「よし、ハーフビーク級は貰おう」
最終的に俺の結論はハーフビーク級を受け取るというものだった。
その言葉に、ジャンマルコが安堵した様子を見せる。
色々と強がってはいたものの、ジャンマルコにしてみれば俺がハーフビーク級を受け取らないままでは色々と不味かったのだろう。
俺がハーフビーク級を受け取ったのは、純粋にハーフビーク級が欲しかったからというのもある。
だが同時に、ジャンマルコを思っての事であるのも事実。
「助かる。だが、こうして話を持ってきた俺が言うのもなんだが、いいのか?」
何について聞いてるのかは、改めて尋ねなくても分かる。
マクギリスとの関係についてだろう。
「さっきも言ったが、別に俺はマクギリスの派閥に入っている訳じゃないしな。……とはいえ、友好的な関係であるのも事実だから、後でマクギリスに連絡を入れるよ」
「……それならうちの通信を使ってくれ」
「いいのか?」
「これでもアクセルにとって面倒な話を持ってきたとは思ってるんだ。それくらいはさせてくれ」
別にそこまで気にする必要はないんだが……そう言うのなら、その言葉に甘えさせて貰うとしよう。
「分かった。じゃあ、頼む」
「ああ。ちょっと待っててくれ。すぐ通信をこちらに回す」
そう言い、ジャンマルコは部屋の中からどこかに……恐らくブリッジなのだろうが、そこに通信をする。
1分も掛からないうちに、こちらに視線を向けてきた。
「現在、呼び出し中らしい。向こうが出たら、すぐに通信をこっちに回す」
「それはいいが……よく呼び出しまで持っていけたな」
ジャンマルコはタントテンポの所属で、それはつまりアリアンロッド艦隊と深い関係……もっと言えば、癒着している関係に近い。
だからこそ、マクギリスの派閥の者にしてみればすぐに通信を受け入れるとは思えなかった。
それどころか、派閥を率いているマクギリスとの通信だ。
勿論、俺の名前を出したりはしたのだろうが。
「その辺はこっちも色々とあるんだよ」
「そういうものか。……それでハーフビーク級についてだが、お前を通して受け取るという事は、そのハーフビーク級に妙な仕掛け……盗聴器だったり、隠しカメラだったり、自爆装置だったり、もしくはアリアンロッド艦隊側に遠隔操作されたりとか、そんな妙な仕掛けがないというのは、保証してくれるんだよな?」
「……それは、そういう仕掛けがないかどうか、こっちで調べろって事か?」
「お前の仲介で譲渡されるんだ。妙な仕掛けとかがないかどうか、調べるくらいはしてもいいんじゃないか? もし受け取ったハーフビーク級に妙な仕掛けとかがあった場合、タントテンポやジャンマルコがその行為に協力したと、そう認識してもおかしくはないだろう?」
そう言うと、ジャンマルコは眉を顰める。
無理もない。
ハーフビーク級の大きさを考えれば、そこに妙な仕掛けがないかどうかを調べるのはかなり大変だろうし。
とはいえ、こっちにとってもそれは譲れない条件だ。
勿論、ハーフビーク級を受け取ったら、こっちもそれなりに調べる。
だが、2度調べる事によって、何らかの仕掛けとかがあった場合も見つけやすくなるのだ。
「分かった。こっちも無理を言ってる立場なのは理解している。その辺についてはこっちでもしっかりと動かせて貰うよ」
結局ジャンマルコが折れた。
まぁ、ジャンマルコはタントテンポの中でも輸送の担当らしいから、ハーフビーク級の調査とかそういうのは別の部署に丸投げする形になるんだろうけど。
それでもタントテンポで引き受けてくれたのは、俺にとって悪い事ではなかった。
そして話を続けていると……10分程でマクギリスと繋がったと通信が入る。
それがその通信画面の前に行くと同時に、映像モニタにマクギリスが映し出される。
『やあ、アクセル。まさかタントテンポの船から通信が来るとは思っていなかったよ。お陰で色々と手間取ってしまった』
マクギリスにしてみれば、タントテンポというのはアリアンロッド艦隊の味方だ。
そのタントテンポの……しかも幹部の1人から通信があったとなれば、色々と不審に思って調べたりするのも当然だろう。
こうしてマクギリスが通信に出るのに時間が掛かったのも、その辺について調べていたかららしい。
「悪いな、こっちにも色々とあったんだよ」
『そうらしいね。……正直なところ、本当にアクセルが通信に出るとは思わなかった』
「あー……そこまで警戒する必要はないと思うけど。いや、マクギリスの立場にしてみればそれは仕方がないのか」
『そうなるよ。それで、この通信は一体どうしたんだい? アーブラウ軍の式典が終わったし、もう火星に戻ったとばかり思っていたんだが』
その言葉にちょっとした……口にした本人も気が付いているかどうか分からない、そんな少しだけの非難があったのは、地球に来たのなら自分にも連絡をして欲しかったと思っているからか?
