転生とらぶる2   作:青竹(移住)

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番外編170話 はじめの一歩編 第26話

 防衛戦が決まった俺は、当然ながらその試合に向けて練習が厳しくなっていく……のが普通なのだが、当然ながら俺は普通とは違っていた。

 

「いいよ、いいよ。その調子で笑みを浮かべようか」

「森田さん、そのまま幸せそうに笑みを浮かべてみようか」

「おっと、その様子だ。いいよいいよ」

 

 喋りながら、カメラマンが次から次にシャッターを押す。

 ……そう、現在俺は雑誌に載る写真を撮られているのだ。

 TVのCMはかなり時間が掛かるので取りあえず防衛戦の後という事になったのだが……雑誌の写真については時間が掛からないということで、こうして写真を撮られている。

 クミコが一緒にいるのは……まぁ、あのゴールデンタイムのインタビューを思えば無理もないか。

 ボクシングをメジャーにするという意味では、俺にとってこの依頼を受けないという選択肢はない。

 1日で終わるというのも大きいしな。

 

「そこで2人で嬉しそうに笑って」

 

 カメラマンの指示によって俺とクミコは写真撮影を続ける。

 そうして数時間程の写真撮影が終わり……

 

「写真撮影って、こんなに時間を掛けるんだな」

「ふふっ、芸能界も楽じゃないって分かってくれた? ……さて、本当ならもう少しここでアクセルと話していきたいところだったんだけど、仕事があるから行くわね」

 

 そう言い、クミコは俺の前から立ち去る。

 トップアイドルだけあって、分刻みのスケジュール……とまではいかないものの、どうやらそれに近いくらいには忙しいらしい。

 まぁ、それも売れてる証拠だと言われればそうなるんだが。

 そんな訳で、クミコがいなくなってしまった以上は俺もいつまでもここにいる訳にもいかないし……さて、どうするか。

 そんな風に思いながら歩いていると……

 

「お、アクセル?」

「……冴木?」

 

 適当に街中を歩いていたところ、不意に声を掛けられる。

 声のした方に視線を向けると、そこにいたのは以前俺とスパーをした冴木。

 ……結局A級トーナメントでは、1回戦で一歩に負けてしまったが。

 もしくは準決勝で一歩に負けたと言った方がいいか?

 ともあれ、そんな冴木の姿がそこにはあった。

 

「こんな所で会うとは思わなかったな。アクセルはなんでここに?」

「写真撮影でちょっとな」

「へぇ……アクセルもそういう仕事を受けるのか。そういうのはあまり好まないと思っていたんだが」

「まぁ、好むか好まないかで言えば、あまり好まないな」

 

 もっとも、個人的な嗜好という意味では、写真撮影とかそういうのは別にそこまで嫌いじゃない。

 ただ俺の場合、異世界からこの世界にやって来たのだ。

 だからこそ、戸籍に細工をして国籍とかその辺について解決した。

 技術班のハッキングツールを使っているので、それが知られるという事はまずないと思うが、それでも万が一を考えると、微妙に避けたい思いがある。

 もっとも、それでもボクシングをメジャーにするというのを目的としている以上、断るという選択肢はないのだが。

 

「やっぱりそうか。……それにしても、まさかここでアクセルに会うとは思わなかったな。どうだ? ちょっと付き合わないか?」

 

 そう誘ってくる冴木。

 どうするかと思ったが、今日は別に何か用事がある訳でもない。

 最低限の練習は午前中にやってきたし。

 

「分かった。今日は用事もないからな。ただ、酒は止めておくが」

 

 クミコの失敗を繰り返す訳にはいかない。

 そう思って冴木に言う。

 

「いや、ちょっとボウリングをやりに行こうと思ってな」

「……1人でか?」

 

 1人カラオケとかは聞いた事があるが、1人ボウリングは……いや、プロになりたくて練習をするとか、そういう意味ではやったりするのか?

 ただ、冴木はあくまでもプロボクサーである以上、そういう事を考える必要はないだろう。

 そして案の定、冴木は呆れた様子で口を開く。

 

「違うよ。大学時代の友達と一緒にだ」

「……そういう場所に俺が行ってもいいのか?」

 

 冴木の知り合いしかいない場所に俺が行っても、それこそやる事がないと思うんだが。

 

「別にいいんじゃないか? アクセルのファンもいるぜ。しかもそれなりの美人」

「ファンというのなら、それこそ冴木のファンも多いんじゃないか?」

 

 冴木は顔立ちが整っており、モテるのは間違いない。

 もし冴木がそっち方面に意識を向けていれば、女好きとして有名になっていただろう。

 もしくは、ホストにでもなっていたか?

