転生とらぶる2   作:青竹(移住)

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番外編177話 はじめの一歩編 第33話

「えっと……これはどういう事だ?」

 

 俺が千堂との防衛戦を行ってから時間が経ち、何だかんだと挑戦してきた選手もいて、現在俺は6度の防衛戦を終えていた。

 勿論、その全てが1RでのKO勝利だったが。

 そうして絶望の大魔王という異名に相応しい強さを名実共に見せつけ……そんな時、クミコから久しぶりに食事でもしようと誘われた。

 元々トップアイドルだったのが、俺とのインタビューでもの凄い話題になったクミコだったが、そういうのは長く続かない……いや、より正確には次々に出てくる新しい話題によって、忘れられるという方が正しい。

 忘れると表現したが、実際には完全に忘れる訳ではなく、何かあったらすぐに思い出すといったような感じだが。

 ともあれ、まだクミコがトップアイドルの1人なのは間違いないが、それでも以前より忙しさは減っているらしい。

 ……それは芸能人として、仕事が減ってるのでは?

 そう思わないでもなかったが、本人の様子を見る限りでは特に問題はないらしい。

 こうして俺と一緒に食事が出来るようになったのも、そのお陰だしな。

 そんな訳で、クミコとの食事を楽しみに来たのだが……何故か、そこには飯村の姿。

 

「えっと、クミコは?」

「……いないわ」

 

 どこか緊張した様子でそう言う飯村。

 うーん……これは、嵌められたか?

 いやまぁ、飯村にそういう感情を向けられているというのは、何となく察してはいた。

 初めて会った時は、純粋にボクサーとしての俺に興味を持っていたのは間違いないだろう。

 だが……自分で言うのもなんだが、興味のあるボクサーだからといって、毎日……ではないにしろ、週に何度も会いに来るというのは、普通は考えられない。

 

「分かった。なら、今日の一件はクミコが仕組んだのか」

「仕組んだって……ちょっと人聞きが悪いわね」

 

 俺の言葉に少しだけ緊張が解れたのか、飯村は笑みを浮かべる。

 飯村とクミコに繋がりがあるのは、千堂の試合の時に隣同士の席にいて、会話をしていたのを見れば明らかだった。

 千堂の後の防衛戦でも、何故か2人揃って俺の応援に来ていたりもしたし。

 飯村にしてみれば、俺とクミコの関係は気になるのだろう。

 何しろゴールデンタイムのインタビューで口説くような事をしたのだから。

 そしてクミコがどこまで飯村に俺との関係を話したのかは分からないが……実際には、俺とクミコの間には身体の関係がある。

 もっとも、それはあくまでも数回だけだが。

 1回目はアルコールによるものだったが、その後で数度、俺はクミコと関係を持っていた。

 とはいえ、それでも俺とクミコが付き合ってる訳ではないのだが。

 勿論、お互いに好意を抱いているのは間違いない。

 でなければ、そもそもそういう行為をしたりはしないし。

 まぁ、身体の相性とかもあるので、絶対にという訳ではないが。

 そんな訳で……俺とクミコは色々と複雑な関係なのは間違いない。

 それでいながら、関係を終わらせようと思わない辺り、本当に不思議な関係なんだろうな。

 だからこそ……と言うべきか。

 クミコが飯村と親しくなったのは。

 客観的に見た場合、クミコと俺の関係からして、飯村は恋敵のように思えてもおかしくはない。

 だというのに、クミコは俺を呼び出して飯村と2人きりにするという行動をした。

 勿論、こういう事をする以上、クミコも飯村の気持ちを知っての事ではあるのだろうが。

 

「なら、お膳立てをしたとか、そういう感じか?」

「……そうね。そう考えて貰ってもいいわ」

 

 飯村は俺の言葉の意味を理解し、薄らと頬を赤くしてそう言う。

 普段が生真面目な飯村だけに、頬を赤らめた飯村というのは破壊力が高いな。

 

「取りあえず、食事にするか。飯村も落ち着く時間は必要だろうし、クミコもそれを考えた上でこの店の予約をしたんだろうし」

 

 俺と飯村がいるのは、それなりに有名な料理店だ。

 ドレスコードが必要な店ではなく、普段着で普通に入る事が出来る店。

 それでいながら、料理は美味いと評判の店。

 値段は少し高めだが……料理のレベルや店の雰囲気を考えれば、妥当な値段だろう。

 クミコにしてみれば、ここで料理を食べながら少し落ち着いてこれからの事を考えると、そういう風に言ってるのだろう。

 クミコは芸能人、それもトップアイドルだけに、こういう店に詳しい。

 そんなクミコの店である以上、この店の料理が美味いのは間違いなかった。

 

