転生とらぶる2   作:青竹(移住)

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番外編180話 はじめの一歩編 第36話

 鷹村とブライアンの試合は、大方の予想を外すように鷹村の勝利となった。

 前日に行われた、俺とブライアンの騒動がブライアンに悪影響を与えた可能性もあるが、それでも純粋に鷹村がブライアンよりも強かったのは間違いない。

 鷹村は才能あるボクサーだし、練習にも決して手を抜かない。

 だが、唯一の弱点は経験不足だった。

 鷹村よりも強いボクサーとなると、日本に一体どれだけいるのやら。

 しかし、そんな鷹村よりも強い存在として、俺がいた。

 始まりは、俺と一歩のプロ試験の時。

 あの時、伊達の言葉と成り行きから俺と鷹村のスパーが行われ、俺が勝利した。

 それから鷹村は俺とのスパーをやる為に仲代ジムによく顔を出すようになり、あるいは俺が鴨川ジムに顔を出す事もあった。

 そうして鷹村は自分よりも強い相手とのスパーをかなり経験している。

 ……もっとも、俺の今の肉体年齢は10代半ばなので、鷹村よりも強者ではあっても、重量級の選手という訳ではない。

 その辺を調整する為に、ブライアンとの試合で結構戸惑っていたみたいだったが。

 ともあれ、それでも3Rで鷹村がKO勝利したのは間違いない。

 そうして鷹村は名実共に世界チャンピオンになった訳だ。

 

「なのに、俺はこれか」

「あのな……アクセルはあまり実感はなかったかもしれないが、あの記者会見は生放送だったんだぞ? それを注意だけで許してくれたのは、上も気遣ってくれたんだろうよ」

 

 おやっさんが運転する車の中で、そんな会話をする。

 鷹村の試合が終わってから数日……今日、おれはおやっさんと共にボクシング協会に呼ばれて、記者会見の一件を注意されたのだ。

 もっとも、おやっさんが言うように謹慎とかそういうのではなく、厳重注意でもなく、軽い注意だけだったが。

 まぁ、ボクシング協会にしても、俺が真理を守る為にああいう行動に出たのは分かっていたし、一部始終が生放送で放映されていただけに、俺を処分する事は出来なかったのだろう。

 ましてや、俺は全試合を1RでKO勝利してきたフェザー級のチャンピオン……それも絶対的な強さを持つチャンピオンだ。

 言ってみれば、その圧倒的な力からボクシング協会は俺を処分出来なかったという一面もある。

 ……ちなみに、ブライアンがああいう傍若無人な態度を許されていたのは、その強さによるものが大きい。

 そういう意味では、俺もブライアンの同類的な存在なのかもしれないな。

 ともあれ、あの一件は俺的には決して悪くなかったのも事実。

 ブライアンの言動によって、生放送を見ていた者の多くが怒りを抱いた。

 そんな中、俺がブライアンを手玉に取ったのだ。

 しかもそれをやったのが、フェザー級チャンピオンの俺。

 また、それがあった翌日には鷹村がブライアンにKO勝利をしている。

 ブライアンの印象が悪かっただけに、それを倒した鷹村と真理に対する暴行を止めた俺に好印象を持った者は多かったに違いない。

 実際、鷹村とブライアンの試合の視聴率はボクシングとしては異例のものだったらしいし。

 つまり、ボクシングをメジャーにするという俺の目的としては間違いなくプラスな訳だ。

 ……個人的にも、真理にお仕置きという事でクミコと一緒に楽しい夜をすごせたし。

 

「それで、おやっさん。俺の事だけど……これからどうする?」

「それは、今日何をするかとか、そういう訳じゃないよな?」

「そうなる。世界についてだよ」

 

 前までは、伊達が世界に挑戦する為に俺は日本チャンピオンのままだった。

 あるいはチャンピオンになってすぐなら、防衛戦を経験するという意味でそのままというのもあったが、既に何人かの防衛戦を経験している。

 だが……それ以後、防衛戦は行われなくなっていた。

 というか、フェザー級から階級を移る奴が多くなっているって話だし。

 ボクシングをメジャーにしたいのに、俺のいるフェザー級からどんどん人が少なくなっているのは……ちょっと不味いのでは?

