「ぐぎ……ぐぐぐぐ……がああああああっ!」
痛みに耐えつつ、解呪を進める。
そのまま10分程。
解呪の進展が一段落したところで、俺はそのままベッドに倒れ込む。
そうしてぼーっとしながら、現在の状況を頭の片隅で考える。
今日ここ……火星にあるシャドウミラーの拠点にある寝室にいるのは、俺1人だ。
他の面々はそれぞれの仕事をしている。
アーブラウ軍の件で地球に行き、火星に戻ってきてから1ヶ月程。
その間も色々と細かい問題はあったが、それでもそこまで大きな問題はなかった。
……唯一にして最大の問題は、シャドウミラーと鉄華団によって高密度デブリ帯にあるエイハブ・リアクターの回収が大分進んだ事だろう。
それはいい。
結果として、タントテンポやテイワズに売って金になったのは間違いないし。
だが……鉱山もそうだが、資源というのは有限なのだ。
つまり、何を言いたいかというと……高密度デブリ帯にあるエイハブ・リアクターが、大分少なくなってきた。
まだ完全になくなった訳ではない。
だが、それでも以前のように大量に見つかるということは少なくなっていた。
ちなみに高密度デブリ帯にあるのはエイハブ・リアクターだけではなく、MSのフレームもセットであることが多い。
ロディ・フレームが一番多いので、そのフレームもそれなりに確保してる。
ただ、フレームについてはタントテンポくらいしか買い手がいないんだよな。
テイワズは独自のフレームがあり、しかも百錬にしろ百里にしろ、ロディ・フレームのMSよりも性能が高い。
つまり、テイワズにしてみればわざわざロディ・フレームを購入する必要はない。
いやまぁ、実際にはロディ・フレームのMSも使いようだから、絶対に購入しないという訳ではないんだが。
ただ、それでも必要なのは少数だけとなる。
そういう意味では、タントテンポはいい客なんだよな。
何しろタントテンポはアリアンロッド艦隊と近い存在だ。
そんなタントテンポがMSを使うとなると、当然ながら高性能なMSを大量には使えない。
だが、ロディ・フレームのMSであればアリアンロッド艦隊も多少なりとも目こぼしをしてくれる。
……実際には、グレイズを俺から買っていったジャンマルコのように、最新鋭のMSも有していたりするが。
そんな訳で、ロディ・フレームは余っている訳だ。
勿論、売ろうと思えば売る事は出来る。
だが、下手な相手に売ったりした場合、それこそ海賊のダミー会社だったとか、そういう事になるとちょっとな。
高密度デブリ帯の一件でシャドウミラーも鉄華団も、海賊に目を付けられているし。
より正確には、目を付けられているのではなく、恨まれているのだが。
とはいえ、これは無理もない話だろう。
以前のブルワーズのように、高密度デブリ帯で活動している海賊達にしてみれば、俺達は自分達の仕事場を奪う存在なのだから。
高密度デブリ帯というのは、エイハブ・リアクターの重力波によってデブリが集まり、構成された場所なのだから。
そのような場所でエイハブ・リアクターを回収すれば……それも大量に回収すればどうなるか。
当然ながら、エイハブ・リアクターがなくなり、重力異常帯とでも呼ぶべき場所がなくなってしまう。
とはいえ、それでもデブリが集まっているのは間違いないので、すぐに高密度デブリ帯がなくなるかと言えば、決してそうではないのだが。
それでもいずれなくなるのは間違いないし、まだ高密度デブリ帯があってもエイハブ・リアクターがなくなった分だけ、動きにくくなるのも事実。
例えば今までならデブリを吹き飛ばしても他のエイハブ・リアクターがそのデブリを集めていたが、そのエイハブ・リアクターがなくなった以上、吹き飛んだデブリは高密度デブリ帯に留まるのではなく、どこかに飛んでいく訳だ。
そうなると、高密度デブリ帯に存在するデブリが次第に減っていくことになる。
勿論、すぐにでも高密度デブリ帯がなくなるという訳ではないが、それでも高密度デブリ帯の中で活動すればする程にデブリが減り……高密度デブリ帯が狭まっていくのは事実。
もっとも、目を付けたからといって、海賊達が俺達を相手にどうこう出来るかと言えば、それは微妙なところだ。
最新鋭量産型MSのグレイズを普通に使っており、地球でその実力を見せつけたシャドウミラーと鉄華団だ。
その辺の海賊が襲い掛かってきても、それこそ撃退……いや、場合によっては鹵獲するという事になってもおかしくはない。
寧ろこっちの利益的には襲ってきてくれた方がいいんだよな。
「さて」
考えていた時間によって、解呪の痛みが大分収まってきた。
そのまま上半身を起こし……これからどうするのかを考える。
