転生とらぶる2   作:青竹(移住)

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番外編172話 はじめの一歩編 第28話

 計量が終わった翌日、俺の姿は控え室にあった。

 今日の試合のメインは、当然ながら俺の防衛戦だ。

 とはいえ、昨日茂田に言ったように、特に緊張の類はない。

 ……これについては、それこそ文字通りの意味で命懸けの戦いを数え切れない程に潜り抜けてきた俺だ。

 それだけに、この程度の戦いで緊張しろという方が無理だった。

 なので、いつものようにリラックスをしていると……

 コンコン、と控え室の扉がノックされる。

 もう試合か?

 そう思ったが、控え室にあるTVではまだ前座の試合の1つが行われている。

 この後にもう何試合かあり、それが終わってからようやく俺の試合となる。

 つまり、今この時にスタッフが来るとは思えない。

 ……茂田の方に何かあったか?

 そう思っていると沖田が扉を開け……

 

「酷いですよアクセルさん!」

 

 そこには一歩の姿があった。

 しかも何だか怒ってるように思える。

 

「一歩? どうした?」

「これですよ、これ!」

 

 そう言い、一歩が部屋の中に入ってくる。

 そんな一歩に続くように、鷹村と鴨川会長……それと、見慣れない2人が続く。

 あ、いや。違うな。以前クミコと海にデートに行った時、一歩や鷹村と一緒に砂浜を走ってた連中か。

 1人はパンチパーマで、もう1人はそれなりに顔立ちの整っている男だ。

 鷹村は俺の視線に気が付くと口を開く。

 

「おい、青木と木村、来い」

 

 鷹村の言葉に、青木と木村と呼ばれた2人が俺の前までやってくる。

 一歩がまだ何か不満そうにしているものの、鷹村の言葉という事で黙っているらしい。

 ちなみに鴨川会長は、おやっさんと何か話していた。

 

「こいつらは、うちのボクサーの青木と木村だ。今度お前のところに連れていくから、スパーでもしてやってくれ」

「ちょっ、鷹村さん!?」

「鷹村さんが勝てないような相手に、どうしろってんですか!」

 

 青木と木村……面倒だな、青木と木村だと、青木村でいいか。その青木村が鷹村に抗議している。

 

「まぁ、俺は別に構わないけど、青木村とのスパーはおやっさんが許可を出したらだけどな」

「ぶはっ!」

「ちょっ、青木村ってなんだよ!」

 

 俺の言葉を聞いた鷹村が吹き出し、木村が不満そうに言う。

 ああ、つい口に出してしまったか。

 

「いや、青木と木村と呼ぶのは何だか面倒だしな。青木村ってよくないか?」

「くっくっく……そうだな、それは言いやすい。青木村か。今度から俺もそれを使わせて貰うよ」

「ちょっ、鷹村さん!?」

 

 青木の抗議の声。

 そこから3人で言い合いをしてるのを聞きながら……俺は改めて一歩に視線を向ける。

 

「それで? 一体何で一歩は……おい、一歩?」

「ぷぷっ……え? あ、えっとその……」

 

 笑いを堪えた様子の一歩。

 どうやら鷹村だけではなく、一歩にも青木村は笑いのツボにクリティカルヒットだったらしい。

 だが、俺が声を掛けた事でようやく我に返ると、一歩は慌てて持っていた新聞を俺に見せてくる。

 

「これですよ、これ」

 

 そうして一歩が示した記事は……昨日の計量の時の記事だ。

 色々と書いてあるが、ようは俺は今日戦う茂田よりも一歩の方が強敵だと言った事が大袈裟に書かれている。

 

「なるほど、随分と大きな扱いになったな。とはいえ、何でこれで一歩が怒るんだ?」

「いや、だって……これはその……何で僕がこんなに目立つようなことになるんですか」

「その辺は俺じゃなくてこれを書いた記者に言ったらどうだ? それに……一歩にとっても、この記事は悪くないんじゃないか?」

 

 一歩はその実力に反して、あまり目立ってはいない。

 これは俺が目立つ事で少しでもボクシングに注目を集めようとする為にやっているのだが、その悪影響として他のボクサーに注目が集まるような事は少なくなった。

 とはいえ、それでも目立つ人材……それこそヴォルグや冴木といった面々はそれなりにメディアの露出がある。

 ただ、一歩の場合はその破壊力は目立つが、外見という点ではどうしても地味だ。

 その為、スポーツ新聞の記者達もあまり記事にはしない。

 それでいいのか? と思わないでもなかったが、記者にしてみればスポーツ新聞が売れるのが最優先なのだ。

 だからこそ、売れるボクサーの特集を行うのが多い。

 これが藤井や飯村の書いているボクシング雑誌であれば、一歩とかもそれなりに真剣な記事を書くのだろうが。

 もっとも、そういう意味では今回のスポーツ新聞は一歩の事を記事にしているので、一歩にとって悪くはない事だろう。

 