 ……冴木のホスト、何だかもの凄く似合ってる印象しかないけど、俺だけか?

 

「どうした?」

「いや、防衛戦前だし、止めておくよ」

「……決まったのか?」

 

 数秒の沈黙の後、冴木が聞いてくる。

 どうやらこの情報はまだ知らなかったらしい。

 とはいえ、別のジムなんだからそれは仕方がないが。

 チケットが売りに出されたり、もしくは口コミで情報が広がるのが一般的である以上、冴木が俺の防衛戦について知らなくても無理はない。

 そして別に防衛戦の件については隠しておくような事でもないので、素直に頷く。

 

「ああ。新日本ジムの茂田晃って奴だ。俺の後で全日本新人王になったらしい。知ってるか?」

「あー……何かで見た記憶があるような、ないような」

 

 どっちだよ。

 そう思ったが、どうやら冴木にとって印象は薄いらしい。

 仮にも全日本新人王なんだから、印象が薄いという事はないと思うんだが。

 とはいえ、俺も茂田という奴の事を知らなかったのは同じだし、冴木を責められないか。

 

「まぁ、話は分かった。……というか、防衛戦が決まったのに、それも初めての防衛戦なのに、写真撮影をしてるのかよ」

「そう言われても、防衛戦が決まったのはついこの前だし、写真撮影については前々から話が来てたんだから、仕方がないだろう」

「ふーん。まぁ、頑張ってくれ。防衛戦は俺も見に行くよ。……俺も近いうちにアクセルに挑戦するからな」

 

 一歩との試合のダメージは既に抜けたらしい。

 何気なく踏むフットワークを見れば、ダメージが抜けた冴木が既に練習を本格的に始めているのは明らかだ。

 

「そうか。本当に俺に挑戦してくるつもりなら、その時は楽しみにしてるよ」

 

 今のまま……というか、以前スパーをやった時のままだと、冴木は俺に手も足も出ずに負けるだろう。

 それは冴木にも理解している筈だ。

 スピード・スターという異名からも分かるように、冴木のボクシングの長所は速度だ。

 しかし、俺の速度は冴木のそれを上回っている。

 それでいながら、ショットガンシェルであったりコークスクリューであったり、ソーラー・プレキサス・ブローであったりと攻撃力も高い。

 それは冴木も分かっている筈だ。

 それでも俺を見る冴木の目には、強い闘志の光がある。

 それは決して諦めていないという事の証だろう。

 

「おう、待っていて貰おうか」

 

 そう言い、冴木は俺の前から立ち去る。

 ボウリングに行くという話はなくなってしまったらしい。

 多分だが、これからジムに行って練習をするのだろう。

 冴木が俺に対して、どんな対策を練っているのかは分からない。

 分からないが、それだけに楽しみなのは間違いなかった。

 

 

 

 

 

「あら、お帰りなさい」

 

 仲代ジムに戻った俺を出迎えたのは、飯村だった。

 さもここにいるのが当然といった様子でそう言ってくる飯村の言葉に、ただいまと返し……

 

「いや、何で飯村がここにいるんだ? いやまぁ、前からそれなりに来てたけど、さもこの仲代ジムの関係者ですと言わんばかりの態度を取るのはおかしいだろ」

「そう? でも、私が見たところ、現在の日本ボクシング界で一番注目すべき選手はアクセルよ。なら、そのアクセルの側にいるのは不思議な話じゃないでしょう?」

 

 その言葉にどう反応すればいいのか迷う。

 そこまで取材対象として飯村に注目されている事を喜べばいいのか、それとも他の選手にも取材をしなくていいのかと言えばいいのか。

 

「他の選手のインタビューとかはいいのか?」

「あら、別に私がいつもここにいるという風に思うのはどうかと思うわよ? 今日だって、午前中の新日本ジムに行ってきたし」

「なるほど、なら……ん? 待て。新日本ジム? それって確か……」

 

 聞き覚えのあるジムの名前に、飯村の顔を見る。

 飯村はそんな俺の言葉に笑みを浮かべ、口を開く。

 

「そう、茂田晃。彼の練習風景を見てきたわ。……もっとも、私はあくまでも記者だから、情報を流したりはしないけど」

「だろうな」

 

 もしこれで、飯村が嬉々として茂田の情報を口にしたら、それはそれで一体何を考えているのかと、そんな風に思ってしまう。

 

「ただ、一言だけ。……彼はかなり強かなボクサーよ」

 

