転生とらぶる2   作:青竹(移住)

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番外編164話 はじめの一歩編 第20話

「あれ? マジで?」

 

 その報告に、俺はそう返す。

 だが、沖田は俺の言葉に頷く。

 

「そうだ。冴木は幕之内に負けた」

 

 A級トーナメントの結果、どうやら幕之内が冴木に勝利したらしい。

 いや、それ自体はそこまでおかしな事ではない。

 一歩はこの世界の原作の主人公なのだから。

 だが……俺がおかしいと思ったのは、一歩が試合に出場した事だ。

 

「俺が藤井に聞いた話だと、一歩はA級トーナメントを辞退するって話だったんだが?」

 

 元々今回のA級トーナメントは、元アマチュア世界王者のヴォルグが出場するという事で、一度は参加しようとしたものの、棄権をした選手が大量に出た。

 自分では勝てないと思った者がそれだけ多かったのだろう。

 ……意気地がないと言うべきか、それとも自分の実力をしっかりと理解していると言うべきか、ちょっと迷うところだが。

 ただ、一歩の場合はそういう理由ではなく、母親が倒れた事で家の仕事……釣り船屋らしいが、その仕事をやる必要があって練習が出来ず、棄権という形だった筈だ。

 

「いや、それを俺に言われてもな。実際に冴木が負けたのは事実だ」

「……冴木と一歩だと、相性は悪くない筈だけどな」

 

 冴木にとっては自分よりも速度が上の俺のような相手は相性が悪いが、一歩のようなインファイターはそれこそ格好の獲物の筈だ。

 とはいえ、一歩の一撃は極めて強力だ。

 そういう意味では、一歩との戦いも冴木にとっては相性が良いのは間違いないが、1発の威力で一気に逆転されたとか、そんな感じか?

 そんな風に思いつつも、俺としては決勝で一歩と戦えるのを楽しみにするのだった。

 

 

 

 

 

 時は流れ、俺とヴォルグの試合前日。

 いつものように計量を終えると、俺はヴォルグに視線を向ける。

 元アマチュア世界王者というだけあって、その身体はしっかりと鍛えられていた。

 今日の計量にはそれなりに記者の姿が多いが、ヴォルグを追っての者も多い。

 メディア的には、元アマチュア世界王者と絶望の大魔王の異名を持つ俺との試合はそれだけ美味しいのだろう。

 

「よろしく……お願い、します」

 

 不器用な日本語で俺に向かってそう言ってくるヴォルグ。

 どうやらまだ日本語は完璧という訳ではないらしい。

 ソ連……旧ソ連の選手なので、日本語が得意ではなくてもおかしくはないが。

 いや、むしろある程度は日本語を喋られるのに驚くべきか?

 そんな風に思いつつ、伸ばしてきた手を握る。

 

「ああ、よろしく頼む。明日の試合を楽しみにしている」

 

 俺とヴォルグが握手すると、それを逃さずにカメラマンがシャッターを押す。

 カメラマンにとっては、まさに絶好のチャンスなのだろう。

 にしても、出来れば試合を盛り上げる事を言おうと思っていたのだが、ヴォルグが日本語をそこまで理解していないとなると、迂闊な事は言えないんだよな。

 もしここで俺が挑発するような事を言ったとして、それをヴォルグが認識出来るのかどうか。

 もし認識せずにトンチンカンな言葉を口にした場合、それこそ明日のスポーツ新聞とかに載るのはお笑いの記事になってしまいかねない。

 そうなったらそうなったで、別に構わないのかもしれないが……ただ、イメージ的にそれはどうなんだろうと思わないでもない。

 なので、今日は無難に……いや、でもそうだな。これだけは言っておくか。

 

「明日の試合、ホワイトファングを楽しみにしてるよ」

 

 このホワイトファングというのは、ヴォルグのアマ時代からの必殺技、いわゆるフィニッシュブローと呼ぶべきものだ。

 その正体は、一瞬にして上下からのパンチを放つというもの。

 非常に強力なパンチな訳で……それを楽しみにしていると言う俺に、ヴォルグは数秒経ってから笑みを浮かべる。

 俺の言葉を頭の中で翻訳して理解するのに時間が掛かったのだろう。

 今までは人好きのする笑顔だったのが、その言葉を理解した瞬間鋭い視線をこちらに向けてくる。

 アマチュア世界王者としての顔だろう。

 そして俺の手を握る力が一瞬だけ強くなり、離れていく。

 

「僕も……楽しみに、してます」

 

 そう言い、視線を向けてくるヴォルグと俺の姿に再びカメラマンがシャッターを切るのだった。

 

 

 

 

 

