ジャンマルコに俺の出自について誤魔化しながら、ふと考える。
俺が今まで行ったガンダム系の世界の地図はどうだった?
SEED世界については、オーストラリアはそのままだった。
W世界も同様にオーストラリアは普通のまま。
だが……X世界はどうだった?
X世界については、それこそ俺達が行く15年前の戦争において大量のコロニー落としが行われたので、地図とかはしっかりと把握出来ていない。
それこそオーストラリアにコロニーが落ちていても不思議ではない。
同じガンダム世界であってもこういう感じとなると、やっぱりオルフェンズ世界におけるオーストラリアのシドニーがこういう感じになっているのは偶然なのか?
……多分、偶然なんだろうな。
詳細については分からないが、今はそういう風に認識しておく。
とはいえ、全く同じ場所がこうなっているというのは疑問でもある。
ホワイトスターと繋がったら、もしくは今度狛治が来たら、その辺についてレモン達に調べて貰ってもいいかもしれないな。
そんな風に思いながらソファに座る。
客室にあるソファらしく、かなりの柔らかさだ。
シャドウミラーの拠点にも、こういう……地位の高い人物が使うような部屋を用意してもいいのかもしれないな。
とはいえ、どうやってその手の物を購入するかだが。
以前、W世界のデルマイユの家から盗み出した家具を出した事があったが、それは色々と不味いという事で現在は空間倉庫に収納されている。
そうなると、このオルフェンズ世界で購入出来る質の良い家具を何とか購入したいところだが……ラスタル派閥の基地から盗んでくるか?
もしくは、いっそエリオン家から盗み出すというのもありだな。
そう思うも、現在の俺達はまだ明確にラスタルと敵対はしていないんだよな。
いやまぁ、実際には何度も襲撃されているので、敵対しているのは間違いないんだが。
ただ、現在ラスタルの派閥と敵対しているのは、あくまでもマクギリス達なのだ。
そうである以上、ここで俺が前に出ると……それこそ、マクギリス達にいいように利用されるだけになりそうな気がする。
だとすれば、エリオン家に盗みに入るとしても、それはマクギリス達と本格的に戦いに入り、マクギリスが俺達を雇った後でなら……後方攪乱として、そういう行為をしても正当化出来る。
……出来る、よな?
そんな風に思いつつ、俺は用意された紅茶を飲みつつ、ジャンマルコに視線を向ける。
「それで、わざわざ俺に会いに来たのは、アーブラウ軍の件か?」
俺が紅茶好きというのは……それなりに知られている。
こういう時に出されるのは、基本的にコーヒーか紅茶だ。
和風のところであれば、緑茶や玄米茶という事もあるだろうが。
ともあれ、こうしてわざわざ俺が好む紅茶を用意したのは、俺の好みについて知ってると匂わせる為か……あるいは本当に偶然か。
その辺りの理由はともあれ、こうして出された紅茶に罪はないので、クッキーと共に紅茶を味わう。
「へぇ……」
紅茶が美味いのは理解していたが、クッキーもかなりのものだ。
「どうだ? 美味いだろう?」
「……美味いけど、何でお前がそんなに自慢げなんだ? まさか、お前がこのクッキーを作ったとか言わないよな?」
「半分当たりだ。正確には俺の女が作ったんだよ」
なるほど、それなら自慢げなのも理解出来る。
ジャンマルコは凶悪そうな表情をしているが、顔立ちそのものは整っている。
そういうのを好む女は多い。
「そうか。なら、ありがたく食べさせて貰うよ。……それで、まさかクッキーの自慢をしたいから会いに来たとか、そういう訳じゃないよな? さっきも聞いたが、アーブラウ軍の件か?」
「まぁ、それもある。……一枚噛ませて貰おうと思ったんだがな」
「それについては悪いなとしか言いようがない。こっちにも色々と事情があるし」
実際、MS60機を始めとする今回の代金はかなりのものとなった。
鉄華団と分け合っても、当分は会社の運転資金に困らないだろう。
もっとも、ハーフメタルの採掘場のついても新しく作っているので、そっちに結構な金が飛んでいくのだが。
「……まぁ、仕方がねえか。まさか、あれだけの安値でMSを売るとは思っていなかったし。しかもあれだけの綺麗なMSをな。一体どんな手を使ったんだ?」
そう聞いてくるジャンマルコだったが、その言葉からすると俺達が幾らでMSを売ったのかというのも知ってるらしい。
一体どうやって情報を入手したのやら。
考えられるとすれば、アーブラウの上層部にジャンマルコ……もしくはタントテンポと繋がっている者がいるという事だろうが。
地球に近い場所で活動しているだけあって、この辺はさすがだな。
「色々とあったんだよ、色々と」
「……まぁ、いい。これ以上は突っ込まねえよ。この件については、あくまでも話の取っかかりでしかねえし」
取っかかり?
