転生とらぶる2   作:青竹(移住)

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番外編176話 はじめの一歩編 第32話

 目の前を通る千堂のグローブ。

 1発の威力ではなく、速度を重視した細かい一撃。

 千堂らしくないパンチではあるが、それでも千堂の身体能力を考えると、こういう細かいパンチ……ジャブとも違う、そんなパンチの威力が相応にあるのは間違いない。

 だが、そんな千堂のパンチはことごとく回避するか、グローブで弾く。

 そして俺のパンチはその大半が千堂に命中する。

 数発の命中と全てが当たらない攻撃。

 その積み重ねにより、千堂は一瞬動きが鈍り……今だ!

 ドゴッと。

 そんな音を立てて俺の一撃が……千堂の鳩尾に入る。

 ソーラー・プレキサス・ブローだ。

 

「ぐふぅ……」

 

 幾ら鍛えても、鳩尾……横隔膜は鍛える事が出来ない。

 いやまぁ、もしかしたら何らかの鍛える方法はあるのかもしれないが、千堂は鍛えていない。

 綺麗にソーラー・プレキサス・ブローが決まった影響で、千堂の動きは鈍くなり……コークスクリューの右ストレートが、綺麗に顔面にヒットするのだった。

 そして倒れ込む千堂。

 レフェリーは近づいて千堂の様子を見て……カウントを数え始める。

 TKOかと思ったが、どうやらレフェリーの判断ではまだやれるらしい。

 

「7……8……」

 

 実際、レフェリーの判断は正しく、カウント8で千堂は立ち上がる。

 だが、立ち上がりはしたが、ソーラー・プレキサス・ブローと、何よりコークスクリューの一撃によってその意識は朦朧としており……

 

「9……」

 

 どしん、と。

 カウント9となった時、千堂はそのままリングに倒れ込み……

 

「10!」

 

 そしてカウントは10になり、俺のKO勝利が確定したのだった。

 

 

 

 

 

「防衛、おめでとうございます。アクセル選手が対戦したいと言っていた千堂選手ですが、実際に戦ってみてどうでしたか? いつも通り1RでのKO勝利となりましたが」

「そうだな。千堂は間違いなく以前よりも強くなっていた」

「……そう、なのですか?」

 

 まさか俺の口からそのような言葉が出るとは思っていなかったのか、記者は驚きと共にそう聞いてくる。

 多分だが、記者は楽勝だったというコメントが欲しかったのだろう。

 スポーツ新聞とかでは、そういう過激な言葉の方が売れるだろうし。

 しかし、俺の言葉は事実だ。

 千堂は元々優れた攻撃力を持っていた。

 しかし今日は、それにプラスして圧倒的な加速力も手に入れたのだ。

 恐らく、必死になって走り込みを行ってきたのだろう。

 全日本新人王の時、千堂は俺の速度に翻弄された。

 そこまで露骨に手も足も出なかったという訳ではないが、それでも俺の速度に対応出来ず、結果として一方的な試合になったのも事実。

 だからこそ、千堂は……そして千堂のジムのトレーナーは、千堂に速度を求めたのだろう。

 実際、千堂の攻撃力と速度というのは相性がいい。

 もし俺が相手でなければ……そう、例えば俺が以前防衛戦をやった茂田のような相手であれば、千堂が圧勝していた筈だ。

 それだけ、今の千堂は強い。

 ……ただ、残念ながら俺はそんな千堂よりもっと強かっただけだ。

 

「ああ、強かったのは間違いない。もし俺が伊達に続いてチャンピオンを返上した場合、次のチャンピオンが千堂になってもおかしくはないと思うくらいには」

 

 もっとも、千堂がそれを許容出来るかどうかは別の話だが。

 俺からチャンピオンベルトを譲られるというのは、千堂にとって決して好ましいことではないだろう。

 それこそ、ふざけるなと怒り狂ってもおかしくはない。

 とはいえ、ボクシングの世界では実力が全てだ。

 千堂が悔しくても、俺に勝てないと反論するのも難しい。

 ……あるいは実力がなくてもジムの力とかが上なら何とか出来たりするかもしれないが、仲代ジムとなにわ拳闘会では圧倒的に仲代ジムの方が規模は大きい。

 まぁ、千堂が所属しているという意味では、なにわ拳闘会も関西ではかなり人気のジムなのかもしれないが。

 

「あの、アクセル選手が戦ってみたいと言っていた千堂選手にも勝利した訳ですが、これからどうするのかは決まってるのでしょうか? また誰かと戦いたいとか」

「そう言われてもな。……今のところ、戦ってみたいと思う相手は思いつかない」

 