 そう飯村が言う。

 強いのではなく、強か。

 その表現はちょっと気になるが……まぁ、そういうこともあるだろうと、そう思っておく。

 全日本新人王になったくらいだ。

 ビデオがあれば、どういう選手なのかをしっかりと確認も出来るだろう。

 

「ちなみに、飯村の目から見て俺と茂田はどっちの方が有利だと思う?」

「アクセルでしょうね。……茂田も全日本新人王になったくらいだから有望な選手ではあるし、こうしてアクセルに挑戦してくるのだから、相応に強いのは間違いないと思うけど」

 

 そんな飯村の言葉に、俺は笑みを浮かべる。

 

「飯村が太鼓判を押してくれたんだから、負ける訳にはいかないな」

「あら、じゃあ初めての防衛戦を私の為に勝ってくれるのかしら?」

 

 こちらも笑みを……ただし、挑発的な笑みを浮かべ、飯村が言う。

 さて、どう返すか。

 いや、こういう時には……そう、何かで見たな。

 

「分かった。今度の防衛戦はお前の為に戦うよ」

 

 本当なら、こういう時は『この勝利を君に捧げる』とか『君の瞳に勝利を』とか……うん? 後半はちょっと違うか?

 とにかくそんな感じで言うんだろうけど……そういうのは俺のキャラじゃないしな。

 あるいはこれが宮田とか速水とかだったらそれなりに似合うのかもしれないが。

 まぁ、速水はともかく、宮田は俺も計量と試合でしか話したことがないけど、そういうキャラじゃないのは分かっているが。

 

「あら。……アクセルの情報を集めた時に、アイドルと付き合ってるって話があったけど、私にそういう事を言ってもいいのかしら?」

「別に付き合ってる訳じゃないんだけどな」

 

 飯村が誰の事を言ってるのかは、考えるまでもないだろう。

 俺とクミコの事だ。

 ただし、俺とクミコは……何度かデートをしてるし、身体の関係もあるものの、付き合っている訳ではないという、微妙な関係だ。

 ただし、インタビューの件であったり、全日本新人王の試合の後でクミコが俺の控え室に来た内容も雑誌に載ったりしているので、そういう風に思っている者が多いのも事実だが。

 飯村もどうやらその噂を信じているらしい。

 

「ふーん。……まぁ、私はその件についてはどうでもいいけどね」

 

 なら、何で少し不満そうなんだ?

 そう突っ込みたくなったが、それを口にすると間違いなく飯村を怒らせるだろうと予想出来たので、黙っておくのだった。

 

 

 

 

 

「アクセル、茂田の試合のビデオが手に入ったぞ」

 

 俺がクミコと写真撮影し、冴木と会ってから数日後、ジムで縄跳びをしていた俺におやっさんがそう声を掛けてくる。

 

「分かった、すぐに見る」

 

 そう言うと、ジムの中でもビデオのある部屋に向かう。

 ちなみに当然ながら、この時代はVHSだ。

 DVDとかはまだ影も形もない。……いや、研究とかはされてるんだと思うが。

 TVも当然ながらシャドウミラーで使われているような、空中に浮かぶ映像スクリーンの類でもなければ、薄型のTVとかでもなく、前後に大きいブラウン管のTVだ。

 そんなTVに映し出されるのは、茂田の試合。

 どうやら全日本の奴……つまり、東日本新人王と西日本新人王の試合らしい。

 俺でいえば、千堂との試合だな。

 千堂との試合を思い出していると試合が始まる。

 だが、茂田の構えが……いや、これは……

 

「サウスポー?」

「その通りだ。アクセルも今まで結構な人数と試合をやってきたが、サウスポーの相手と試合をした事はなかったよな?」

「ないな。色々な構えの選手はいたが、サウスポーとの試合はない」

 

 元々左利きというのはそう多くはない。

 勿論、滅多に見ないとかそういう事ではないが。

 だからこそ、ボクシングに限らず他のスポーツでも左利き……サウスポーというのはかなり有利な条件となる。

 

「うちのジムにサウスポーはいたか?」

「いや、いないな」

 

 おやっさんの言葉に、どうするべきかを考える。

 伊達や沖田辺りなら、サウスポーをやって貰おうと思えば出来ない訳でもないと思う。

 ただし、それはあくまでも付け焼き刃でしかないのも事実。

 そういう付け焼き刃とは……まぁ、やらないよりもやった方がいいのは間違いないのだろうが、それでも本物のサウスポーとは比べものにならないだろう。

 特に伊達は現在世界戦に向けて仕上げているところだ。

 そうである以上、それを邪魔するような事はしたくない。となると……

 

「沖田だな」

 

 そう、俺は呟くのだった。

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