てっきりアーブラウ軍の件に噛めなかった事を不満に思って来たとばかり思ってたんだが。
「なら、本題はなんだ?」
「ギャラルホルンの使っている、ハーフビーク級の宇宙戦艦、知ってるよな?」
「ああ」
名前は後で知ったが、俺がサラマンダーで戦った時に何隻か撃沈した戦艦。
それがハーフビーク級だった筈だ。
戦艦としてはそれなりに高性能なのは間違いない。
少なくても、シャドウミラーや鉄華団が使っている強襲装甲艦のグランやガラン、イサリビよりは性能が高いのは間違いない。
……もっとも、戦艦であろうともMSを相手にした場合、対処は難しいが。
特に俺の場合は、精神コマンドの直撃があったり、場合によっては重力波砲やエナジーウィングといった攻撃が出来るサラマンダーやミロンガ改があるので、より撃沈しやすかったりするが。
「そのハーフビーク級がどうしたんだ?」
「俺が来たのは、それが影響している。……具体的には、そのハーフビーク級を1隻、アクセル達に譲渡したいという件の仲介役だよ」
「……は? どこからだ?」
「アリアンロッド艦隊……正確には、ラスタル・エリオンからだ」
「えっと……本気か? いや、この場合は正気か? と聞いた方がいいのか?」
あまりと言えばあまりの話の展開に、一瞬理解出来なかった。
しかし、ジャンマルコの様子を見れば、実は嘘だった、冗談だった、ドッキリ――残ってるのかは分からないが――だったといった様子ではない。
間違いなく本気で言ってきている。
そんなジャンマルコの様子を見て、紅茶を飲みながら事情を考える。
例えばこれが、マクギリスが俺にハーフビーク級を譲渡する、あるいは売るというのなら、まだ納得も出来ただろう。
マクギリス達にしてみれば、アリアンロッド艦隊と戦うのに戦力は多ければ多い程にいい。
地球外縁軌道統制統合艦隊のMS隊を鍛えてはいるのだろうが、それでも実戦経験というのはそう簡単に積めるものではないのだから。
まぁ、最悪火星に向かう途中にある高密度デブリ帯で海賊を相手に戦うといったような事をすれば実戦経験は積めるだろう。
地球外縁軌道統制統合艦隊のMS隊は、式典とかでアクロバット飛行とかそういうのをやるのもあって、基礎的な技術という点では優れている。
その点だけを見れば、それこそアリアンロッド艦隊より上だろう。
だが、それ以外……実戦経験という点では、どうしようもない程にアリアンロッド艦隊の方が上なのも事実。
マクギリス達の苦労は凄い事になりそうだな。
そんな風に思いながらも、何故ラスタルが俺達にハーブビーク級を譲渡するなどという行為をしようとするのか疑問を抱く。
「分かりやすく言えば、引き抜きだろうな。それが無理でも、自分達に敵対はしないで欲しいと思っての行動だろうよ」
「……なるほど。打つ手が早いと言うべきか」
「いや、そうでもないと思うがな。もし本当にアクセル達を敵に回したくないのなら、それこそこうして地球に来る前に火星に向かって接触していただろうし」
ジャンマルコの言葉は正しいだろう。
ラスタルがどうしても俺達を敵に回したくないのなら、俺達がわざわざ地球にくるのを待つような事はせず、それこそ火星までやって来ればいいのだ。
そうしなかったのは、火星支部がマクギリスの派閥の者がトップをしているからか、それとも俺達を敵に回したくはないが、それでもそこまで手間を掛ける必要はないと思っているのか。
個人的には前者であって欲しいとは思う。
ああ、それ以外にも俺達を強く警戒しているという可能性もあるな。
何しろ俺達は、ナノラミネートアーマーを無効化する得体の知れない技術を持っている。
まぁ、それを使っているのは俺だけなので、何らかの制限があるとは思っているかもしれないし、実際その考えは間違っていないのだが。
何しろナノラミネートアーマーを無効化する攻撃の正体は、精神コマンドの直撃だ。
そして精神コマンドを使えるのは俺だけなので、そういう意味では制限があるというのは当たっていた。