 とはいえ、伊達がいる以上は俺が世界戦に挑むのは難しい。

 そう思っていたが、伊達はリカルドに負けてしまった。

 ちなみにその伊達は、引退を考えているらしい。

 何でも仲代ジムでトレーナーになるか、独立してジムを作るかで迷っているとか。

 とにかく伊達の件が片付いた以上、俺がベルトを返上して世界に打って出てもいい訳だ。

 ……それに日本のフェザー級も、チャンピオンの俺がベルトを返上すれば、また活気溢れるようになるだろうし。

 

「……少し考えさせてくれ。正直なところ、アクセルなら世界を獲れる器だと思う。思うが……」

 

 あー、多分金の問題だな。

 鷹村とブライアンの試合もそうだったし、伊達とリカルドの試合もそうだったが、世界戦となると大々的にやるので金が掛かる。

 仲代ジム単体では当然ながら金が足りないので、スポンサーが必要になるのだが……鷹村はともかく、伊達は負けてしまった。

 とはいえ、絶対王者と呼ばれているリカルドに最終Rまでもつれ込み、判定での負けだ。

 リカルドを相手にそこまで競り合った選手は、伊達だけらしい。

 らしいのだが、それでも伊達が負けてしまったのは間違いない以上、スポンサーとしては色々と思うところがあるのだろう。

 ましてや、直近で鷹村がブライアンに勝って世界チャンピオンになったというのも影響してるだろう。

 あ、でも鷹村が勝利したからこそ、現在フェザー級チャンピオンの俺が世界に挑戦するとなると、波に乗り遅れるなとスポンサーになってくれる企業とかがいるんじゃないのか?

 そんな風に思いながら、俺はおやっさんの運転する車で仲代ジムに向かうのだった。

 

 

 

 

 

 ボグ、と。

 そんな音を立ててグローブが俺の顎に叩き込まれる。

 視線を逸らしていた鴨川ジムの面々がその音にリングを見て……次の瞬間、一斉にざわめく。

 

「嘘だろ……鷹村さんでもアクセルにはパンチを当てられなかったのに、青木が……?」

 

 木村のそんな声が聞こえてくるが……

 

「あ、あれ?」

 

 カエルパンチを放って俺に一撃を与えたのはいいが、それで俺が倒れる事もなく……リングに着地した青木に、俺は一撃を放って勝利するのだった。

 

 

 

 

 

 

 俺は気絶した青木を見ながら、何故このような事になったのかを思い出す。

 元々は鴨川会長からの頼みで、鷹村とスパーをする為に鴨川ジムにやって来た。

 ただ、今の鴨川ジムは青木がライト級のチャンピオンに挑戦するという事で、少しピリピリしていた。

 そんな中でいつものように鷹村とスパーをやって勝利し、スパーについて色々と言っていたところ、不意に青木から自分ともスパーをやって欲しいと頼まれたのだ。

 いつもなら断るのだが、鴨川会長から青木の事情を聞いて気分転換になるのならとスパーを引き受けたのだが、それで俺は青木からまともに1発を食らってしまった。

 ……ボクシングを始めてから今まで、俺はここまでまともに1発を食らった事はない。

 そういう意味では、青木がやったのは快挙なのだろう。

 うん。正直なところ、俺が最初にまともに……綺麗に1発を貰うとすれば、恐らくそれは一歩、もしくは鷹村や伊達だろうと思っていた。

 もっとも伊達は引退する事になったので、残りは一歩か鷹村のどちらかだったが。

 あ、でもリカルド辺りなら……

 

「おい、アクセル! 何だって青木なんかに1発貰ってるんだよ!」

 

 苛立ち……いや、怒り全開といった様子で鷹村が叫んでくる。

 とはいえ……

 

「そう言われてもな。青木がやったのはもの凄い事だぞ? もし鷹村が俺の立場でも、恐らく俺と同じ結果になっていた筈だ」

 

 いや、正確には違うか。

 混沌精霊の俺だからこそ、青木のカエルパンチを受けてもその場で立っていられた。

 だが、もし鷹村がカエルパンチを食らっていれば、場合によってはKOされていてもおかしくはない。

 カエルパンチというのは一見馬鹿そうに見えるが、実際は凶悪なパンチなのだから。

 何しろカエルパンチというのは立ち上がる……跳躍する勢いに自分の体重を乗せた一撃だ。

 つまり、ライト級のボクサーである青木の体重が乗った一撃。

 それこそもし鷹村が俺の代わりに青木の相手をしていれば、恐らく……いや、間違いなくKOされていただろう。

 それだけの威力が、今の青木の一撃にはあった。

 ……もっとも、スパーの最中だというのに俺に一撃を与えたことで満足してしまったのか、カエルパンチを放った後で油断したのはどうかと思うが。

 

「それは……いや、けどよ……俺が納得出来ない気持ち、分かるだろうが!?」

 

 叫ぶ鷹村。

 鷹村の気持ちは分からないでもなかったが、実際に青木が俺に一撃を当てたのは間違いない事実。

 

