い。

 東京でこのレベルのたこ焼きを食べるのは、まず無理だろう。

 勿論、これはあくまでも俺が知ってるだけの話で、もしかしたら俺の知らない場所にはこのたこ焼きと同じくらい……あるいはこれ以上のたこ焼きを売ってる店もあるかもしれないが。

 東京というのは、狭いようで広い。

 とはいえ、同時に流行廃りが激しいから、美味いたこ焼きを売っていてもすぐに閉店したりしてもおかしくはないのだが。

 

「そうだな。俺も負けるつもりはなかったが、無事に勝利出来たよ」

「ったく、何が無事にだ。……またしても1RでKOだろう? 全く可愛げのねえ奴だ。沖田だって、去年の全日本新人王は楽に勝った訳じゃないってのに。なぁ?」

 

 伊達のその言葉に、沖田は少し困った様子を見せる。

 どうやら伊達の言うように、去年の沖田はかなり苦戦したらしい。

 とはいえ、それも分からないではない。

 普通に考えれば、東日本新人王と西日本新人王の優勝者同士の試合だ。

 俺のような特殊な……本当に特殊な例を除けば、基本的にお互いの強さにそこまで差はないと思ってもいい。

 あれだ、小学校や中学校では成績の上位者だったのが、高校になると同じレベルの者達が集まるので、突出した存在に見えないという……ちょっと違うか?

 まぁ、感覚的には似たようなものだろう。

 ましてや、今日の試合を見ても分かるが、東日本と西日本という事で、ライバル意識も高い。

 だからこそ、双方の選手も絶対に負けてたまるかと踏ん張る訳だ。

 本来なら倒されるパンチでも耐えて、いつも以上にパンチの威力が上がる。

 もっとも、それも効きすぎれば身体に力が入ってパンチを打つ時に無駄に力が入ったりして、敵に命中しないか、命中しても思ったよりもダメージを与えられなかったりするが。

 ホームというのもメリットだけじゃないんだよな。

 勿論、それはアウェイもだ。

 

「それで、アクセルはこれからどうするんだ? A級トーナメントがあるが……」

「伊達さん、けどそれは……」

 

 伊達の言葉に沖田が困った様子で言う。

 何だ?

 そう思って詳しい事を聞いたが、話によるとA級トーナメントというのは、その名の通りA級ボクサー……つまり8R以上の試合を行える選手の事らしい。

 そういう者達が集まって行うトーナメントがあり、そのトーナメントで優勝すると日本タイトルに挑戦……つまり、チャンピオンに挑戦出来る資格を手に入れられる訳だ。

 そしてフェザー級の現在のチャンピオンは、俺の前にいる伊達。

 基本的に同じジムの選手同士での試合というのはないらしいが……

 

「ちょっと待て。だとすれば、俺はチャンピオンになれないのか?」

「あー……同じジム同士の試合については、あくまでも基本的にないだけで、絶対にないって訳じゃない。それ以外にも、他のジムにその試合の間だけ移籍するとか、そういうのもあるが、詳しい話はおやっさんとしてくれ。もっとも、俺がチャンピオンベルトを返上するというのもあるしな」

「……返上?」

「伊達さん、じゃあ……」

 

 あれ? 今の言い方だと、伊達は俺との試合をやりたくないからチャンピオンを辞めると言ってるように思えたのだが、何故か沖田は嬉しそうだ。

 沖田の性格から考えると、この状況で素直に伊達の言葉を受け入れるとは思っていなかったのだが。

 俺が事情を理解していない事に気が付いたのだろう。

 伊達は笑みを浮かべて口を開く。

 

「アクセル、俺は一度世界チャンピオンに負けて、それでまたこうして復活してきた。……そして俺はアクセルとのスパーのお陰で、間違いなく実力がついた。それこそ以前奴に負けた時と比べると、数倍は強くなったんじゃないかと思うくらいにはな」

 

