地球での用事も終え、火星に戻る事になった。
宿舎の一件があってから、蒔苗も色々と動いたようで……うん。予想通り、俺達が遭遇した宿舎の責任者は左遷されたらしい。
後はあの宿舎にいた中でも蒔苗に絡んで来た連中とかは、非常に厳しい訓練を受けさせられているとか。
もっとも、その訓練をしてるのはシャドウミラーの面々だったが。
それ以外にも簡単な式典があったりしたが、特にトラブルらしいトラブルがないまま、現在俺達は宇宙港からガランで火星に向かっている。
「てっきり、ギャラルホルン……特にアリアンロッド艦隊辺りが何らかのちょっかいを掛けてくると思ったんだけどな」
「地球だったからじゃない?」
俺の言葉にそう言うのは、食堂で俺の前に座っているマーベル。
ガランの食堂は、グランと同じような感じになっているのだが……それでも、何となくこっちの方が格が落ちるように思えるのは、やはりシャドウミラーの旗艦はグランだからか。
あるいは、シーラが艦長だからそういう風に思えるのかもしれないな。
それでも別に、そこら中が汚れているとか、壊れているとか、そういう感じではないのだが。
ブルワーズだった頃はそういう風だったりもしたのかもしれないが、そういう連中の多くが出て行き、あるいは追放され、今ではそういう無意味に乱暴な事をする者も少なくなった。
……少なくなったで、いなくなった訳ではないのだが。
そういう連中を問答無用で首にするのは、それはそれで問題だろうし。
多少血の気が多くても、有能な人材なら俺としては構わないし。
そもそもシャドウミラーはPMCなのだ。
そうである以上、血の気の多い者がいるのはそうおかしな事ではない。
寧ろそういう者達がいない場合、実際に戦闘になった場合に困ったりもする。
「イズナリオの後継者……ファリド家という意味ではなく、地球本部司令官的な意味ではまだ決まったという話は聞いてないんだがな。もっとも、ギャラルホルンの性格からして、そういうのが決まっても大々的に公表するとは思えないが」
特に今回の場合、イズナリオの失脚は汚職……アンリを通してアーブラウを自分の手駒にしようとしたのが原因だった
であれば、地球本部司令官という地位から失脚してもその理由について大々的に公表は出来ないだろう。
個人的には、ファリド家の後継者としてマクギリスにそこに滑り込んで欲しいのだが……多分難しい。
何しろ、地球本部司令官というのは、その名の通りギャラルホルンの本隊の司令官だ。
ラスタルにしてみれば、マクギリスに……間違いなく自分に敵対する人物にそのような地位にいられるのは困るだろう。
もっとも、ラスタルがマクギリスをどこまで危険なのかと認識してるのかは……どうなんだろうな。
ギャラルホルン内部での情報がどういう風にやり取りされてるのかは、分からない。
とはいえ、前回地球に来た時に俺達がシャトルで共同宇宙港に向かっている途中、アリアンロッド艦隊が拿捕しようと出張ってきたのを、ガエリオが止めた。
そしてガエリオがマクギリスの相棒的な存在であるのは、それなりに知られている筈だ。
何しろ、カルタを含めて子供の頃からの仲らしいしな。
つまりラスタルもその辺の関係は当然のように知っている。
だからこそ、ガエリオが出て来た一件でその3人がアリアンロッド艦隊に……あるいはラスタルに敵対するようになったというのは理解しているだろう。
そうなると、当然のようにマクギリスを地球本部司令官の後継者とするのには反対する筈だ。
「他のセブンスターズはどうなのかしらね?」
「現在7つのうち3つがマクギリスの派閥だ。そしてラスタルは1つ。残り3つの家がどうなるか……か。あ、でもガエリオはまだボードウィン家の当主という訳ではないから、現在の当主がどう判断するかにもよるだろうが」
「多分ボードウィン家は大丈夫じゃない? ガエリオの妹がマクギリスと婚約してるでしょう? それも聞いた話だと、政略結婚ではあるけどマクギリスにベタ惚れだという話だし」
「そういう感じはあるらしいな」
これで政略結婚だからという事で、ガエリオの妹がマクギリスを嫌っていれば、色々と問題も起きるかもしれない。
だが、政略結婚だと知った上で、マクギリスにゾッコンらしい。