今日は俺が特にやるべきことはない。
だからこそ、こうして解呪を試みていたのだから。
とはいえ、解呪はいつ終わるんだろうな。
シーラが言うには、解呪は順調に進んでいるのだが。
ただ、具体的にいつ解呪が成功するのかどうかは分からないんだよな。
「そうだな。……狛治でも呼ぶか」
そう判断すると、すぐに召喚魔法を使い狛治を召喚する。
「アクセル? どうした?」
「いや、そっちについての情報を聞いておこうと思ってな。……特にオーストラリアについて」
このオルフェンズ世界における、オーストラリアに存在するシドニー湾。
もっともシドニー湾については俺がそう呼んでいるだけなのだが。
そのシドニー湾について、他の世界……具体的にはSEED世界、W世界、X世界でどうなっているのか、調べて貰ったのだ。
俺の記憶通りなら、SEED世界とW世界においてシドニー湾はなかった。
X世界は大量のコロニーが落ちたので、その辺についてはちょっと覚えていない。
とはいえ、あくまでも俺の記憶ならの話だ。
そんな訳で実際にホワイトスター……いや、狛治がいるのはネギま世界の魔法世界だが、とにかくホワイトスターと連絡をして貰って、その辺を調べて貰っていた。
とはいえ、召喚では物を持っていったりは出来ない。
……なのに服とかそういうのが平気なのはちょっと疑問だが。
まぁ、魔法である以上はそういうものだと認識するしかないだろう。
そんな訳で、狛治にオルフェンズ世界の地図を持っていって貰うという事は出来ないものの、それでも頭で覚えた情報を持っていくことは出来る。
もっとも、狛治は江戸時代の生まれで、それから鬼として生きてきた。
その後で色々とあって俺の召喚獣となり、同時にシャドウミラーの一員にもなったものの、それでも科学技術とかそういう方面については決して詳しくない。
考えてみれば、ネギま世界の魔法世界にいるのはその辺も関係してるのかもしれないな。
魔法世界は魔法はあるものの、科学技術はない。
いやまぁ、魔法科学的なものはあるので、それが科学っぽいと言えばそうだが。
ともあれそういう場所だけに、狛治にとってはやりやすいのだろう。
後は、魔法を知らない相手のいる場所に行くには、角とかそういうのを隠す必要があるし。
……まぁ、実際にはそういうのもそうだが、やはり拳闘士の件であったり、ダンジョンがあったり、野生のモンスターがいたりとか、そういうのが狛治の気質に合っているのだろう。
狛治は狛治で、修行を辛いのではなく楽しめるしな。
「その件についてか。ホワイトスターに連絡を取ったが、やはりアクセルの記憶通りだった。SEED世界とW世界のオーストラリアには、シドニー湾というのはなかったらしい。X世界の方もオーストラリアにコロニーが落下した痕跡はあったが、シドニー湾のある場所ではないらしい」
「……そうか」
どうやら、俺の予想は当たっていたらしい。
となると、やっぱりオルフェンズ世界にシドニー湾があるのは厄祭戦の時の影響で、偶然なのか?
同じ場所に同じような大きさの?
そんな偶然があるか?
いやまぁ、実際にそうなっている以上、そういう風に考えるしかないんだろうが。
「じゃあ、用件はもう終わりでいいか? そろそろ帰りたいんだが」
「何だ? 随分と急いでいるな」
「これからダンジョンに挑む予定になってる」
「ああ、なるほど。忙しい時に呼び出して悪かったな。じゃあ、戻ってくれ。……レモン達によろしくな」
そう言い、召喚を解除する。
そして部屋の中には俺1人。
再びベッドに寝転がり、シドニー湾について考える。
まず最初に考えたのは、このオルフェンズ世界とUC世界についてだ。
SEED世界とW世界のオーストラリアにはシドニー湾はないし、X世界もそれは同様である以上、今はまずUC世界とオルフェンズ世界について考える。
最初に思いついたのは、パラレルワールド……並行世界だ。
シャドウミラーがそもそも世界と世界の狭間にある空間に本拠地のホワイトスターを持っている以上、それは当然の事だろう。
だが、すぐにそれを否定する。
そもそもUC世界において、シドニー湾が出来たのは独立戦争でジオン軍がコロニー落としを行った為だ。
そしてこのオルフェンズ世界においてもシドニー湾があるという事は、そこから分岐した世界という事になる。
そうなると辻褄が合わなくなる。
厄祭戦はどこにいった? ギャラルホルンは? といった具合に。
これがもっと前……それこそUC世界で1年戦争が始まる前どころか、UC……つまり、ユニバーサル・センチュリーが始まる前に分岐した世界という事であれば納得も出来なくもない? いや、それでも難しいか?