「う……それは……けど……」

 

 俺の言葉に一歩は何かを言いたそうにしているが、同時に俺の言葉の意味も理解してか、反論出来ない様子だった。

 

「一歩が目立つのが好きじゃないのは分かってるが、ボクサーとして目立つのも重要だぞ? ボクシングをメジャーにする為にも、是非とも一歩には頑張って欲しいんだけどな」

「……前から思っていたんですけど、何だかアクセルさんの中で僕の評価がもの凄く高いように思えるんですけど」

「そうか? 俺は適正に判断してるつもりだけどな」

 

 まぁ、そこに一歩がこの世界の原作の主人公だからという思いがあるのも事実だが。

 とはいえ、それを抜きにしても一歩のボクシングは……その強烈な破壊力は、見ている者を惹き付ける。

 

「俺よりも一歩を高く評価してるってのは、ちょっと納得いかねえな」

 

 俺と一歩の話を聞いていたのか、鷹村がそう割り込んでくる。

 

「青木村の方はもういいのか? ……いいみたいだな」

 

 どうやら腕力で沈黙させられたらしく、黙り込んでいるのが見て分かる。

 鷹村らしいと言えばらしいんだろうが。

 

「それで、何で俺よりも一歩の評価の方が高いんだ?」

「そうだな。まず一歩は他のジムに頻繁に顔を出したりしないしな」

「……ぐぬぅ」

「いやまぁ、それはいいんだけどな。俺にとっても鷹村とのスパーはいい気分転換になるし」

「気分転換かよ。……まぁ、俺が一度もアクセルに勝っていない以上、反論は出来ねえがな」

 

 実際、鷹村のようなタイプのボクサーは仲代ジムにはいない。

 だからこそ、俺にとってはそんな相手とのスパーは気分転換に丁度いいのも事実だ。

 ……仮にもミドル級のチャンピオンとのスパーを気分転換としてるのは、どうなんだろうな。

 ああ、でも今では俺もフェザー級のチャンピオンだし、そういう意味では俺と鷹村の立場は互角なのか。

 チャンピオンになったのは鷹村の方がちょっと早かったが。

 

「今度、一歩は勿論、青木村も連れてスパーに来たらどうだ? まぁ、おやっさんとか、鴨川会長とかに許可を貰う必要はあるだろうが」

「そうだな。青木村にもアクセルとスパーをさせてやってもいいのかもしれないな」

 

 鷹村もちゃっかりと青木村を使い始めているな。

 この様子だと、青木村はどこまで広がる事になるのやら。

 そんな風に思いながら、俺は暫く鴨川ジムの面々と話をするのだった。

 

 

 

 

 

 既に聞き慣れたシェリルの曲と共に俺はリングに向かって進む。

 俺が姿を見せると観客達からの歓声やらヤジやら、色々な声が飛ぶ。

 そんな中を進み……

 

「ん?」

「どうした、アクセル? ……うわぁ……」

 

 俺の後ろを進んでいた沖田が、思わず出た声に俺の視線を追ったのか、そんな声を出す。

 ちなみに俺の視線の先にいたのは、クミコ……と飯村。

 いや、何であの2人が並んで観客席にいるんだ。

 それも何故かその2人の周囲の席は空いており誰も座っていない。

 2人はそれぞれ笑みを浮かべて談笑してるように見えるんだが。

 やがてそんな2人が俺の存在に気が付いたのか、こちらに視線を向けてくる。

 うん、こうして見ても特に険悪な様子には見えないな。

 沖田が何故今のような声を出したのか、ちょっと分からない。

 そんな2人にグローブを向ける。

 すると2人は笑みを浮かべて手を振ってきた。

 

「アクセル、俺……お前の事を尊敬するよ」

「いや、何でだよ」

 

 一体何でいきなりそういう事を言い出したのかは分からなかったが、そのまま歩き続け、リングに上がる。

 今までにも何度もやったように、軽くシャドーをして観客達にサービス。

 そうしている間に茂田もリングに上がり……そしてリングの中央にいる俺の前にやって来ると、至近距離で睨み付けてくる。

 俗に言うガンを付けるという奴だな。

 昨日のインタビューの時はそういう素振りを見せなかったのだが、どうやらこういうタイプらしい。

 

「あんたの化けの皮、俺が剥いでやりますよ」

 

 ボソリ、と。周囲に聞こえないように言う茂田。

 