「美味しいわね。……私も海外にいた時は色々な国の料理を食べたけど……日本の料理がやっぱり口に合うわ」

「まぁ、日本人である以上はそう思うのも当然だろうな。……それに、ただでさえ日本人というのは料理に関しては凄い情熱を燃やすし」

 

 運ばれてきた料理を食べていると、ようやく少し落ち着いたのか、飯村がそんな風に言ってくる。

 

「あら、アクセルもそういうのに詳しいの?」

「別にそこまで詳しいって訳じゃないけどな。あくまでもTVとかで見た知識だよ」

 

 実際には四葉から聞いたり、シャドウミラーの代表として会食に参加する事もあったりするので、その辺が理由だったりするが。

 例えば、日本の国民食と呼ぶべきラーメンとカレー。

 このどちらも、原形となった中華料理やインドカレー……カリーか? とにかくそれらとは全く違う料理になっている。

 他にもパスタのナポリタン。

 これもナポリタンという名前だが、別にナポリで作られた訳ではなく、日本で作られた料理だ。

 パスタの本場であるイタリア人がケチャップで味付けをしたナポリタンを見ると、驚き……中には何だこれはと怒る者もいるとか。

 後は中華料理のエビチリなんかも、日本で考えられた料理だな。

 他にも色々とあるが、ぱっと俺が思いつくのはこんな感じだ。

 

「ねぇ、アクセル」

 

 会話をしながらある程度料理を食べ進めていると、不意に飯村がそんな風に声を掛けてくる。

 

「何だ?」

「……アクセルはどこまでいくつもりなの?」

「どこまでというのは?」

「ボクシングよ。……私が言うのもどうかと思うけど、今のアクセルにとって日本のフェザー級は狭すぎるわ」

「……そうだな」

 

 数秒の沈黙の後、俺はその言葉を認める。

 飯村の言葉は、俺の実感として正しいと思う。

 フェザー級には強者と呼ぶべき者も多いが、俺がいるからという理由で階級を変える者も多い。

 そうなると、強者はいても全員が知ってる相手でしかなくなってしまう。

 これは日本のボクシング界にとっていい事なのかと言われると……微妙なところだろう。

 自分で言うのも何だが、絶対王者のような存在が俺で、そうなると他の選手にとってはチャンピオンになれないという事を意味している。

 強者と知った上で挑んでくる者がいるが……そうではない者の方が多いのも事実。

 不幸中の幸いなのは、そんな俺の存在がボクシングを広めるのに役立っている事か。

 とはいえ、それと同時に既存のボクシングファンにしてみれば、俺が戦うというのは俺の勝利と同じ意味という事で、ボクシング特有のスリリングな体験は出来ないと、不評らしいのだが。

 ……もっとも、そんな者達とは逆に俺が圧倒的な力で相手を倒すというのを好む層がいるのも事実。

 

「分かってるならいいけど……このままだと、誰も挑戦してこなくなるわよ?」

「千堂とか一歩辺りはどっちも挑戦してきそうだけどな」

 

 どちらも今のところ俺の2勝だ。

 そして負けん気も強いので、いずれまた挑戦してきてもおかしくはないと思う。

 

「他には?」

「……どうだろうな。俺の知らない相手が挑戦してきてくれれば嬉しいとは思うけど」

 

 冴木辺りとは、まだ試合はやっていないが……ただ、以前やったスパーで冴木も俺に速度という点では敵わないと知った筈だ。

 冴木の最も得意なところで俺が勝っているのだから、挑戦をするのは難しいだろうな。

 アマ特有の技術についても、俺の場合は普通に対処出来るし。

 ヴォルグは……どうなんだろうな。

 1度俺に負けはしたが、これから先の事を考えれば挑戦してくる可能性はある。

 ただ、ヴォルグは外国籍のボクサーというのも影響している。

 具体的には、負けが続くと商品価値がなくなってしまうという事だ。

 ヴォルグにしてみれば、それは避けたいだろう。

 つまり、俺を相手に挑戦してくる可能性は低いという事だ。

 ヴォルグ本人の性格では俺と戦いたいと思っているかもしれないが、背景がそういうのを難しくしてるんだよな。

 

「そろそろ、世界に挑戦してもいいんじゃない? 日本ではよく世界に挑める選手とか、世界を獲れる選手とか言われるけど、こう言ってはなんだけど、アクセルは世界を確実に獲れる選手よ。多くのボクサーを見てきた私でも断言出来るわ」