 一歩とはA級トーナメントで戦ったばかりだし、ヴォルグとも同様だ。

 宮田は既に日本を出て東洋のランカーになってるし、間柴は階級を上げている。

 後は特に注目している選手と言われてもいないので、茂田のように向こうから挑戦してくるのを待つしかなかった。

 具体的にどのような相手との試合になるのかは……今は分からない。

 そうしてインタビューが終わり、その日は解散となるのだった。

 

 

 

 

 

「アクセル、千堂は問題ないらしい」

 

 翌日、いつものように仲代ジムに顔を出すと、おやっさんが俺に向かってそう言ってくる。

 どうやら昨日の試合で担架によって運ばれた千堂だったが、大きな怪我とかはないらしい。

 倒した俺が言うのもなんだが……頑丈だよな。

 幾ら手加減をしているとはいえ、俺の一撃はかなり強力だ。

 そのパンチをあれだけ貰いながら、怪我はしても大きな問題にはならないんだから。

 

「そうか。無事で何よりだ。……やっぱり今回も今日のところは負けを認めるとか、そういう風に言ってたのか?」

「どうだろうな。向こうの会長からはそういう風には聞いていないけど……千堂の性格を考えるとありそうではある」

 

 全日本新人王の時はそういう風に言っていたと記者の1人から聞いた。

 であれば、昨日の試合でもそういう風に言ってもおかしくはない。

 

「それで……昨日のインタビューの件だけど、どうなんだ?」

 

 昨日の事を思い出したついでに、おやっさんに聞いてみる。

 

「ん? 何がだ?」

 

 おやっさんは俺の言葉の意味が分からなかったのかそう聞き返してくるが……本当に分かっていないのか、分かっていて誤魔化しているのか、微妙なところだな。

 

「次の俺の対戦相手だよ。千堂との試合が終わってすぐにこういうのを聞くのはどうかと思うけど」

「……難しい、だろうな」

 

 数秒の沈黙の後、苦々しげな様子でおやっさんはそう言う。

 

「千堂はともかく、ヴォルグや一歩、もしかしたら冴木辺りは挑戦してこないか?」

 

 そう聞くも、おやっさんは首を横に振る。

 

「難しいだろう。……いや、幕之内なら可能性はあるかもしれないが。この前の試合でもの凄いことをやったしな」

「もの凄い?」

「ああ。デンプシーロールという技を使った。アクセルの使うショットガンシェルみたいなものだな」

 

 あ、どうやらいつの間にか一歩も復帰していたらしい。

 

「デンプシーロール?」

 

 聞き覚えのない技の名前にそう返すと、おやっさんは簡単に説明する。

 ようは∞の形に身体を振りながらパンチを打ち続ける技らしい。

 ……一歩のパンチ力でそういう事をやると、脅威的な破壊力になりそうだな。

 

「なら、一歩が俺に挑戦してくる最有力候補か。……他には?」

「難しい。アクセルが強すぎるんだ」

「狙ったという訳じゃないけど、全試合1RでKO勝ちしてるしな。……自分で言うのもなんだが」

「そうだな。そんな化け物を相手に、挑戦しようと思う者は多くはない。日本人ではかなり人数の多いフェザー級だが、無理に階級を変えている者達もいるらしいし」

「マジか。そこまでするとは思わなかった」

「そこまでするんだよ。特にアクセルの場合、その強さが決定的だ。そうである以上、アクセルがいる限りフェザー級のチャンピオンになれない。なら、少し減量を頑張って1つ下の階級に移るか、少し不利なのを承知の上で1つ上の階級に移るかする者が多い」

 

 ボクシングにおいて、階級の上限は決まっている。

 具体的にはフェザー級の下のスーパーバンダム級にはフェザー級のままで移れないが、フェザー級の上の階級であるスーパーフェザー級……あるいはそれ以上の階級でも、体重の上限値は決まっているが下限値は決まっていないので、問題なく出場出来る訳だ。

 極論を言えば、最も軽いミニマム級の選手が、最も重いヘビー級に所属も出来るという事になる。

 ……もっとも、一般的に考えてミニマム級の選手に勝ち目がないのは間違いないので、試合のマッチメイクがもの凄い難しくなりそうだが。

 このくらいの事は、俺も勉強して理解している。

 ともあれそんな訳で、フェザー級からボクサーが減っているのは間違いないらしい。

 

「となると……いっそ、俺も上の階級に移動するか? スーパーフェザー、ライト、スーパーライト、ウエルター、スーパーウエルター、ミドル、スーパーミドル、ライトヘビー、クルーザー、ヘビー……そんな具合に」