また、ラスタルなら当然のように地球で蒔苗が亡命していた島で俺がミロンガ改を使ったという情報や、その戦闘映像は入手しているだろう。
そうなると、エナジーウィングの関係からドルトコロニーでアリアンロッド艦隊を相手に無双……というか蹂躙したサラマンダーについて思い当たる者もいる筈だ。
というか、エナジーウィングは光の翼的な感じで非常に目立つので、両方を知っている者がいれば普通に思い当たるだろう。
そういう意味では、ラスタルにしてみれば俺達は不気味なので敵対はしたくないが、味方にもしたくないと思うか、あるいは未知の技術を手に入れる為に味方に引き込もうとするか。
そんな感じの折衷案が、今回の一件なのかもしれないな。
「さて、そうなると……どうするべきか」
マクギリス達との関係を考えると、断る一択だろう。
だが、ハーフビーク級を1隻貰えるというのは非常に魅力的だ。
現在は強襲装甲艦を使っているが、ハーフビーク級は純粋な性能という点では明らかに上だ。
勿論、ギャラルホルンにはハーフビーク級よりも優秀な軍艦はあるんだろうが。
ハーフビーク級というのは、あくまでもギャラルホルンで一般的に使われている戦艦だし。
分かりやすく言えば、UC世界の連邦軍のマゼランか?
いや、その数を考えるとサラミスという可能性も?
ともあれ、かなり量産されている戦艦なのは間違いない。
「貰ってもいいんじゃないか? 別にハーフビーク級を貰ったからといって、アリアンロッド艦隊側に寝返る訳でもないんだろ?」
「寝返るって……別に俺は、マクギリスの仲間という訳じゃないぞ?」
個人的にマクギリスと友好的な関係にあるとは思う。
マクギリスは何故か俺をギャラルホルンの創設者であるアグニカ・カイエルと見間違うという、一体何でそうなった? といった初対面ではあったが、ともあれその件もあって俺達の手助けをしてくれたしな。
……まぁ、手助けするのと同時に、自分の利益の為に動いたりもしていたが。
ともあれ、俺達と友好的な関係を築いているのは間違いないが、それはあくまでも個人的な話であって、それがシャドウミラー全体についてとなると、無条件でマクギリスの味方は出来ない。
実際、俺達を雇う時はPMC……傭兵として雇うという事で話はついているし。
とはいえ、それでも友好的な関係である以上、例えばラスタルとマクギリスの双方から同時に仕事の依頼があった場合、余程の事がない限りマクギリスの依頼を受けるというのは間違っていないが。
「アクセルがそう思っているのは知ってるが、第三者的な立場から見れば、シャドウミラーはがっつりマクギリス派の外部戦力といった感じだよ」
「……そうか」
実際に色々とあっただけに、他の者の目から見ればそのように見えると言われると、俺も納得するしかない。
実際には違うのだが、それをここでジャンマルコに言っても意味はないだろう。
「それで、どうする?」
「……何だか、妙にハーフビーク級を受け取るように勧めてくるな」
そう言うと、ジャンマルコはニヤリとした笑みを浮かべる。
これで視線を逸らすとか、慌てるとかすればまだ可愛いものを。
こうして態度で堂々と見せつけてくる辺り、ジャンマルコだよな。
「ああ、実は今回の依頼はアクセルにハーフビーク級をきちんと受け取って貰う事だからな。その依頼を果たす為に行動するのは当然だろう?」
なるほど、元々タントテンポは月周辺のコロニーが拠点で、それはアリアンロッド艦隊の勢力圏内だ。
それでもタントテンポのような裏の組織がやっていけるのは、アリアンロッド艦隊との付き合いがあるからだ。
具体的に言えば、裏金だったり、アリアンロッド艦隊からの後ろ暗い依頼を受けたりとか、そんな感じで。
そして今回のハーフビーク級の一件も、その後ろ暗い依頼になるのだろう。
……さて、そうなるとどうするべきか。
そんな風に思いつつ、悩むのだった。