……まぁ、考えてみればマクギリスに連絡をした方がよかったのかもしれないな。
もっとも、今のマクギリスは自分の派閥の件で忙しい。
そう思ったからこそ、連絡をしなかったのだが。
マクギリスの方で何か用件があるのなら、向こうから連絡をしてくると思っていたし。
「そのつもりだったんだが、その途中でジャンマルコに会ってな。……以前言ったかどうか分からないが、俺とジャンマルコはそれなりに友好的な関係だ」
『ふむ、それは珍しい。アクセルはアリアンロッド艦隊に狙われていると思っていたのだが』
「そのアリアンロッド艦隊の件だ。……まぁ、過去に色々とあったのは間違いないし、それで俺がアリアンロッド艦隊に狙われているというのも間違いないだろう。だが、アリアンロッド艦隊……正確にはラスタル側ではその状況を打破したいらしく、俺にハーフビーク級を譲渡したいと言ってきた。それがジャンマルコが俺に接触してきた理由だな」
『待て、待ってくれ』
俺の言葉を聞いたマクギリスは、思わずといった様子でそう言う。
いやまぁ……うん。そういう風に言いたい気持ちも分からないではない。
実際、今回の一件は最初それを聞いた時に俺も驚いたし。
『その……ハーフビーク級というのは、ギャラルホルンで使っている宇宙戦艦ハーフビーク級の事で合ってるかな?』
「そうだな。そのハーフビーク級だ。ラスタルにしてみれば、俺と敵対はしたくないと思っての行動だろうな。もっとも、まだ実際に引き抜きを含めて何らかの交渉があった訳でもないが」
アリアンロッド艦隊の……というか、エリオン家の財産からすると、ハーフビーク級を1隻渡すというのはそこまでの出費という訳でもないのだろう。
勿論、それでも戦艦が1隻だ。
一般的に見れば十分すぎる程に高価だし、普通に考えれば戦艦をプレゼントとして渡すというのはちょっと考えられないのだが。
『なるほど。……それで一応聞きたいのだが、アクセルはその贈り物を受け取ったのかな?』
「ああ、喜んで受け取る事にした」
そう言うと、ジャンマルコが呆れの視線を向けてくる。
多分、妙な仕掛けがないのかのチェックについて、自分達にさせる癖に何を言ってるんだ……とか、そんな風に思っているのだろう。
あるいは何かもっと別の考えか。
映像モニタに映らない場所にいるので、マクギリスからは見えないだろうが。
『それは少し困ったな』
「だろうな。マクギリスにしてみれば、俺達がラスタルと友好的な関係になった、あるいは向こうに引き抜かれたというように思われるのは避けたいだろうし」
『そうだね。出来れば断って欲しかったけど……取引相手ではあっても、仲間ではないアクセルにそれを強制出来る訳がない』
「そうだな」
もし強制してくるようなら、その時はこっちも相応の対応をするだけだった。
そういう意味では、マクギリスは俺という存在を理解しているのだろう。
これがもしガエリオやカルタだったら、どうなっていた事やら。
それこそ何故ラスタルからの贈り物を受け取ったのかと、そういう風に不満を主張してもおかしくはなかった。
その結果、俺との関係が悪くなるというのに思い当たらないか、あるいはそれでもいいと考えるのか。
その辺の判断は俺にも分からないが。
『そうなると、こちらもアクセルを引き留める為に何かをプレゼントする必要がある訳だ。しかし、同じハーフビーク級では面白くない。となると、それ以上の何か、か』
そういう結論になったらしい。
俺にしてみれば、ハーフビーク級以上のプレゼントというのは非常にありがたいのだが。
しかし、そういうのを用意する余裕があるのか? ……あるのか。
ラスタルはエリオン家の当主だが、マクギリス達の派閥は3つの家の集まりだ。
その中には、セブンスターズの席次がトップのイシュー家の当主、カルタもいる。
この席次というのが正式にどのようなものなのかは、俺にも詳細は分からない。
だが、席次が上であれば財産的に余裕があってもおかしくはないと思う。
