4000話記念なので、40話までやってみました。
元々が非常に長い作品なので、やろうと思えばもっと出来たと思いますが……ただ、アクセルとスポーツ物はあまり相性がよくないと判明しましたね。
いえ、正確には私の技量の問題なのですが。
色々とスポーツ物でやりたい作品もありましたけど、暫くはお預けになりそうです。
ともあれ、明日からはまた鉄血のオルフェンズ編に戻りますので、よろしくお願いします。
リカルドとの試合で勝利した俺は、世界フェザー級チャンピオンとなった。
そしてリカルドという半ば伝説的なチャンピオンを1R、しかもKOで倒したのは、試合を見に来ていたスポンサー達に対するアピールとしてはこれ以上ないものとなる。
また、当然の話ではあるがボクシングにおいてスポンサーになる企業の社長や会長といった者達は、それなりにボクシング好きの者が多い。
もっとも、中にはボクシングにはそこまで興味はなく、単純に投資をする対象ということで俺を見ている者もいるのだが……取りあえず今回試合を見に来た者達の大半は、ボクシング好きの者達だった。
今の日本において、ボクシングはそこまでメジャーではないスポーツであるのを考えると、おやっさんやボクシング協会がどれだけ頑張ってスポンサー候補を集めてくれたのかを示していた。
そんな訳で、俺の計画は順調に進む事になる。
それどころか、WBCとWBAの両方の世界チャンピオンに挑戦しては、統一王座になっていき……
「全く、信じられないわね」
夜、東京にあるホテルの部屋で、ルームサービスを頼みながら俺は真理とクミコの2人とゆっくりしていた。
いつもは試合をやる時は大半がその選手のいる国に行っての試合となる。
何度かは日本に呼んでの試合ともなったが。
そんな中、サンドイッチを食べながら呟く真理に尋ねる。
「何がだ?」
「世界戦なのに、その試合の選手が両方とも日本人という事がよ」
真理の言葉に、なるほどと頷く。
実際、俺が戦うのは鷹村だ。
それも俺と同じく、WBCとWBAのミドル級統一チャンピオンの鷹村と。
世界戦……それも重量級に分類されるミドル級において、世界チャンピオンなのが日本人の鷹村だというだけでも、日本人にとっては驚きなのに、その挑戦者も日本人なのだ。
ボクシング史的に、非常に大きな意味を持つ一大事だろう。
「今日の計量、どうだったの?」
クミコがナッツを食べつつ、聞いてくる。
その言葉に、今日の計量を思い出す。
ブライアンと戦った時の鷹村は減量がかなり厳しかったが、今日はそこまででもなかった。
それは身体を見れば明らかだった。
とはいえ、それでも減量が厳しくないかと言えばそれは違う訳で……
寧ろ減量よりは、俺に挑戦するという事で鷹村の気力は充実していたように思える。
……実際には挑戦者は俺でチャンピオンが鷹村なんだが。
ただ、今までのスパーにおいて鷹村は未だに1発も俺にパンチを命中させておらず、当然ながら勝利するのも俺だ。
つまり、鷹村はまともに試合をしても俺に勝利出来る可能性は驚く程に低い。
だからこそ、鷹村にとっては挑戦者といった認識なのだろう。
「やる気満々って感じだったな。……明日の試合、楽しみなのは間違いない」
そう言う俺に、クミコは笑みを浮かべ、真理も釣られるように笑い、その夜は3人で楽しむ。
ボクサーの場合は本来前の日に女を抱くのはスタミナ的な問題で駄目らしいのだが、幸いな事に混沌精霊の俺はそういうのを気にしなくてもいいので、我慢はしなかった。
「……アクセル、今日は勝たせて貰うぜ」
リングの上で鷹村が俺を前に、そう言ってくる。
その目には獰猛な光がある。
いつものスパーをする時とは全く違う。
まぁ、それは無理もない。
スパーは試合形式ではあるが、あくまでも練習だ。
そしてこれから行われるのは、本当の意味での試合。
そうである以上、鷹村がいつもと同じ筈はない。
そしてレフェリーからの諸注意があり、ゴングが鳴って試合が始まる。
まずはグローブを前に出し、鷹村もそれに触れる。
その瞬間、鷹村は前に出て素早くジャブを打ってくる。
前から鷹村はその体重とは裏腹の軽快なフットワークを持ってはいたが、今の動きは間違いなく俺が知っている以上の動きだ。
そして放たれるジャブはどこに当たってもいいといったようなジャブではなく、明確に俺の……人の急所を狙っている。
以前、俺とのスパーの中で身に付けた、野生。
それが最初からしっかりと効果を発揮している感じだ。
厄介な。
そう思ったが、俺もフェザー級の体格のままでミドル級までやって来た。
その小柄さは、スピード勝負をする上で俺に有利に働く。
ジャブを回避、回避、回避し……鷹村が目を瞑った瞬間、横に移動しショットガンシェル。
だが、鷹村は数発は貰うものの、素早く俺から距離を取る。
この辺りの上手さはリカルド並だな。
