転生とらぶる2   作:青竹(移住)

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番外編181話 はじめの一歩編 第37話

「凄かったわね」

 

 真理のその言葉には、色々な意味が込められている。

 そこにあるのは間違いなく称賛ではあるが、同時に呆れに近い色もある。

 俺達がいるのは、青木のライト級のチャンピオンとの試合の帰り。

 ……その試合では予想通り青木のよそ見が炸裂し、チャンピオンを相手に有利に戦い……そして最終的には勝利した。

 そう、今日の試合によって、青木はライト級のチャンピオンになったのだ。

 色々な意味で凄い試合だったのは間違いないが……木村の事が少し心配だな。

 鴨川ジムの主要メンバーと言うべき面々。

 その中で鷹村はミドル級の世界チャンピオンで、青木がライト級チャンピオン。

 一歩と木村と板垣がまだチャンピオンではない。

 つまり、鷹村はともかく青木が1歩抜きん出た存在になったのは間違いない。

 青木の性格を考えると、間違いなく調子に乗るだろうな。

 一歩や板垣はともかく、同世代の木村は……まぁ、その辺については俺が考える必要はないか。

 

「凄かったのは事実だが、あのよそ見が流行らないかちょっと心配だな」

「多分大丈夫じゃない? 失敗すればかなり危ない技だし」

「そうだけど、上手くいけば一発逆転を狙えるだろう?」

「……もしかして、アクセルも使ってみたいとか思ってるのかしら?」

「面白そうだとは思っている。とはいえ、何度も使える手ではないだろうが」

 

 日本チャンピオンとかならともかく、世界チャンピオンクラスになれば……どうだろうな。

 そういうのがあると知らなければともかく、よそ見というのがあると知っていれば、もしかしたらあっさりと破ってくるかもしれない。

 そうなると、やはりここぞという時に使った方がいいだろう。

 もっともこれは、あくまでも俺が世界戦に挑戦出来るようになったらの話だが。

 

「あのね……まぁ、アクセルなら失敗しても何とかしそうだからいいけど」

 

 少し呆れつつ、真理はそう言う。

 ……そう言いつつも言葉の中にはどこか面白そうな色がある。

 俺が世界チャンピオンとの試合で、よそ見を使った時の事を考えたのだろう。

 そんな風に思いつつ、俺は真理と食事をし……その後、仕事で今日の試合を見られなかったクミコと合流してから、ホテルに向かうのだった。

 

 

 

 

 

 ホテルで十分に楽しんだ翌日、俺は仕事に向かう前に一度家に戻るという2人とホテルの前で別れると、仲代ジムにやってきた。

 シャワーについては朝に浴びているので、昨夜どういう事をしたのかというのは分からない筈だったが、何故か仲代ジムの練習生達が俺に視線を向けてくる。

 ……何だ?

 そんな風に疑問を抱くと、おやっさんが事務所からジムに顔を出す。

 

「おう、アクセル。来ていたか。ちょっとこっちに来てくれ。重要な話がある」

 

 その言葉に、練習生達の視線を集めていたのはこれか? と疑問を抱きつつも、事務所に向かう。

 するとそこには、おやっさん以外にトレーナーも数人。そして伊達の姿もあった。

 これだけの主要な面々が集まっているとなると……一体何だ?

 

「こんな面々が集まって、一体何の話だ?」

「単刀直入に言う。アクセル。お前に世界戦の話が来ている」

 

 おやっさんの口から出たのは、俺にとっても予想外の言葉。

 

「……世界戦? 俺に?」

 

 そう聞くと、おやっさんは……いや、他の面々も頷く。

 伊達は少しだけ微妙な表情を浮かべていたが。

 

「ちなみに相手は?」

「リカルド・マルチネスだ」

「……それはまた」

 

 いやまぁ、俺にとって嬉しい事なのは間違いない。

 実際、いずれは……と思っていたのだから。

 特に最近は挑戦してくる選手も減っていたし。

 このまま俺がフェザー級にいれば、そのうちフェザー級は衰退してしまうのではないか。

 そのようにすら思っていただけに、今回の件は決して悪い話ではない。

 悪い話ではないが……何故急に?