「気持ちは分かるが、諦めろ。さっきも言ったが、青木が今こうしてやったのはそれだけ凄い事だったんだからな。……チャンピオンとの試合、これが決まれば面白い事になるだろう。いや、それどころか上手くいけばこれだけで試合が終わってもおかしくはない」

 

 少し大袈裟かもしれないが、実際今の青木の行動……俺の視線を誘導した技術は、それだけのものなのは間違いない。

 実際、言われてみれば納得出来る技術ではあるが、それをボクシングに応用したのは素直に凄いと思う。

 コロンブスの卵だな。

 

「ぬぅ……おい、青木! 俺とスパーだ!」

 

 鷹村が俺の言葉に我慢出来ず、気絶から目が覚めたばかりの青木に叫ぶ。

 

「うげ。ちょっ、鷹村さん。勘弁して下さいよ。もう少しで試合だってのに、鷹村さんとスパーなんかやったら、ダメージが残った状態で試合をする事になるじゃないですか」

 

 そう言う青木だったが、鷹村がその言葉を聞く筈もなく……結局条件付きでスパーをする事になるのだった。

 

 

 

 

 

「アクセル、青木をどう思った?」

 

 スパーを見ていると、木村が俺の側にやって来てそう聞いてくる。

 少しだけ興奮しているように見えるのは、やはり青木が俺に初めてパンチを当てたからか。

 もしくは自分の親友が俺に攻撃を当てただけに、それだけ嬉しいのかもしれないが。

 

「さっきも言ったが、青木が編み出した……と言ってもいいのかどうかは分からないが、あの技術は間違いなく一級品だ。とはいえ、問題なのはそう連発出来るものじゃない事だろうな」

 

 青木がやったのは、視線を誘導するよそ見。

 言ってみればそれだけなのだが、試合……それもチャンピオンを相手にする試合でそれが出来るかと言われれば、かなり難しいだろう。

 よそ見をするという事は、当然ながら青木も相手から視線を逸らしている。

 もしよそ見に引っ掛からなかった場合、それこそ相手のパンチを無防備に食らってもおかしくはない。

 それだけリスクが高いが、同時に引っ掛かれば一気に試合を逆転出来るというリターンもある。

 文字通りの意味で、ハイリスクハイリターンなのだ。

 そんな技術を、試合中に何度も出来るか。

 青木の精神力が保たないだろう。

 あるいはこれが、シャドウミラーに所属する者達のように命懸けの実戦を潜り抜けてきたのであれば、精神力的な問題も気にしなくてもいいだろう。

 命懸けの戦いと比べると、ボクシングはお遊び……というのは少し言いすぎかもしれないが、それでもルールのあるスポーツだ。

 ……いやまぁ、リング禍というのもあるので、絶対に大丈夫だとは言い切れないのだが。

 特に俺の場合、混沌精霊としての身体能力があるので、手加減を間違った時には万が一という可能性も否定は出来ない。

 ともあれ、青木にしてみればよそ見というのは連発出来るものではない。

 また、そういうのがあると知っていれば当然ながら耐えようと考えるので、最初はともかく、そういうのがあると対戦相手が知れば、それに対応するだろう。

 とはいえ、対戦相手も対戦相手でよそ見があるからと、そちらにだけ意識を集中していれば、ボクシングに集中出来ず、普段通りの実力は発揮出来ないだろう。

 

「とはいえ、小手先の技術であるのは間違いないが、やられる方にしてみれば対処が難しいという意味で厄介な技術ではある」

「……そうか」

 

 俺の言葉に短くそう返す木村だったが、その表情には堪えきれない笑みがある。

 少しだけ心配なのは……このよそ見が流行らないかという事だ。

 今も言ったが、精神的な消耗が激しいのは間違いないものの、よそ見というのは結局のところ小手先の技術でしかない。

 つまり、やろうと思えば誰にでも出来るのだ。

 ……もっとも、無闇矢鱈にやればいい訳でもない。

 きちんと試合の流れの中で、不自然にならないように使う必要があるのも事実。

 何しろ、来ると分かっていれば……それこそ最悪目を瞑るといったことをして、よそ見をやりすごしたりも出来るのだから。

 微妙に嫌な予感がするのは、日本ボクシング界でよそ見が流行ったりしないかという事だが……うーん、どうだろうな。

 多分大丈夫だとは思うが。

 もし海外の選手が日本に来た時、よそ見を使われたらどうなるのか。

 もしかしたら、本当にもしかしたらだが、よそ見が世界中で流行る事になるかもしれないな。

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