「……そうだな。おやっさんとも色々と相談してるのは間違いない」

 

 これは事実だ。

 ただ、当然ながら世界戦に打って出るとなると、ジムにも相応の金銭的な負担が必要となる。

 そして今の仲代ジムでは、伊達と世界チャンピオンのリカルド・マルチネスとの試合が来月には行われるので、そちらで余計に金が必要となっていた。

 そんな中で俺が世界に出るのは、資金的にかなり厳しい。

 ……そしてそれ以上に、俺が挑戦するとなると、同じ階級の伊達の世界戦がどうなるのかという問題がある。

 

「とはいえ、何をするにも取りあえず伊達の試合が終わってからの話だな」

「そう。……こうなると、仲代ジムも痛し痒しという奴ね」

 

 飯村の言葉に、だろうなと頷く。

 伊達と同じフェザー級の俺が仲代ジムに所属したのが悪かったのかもしれないな。

 いっそ、この世界の主人公である一歩と同じ、鴨川ジムに……いや、そうなると俺と一歩が同じ階級だけに、色々と不味いか。

 なら、他のジムに所属するべきだったか。

 今更の話だが。

 

「ああ、そうなるな。とはいえ、俺もいつまでもこのままでいいとは思ってないしな。……いずれ近いうちに、どうするのかを決めようと思ってるよ」

 

 そうしてボクシングの話は終わり……食事も終わる。

 

「さて、それでこれからどうする?」

「そう言われても……その、クミコと一緒にいる時はどうしてるの?」

 

 あれ? 名前で呼んでるんだな。

 いやまぁ、友人になったらしいし、そう考えればおかしくないのかもしれないが。

 

「ホテルだな」

「……」

 

 単刀直入に言う俺に、飯村は顔を真っ赤に染める。

 ただ、本人は自分の顔が赤くなっているのには全く気が付いていない様子だ。

 冷静なように見せ掛けているのは……うん。飯村らしい。

 そして、そんな飯村が魅力的なのも間違いない事実。

 本人にそれを言えば、一体どういう反応をするのかはちょっと分からないが。

 

「それで、どうする? ……最初はもっとゆっくりと進展させてもいいけど」

「その、アクセルは……私の気持ちを知った上で言ってるのよね? それはつまり、付き合うということでいいのかしら?」

「飯村が問題ないようなら、それでいい。……ただし、自分で言うのもなんだが俺は色々と特殊……端的に言えば女好きだ。飯村と付き合ってもクミコとの関係は続けるだろうし、他にもそういう相手が出て来る可能性は否定出来ない」

 

 そんな俺の言葉を聞くと、飯村は複雑そうな……本当に複雑そうな表情を浮かべる。

 

「これは、私はどう反応すればいいのかしら? 好きになった相手と付き合えると思ったら、いきなり浮気宣言……しかもそれを止めるつもりがない?」

「悪いが、こればかりは俺の性格、もしくは性癖的なものだ。そういう意味で受け入れられないのなら、告白……はされていないが、俺と付き合うのは止めた方がいい。ここで無理に付き合っても、それこそストレスを溜めるだけだろうし」

 

 これは事実だ。

 自分で言うのもなんだが、本当に俺は特殊な存在だ。

 何しろホワイトスターにいた時は毎晩20人近い恋人達と楽しんでいたのだから。

 そういう意味では、この世界ではかなり我慢している方だろう。

 だからこそ、普通の選択……飯村と付き合ったら飯村としか関係を持たないというのはまず無理だろう。

 そしてこの先の事を考えれば、やはりそういう相手が増える可能性は十分にあった。

 そういう、色々な意味で特殊な俺だけに、無理をしてまで俺と付き合う必要はない。

 

「……その、私は今まで男の人と付き合ったことがないの」

 

 俺の言葉に何かを考えていた飯村が、不意にそんな事を言ってくる。

 いやまぁ、生真面目な性格の飯村だけに、付き合った事がなくても不思議ではない。

 もっとも、その美貌と男好きのする身体を考えれば、多くの男に言い寄られていたのは間違いないだろうが。

 

「飯村なら今まで嫌という程、男に言い寄られていただろうに」

「……そういう気分にはなれなかったのよ。あ、でも別にアクセルが初恋という訳でもないわよ? 好きな人はそれなりにいた事もあるし」

 

 まぁ、女の初恋は早いとか何かで見たか聞いたかしたし。

 そういう意味では、これが飯村の初恋ではないというのはそんなにおかしくはない……というか、普通の事だろう。

 そんな風に思いつつ話をし……最終的に飯村は俺を受け入れ、ホテルに行く事になるのだった。

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