マクギリスは美男子という表現が相応しいので、そういう意味では仕方がないのかもしれないが。
「なら、その3家は大丈夫でしょう。後は残り1家でもいいから引き込めば、マクギリス達は有利になるわ」
そう言うマーベルだったが、7家中4家が1つの勢力になっても、それで勝てると言えないところが現在のギャラルホルンの力関係を示していた。
ラスタルが有するアリアンロッド艦隊というのは、それだけ強力な戦力なのだ。
ギャラルホルンの精鋭というのは伊達ではないという事なのだろう。
……だからこそ、マクギリス達はシャドウミラーや鉄華団を戦力として期待してるのだ。
地球外縁軌道統制統合艦隊のMS隊にも実戦を経験させる事で鍛えてはいると思うが。
本来ならPMC……傭兵的な意味ではなく、仲間として俺達を引き入れたいのかもしれないが。
とはいえ、それはそれでこっちにもメリット、デメリットの双方があるんだよな。
なので、すぐにどうこうと言えたりはしない。
その時の条件次第だろう。
そんな風に思っていると……
「アクセルさん、ちょっとブリッジまで来て貰えますか?」
食堂にガランの船員の1人がやって来ると、いきなりそんな事を言ってくる。
「どうした? 何かあったのか?」
「はい。えっと、その……近付いてくるエイハブ・リアクターの反応がありました」
「……敵か?」
そう聞いておきながら、すぐに内心でそれを否定する。
例えば、先程まで考えていたアリアンロッド艦隊が襲ってきたとかなら、こうして人が呼びに来るのではなく、警報が鳴るだろう。
そして船員は俺の予想通り首を横に振る。
「いえ、どうもタントテンポのジャンマルコさんのようです。アクセルさんの友人の」
「ジャンマルコが? ……アーブラウ軍の件についてか?」
以前、地球での一件を終えて火星に戻る時……ある意味、今と同じような状況で、ジャンマルコは俺に接触してきた。
その時、アーブラウ軍の件についても知っており、MSの用意をする時は自分にも一枚噛ませて欲しいといったような事を言ってきた。
その時は明確な返事をしなかったが、そんな中で今回の一件だ。
ジャンマルコが話が違うと不満を抱いても仕方がないだろう。
とはいえ、ノブリスの一件を考えると仕方がないのは事実。
ジャンマルコ達よりも親しい関係にある、タービンズやテイワズにもこの件は噛ませていないのだから。
……とはいえ、その件について説明はしておいた方がよかったか。
「それは分かりません。ただ、アクセルさんを出すようにと要望しています」
「……そうか、分かった。なら、俺が向こうの船に行こう」
その言葉に、船員は目を見開く。
「えっと、通信でって事なんでしたけど……」
「アーブラウ軍の件はジャンマルコにも悪いとは思っているしな。この件でジャンマルコやタントテンポとの関係が悪くなるのは避けたい」
ジャンマルコはそれなりに火星に来る事もある。
そもそも、俺がジャンマルコと初めて会ったのも、ジャンマルコが何らかの理由……恐らくタントテンポの仕事だろうが、それで火星に来た時に行われていたMWの模擬戦の大会での話なのだから。
それだけに、ジャンマルコからの情報というのは、シャドウミラーにとって決して軽く見ていいようなものではない。
それに……単純に、ジャンマルコの船がどういう感じなのか、見てみたいという思いもあるしな。
「えっと……分かりました。すぐにブリッジの方に知らせてきます」
俺が冗談でそのようなことを言ってる訳ではないというのを理解したのだろう。
船員はすぐブリッジに知らせる為に向かうのだった。
「アクセル、私はどうする?」
船員がいなくなったところで、マーベルがそう聞いてくる。
その言葉に少し悩むが……
「マーベルはこっちにいてくれ。ジャンマルコと話をしている時にアリアンロッド艦隊が襲ってきたりしたら、それに対処出来る戦力が必要だ」
既に地球外縁軌道統制統合艦隊の管轄範囲を出ている以上、いつアリアンロッド艦隊が襲撃してくるか分からない。
以前の一件でアリアンロッド艦隊がかなりの被害を受けたのは間違いないが、ギャラルホルンの最精鋭と呼ばれるだけに……そして何より、ラスタルがトップなだけに、戦力の補充は簡単だろう。
