転生とらぶる2   作:青竹(移住)

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番外編179話 はじめの一歩編 第35話

 伊達がリカルドとの試合に負けてから半年程。

 俺は何故か……そう、何故か再び記者会見を見ていた。

 しかもこちらもTVで見ているのではなく、実際に現場でだ。

 

「……で、何で俺がここにいるんだ?」

「すいません、アクセルさん。その……鴨川会長がどうしてもって」

 

 一歩が俺の呟きにそう返してくる。

 ……無理もないか。

 今日の記者会見、そして試合をする相手はボクシングの本場であるアメリカの中でも暴君として有名な男だ。

 ブライアン・ホーク。

 世界スーパーウェルター級チャンピオン。

 ただ、同じチャンピオンでも半年前のリカルドとは違い、その性格は傲慢で自分勝手、独善的。そんな奴だ。

 鴨川会長が俺を記者会見の場に呼んだのは、そういう相手と鷹村の相性が最悪だからというのも大きいのだろう。

 鷹村の性格を考えると、最悪記者会見の場で殴り合いという事にもなりかねないのだから。

 

「ブライアン・ホークか。……まぁ、アメリカ人だけに素質に恵まれている、一種の天才ではあるだろうけど……」

「えっと、何ですか?」

「……そのブライアン・ホークという選手の試合は見た事がないが、鷹村にとってはそこまで難しい相手ではないと思うんだよな」

 

 そう言うと、一歩が嬉しそうに笑みを浮かべる。

 少し離れた場所で俺と一歩の会話を聞いていた青木村もそうだし、板垣とかいう鴨川ジムの新人も同様だった。

 仲代ジムにいればあまりそうは感じられないのだが、鷹村は鴨川ジムの精神的な支柱とでも呼ぶべき存在だ。

 実際、それだけの存在感は持ってるし……何より、ブライアン・ホークが天才だというのなら、鷹村もまた天才だ。

 まぁ、天才と一口に言っても、その才能には個人差がある。

 才能の最大値が10の奴もいれば、30、50……場合によっては100を超えるような者もいる。

 そういう意味では、同じ天才であっても鷹村とブライアン・ホークのどちらが勝つのかまでは俺にも分からない。

 分からないが、鷹村は何度も俺とスパーをしている。

 そして俺との模擬戦で野生を目覚めさせることすらした。

 ブライアン・ホーク……面倒だからブライアンでいいか。

 そのブライアンとの試合で、鷹村の本領が発揮されれば……恐らく鷹村が勝つだろう。

 ブライアンも間違いなく天才なのだが、その才能にあぐらを掻いて練習らしい練習は殆どしていないらしいな。

 そんな訳で、試合になりさえすればいいんだが……問題なのは、その試合前、具体的にはこれから行われるインタビューで騒動が起きないかという事だろう。

 鴨川会長もそれを心配して、鴨川ジムの中でも主要メンバーと呼べる面々を用意し、更にはいざという時の為に俺にも来てくれるように頼んだ訳だ。

 

「お、始まるぞ」

 

 記者会見がいよいよ始まる。

 いい加減というか、自分勝手な性格をしているブライアンだったが、さすがにこの記者会見の場にはしっかりと出て来たらしい。

 その隣には鷹村の姿もある。

 それにしても……

 

「鷹村、かなり減量に苦しんだらしいな」

 

 真理から聞いた話によると、計量の時の鷹村の身体はガリガリだったらしい。

 骨と皮……というのは少し大袈裟かもしれないが、とにかくそんな感じだったとか。

 そしてブライアンはそんな鷹村の身体を見て馬鹿にしたらしい。

 ……正直なところ、よくブライアンに対して鷹村が襲い掛からなかったなと、その話を聞いた時に思ったものだ。

 

「そうですね。本当に……言葉に出来ないくらい、凄かったです。僕はそこまで減量に苦労はしていないので、そういう体験はないんですけど。……アクセルさんはどうですか?」

「俺も一歩と同じだな。それなりに苦労はするが、それはあくまでもそれなりだ。とてもではないが今の鷹村のような状況になった時はない」

 