そういう意味では、資金的な問題というのはあまり気にしなくてもいいのだろう。
「何が貰えるのか、期待してるよ。……ただ、マクギリス達なら大丈夫だとは思うが、妙な仕掛けがあったりした場合、相応の対応をさせて貰うから、そのつもりでな」
『妙な仕掛け? ……ああ、勿論そのようなことは考えていないよ』
妙な仕掛けという言葉に不思議そうな表情を浮かべたマクギリスだったが、すぐにその言葉の意味を理解したのか、そう言ってくる。
さて、これはどういう反応だろうな。
本当に俺が口にした妙な仕掛けという言葉の意味を理解出来なかったのか、それとも実はそのつもりだったのが、釘を刺されてたから止めたのか。
その辺については、生憎と俺にも分からない。
だが、こうして忠告をした以上、マクギリスならそれを破ることはないだろう。
もしそれを破ったりしようものなら、その時は先程言ったように相応の対応をすればいいだけだし。
「そうか。なら、マクギリスからのプレゼントを楽しみにさせて貰うよ」
そう言っておく。
一体どのような物を用意するのか、俺にも分からない。
とはいえ、ラスタルからハーフビーク級である以上、それ以上の戦艦か、あるいは新型MSか。
さすがにグレイズをそのまま渡してくるという事はないと思うが。
これが普通の……シャドウミラーや鉄華団以外のPMCであれば、ギャラルホルンの最新鋭量産型MSであるグレイズを貰えるというのは非常に大きな意味を持つだろう。
だが、シャドウミラーと鉄華団では既にグレイズが普通に使われているんだよな。
なので、今の状況でグレイズを貰っても嬉しくはない。
いやまぁ、くれるというのなら貰うが。
だが、個人的にはグレイズよりもハーフビーク級の方が嬉しい。
マクギリスも、それが分からない筈はないと思う。
その辺については如才ないし。
『ああ、楽しみにしていて欲しい。私達の友情の証となるような物を送らせて貰うよ』
それはどうなんだ?
そう突っ込みたくなったものの、やめておく。
マクギリスにしてみれば、俺をラスタルに引き抜かれない為にも、友好的な関係であると示し続けないと行けないのだろうと理解出来たからだ。
ここで俺に下手な物を渡した場合、すぐにラスタルに寝返る――仲間ではないのだから、その表現は正しくないが――かもしれないのだから。
他に考えられるとすれば……ハーフビーク級は戦艦ではあるが、それでも量産されている戦艦だ。
そうなると、それよりもっと希少性の高い戦艦を用意するとか?
それならそれで、俺としても嬉しい。
あるいは、ガンダム・フレームのMSを渡すとか。
ギャラルホルンで何機のガンダムを所有してるのかは、俺にも分からない。
分からないが、それでもガエリオがガンダムを使っていたし、何機かはガンダムを所有してるのは間違いないだろう。
「火星まで運んでくれ。ちなみに言うまでもないが、早い方が効果は大きいぞ」
そう言い、マクギリスともう暫く話を続けるのだった。
「じゃあ、ハーフビーク級の事は俺に任せておけ」
そう言ってくるジャンマルコだったが……
「妙な仕掛けとかがないのかどうか確認するのは、ジャンマルコじゃなくて他の部署の者達なんだろう?」
「そうだな。それは否定しない。だが、その連中もタントテンポだし、俺はタントテンポの幹部だ。新しい頭目にも貸しがあるし」
「……そうか」
新しい頭目というところに色々と突っ込みたくなったものの、それはやめておく。
恐らく俺達が地球に来た時に忙しいと言っていたのは、多分その件が関係してるんだろうし。
結果として、ジャンマルコが言うように新しい頭目……つまり、タントテンポを率いる人物が出て来て、ジャンマルコはそれに協力したといった感じなのだろう。
つまり、ジャンマルコは以前よりもタントテンポ内での影響力が強くなったという事か。
そんな風に思いつつ、もう暫くジャンマルコと会話をするのだった。