転生とらぶる2   作:青竹(移住)

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番外編166話 はじめの一歩編 第22話

「幕之内選手、OKです」

 

 俺の計量が終わり、一歩の計量も終わる。

 そして計量が終われば、当然ながらインタビューとなる訳だ。

 

「幕之内選手は、東日本新人王のリベンジとなる訳ですが、自信の程はどうですか?」

「精一杯頑張ります」

 

 記者のインタビューにそう答える一歩だったが、記者の方はあまり嬉しそうではない。

 無理もないか。

 記者にしてみれば、こういう時は大きな事を言って欲しいのだろう。

 だが、一歩の性格を考えれば、これでも頑張ってる方だと思うんだが。

 とはいえ、記事にするのはセンセーショナルな内容の方がいいと判断したのか、その記者は次に俺に視線を向けてくる。

 

「アクセル選手はどうでしょう? 以前、幕之内選手と試合をして1RでKO勝利してますよね? 今回も同じく1RKOを狙いますか?」

「一歩は決して油断していい相手じゃない。1RKOについても、狙ってる訳じゃなくて、試合結果としてそうなっているにすぎない」

 

 これは事実だ。

 別にどうしても1RでKOしようと思っている訳ではなく、試合をする事によってそうなっている……つまり、結果でしかない。

 

「それは、アクセル選手の強さが圧倒的だからですよね?」

「だと、いいんだけどな。一歩はフェザー級……いや、日本中のボクサー全てで考えても、間違いなくトップクラスの破壊力を持つ」

 

 その言葉に、記者達がざわめく。

 俺がここまで一歩を買っているとは思っていなかったのだろう。

 とはいえ、これもまた嘘ではない。

 実際、一歩の拳はそれだけの破壊力を持っているのだから。

 

「幕之内選手、今のアクセル選手の言葉を聞いて、どう思いますか?」

「え? その、あの……褒めてくれて嬉しいですが、拳の破壊力という意味ではアクセルさんの方が上だと思います。なので、精一杯頑張りたいと思います」

「……そうですか」

 

 一歩の言葉に不満そうな様子の記者。

 さっきとは違ってもう少し記事になりそうな話をしてくれるのではないかと思ったのだろうが、残念ながらそういう感じではなかったらしい。

 うーん……別に一歩の性格が悪いとは言わない。

 言わないが、それでもやはり一歩には試合前に相手を煽るといったような事には向いてないな。

 もっとも、別にどうしても相手を煽ったりする必要があるのかと言われれば、それは否だ。

 それは俺も分かっているが、しかしそれを考えた上でも、俺としてはボクシングに注目を集める為に、そういう風にしたいと思うのも事実。

 ……一歩にそういうのを期待するのは間違っているし、かといって一歩がこういう状態で俺が何かを言えば、それはそれで一歩だけを俺が責めるというか、煽るというか、つまり俺だけが悪役になってしまう。

 それは避けたい。

 俺は別にヒールをやりたい訳ではないのだから。

 俺のやってる事そのものがヒールだと言われれば、それを否定出来ない自分がいたりするが。

 そんな風に思いつつ、一歩とのインタビューは結局微妙な感じで終わる。

 最後に2人で写真を撮ることになったのだが……

 

「おい、一歩? どうした?」

 

 お互いに向かい合って構えを取るといったポーズで写真を撮るという事になったのだが、何故か一歩は俺の拳をじっと見ている。

 一体何を思ってそんな事をしてるのかと疑問に思って聞くのだが、一歩はそんな俺の言葉が聞こえないかのようにじっと見ている。

 

「小僧」

「痛ぁっ!」

 

 あまりに一歩が動かなかったからだろう。

 鴨川会長が持っていた杖で一歩を殴る。

 ……これ、今の時代だから問題はないんだろうな。

 将来的には口うるさいことを言う者達が多くなると、これでも虐待だなんだと騒ぎそうな気がする。

 

「あ、その、すいません。アクセルさんの拳を見て、これが今まで多くの相手を倒してきた拳なのかと思って」

「それを言うのなら、一歩の拳も同じようなものだろうに」

 

 俺がIRでのKOが多い――というか、今のところ全試合がそうだ――のと比べると劣るように思えるが、一歩もまた多くの試合でKOで勝利してきている。

 俺が日本人ボクサーの中でも突出した破壊力を持っていると言ってるのは、大袈裟でも何でもなく、正直な気持ちだ。

 もしかしたら、俺という存在がいなければ一歩も自分の拳にもっと自信が持てたのかもしれない……うーん、どうだろうな。

 普通ならそう思ってもおかしくはないのだが、一歩の性格を考えると普通にそれでは駄目なような気がしないでもない。

 もし俺がいなくても、一歩のこの性格はどうにもならないのだろう。

 ともあれ、改めて写真を撮って……そして計量は終わるのだった。

 