もっとも、MSの補充については容易に出来るだろうが、そのパイロットとなるとそう簡単に補充は出来ない。
阿頼耶識であれば、MSの操縦は場合によっては特に訓練らしい訓練をしなくても、すぐにでも操縦出来る。
だが、阿頼耶識ではなく普通に操縦するとなると、かなりの訓練時間が必要となる。
それこそアリアンロッド艦隊レベルとなれば、数年の訓練は必須だろう。
それも、早くて数年だ。
今はまだ今まで育っていた予備のパイロットがいるから何とかなるかもしれないが……俺達との戦いで出た被害はかなり大きい筈だ。
もっとも、アリアンロッド艦隊以外の部隊からMSパイロットを引っ張ってくるという方法もあるし。
ともあれ、俺達に負けたアリアンロッド艦隊にしてみれば、何とか自分達の実力を見せる必要がある。
であれば、俺達がガランだけで地球の近くにいると知れば、襲ってくる可能性は十分以上にあった。
あるいは、ギャラルホルンの最精鋭たる自分達が負けたのが許容出来ないとか、そんな風に思ったりする奴もいるかもしれないし。
そんな訳で、俺はマーベルをその場に残してジャンマルコの船に向かうのだった。
「驚いたな。本当に来るとは思わなかった」
シャトルから下りた俺を見て、ジャンマルコが呆れたように言う。
周囲にはジャンマルコの部下と思しき者達の姿もあるが、特に殺気だった様子はない。
「そうか? ジャンマルコは以前俺の船まで来た事があっただろう? なら、俺がお前の船に来てもおかしくはないと思うが」
「……一応うちは裏の組織なんだけどな。まぁ、いい。来てしまった以上はどうこう言ったりするつもりはない、来いよ。客室まで案内するから」
「客室なのか? お前の部屋でもいいんだが」
「そんな訳にいくか」
即座に却下するジャンマルコ。
何だ? 今の一体どこに即座に反対する理由があった?
……まぁ、その辺については今は別にいいか。
ともあれ、俺はジャンマルコに連れられて客室まで移動する。
格納庫からそれ程離れていない場所にある客室。
その客室は、見て分かる程に高品質な家具が揃えられていた。
他にも部屋には絵画が飾られていて、貴賓室といった表現が相応しいような、そんな場所。
そんな中で俺の目を引いたのは、部屋の壁に……絵画とは違う場所にある地図。
宇宙の地図とかそういうのではなく、俺にとっても見覚えのある世界地図だ。
世界地図なのだが……
「え?」
その世界地図を見た俺の口から、自分でも知らないうちにそんな声が漏れる。
地図そのものは、俺が知っている地図とほぼ同じだ。
だが、地図の一部分……具体的には、オーストラリアのシドニーのある場所だけが、俺の知っている地図と違った。
だが同時に、俺はこれと同じ地図を見た事がある。
UC世界において、ジオン軍がコロニー落としを行った地図。
それがこれと同じだ。
勿論、全く同じなのかと言われれば、そうだと断言は出来ない。
あくまでも俺が覚えているのはシドニーの辺りがコロニー落としでこういう感じになったという、そんな感じの地図なのだから。
だが……それでもこの地図は一体。
考えられるとすれば、厄祭戦の時にMAとの戦いでシドニーの辺りが消滅したとか、そんな感じか?
とはいえ、それでUC世界と全く同じ場所がこうなるのかというのは……うーん、どうなんだ?
正直なところ、俺にもちょっとこの様子は分からない。
ただ、それでも……そう、何かがあるのではないかと、そんな疑問を抱いてしまう。
とはいえ、それが具体的にどんな理由なのかというのは、ちょっと分からないが。
「アクセル、どうした?」
地図を見て動きの止まった俺に、ジャンマルコが不思議そうに聞いてくる。
俺はそれに地図を見ながら口を開く。
「オーストラリアのこの場所、相変わらず随分と綺麗に丸く抉られていると思ってな」
そうして取りあえず誤魔化す。
ここで大きく驚くような事になれば、ジャンマルコが俺の存在に疑問を抱くだろうし。
ゲートが設置出来て、ホワイトスターと行き来出来るようになったら、また話は別なのだが。
そんな訳で、今は異世界の存在を知られるようになるのは不味いので、ジャンマルコに俺の秘密が知られないように振る舞うのだった。