「……普通なら無茶を言うなと言いたいところだが、アクセルなら出来そうで怖いんだよな」

 

 おやっさんがそう言うのは、実際俺がミドル級のチャンピオンである鷹村を相手にスパーで全勝しているからだろう。

 それも1発のパンチも受けずに。

 あ、でもそうだな。階級を上げていく場合、どうせなら日本チャンピオンではなく、世界チャンピオンでやってみた方が面白いかも。

 ……一瞬そう思ったが、伊達がフェザー級の世界チャンピオンであるリカルド・マルチネスだったか? そいつとの試合がある筈だ。

 

「まぁ、冗談はともかくとして。そうなると、俺は暫く試合相手が出て来るのを待つしかないのか」

「そうなるな。不敗のチャンピオンとして頑張ってくれ」

 

 不敗のチャンピオンか。

 絶望の大魔王よりはマシ……か?

 とはいえ、絶望の大魔王というのが俺の強さから来ている以上、1RKOで勝利を重ねる限り異名が変わる事はないと思うが。

 それはつまり、異名を変えたいのなら1RでのKO勝利は止めて、2Rまでもつれ込むとかすればいいのか?

 そう思ったが、わざわざ自分でそのような事をしたいとは思わない。

 それなら今の絶望の大魔王のままで構わない。

 

「いつまでも何もやる事がないなら、伊達みたいに世界に打って出るのもありかもしれないな」

「……そうだな。本当にどうしようもないのなら、考えておく」

 

 お? ちょっと意外だな。

 おやっさんの事だから、伊達の件が終わるまでは待ってくれと言ってくるかと思ったんだが。

 もっとも、俺がチャンピオンベルトを返上するにしても、もう少し後にした方がいいだろうが。

 何しろ俺はまだ2回しか防衛戦をしていない。

 個人的には、最低でも5回くらいは防衛戦をしてから返上するべきだろうと思う。

 ……まぁ、その前にこの世界に迷い込んだ俺を捜してレモン達が来る可能性は十分にあったが。

 

「こんにちは。……ああ、やっぱりアクセルはここにいたわね」

 

 俺がおやっさんと話していると、そんな声がジムに響く。

 男しかいない仲代ジムだったが、女の声が聞こえてもその声に反応する者は多くはない。

 その声の持ち主……飯村が仲代ジムに顔を出すのは、そう珍しいことではないからだろう。

 迂闊に飯村に言い寄れば、鋭い言葉で一刀両断されるのを知ってるというのもある。

 新人……そう、最近増えてきた新人の何人かは、飯村の美貌に目を奪われている者もいるが。

 新人が増えたのは、俺が頑張った結果……だと思いたい。

 勿論、伊達に憧れてとか、そういうのもあるんだろうが。

 

「アクセル、その様子だと昨日の試合の疲れはないようね」

「そうだな。特にそれらしい疲れもない。……1Rで終わったんだから、当然だが」

 

 もっとも、ボクサーの1Rというのは一般人が思ってる以上にエネルギーを使う。

 その1Rでも普通のボクサーなら十分に疲れたと言ってもおかしくはないだろう。

 

「それで、何の話をしていたのかしら? ああ、勿論私に聞かせてもいいような話ならだけど」

 

 そんな言葉に、俺はおやっさんを見る。

 とはいえ、別にそんなに重要な……部外者に聞かせられないような話をしていた訳ではない。

 おやっさんもその認識は同じだったらしく、俺の言葉に頷く。

 

「これから防衛戦が暫く暇になりそうだって話だよ」

「……ああ、そういう事ね。フェザー級の人数が減ってるって話でしょう?」

「当たりだ。プロボクサーとしては、やっぱり試合がないとモチベージョンを保つのに苦労するんだよな」

 

 実際、モチベージョンというのは非常に大きな意味を持つ。

 もしモチベーションが維持出来なければ、ボクシングをやる意味がなくなって、あるいは面倒臭くなって、ジムを辞める可能性すらあった。

 ……幸か不幸か、俺の場合は食べるのに困るという事はない。

 金がなくなったら、ヤクザとかテロリストとか、あるいは政治家の裏金とかを奪えばいいのだから。

 日本でそれが出来なくなったら、海外で同じようにすればいい。

 まぁ、そういう風になるのかどうかは分からないが。

 実際、ボクシングをメジャーにするという目的も今のところはまだ成功した訳ではなく、道半ばといった感じだし。

 そういう事を考えると、チャンピオンになったからといってモチベーションを失っている状態ではないのだろう。

 そんな風に思いつつ、俺はおやっさんや飯村と話を続けるのだった。

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