 

 

 

 

「で? どうだ? 今日で俺の後を継いでチャンピオンになるっていうのは」

 

 一歩との試合の当日。

 今日の俺の試合はメインだ。

 ヴォルグとの試合もメインだったから、別にこれが初めてという訳ではない。

 ただ、それでもどうせ試合をやるのならメインの方が嬉しいのは間違いない。

 

「伊達の後継者か。……まぁ、悪くないとは思うけどな」

 

 何だかんだと、俺がこの世界に来てから伊達との付き合いもそれなりにある。

 だからこそ、今日伊達の後継者となるのは悪くない気分だった。

 とはいえ、伊達の事を思えば俺もいつまでも国内チャンピオンのままという訳にもいかないだろう。

 まだチャンピオンになっていない中でそんな事を考えるのも気が早いとは思うが。

 

「おうおう、可愛いことを言ってくれるじゃねえか」

「まぁ、おやっさんに恩返しもしたいしな」

「恩返しって、そんな大袈裟な」

 

 俺と伊達の会話を聞いていたおやっさんが呆れたように言う。

 伊達やトレーナーもそれに同意するように頷いているものの、俺にとっては決して大袈裟な話ではない。

 何しろこの世界にやって来た時、必死になって人型機動兵器であったり、魔法とか超能力による戦闘を探しても、何の手掛かりもなかったのだ。

 もしおやっさんや伊達に声を掛けられていなければ……俺は今頃何をしてただろうな。

 別に必ずしも何かをするのではなく、ただボーッとしていてレモンが迎えにくるのを待っていただけかもしれない。

 あるいはボクシングではなくもっと別のスポーツをやっていたかもしれないな。

 それこそ、そろそろJリーグが始まるからサッカーか、もしくは現在一強の野球か。

 そのどちらであっても、プロになり、それこそ世界規模の選手になれる自信はある。

 あるのだが、団体競技である以上はボクシングよりも難易度が高いんだよな。

 まずはどこかに所属する必要があるが、仲代ジムのようにあっさりと所属出来るかどうかは微妙なところだし。

 そんな風に考えていると、やがて部屋にスタッフが入ってくる。

 

「アクセル選手、時間です」

「分かった」

 

 その言葉に座っていた椅子から立ち上がる。

 

「よし、行くか」

 

 伊達の言葉に頷き、何となく部屋の中を見る。

 プロになったばかりの頃は、控え室は他の選手と一緒だった。

 だが、こうしてメインの試合をやるようになると、個人での控え室となる。

 これにどう感じるのかは人それぞれなんだろうな。

 他の選手がいないのを、集中出来ると考えるか、あるいは静かすぎて集中出来ないと考えるか。

 俺の場合は、どちらでもいいタイプだったりするのだが。

 そんな風に思いつつ部屋を出てリングに向かう。

 やがて観客達の中を移動すると、お馴染みになったシェリルの曲が流れる。

 ……ちなみにこのシェリルの曲、聞いた話によるとどこで買えるのかといった問い合わせが結構あるらしい。

 おやっさんを通してボクシング協会から、その辺をどうにか出来ないのかという話が来てるのだが、今のところは断っている。

 シェリルがいればともかく、いないところで勝手にシェリルの曲を売るのはちょっとな。

 それに一度売ると、当然ながら次の曲を求める者も出て来るだろう。

 一応、シェリルの曲はそれなりに貰っているので、空間倉庫の中にあるのだが、出来ればそれはあまり広めたくない。

 もしシェリルが俺を迎えに来た時、恐らく……いや、ほぼ間違いなく不満をぶつけてくるだろうし。

 それにどうしてもシェリルの曲を聴きたいのなら、俺の試合を見にくればいいのだから。

 そんな風に思いつつリングに向かっていると、いつものようにクミコの姿を発見する。

 軽く拳を突き出すと、クミコも笑みを浮かべ……その笑みと共に、俺はリングの上に立つ。

 アナウンスによる紹介は……うん、まぁ、取りあえずスルーしておこう。

 何しろ絶望の大魔王とか普通に使われているしな。

 絶望の大魔王なんて異名、どう考えてもボクシングで使うものじゃないだろうに。

 そして一歩もまた姿を現す。

 昨日も見たが、その身体は今日の試合に向けてしっかりと仕上げてきている。

 今の一歩は、普段のような気弱さはない。

 何でも一歩は苛められていたらしいが、今の一歩を前にすれば、苛めなんてまずないだろうと思える。

 こんな一歩を苛めるというのであれば、それはそれでかなり根性のある奴だろう。

 