ともあれ、この場合一番の問題はやはりシドニー湾の存在なのだ。
そうなると……やっぱりこれはどういう事になるんだ?
そう思っていると、ふと突拍子もない事を思い浮かべる。
この世界が実はUC世界の未来であったら。
それこそUC世界という存在が既に忘れ去られた未来の世界……そうなると、もしかしたら他のガンダムの世界も実は繋がっているのか?
一瞬そう考えたが、すぐに却下する。
いわゆる、超古代文明的な感じでUC世界があったとして、それなら何故オセアニアとか、火星とか木星とか月とか、それ以外にも多数UC世界と同じ名前が残っている?
さすがにそれを偶然と言える訳ではない。
訳ではないのだが……ただ、この世界は現実であると同時に、原作のある世界でもある。
であれば、ガンダムというMSが存在する世界観的な繋がりというのは……どうなんだ?
いや、けどそうなるとそれはそれで……うーん……
もし万が一……億が一、兆が一にでもその予想が当たっていた場合、シドニー湾的な意味でSEED世界とW世界はUC世界よりも前の世界になる。
そしてオルフェンズ世界はUC世界よりも後で、コロニー落としが大量にあったX世界はオルフェンズ世界よりも後の世界になる……のか?
とはいえ、やはり文化的な意味で全く同じ名称が使われているという時点で有り得ないか。
こんな事を考えるとなると、俺も誇大妄想に取り憑かれたか?
取りあえず有り得ない……意味のない、馬鹿らしい事については考えるのを止めて、ベッドで寝転がりながらこれからの事を考える。
すると、ちょうどそのタイミングで、扉がノックされる音が聞こえてきた。
この気配は、マーベルだな。
「入っていいぞ、マーベル。というか、この部屋はマーベルの部屋でもあるんだから、わざわざノックをする必要もないと思うが」
そう声を掛けると、扉が開いてマーベルが入ってくる。
「ノックは必要でしょう? アクセルが解呪している時に邪魔をしたりはしたくないし」
「解呪は少し前に終わったよ。……まぁ、今日の分はという意味でだが」
一度に可能な限り解呪を進めるといった事が出来ればいいんだが、シーラからそれは止められている。
一定程度解呪が進んだら、その状態を身体に慣らす必要があるらしい。
その為、解呪については1日の限度が決められていた。
……とはいえ、解呪については具体的にどのくらい進んだのかとかは分からないので、実際には俺の感覚頼りになる訳だが。
マーベルも当然その話は知っているので、俺の説明に納得して頷く。
「そう、それならよかったけど……じゃあ、今は何をしていたの?」
「いや、ちょっと馬鹿な事を……それも誇大妄想狂的な、有り得ない事を考えていた」
そう言うとマーベルが少し興味深い様子を見せる。
なので、特に必要があるとは思えないものの、事情を説明すると、何かを考え込む。
「どうした? まさか、今の妄想を信じてるのか?」
「私はUC世界という世界については何も知らないから、もしかしたらそういう事もあるかもしれないと思ったのよ」
「そういう事はないと思うけどな」
もしあるとすれば、それこそガンダムの作品に関わった者達がその場で適当に思いつきを口にしたとか、そういう感じでならありそうだけど。
そんな風に思いながら、俺は改めてマーベルに部屋に来た理由を尋ねる。
「それで、何か用事があったのか? ただ俺に会いたかったというのなら、それはそれで歓迎するけど」
「違うわよ。テイワズから連絡があったわ。ヴァルキュリア・フレーム……覚えている? それを使ったMSがようやく完成したみたいよ」
その言葉に、そう言えばそういうのもあったなと思い出すのだった。