 いやまぁ、以前から俺はベルトを返上して世界に挑戦したいと言ってはいた。

 だが、おやっさんは俺の言葉に少し待って欲しいと言っており、だからこそ俺はもう少し待とうと思ってはいたのだが……それが一転して、いきなりこの状況だ。

 疑問に思うのはおかしくはないだろう。

 

「一体何で急に?」

「向こう側からの要望だ」

「向こうって……リカルドか?」

 

 尋ねると、おやっさんが頷く。

 

「鷹村がブライアンと戦った時とは違うのか?」

 

 鷹村とブライアンの試合は、確か本来なら別の相手と防衛戦をやる筈だったが、その相手が何らかの理由で防衛戦を辞退したらしく、それで急遽鷹村に話が回ってきた……とか、そういう話だったと思う。

 今回の一件もそれと同じように、リカルドの対戦相手が何らかの理由で防衛戦が出来なくなり、それで俺に話が回ってきた……そんな風に思ったのだが、どうやら違ったらしい。

 

「情報を集めたが、違うらしいな。俺の集めた情報によると、そういうのとは関係なくアクセルを指名してきたらしい。……何かあるのか?」

「そう言われてもな。思い当たるのは……ああ、伊達との試合の前に行われた記者会見が終わった時、リカルドとちょっと話した」

「それでか? いや、だが……」

「おやっさん、その件はそれでいいとして……アクセルがリカルドとの試合をするかどうかだろ。……で、どうするんだ?」

 

 そう聞いてくる伊達に、俺は当然といった様子で頷く。

 

「受けるに決まっているだろ。今のまま日本チャンピオンでいても、何もやる事はないしな。それなら次のステップに進んだ方がいい。けど……」

 

 そこで一旦言葉を切ると、俺はおやっさんに視線を向ける。

 

「スポンサーの件はいいのか?」

 

 以前、俺が世界に挑戦したいと言った時、問題になったのはスポンサー……つまり、金だった。

 

「その辺については心配するな。……ただ、試合はメキシコで行われるという話だが。パスポートはあるか?」

「いや。ないな」

 

 戸籍については改竄したが、パスポートは取っていない。

 とはいえ、取ろうと思えばすぐに――相応の時間は必要になるが――取れるのも事実。

 もっとも、本来なら俺は影のゲートを使えるので、パスポートは必要なかったりするんだが、そうなると色々な意味で不味いしな。

 試合をするのに、入国した記録がないと最悪逮捕されてしまいかねない。

 だからこそ、必要がなくてもパスポートは取っておく必要があった。

 

「そうか。じゃあ、早速だが今日これからでもパスポートを取ってきてくれ」

「そう言うって事は、俺とリカルドの試合は決定したと思ってもいいのか?」

「……アクセルならリカルド・マルチネスに勝てるだろう」

 

 それは俺なら本当に勝てるという思いが込められているとの同時に、出来るのなら勝って欲しいという思いも込められているように思えた。

 おやっさんにしてみれば、伊達がリカルドとの試合で判定まで持ち込まれ、その結果として負けた事に思うところがあるのだろう。

 とはいえ、普通に……本当に普通に考えた場合、俺がリカルドに負けるような事はないんだよな。

 リカルドと判定までもつれ込んだ伊達だが、その伊達はスパーで俺に勝つどころか、1発のパンチを当てた事もないのだから。

 そう考えると、青木のよそ見って実はやっぱり凄いのかもしれないな。

 何しろこの世界で初めて1発貰ったし。

 

「まぁ、そうだな。正直なところ勝てる自信はある。あるけど……おやっさん、ちょっと賭けをしないか?」

「……賭け? 一体何についてだ?」

「リカルドとの試合。今まで通り俺が1Rで勝利をしたら、リカルドに勝って世界チャンピオンになっても、そのベルトはすぐに返上して、スーパーフェザー級のチャンピオンとの試合を組んで欲しい」

『……』

 

 俺の言葉に、部屋の中に沈黙が満ちる。

 俺が何を言ってるのか理解出来ない。

 そういう感じでだ。

 まぁ、その辺については無理もないのだろうが。

 ただ、ボクシングを日本でメジャーなスポーツにする……野球には及ばなくても、それに次ぐ位置にもっていくには、それだけの大きな出来事が必要なのも事実。

 

「本気か?」

 

 たっぷりと1分程沈黙した後で、おやっさんが言ってくる。

 そんなおやっさんに頷きを返す。

 

「勿論本気だ。そしてスーパーフェザー級チャンピオンとの試合で勝ったら、ライト級、スーパーライト級……といった具合に、1階級ずつ上げて、最終的にはヘビー級の世界チャンピオンになって、フェザー級以上の全ての階級を制覇したい」

「……本気か?」

 

 俺の話を聞き、改めておやっさんはそう口にする。

 もっとも、最初とは違ってたっぷりと30秒程の沈黙の後だったが。

 それでも伊達を含めた他の面々がまだ固まっているのを見れば、おやっさんが我に返ったのはかなり早かったのだろう。

 ……普段なら伊達も素早く我に返るのだが、世界戦というのを知っているだけに、俺の口にした内容がどれだけとんでもないのか知っているので、こういう反応になったのだろう。