 翌日、今日も俺はシェリルの曲に乗ってリングに向かう。

 そうして俺の姿が見えると、観客達から歓声が上がる。

 ただ、その歓声は思ったよりも多くはない。

 どうやらヴォルグのファンも結構な数いるらしい。

 ヴォルグがメディアに露出した回数は少ないのだが、それでもヴォルグのファンになった者は多いらしい。

 そんな中、俺はクミコの姿を発見する。

 いつものように帽子とサングラスで変装をしているが、俺は一目で分かった。

 実は最近、クミコは色々と忙しくて会えてないんだよな。

 元々が人気アイドルである以上、仕事が忙しいのは当然かもしれないが。

 普通なら俺との関係……新人王の時の約束の件とかそうだが、男関係によって人気が落ちるというのはよくある話だ。

 だが不思議な事に、クミコの人気は落ちるどころか上がっているらしい。

 勿論、仲代ジムに悪戯電話を掛けてくるような者達はクミコのファンを止めたかもしれない。

 だが、俺やクミコの事を知った者達が新たにクミコのファンとなり、総合的に見てプラスになっているらしい。

 俺としては、喜んでいいのかちょっと分からないが。

 そんな風に思いつつ、右グローブをクミコのいる方に向かって突き出す。

 それを見たクミコは……そしてクミコの周囲にいた他の観客達も嬉しそうな様子を見せる。

 ……うん。まぁ、喜んでくれるのならクミコ以外の者達にとっても悪くはない気分だということで問題はないと思っておこう。

 そんな風に思いつつ、俺はリングに上がる。

 リングの上でシャドーし、パフォーマンス。

 俺の様子に、観客から歓声が上がる。

 続けてヴォルグもリングに上がってくる。

 その足取りには一切の緊張がなく、こういう状況に慣れていることを意味していた。

 アマチュア世界王者だったんだから、それはおかしくないか。

 というか、寧ろこの程度であれば大人しい方だとヴォルグが思っていてもおかしくはない。

 そして軽く身体を動かすと、リングの中央にいる俺の前までやってくる。

 いつもならここで言葉を交わすのだが、ヴォルグにそのような様子はない。

 言葉の問題もあるんだろうが、ヴォルグにしてみればそういう事をするつもりは元々ないのだろう。

 そんな俺達の側にレフェリーがやってくると、細かい注意事項を口にする。

 この件については、今までも聞いてきた内容なので聞き流す。

 ヴォルグも話を聞いても特に変わっていない。

 元々日本語はそこまで得意ではないヴォルグだけに、レフェリーの注意を理解はしていないだろう。

 ただ、前もってその辺については把握しているので、特に問題はないらしい。

 レフェリーもそれは分かっているのだろうが、特に表情を変えない。

 そして……試合開始のゴングが鳴る。

 カン。

 同時にグローブを前に出すと、ヴォルグもグローブを前にだし、ぶつける。

 そしてぶつかった瞬間、本当の意味で試合が始まる。

 ヴォルグは一気に前に出て来て、俺に向かってジャブを放ってきた。

 あれ? 俺の知ってる情報だと、ヴォルグは冴木や宮田のようなアウトボクサーだった筈なんだが。

 そんな疑問を抱くも、こっちの意表を突く為にインファイトを挑んで来た可能性は十分にある。

 とはいえ、俺が別にそれに構う必要はない。

 ヴォルグのジャブを回避しつつ、カウンターとしてジャブを放つ。

 ただし、そのジャブは普通のジャブではない。

 伊達から習ったコークスクリューのジャブだ。

 本来ならコークスクリューというのはこうも簡単に打てるものではない。

 ただ、俺の場合は混沌精霊としての特性がある。

 その為、ジャブの全てをコークスクリューにする事も可能だった。

 ……もっとも、あまり露骨にやりすぎると、相手からおかしいと疑問を抱かれたりもするので、多用は出来ないが。

 

「ぐっ!」

 

 しかし、多用は出来なくてもコークスクリューのジャブが当たったダメージは大きい。

 顔にコークスクリューのジャブが命中し、一瞬だけ足を止めるヴォルグ。

 その瞬間、俺は即座にフットワークを使ってヴォルグから距離を取る。

 するとヴォルグはすぐに我に返り俺を追う。

 ……ああ、なるほど。ヴォルグも当然ながら俺の今までの試合は見ている筈だ。

 俺が不自然なまでに相手に気が付かれず、真横に移動するというのは知ってるのだろう。

 勿論、その種について知ってるかどうかまでは分からないが。

 まさか、瞬きを見抜いて行動しているとは思わないだろう。

 ともあれ、何かをやってるのは間違いなく、だからこそインファイトに持ち込んでそれを封じようというのか。

 とはいえ……それもこうして距離を取ってしまえば……ほら。

 距離を取られたヴォルグが俺を追おうとした瞬間、瞬きをする。

 それと同時に俺の足は動き、ヴォルグの真横まで移動し……

 