 ボクサーとしての俺にとって有利な部分は、この減量もあるだろうな。

 それなりに苦労するとは言ったが、実際には俺は減量では一切苦労していない。

 体重に関しては、それこそ俺の場合は混沌精霊としての力でどうとでもなるし。

 それこそ、計量前日にビュッフェとか食べ放題とかに行っても、翌日の計量では全く問題はないのだ。

 これは俺だから……混沌精霊だから出来る事だ。

 もし他のボクサーが……それも減量に苦しんでいるボクサーが知れば、発狂してもおかしくはないくらいのものだろう。

 もっとも、だからこそ俺はそれを話したりはしないが。

 そんな風に思っていると、記者会見場の方から険悪な雰囲気が感じられる。

 どうやら予想通り、ブライアンが鷹村をコケにしているらしい。

 これが例えば、自分が勝てるかどうか分からない相手だからこそ、場外戦で有利になる為に動いているというのなら分かる。

 だが、ブライアンの様子からすると、そういうのではなく、単純におちょくりたいから……あるいはマウントを取りたいからこそ、鷹村にちょっかいを出している感じだ。

 とはいえ予想外なのは、鷹村がそんなブライアンの挑発に耐えている事だろう。

 鷹村の性格を考えると、それこそ真っ先にブライアンに殴り掛かってもおかしくはないのだが。

 それが出来ない程に体力がないのか、それとも今はそんな気持ちすらも我慢して力として溜めているのか。

 その辺は俺にも分からない。

 分からないが、この分だと試合はかなり凄惨なものになりそうだな。

 そんな風に思っていると、藤井がブライアンを挑発するような……鷹村を怖がっているから、挑発をしてるのではないかといった事を口にする

 

「あちゃあ……ったく、あの人も自分がムキになってどうするんだよ」

 

 それにブライアンのマネージャーが答え、それに続くように真理が口を開く。

 代理人の言い分は分かったが、ブライアンはまた違うだろうと。

 だが……そんな真理に対し、ブライアンは好色な視線を向けながら口を開く。

 

「君は嘘を言っている。君が知りたいのはそんな事ではないだろう? このホテルの1003号室だ。いつでも扉を叩きたまえ」

 

 その言葉に、真理の顔は赤くなる。

 うん、まあ……真理はそちら方面ではまだまだ初心だしな。

 ブライアンの英語を聞き取れた者達の多くは苛立ちの表情を浮かべ……だが、真理はそんな中、怒りから頬を赤くしながらも口を開く。

 

「結構です。貴方のような下手くそが相手では……それこそ独り善がりの行為でしかないのでしょうね」

 

 しん、と。

 真理の言葉に記者会見場は静寂に包まれる。

 まさか、真理が……美人なのは間違いないが、生真面目そうな性格をしている真理がそのような事を言うとは思わなかったのだろう。

 そして、そう思ったのは話を聞いていた俺達だけではなく、ブライアンもだ。

 あるいは真理が英語ではなく日本語で返していれば、通訳がある程度大人しい言葉に翻訳して話したのかもしれないが、真理は帰国子女だけに普通に英語も喋れる。

 つまり、今の言葉は英語で話したのだろう。

 ……という事は、つまり記者会見場にいて黙り込んだ多くの者は、英語を喋る事は出来るのだろう。

 ブライアンの記者会見なのだから、各社ともそういう人材を送ってくるのは分からないでもなかったが。

 そして……ブライアンの額に血管が浮き上がると同時に、座った状態から一気にテーブルを跳躍し、真理に向かい……

 

「そこまでだ」

 

 真理の前に俺が移動し、そう告げる。

 周囲にいる者達は、一体いつ俺が現れたのか分からないらしく、混乱していた。

 離れた場所では一瞬前まで俺が隣にいた一歩が、いつの間にか俺の姿が消えていたことに気が付き、戸惑った様子を見せている。

 

「誰だ、お前」

 

 先程の真理の言葉が余程効いたのか、インタビューをしていた時のふざけた様子は一切ない。

 据わった目つきで俺に視線を向けてくるブライアン。

 

「誰でもいいだろう。それよりも記者会見の場で何をするつもりだ? さっさと元の席に戻れ」

 

 そう言い、先程までブライアンが座っていた椅子の方を顎で指す。

 そこではブライアンのマネージャーなのか、老人が1人こちらに向かってくるところだったが……

 それを無視し、ブライアンは拳を振るう。

 これが他の奴なら、退けとかそういう事を言っているだろう。

 だが、ブライアンは文字通りの意味で言葉より先に手が出た。

 ……だからといって、それでどうにかなる訳ではないのだが。

 

「きゃああああっ!」

 

 そんなブライアンを見て、誰かが悲鳴を上げるのが聞こえてくるが、俺はそれを無視し、あっさりとブライアンの拳を受け止める。

 

「Fuck!」

 

 まさか自分の拳が……それもフェザー級の俺に受け止められるとは思わなかったのか、苛立ち混じりに叫びながら、左手を振るおうとするが……

 

「がぁっ!」

 