 数倍ってのはちょっと言いすぎな気もするが……まぁ、実際に千堂とスパーをした時はまさに力の差で完封していたしな。

 なるほど。毎日のようにやっている俺とのスパーではずっと負け続けていた。

 実際、伊達の強さに合わせてその少し上となるくらいの力で戦っていたしな。

 こう言ってはなんだが、伊達との試合は手加減を覚える上で決して悪いものではなかった。

 ともあれ、そんな伊達だから俺との戦いでは勝てなかったが、千堂とのスパーで自分の実力が上がってるのを理解したのだろう。

 ……実際には、伊達は俺以外の奴ともスパーをしてるので、そういう意味では十分に実力とかが分かっていてもおかしくはないと思うのだが。

 あるいは、相手が千堂だからこそか。

 千堂は俺に負けたものの、実力という意味ではフェザー級でランカーに入っていてもおかしくはないだけの力がある。

 そんな千堂を相手に、圧倒的な実力を発揮して圧倒したのだ。

 それこそ千堂に奥の手であるスマッシュを出させ……それでいながら、そのスマッシュすらも回避することに成功する程に。

 ……この辺、俺が相手をしてるのが大きいよな。

 自分で言うのもなんだが、俺はボクシングのセオリーとは違う攻撃を普通に行う。

 この仲代ジムでボクシングを習っているので、相応の態度を取ろうと思えば出来ない訳でもないのだが。

 ただ、セオリーの攻撃というのどうしても読まれやすい。

 ましてや、俺がスパーをしている伊達はフェザー級のチャンピオンだ。

 そうである以上、当然ながらセオリーに対して……つまり、純粋なボクシングの技術や知識については、伊達の方が俺よりも上なのだ。

 もっともボクシングの技術をそのまま流用しようとして、殴られた時に顔を捻ってダメージを軽減するというのをやろうとして、俺のパンチを防げずに思い切り食らっていたりもしたが。

 とにかく、伊達は純粋にボクシングという点においては俺よりも高い技術を持っているのは事実。

 そして俺とのスパーにより、その技術には更に磨きが掛けられている。

 伊達にもその自信があるので、国内チャンピオンの地位を返上し、再び世界に打って出ようとしているのだろう。

 ……日本でチャンピオンのまま世界に打って出るというのが出来ないのか? という疑問はあったが。

 あるいはそれが可能であっても、伊達にとっては一種のケジメに近いのだろう。

 俺との試合を避けるという意味も十分にあるだろうが。

 

「そうか。……そうなると、俺がA級トーナメントに出ても何の問題もないんだな。……あ、でもそうなると沖田と試合をする事になるのか?」

「アクセルが出るのなら、俺が出る必要はないだろ」

 

 俺の呟きを聞いた沖田がそう言ってくる。

 

「出ないのか?」

「慣例……って程じゃないが、こういう時に出るのは基本的に1つのジムから1人だけなんだよ。勿論、ジムによっては普通に数人出してきたりもするが」

 

 つまり、仲代ジムから俺が出るのなら沖田はA級トーナメントに出られないらしい。

 これで沖田がA級トーナメントに出たいのに俺が出ると言ってるから出られないのなら問題かもしれないが、自分から俺に譲ると言ってきているしな。

 であれば、後ろめたく思う事はない。

 そんな風に思いながら、俺は祝勝会でたこ焼きを思う存分食べるのだった。

 ……ボクサーがそこまでドカ食いしてもいいのか? と心配されたが。

 

 

 

 

 

「これはまた……随分とまぁ」

 

 俺が全日本新人王になった翌日。

 泊まっているホテルでそろそろ朝食を食べようかと思っていたところ、伊達がスポーツ新聞を持ってやって来たのだが、そのスポーツ新聞には大きく俺の写真が載っていた。

 それだけ俺の試合が印象深かったのだろう。

 何しろ、最後はコークスクリューのクロスカウンターで、それを食らった千堂は縦に2回転して、その上でリングのロープの一番高い場所にぶつかり、その反動で客席まで吹っ飛んでいったしな。