「っと!」

 

 ショットガンシェルを打とうとした瞬間、ヴォルグは俺の方に向きつつ、その反動で右フックを放ってくる。

 それに驚きつつ、後ろに下がって回避し……だが、ヴォルグがフックが回避されたのを見ても特に動揺した様子はなく、その動きすら次の行動に取り入れ、前に出る。

 ジャブ、ジャブ、ジャブ。

 素早く放たれた3発のジャブ。

 フットワークを使いその全ての攻撃を回避し……前に出てボディ。

 ヴォルグはその一撃を危険と判断したのか、手でガードしようとするが、グローブを横にすることによってヴォルグのガードの隙間を狙う。

 勿論完全に隙間に入るという事はない。

 相手がヴォルグではなければ、そういう隙もあるかもしれないが、相手はヴォルグだ。

 元アマの世界王者というのは伊達ではない。

 だが……それでも、グローブが少しでも入る場所があれば、ガードされたところで意味はない。

 ガードの隙間に少しだけでも入った瞬間に力を込め、ガードしていた腕を弾き、強引にボディに一撃を放つ。

 

「ごふっ!」

 

 身体が浮くかのような……いや、実際に身体が浮いているな。

 そんな一撃だったが、ヴォルグにとって運が悪かったのは俺の拳の命中した場所が鳩尾だった事だろう。

 ソーラー・プレキサス・ブロー。

 確か鳩尾を狙うのはそういう一撃だった筈だ。

 俺は今まで使ったことがなかったが、以前おやっさんから俺のパンチ力ならこれが効果的だと教えられている。

 ……実はソーラー・プレキサス・ブローと似たようなパンチで伊達が使うハートブレイクショットというのがある。

 これは単純に言えば、敵の心臓を狙ってコークスクリューを打つというものだ。

 そうすると一瞬心臓が止まり、相手は動けなくなる。

 時間的には数秒あるかないか、あるいは1秒にも満たない時間だったりする事もあるらしいが、ボクシングのような高速でやり取りするスポーツにおいて、それは致命的な隙となる。

 なるのだが……俺の一撃の威力を考えると、それこそ相手の心臓を破壊するようなことになりかねないので、俺がそれを使うのは禁止された。

 俺も別に相手を殺したい訳じゃないしな。

 その時の話の中で、ソーラー・プレキサス・ブローが出た訳だ。

 今こうして狙ったのは意図してのものではなく、半ば偶然のものだったが……しかし、グローブ越しに感じたのは、ヴォルグの肋骨が折れる感触。

 砕くといった程ではないが、一本や二本の肋骨は完全に折れているだろう。

 このまま試合を続けるのも、ヴォルグにとっては厳しい。

 なので、眠れ……そのつもりでコークスクリューを打とうとした瞬間、ヴォルグの左アッパーが放たれる。

 その一撃を反射的に後ろに下がって回避すると同時に、左の打ち下ろし気味の一撃が俺の目の前を通っていく。

 なるほど、これがホワイトファングか。

 上下のコンビネーション技としては最高峰の技と言われるだけはある。

 また、アッパーはともかく打ち下ろし気味の一撃は普通のパンチとは少し違うので、相応に練習しないと使えない。

 そうして感心しながら、肋骨が折れた状態で無理にホワイトファングを打ち、意識が若干朦朧としているヴォルグにショットガンシェル、それも全てコークスクリューでの一撃を放つ。

 ヴォルグは最初に何発かはガードし、回避することに成功するものの、それが限界だった。

 1発、2発、3発、4発、5発……と続けて10発以上のショットガンシェルが命中し……だが、それでもヴォルグの目にはまだ強い意思の光がある。

 それを見ると、俺は反射的にコークスクリューの右ストレートを放つ。

 ヴォルグはその一撃に微かに反応するが、それだけだ。

 反応は出来ているものの、その命令に身体が反応しないのだろう。

 コークスクリューの一撃は、ヴォルグの顔面に突き刺さり……そのまま、ヴォルグの身体をリングの外まで吹き飛ばす。

 何人か、リングの近くにいた観客はそんなヴォルグの身体を受け止める事になったが……幸いなことに、どうやらそのおかげで床に叩き付けられるということにはならなかったらしい。

 そしてレフェリーが急いでヴォルグの様子を確認すると、TKOを宣言するのだった。

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