「やれるものならやってみろ。そんな化けの皮があったらの話だがな」

 

 茂田が何を指して化けの皮と言ったのかは、俺にも分からない。

 だが、茂田の言葉は何かの確信がある様子だった。

 ……それが具体的に何なのかは俺にも分からない。

 分からないが、それでも俺のやるべき事は変わらない。

 伊達の予想から、恐らく茂田が持っている秘密兵器はカウンター。

 だが……俺にカウンターを当てるのが一体どれだけ難しいか。

 後は、妙に強烈なジャブもあるが、カウンターと同様に俺に当てるのはかなり難しいだろう。

 そんな風に思っていると、レフェリーがやって来て諸注意を行う。

 それが終わると、すぐに離れ……カン、とゴングの音が鳴る。

 いつものように右グローブを前に出すと……パン、とその右グローブが茂田によって弾かれる。

 同時に前に出た茂田は、得意のジャブを打ってくる。

 とはいえ、グローブを弾かれた時には既に茂田が何をしたいのかは理解していた。

 ……試合が始まってからグローブを合わせるのは、別に規則としてある訳ではない。

 それこそ暗黙の了解とか、そんな感じだ。

 そうである以上、グローブを弾くという茂田の行動はルール違反という訳ではない。

 とはいえ……だからといって、ジャブに当たるかどうかはまた別の話だが。

 素早く、連続で繰り出される右ジャブ。

 しかし、俺はそんな右ジャブの全てを回避する。

 にしても、右ジャブに妙に拘っているように思えるな。

 そしてビデオを見た時に感じたように、右ジャブの威力は大きい。

 ジャブを目で確認しつつ、回避しながらそんな風に思える。

 ボクシングのジャブというのは、あらゆる格闘技の中で最速のパンチだと言われている。

 実際にそれが事実なのかどうかまでは、俺には分からない。

 しかし、格闘技の中でトップクラスの速度を持つのは間違いない。

 ましてや全日本新人王になるだけの力を持ち、こうしてチャンピオンになった俺に挑戦してくるだけあって、茂田のジャブは一流のものなのは間違いないが……それでも、ジャブの速度という点ではヴォルグや冴木、宮田よりも劣る。

 勿論、それでもこうして目で見て反応出来るのは混沌精霊としての身体能力があるからこそではあるのだが。

 さて、そろそろ試合を決めるか。

 ジャブを回避しつつ、茂田が瞼を瞑った瞬間に動く。

 素早くリングを蹴り、茂田の目が開いた時には既に俺の姿は茂田の真横に。

 そのままショットガンシェルを、コークスクリューありで放つ。

 ドドドドドド、と。

 そんな音を立てながらコークスクリューの連打が茂田の顔面に当たる。

 最初の何発かを受けた時は、何とか回避しようとする茂田だったが、俺の動体視力から逃げられる筈もない。

 放ち続けるショットガンシェルは、茂田が何とか回避しようと顔を動かす場所に向かって放たれ、結果としてその顔面に命中する。

 あるいは何とか俺の方に向き直って防御しようとグローブを上げるが、手と手の間には当然のように隙間があり、その隙間を縫うようにしてショットガンシェルを放ち続け……そして防御が顔に集中した瞬間、ボディ……鳩尾に1発放つ。

 ソーラー・プレキサス・ブロー。

 普通ならボディというのは何発もパンチを当てて、それでようやく効果が出てくる。

 ボクサーもボディを狙われると危険なのは知ってるので、しっかりと鍛えているので、余計にボディの効果は出にくくなってしまう。

 そんな中、鳩尾を狙うソーラー・プレキサス・ブローは1発でボディに十数発のパンチを当てたのと同じくらいの効果がある。

 

「ぐえ」

 

 茂田もそんな一撃で腰を落としそうになり……目はまだ死んでないな。

 気が強いだけのことはある。

 とはいえ、ショットガンシェルとソーラー・プレキサス・ブローによる一撃は茂田の身体に大きなダメージを与えている。

 後はもう、倒してしまった方がダメージは残らないだろう。

 そう判断すると、コークスクリューの右ストレートを茂田に叩き込もうとし……それを見た茂田は、微かに右手を動かす。

 その狙いが何なのか……それは、伊達から予想を聞いていたので、俺にも理解出来た。

 なので、コークスクリューを打つ手を止め、左手でフックを放つ。

 しかし、茂田は完全にコークスクリューに狙いを定めていたらしく、その動きを止める事は出来ない。

 結果として、コークスクリューに対するカウンターに対するカウンターといった形で俺の左フックは茂田の顎先を掠めるようにして命中し……てこの原理によって脳を激しく揺らされた茂田は、そのままリングに崩れ落ちるのだった。

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