リカルドと戦ってから何人もの世界チャンピオンと戦ってきたが、それでもリカルド以上の選手はいなかった。
世界チャンピオンだけあって強いのは間違いなかったが。
だが……鷹村は、リカルドに決して劣らない。
いや、ミドル級の体格でフェザー級……あるいはもっと軽い階級並の動きをしているのだから、潜在能力という意味ではリカルド以上だろう。
そして鴨川会長にしっかりと訓練されており、決して才能にあぐらを掻いている訳ではない。
この辺は以前鷹村が試合をしたブライアンと大きく違うな。
そんな風に思いつつ、俺はジャブを交えつつ、最近はショットガンシェルやコークスクリューと同じくらい俺の代名詞となりつつあるソーラー・プレキサス・ブローを放つが……
「ぐぅっ!」
呻き声を上げる鷹村。
ただし、ジャブの合間を縫って放った一撃が命中したのは、鳩尾ではなく腹。
狙ったのか、野生によるものか、鷹村が咄嗟に命中する場所を変えたのだ。
とはいえ、それでもダメージは大きかったようだが。
それを示すように、一瞬だが鷹村の足が崩れそうになり……
「鷹村ぁっ! しっかりせい!」
鴨川会長の叫び声が聞こえた瞬間、鷹村は体勢を立て直し、先程のお返しだといった様子でボディを放ってくる。
その一撃をキュキュっとリングを後退して回避する。
目の前を通りすぎていく鷹村の拳。
その一撃が通りすぎた後、一気に前に出て……コークスクリューの右ストレートを放つ。
本来なら、このような大きな一撃はジャブやボディで相手の動きを止めるなりしてから放つべき一撃だ。
だが、ボディの一撃を外した後である以上、鷹村は即座に回避する事は出来ず……それでも本能的な動きなのか、顔を動かす。
ボグッと、
鷹村の顔面にコークスクリューの右ストレートが叩き込まれるが、それでも打点を微かに動かす事によって、その一撃は致命傷とはならない。
それでも俺の一撃が命中したのは間違いなく、鷹村の目から意思の光が消える。
そして鷹村の身体がリングに沈み……
勝った。
そう思った次の瞬間、鷹村の腕が消えた。
……消えたとしか思えない程の一撃が、俺のボディに決まる。
その一撃は間違いなく俺のボディに命中した。
命中したが、俺はボディの一撃を受けつつ、意思がない鷹村の顔面に改めてコークスクリューの右ストレートを放つ。
その一撃は既に意識のない鷹村を沈めるのに十分な威力があり……その倒れ方を見たレフェリーは即座に俺の勝利を宣言するのだった。
「いよいよここまで来たか」
鷹村との試合から数年……ミドル級の統一チャンピオンになったのはよかったが、そこからが長かった。
重量級の試合というのは金になるという事もあってか、試合そのものよりも、試合を決めるまでの交渉にかなりの時間が必要となった。
幸いなことに、俺の挑戦……全ての階級の統一チャンピオンになり、ヘビー級までを制覇するという目標に協力してくれる者が多数おり、そういう者達のお陰でここまで来る事が出来た形だ。
俺はホテルの窓から見える光景に目を向ける。
そこにあるのは、夜のない街と言われるラスベガスの夜景。
どこまでも広がるその光景は、さすがアメリカといった感じか。
明日、俺はあそこでWBAのヘビー級チャンピオンと戦う。
既にWBCのヘビー級チャンピオンとの試合には勝利しているので、明日の試合に勝利すれば正真正銘俺がボクシング界の頂点に立つ事になる。
「……アクセル? やっぱり緊張で眠れないの?」
シーツだけを纏った真理が、俺にそう聞いてくる。
そう聞きながらも疲れているのは、先程までの行為で疲れているからだろう。
実際、クミコは疲れ切ったのか、既に深い眠りについていた。
「緊張してというか、楽しみでというのが正しいな」
手にしたペットボトルの冷たいウーロン茶を飲みながら、そう返す。
俺がいるのはラスベガスの中でも最高級のホテルだ。
そんな場所なのだから、本来ならワインとかシャンパンとか飲むべきなのかもしれないが、もしそういう事をしたら明日の試合がどうなるか分からない。
最悪、ラスベガスそのものが消滅してしまいかねないし。
それに……おやっさんからは、持ってきた食べ物、飲み物以外は口にするなと言われている。
実際、以前の試合でホテルの従業員を買収して薬入りの食事を俺に出してきたという件もあったしな。
このホテルはラスベガスでも最高級のホテルだが、だからといって従業員が買収されないとは限らない。
……その結果、俺は折角の最高級ホテルなのに、その料理を食べたり出来ないんだよな。
日本から持ってきた食料や飲み物しか駄目。
まぁ、それでも俺の場合はいざとなれば空間倉庫の中に色々と料理が入ってるし、ぶっちゃけ混沌精霊の俺にとって食事というのはあくまでも趣味だ。
最悪、何も食べなくても問題はなかったりする。
……とはいえ、それでもやっぱり食べられるのなら食べたいのは間違いなかったが。
「ふふっ、まさか……アクセルがここまで来るとは思わなかったわ」