 

「ああ、本気だ」

「本当にそんな事が出来ると思っているのか?」

「逆に聞きたい。……おやっさんは俺の実力を知ってるな? それを見た上で、本当に出来ないと思っているのか?」

「……」

 

 俺の言葉に、再びおやっさんは沈黙する。

 それは、俺の実力を……鷹村や伊達とスパーをやっても、負けるどころか1発のパンチも貰わずに勝つのを何度となく見ているからだろう。

 鷹村は世界チャンピオンだし、伊達も世界チャンピオンのリカルドを相手に判定までいった。

 つまり、双方共に世界トップクラスの実力がある訳だ。

 そんな2人を相手に圧勝する俺の力であれば、もしかしたら……そのように思うのはおかしくなかった。

 勿論、この世界にも俺の知らない……それでいながら、俺に匹敵する実力の持ち主がいる可能性は十分にある。

 特にボクシングの中で一番上の階級であるヘビー級のボクサーとか。

 もっとも……もし俺が言うような事を実現する場合、それこそミドル級の挑戦で鷹村と試合をする事になったりもするのだが。

 そうなったら、それはそれで盛り上がるだろう。

 何しろ軽い階級ではなく、ミドル級という重量級に分類される階級の世界チャンピオンを、日本人同士であらそうのだから。

 ……もっとも、俺の外見はアクセル・アルマーである以上は外国人なので、日本人同士の試合であっても、それは戸籍上の話だ。

 外見では普通に白人だし、そう考えれば日本人同士の試合としても、不思議に思う者の方が多いかもしれないが。

 

「沈黙が答えと思ってもいいのか?」

「……正直に言わせて貰えば、アクセルなら出来るかもしれないと思っている」

「おやっさん……」

 

 おやっさんの言葉に、伊達がそう言う。

 そこに複雑な色があるのは、やはり伊達が実際に世界戦に挑戦したからだろう。

 

「じゃあ……」

「だが、うちだけでは難しい。これからアクセルが挑戦する複数の階級の世界戦となると、とんでもない金が必要になる。間違いなくスポンサーがいる。だが、日本人がそのようなことを出来ると信じてスポンサーになってくれる者がいるかどうか……」

「……なるほど」

 

 結局は金か。

 とはいえ、それはつまり金さえどうにか出来れば対応出来るという事になる訳だ。

 うーん……どうするか。

 ぶっちゃけ、俺の空間倉庫にある宝石とか金塊とか、あるいは俺がこの世界で暴力団やテロ組織から入手した諸々を使えば、相応の……いや、相当の金額にはなる。

 とはいえ、これを使ってくれと出せば、当然ながら一体どうやってこれらを入手したのかといった疑問にもなるだろう。

 そうなると、間違いなく俺の事が色々と調べられる。

 今のところは、俺は特に問題がないのもあって、疑われてはいない。

 多少疑われても、戸籍を改竄したとか、そういうのは思いつかないだろうし。

 ただし、ボクシングをやる前にどこの高校に行っていたとか、そういうのを調べられるとちょっと不味い。

 一応カバーは出来るようにしてあるが、それはあくまでも一応だ。

 念入りに調べられると知られてしまう。

 となると……うん、やっぱり俺が金を出すというのはパスだな。

 ……あ、でも世界戦になると高校時代の同級生とかのインタビューがあったりするよな? その辺も何とかするように考えないといけないか?

 あるいは、どうにかしてその辺も隠しきるか。

 謎の多い……ミステリアスというのも、見ている者の想像を掻き立ててボクシングに熱中させるのに十分な効果を発揮するだろうし。

 ともあれ、まずは金……金か。いや、けどそうだな。ようはスポンサーになれば儲かると思わせられれば、それでいいんだよな。

 俺に投資すれば、それ以上の利益となって返ってくる。

 そう思えば、俺を相手に投資をしても構わないと思うだろう。

 そうなると、どうやればそうなるかだが……やはりそういう意味では、強さを見せつけるのが最善の筈だ。

 

「おやっさん、金が……スポンサーが必要なら、俺がどれだけの事を出来るのか、その強さを見せつけるというのが一番手っ取り早い。つまり、リカルドとの試合を見て貰おう。伝説的なチャンピオンになりつつあるリカルドに、1Rで勝利したら……そうなれば取りあえず次の世界挑戦の資金を出してくれるのは間違いないと思う」

 

 そう言う俺の言葉に、おやっさんは難しい表情を浮かべ……だが、やがて頷くのだった。

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