 その前にブライアンを握る手に力を込める。

 痛みに呻くブライアンが、一体何が起きているのかといった様子でこっちを見てくる。

 まぁ、普通に……本当に一般的に考えれば、スーパーウェルター級の世界チャンピオンがフェザー級の日本チャンピオンに力で負けるとは思わないよな。

 しかも技術も何もない、本当の意味で純粋な力で。

 

「どうした? 腹の具合でも悪いのか? それとも、さっきの言葉が事実だと今更ながらに実感したのか?」

「ぐ……が……」

 

 中途半端なところで手を離すと、ブライアンはまた俺に向かって攻撃をしてきてもおかしくはない。

 あるいは真理に狙いを定める可能性がある。

 そうならないように、お互いの力関係はしっかりとさせておいた方がいいだろう。

 そう思い、ブライアンの右手を握る力に少しだけ力を込める。

 

「が……」

 

 既に立っていられない状態になったのか、ブライアンは半ば跪くような格好になって俺の方を見てくる。

 だが……まだだな。

 ブライアンの目の中には、まだ俺に対する怒りの色がある。

 メキ、と。

 そんな音が周囲に響き……

 

「があああああああっ!」

 

 更に少しだけ力を入れると、ブライアンの口から悲鳴が上がる。

 

「ただちょっと拳を握ってるだけで、何でそんなに大袈裟に騒ぐんだ?」

「……すまないが、その辺にして貰えないだろうか?」

 

 ブライアンのマネージャーが俺の側までやってくると、そう言ってくる。

 俺はマネージャーの言葉に、ブライアンの手を離さず口を開く。

 

「そうは言っても、手を離すとまたブライアンがおいたをするだろう? 幾ら弱者の我が儘でも、それを許せる場所かどうかは考えるまでもないと思うが」

「……弱者……」

 

 俺の言葉に、マネージャーは信じられないといった様子でそう言う。

 ブライアンも……あ、目の中に俺に対する恐れのようなものが浮かび始めたな。

 ここでようやくか。

 てっきりもう少し早く格の違いを理解すると思ったんだが。

 いや、ある意味でギリギリの選択か。

 今の状態なら、ブライアンの右手は鷹村との試合に何の影響もない。

 もう少し時間を無駄にしていれば、最悪ブライアンの右手首の骨が折れる……いや、砕けていた可能性もある。

 あるいはマネージャーの老人も、その辺を見計らって声を掛けてきたのかもしれないが。

 

「ほら、これでいいだろう? ……ブライアン、次からはもう少し大人しくしていろ。そうすればこういう目に遭わなくてもよかったんだ。分かったな、下手くそ君?」

 

 そう言い、膝を突いているブライアンの頭を何度か叩く。

 ブライアンはそれに気が付いたのか、気が付いていないのか、特に反応らしい反応をしない。

 そこまでして……ようやく俺は周囲に視線を向ける。

 当然ではあったが、記者会見場にいる多くの者が信じられないといった視線を俺に向けていた。

 あー……うん。真理を守る為とはいえ、ちょっとやりすぎたか?

 とはいえ、もしあの状態だとブライアンが真理を殴っていた可能性が高い。

 ……ブライアンの記者会見の様子を見ると、最悪強引に部屋に連れ込んで襲っていた可能性すらある。

 そう考えれば、俺の取った行動は決して悪くはないのだが。

 ともあれ、このような騒動があった以上、記者会見は終了するのだった。

 

 

 

 

 

「本当に大丈夫なんですか、アクセルさん?」

 

 記者会見終了後、一歩は心配そうに俺にそう言ってくる。

 普通に考えれば、俺とブライアンの体格差は圧倒的だ。

 そうである以上、俺に何の問題もないかと、そのように一歩が心配してもおかしくはない訳だが……

 

「心配するな。一歩も見てただろう? あの状況で、俺がどうすれば怪我をすると思う?」

「それはそうですけど……」

 

 そんな会話を交わす俺と一歩だったが、そこに青木村……もとい、木村が近付いてくる。

 

「いや、けどブライアン・ホークを止めたのはいいけどだ。生中継だぜ? あの光景が全国に流れた訳だけど……大丈夫か? ボクシング協会とかその辺から注意されたりしないか?」

「それはちょっと心配だったが、そもそも俺が呼ばれたのはああいう時の為だろう?」

「それはそうだけど、本当なら鷹村さんが暴発した時の為に呼んだ筈なんだけどな」

 

 木村が何とも言えない、困った様子でそう言う。

 その気持ちも分からないではない。

 鷹村を止める筈が、何故かブライアンを止めたのだから。

 とはいえ……俺が動かないと真理が危険だったのも事実だしな。

 真理もあそこまで挑発するような事を言うのは予想外だった。

 ……うん、これは後でお仕置きが必要だな。

 クミコも呼んでみるか?

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