真理はそう言うと、俺の側までやってくる。
一糸纏わぬその姿は、見る者を魅了する。
……まぁ、それを言うのなら先程まで2人を抱いていた俺も素っ裸ではあるんだが。
ただ、このホテルは周辺で最も高いホテルで、俺が泊まっているのはその最上階。
パパラッチとかに写真を撮られるといった心配はない。
「真理には見る目があったって事だな」
これは俺の正直な気持ちだ。
真理は月刊ボクシングファンの記者になってから、ずっと俺を追ってきた。
……その結果、記者と取材対象というか、恋人関係になったりしたのだが。
「ふふっ、そうね。……もっとも、私が会った時のアクセルの戦歴を見れば、私じゃなくてもアクセルはものが違うと分かったと思うけど」
俺と真理はラスベガスの夜景を見ながら会話を続けるのだった。
すごいな、これ。
俺はリングの上から客席を見る。
そこに集まっているのは、数え切れない程の観客達。
当然ながら、この試合会場に入りきらない者が多く、ラスベガスでは……いや、世界中で今のこの光景が放映されている筈だ。
まぁ、無理もない。
俺が今日の試合で勝利すれば、フェザー級以降の全ての階級を制したという事になり、歴史上初めての事態なのだから。
2つ3つの階級を制覇した選手はいるが、俺がやったのはそれとも比べものにならないくらいの出来事。
……今更だが、どうせならフェザー級よりも下の階級も制覇しておけばよかったな。
そんな風に思っていると、黒人のボクサーがリングに上がってくる。
ヘビー級のチャンピオンらしく、その身体は筋骨隆々といった表現が相応しい。
だが、その目には油断の色は全くない。
静謐……そんな表現が相応しい、落ち着いた様子で俺を見ている。
俺の日本での異名、絶望の大魔王……これは多くの階級を制覇してきた事によって、世界的に広がっている。
宗教的な感じでいいのか? と思わないでもなかったが、取りあえず今は何の問題もないので、恐らくOKなのだろう。
そんな絶望の大魔王の俺と対するこの選手は、聖人という異名を持つ。
……うん、これって俺が明らかに悪役だよな。
聖人は、俺を前にして口を開く。
「アクセル・アルマー。私は君と戦うのを楽しみにしていた」
「そうか? まぁ、俺は色々と有名だったからな。いつから俺に注目していた?」
「東日本新人王の時さ」
「……何?」
その言葉は意外だった。
理解不能、と言い換えてもいい。
「はじめの一歩の世界に転生したと思ったら、まさか私の他にも同じような人物がいたとは思いもしなかったよ。私が日本の東日本新人王で一歩が準決勝で負けたと知った時の驚きが分かるかい? かと思えば、あのリカルド・マルチネスにも勝利し……そして今、君はここにいる」
そう、男は言う。
英語でもフランス語でもスペイン語でもなく……日本語で。
そして、男の口から出た『はじめの一歩』という単語。
俺は一歩がこの世界の原作の主人公だと思っていたのだが……それが証明された形だ。
「なるほど、つまりお前は俺と同じか」
「ああ、そうだよ。君と同じだ。……もっとも、私は原作に関わろうとは思わなかったけど」
だろうな。
ヘビー級の王者となれば、それこそ下手な社長や政治家よりも資産も権力もある。
日本がボクシング後進国である以上、この男がわざわざ日本で活躍する意味はない。
そんな諸々を考えると、この男の行動が分からないでもなかった。
「まぁ、色々と詳しい話をしたいところだけど……まずは試合だな」
レフェリーが近付いて来たのを確認してそう言うと、男……転生者も俺の言葉に頷くのだった。
フェザー級以降の全階級を制した俺は、その後暫く最強のボクサーとして君臨していたが、レモン達が迎えに来た事で、この世界……はじめの一歩世界を去る事になる。
その時、俺の側には真理とクミコ……そしてもう1人の転生者も一緒にいて、俺と共にホワイトスターに来るのだった。
この世界……はじめの一歩世界の日本では、ボクシングは俺が現役選手だった頃は日本においてスポーツでは一番だった野球を超えて、国民が熱狂する事になる。
そして俺がホワイトスターに戻った後は再び野球には抜かれたものの、俺が当初目的としていたサッカーとかには勝利し、長く野球に続く地位にいることになるのだった。
ちなみに青木は俺のボクサー生活の中で数少ない俺にパンチを当てた人物として、ボクシング史に残る人物になったとか何とか。
ちなみに俺と一緒にホワイトスターに来た転生者はエヴァの訓練で才能を発揮し、瞬く間にシャドウミラーの中でも上位の強さを得ることになる。
……ステラとの関係で、スティングやアウル、イザーク、エザリアとの関係は複雑なものになったが。
何故か『フォウ』とか口にしていたのが印象に残っているが……名前はステラだぞ?
うん、どこが聖人? って感じだよな。
後で聞いてみたら、この聖人というのはキャラ付けとして振る舞っていたらしい。