 あそこまで派手な吹き飛び方は、そうそうないだろう。

 あるいはミドル級の鷹村とかの試合なら、そういう事もあるかもしれないが。

 また、俺はボクシングをメジャースポーツにする為にクミコからのインタビューも受けたし。

 そんな諸々で、俺は現在日本スポーツ界ではかなり顔を知られている。

 ……だからこそ、このスポーツ新聞も俺を大きく扱えば売れると思ったのだろう。

 とはいえ……

 

「大阪でこれは不味くないか?」

 

 俺と戦った千堂は大阪では非常に人気者だ。

 試合そのものは正々堂々――俺が混沌精霊であるという時点で微妙だが――とした試合だったものの、それでも千堂に勝った俺をこうして大々的に取り上げるのは不味いような気がする。

 

「そうだな。でも、コンビニで見た感じどのスポーツ新聞も一面はお前だったぞ?」

 

 どうやらこのスポーツ新聞はホテルから出てコンビニで買ってきたらしい。

 まぁ、このホテルはホテルという名称ではあるが、別に高級ホテルといった訳ではない。

 仲代ジムはボクシングジムの中でも大手ではあるが、高級ホテルに泊まれる程の余裕がある訳でもないし。

 日本チャンピオンや去年の全日本新人王、それ以外にも何人もプロを抱えていても、ボクシングジムというのは決して裕福ではない。

 これでボクシングが野球くらいに人気があれば、また話は別だっただろうが。

 そんな訳で、このホテルの格は中の下……もしくは下の上といったところだろう。

 そんなホテルなので、ホテルの中に店とかがある訳でもない。

 何か必要な物があったら、コンビニとかに買いに行く必要がある。

 この年代でもコンビニって結構あるんだよな。

 勿論、それはあくまでも東京だったり大阪だったりと、都市部だけなのだが。

 田舎に行けば、まだコンビニとかはそんなにないと思う。

 

「スポーツ新聞は全国紙だからな。大阪だけの地方紙なら、ここまでアクセルのことを大々的に取り扱ったりはしないかもしれないが……」

 

 伊達の言葉に、なるほどと頷くと渡された新聞の記事を読む。

 ……当然ながら、俺が今までずっと1RでKOしてきた事が書かれており、昨日の試合でも同じように1RのKOで勝利したといった内容が書かれているが、それだけではなくクミコとの事も匂わせてある。

 この辺については、それこそ場合によっては俺の試合結果よりも重要視する奴もいたりするので、おかしくはないのだが。

 

「まぁ、これはこれで悪くないけどな」

 

 速水もやっていたが、まずはボクシングというスポーツ……いや、格闘技か。その格闘技を多くの者に知って貰うのが大事なのだ。

 それによってボクシングの知名度が大きくなり、ボクシングがメジャーになっていって欲しい。

 俺だけが注目を集めるとなると、人気があってもそれは一過性のものになってしまう。

 そうならないようにするには、俺に続く話題性のある人物が必要なんだが……どうだろうな。

 やっぱり同じ目的を持つ速水辺りに頑張って貰うか。

 ただ、速水は全戦全勝というのが売りだったんだよな。

 その圧倒的な強さが、俺と戦って負けた。

 あるいは1敗だけならまだ何とかなったかもしれないが、2回続けて俺に負けている。

 だからこそ、速水のネームバリューは著しく落ちている。

 ……自分で言うのもなんだが、相手が悪かっただけで、速水は十分に強者なんだがな。

 ショットガンも、大抵のボクサーにとっては恐怖でしかないし。

 とはいえ、やっぱり格闘技である以上は強さこそが全て……とまではいかないが、大きな意味を持っているのも事実。

 そういう意味では、話題性的には……宮田辺りか?

 顔立ちも整っているし、女のファンも速水程ではないが多い。

 ただ、宮田の場合はストイックというか、ボクシング界の事よりも自分の事を考えているタイプだから……難しいな。

 これからのボクシング界を心配しつつ、スポーツ新聞を読み進めるのだった。

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