「今日はよろしくお願いします」

 

 リングに上がり、俺の前にやって来た一歩はそう言って頭を下げる。

 その目には強い闘志があり、本気で俺に勝つ気でいるのは間違いない。

 鷹村とのスパーについても知っているだろうし、鷹村経由で俺が伊達とのスパーで全勝してるのも知ってるだろう。

 だが、それを知った上でこうして俺の前にいるのだ。

 そこには当然ながら、何らかの勝算があっての事だろう。

 それが具体的にどのような勝算なのかは分からないし、個人的に言わせて貰えばその勝算は意味がないだろうと思えるが。

 自分で言うのもなんだが、俺が対戦相手という時点で既に勝利の芽はないのだ。

 ……それを言う訳にはいかないが。

 

「ああ。どういうボクシングをするのか、楽しみに待っている」

 

 そうして言葉を交わすと、レフェリーが近づき、諸注意をしてくる。

 それについては今までに何度も聞いてきていたことだ。

 A級トーナメントだけの特別なルールとか、そういうのはないし。

 ……そういうルールがある特別な試合とかもちょっと面白いとは思うけどな。

 例えば、相手に決められた回数パンチを当てたら勝利とか。

 ボクシング協会の方で許容しないか。

 諸注意が終わると、レフェリーが俺と一歩から離れ……カン、とゴングの音が鳴る。

 同時に一歩はお馴染みのピーカブースタイルで俺との間合いを詰めてくる。

 十分に鍛えているのが分かる、そんな速度。

 俺はフットワークを使って一歩から距離を取る。

 一歩の速度はインファイターとしてはかなりのものだ。

 それこそアウトボクサーであっても、速度という点では決して一歩は劣っていない。

 ただ……それでも、俺よりは遅いのも事実。

 一歩との距離を取りつつ様子を見ると、一歩は一瞬の躊躇もなく俺のいる方に向かってきた。

 少しでも俺との間合いを開けたくないというのが分かりやすい。

 だが、それをそのまま受け入れるような事をする筈もなく……フットワークの速度を上げる。

 

「くっ!」

 

 一瞬にして速度が上がった事で、一歩の口からそんな声が漏れる。

 それでも焦っていないのは……ああ、そうか。一歩がA級トーナメントの1回戦、そして準決勝で当たったのは冴木か。

 俺とのスパーでも見せていたが、冴木の速度はかなりのものだ。

 一歩の拳の破壊力が日本にいるボクサーの中でもトップクラスなら、冴木の速度もまた日本にいるボクサーの中でトップクラスなのは間違いないと断言出来るくらいに。

 そんな一歩だけに、速度に翻弄されるという事はないらしい。

 ただ……俺の速度は冴木よりも上だ。

 そして破壊力もまた一歩より上だ。

 その2つを併せ持つだけに、一歩のジャブが放たれた時は既にそこに俺の姿はなく、真横を通り抜けざまに2発のジャブを連打して一歩の顔面に当てる。

 実はこれ、3発目も打てないことはないんだが、そうなると速度の関係で後頭部にジャブが命中してしまうんだよな。つまり、反則だ。

 なので、2発にしておく。

 そうして俺はリングの上を素早く移動しつつ、一歩に近寄ってはジャブを当てては離れるという行為を繰り返す。

 蝶のように舞い、蜂のように刺すって奴だな。

 そうして1分程の間攻撃を食らいまくった一歩の顔はかなり腫れている。

 当然だろう。そういう風になるように打ったんだし。

 パンチの質というのは色々とあるが、俺もそれを使いこなせるようになっている。

 なので、こういう事も出来るし、顔を斬り裂くような一撃であったり、ダメージを直接内部に与えるような一撃を打つ事も可能だった。

 一歩の防御は守りの堅いピーカブースタイルだが、それでも顔の全てをグローブで守られる訳でもない。

 次々に命中するジャブ。

 そんな中、一歩は不意に足を止め、こちらの一撃を待ち構える動きに出る。

 かなり腫れている顔で俺を待ち受ける一歩。

 そんな一歩の横を通り抜けながらジャブを放ち……

 

「ちぃっ!」

 

 一歩は自分の顔面にジャブが当たった瞬間、相打ち狙いでジャブを打つ。

 それに驚きつつも、俺は速度を使って回避し、一旦動きを止めるのだった。

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