ヴァルキュリア・フレーム。それは、ガンダム・フレームよりも希少なフレームだ。
オルフェンズ世界において、その価値は計り知れない。
だからこそ、その分析であったり、修復であったりを頼んだテイワズでも、喜んで引き受けたのだ。
ヴァルキュリア・フレームを調べて、テイワズが使っているフレームをより高性能になるように改良するとか、そういう狙いもあるのだろう。
……個人的には、それ以上にテイワズのメカニック達の知的好奇心を満足させる為の行動という点も大きいのだろうが。
ともあれそんな訳で、テイワズの方ではかなり熱心にヴァルキュリア・フレームの調査であったり、MSとしての修復だった。
それをやる為に、テイワズの情報網で同じくヴァルキュリア・フレームのMSを使っているモンターク商会に情報提供を要望したりもしたらしいし。
もっとも、そのモンタークの正体はマクギリスだった訳で……結果として、マクギリスは俺との関係を引き受けてMSのデータを渡したらしい。
「……で、何で鉄華団の連中も来てるんだ?」
シャドウミラーの格納庫で、少しだけ呆れつつそんな風に言う。
俺の視線の先には、鉄華団の面々が何人かいる。
オルガや三日月はいないが、それでも昭弘であったり、シノであったり、他にも何人か見覚えのある顔もいる。
ちなみにこういう時に来てもおかしくはない、鉄華団のメカニックを纏めている雪之丞はここにはいない。
現在俺のグシオンや三日月のバルバトスはテイワズで改修されているのだが、それについていった形だ。
何故そのような事になったのか。
それは、MSについて学ぶ為だ。
元々、雪之丞はCGSだった時からメカニックとして働いていた。
だが、CGSで使われているのはMWであり、雪之丞の知識もMWに限定されている。
そんな中でMSを使うようになったのだ。
MSとMWでは色々と違うところもあるが、阿頼耶識対応のコックピットといったように同じところもある。
その為、雪之丞は行き当たりばったりといった感じではあったが、それでも何とかMSの整備を行っていた。
しかし、地球での一件ではそれも良かったかもしれないが、今となってはそういう中途半端な知識でMSを弄るのは色々と不味い。
MSについて詳しい者なら、まずやらない事……例えば、それをやってしまうと消耗部品の消耗が早くなるとか、フレームに対する負荷が強くなるとか、推進剤の消耗が激しくなるとか。
そういう、普通ならやらない事を、MSについては何も勉強をしていない雪之丞であれば、やっていてもおかしくはない。
雪之丞もそれが分かっているから、この機会にテイワズのメカニック達から色々と教えて貰いにいった訳だ。
ちなみに雪之丞だけではなく、シャドウミラーのメカニックもそれなりの数が行っている。
シャドウミラーのメカニックは、元ブルワーズ……つまり、MSを使った海賊のメカニックだったので、雪之丞と違ってMSにもそれなりに詳しい知識がある。
だが、それでもテイワズのメカニック達と比べると、一段……いや、数段劣る。
その為、最新のMSの知識を学ぶべくテイワズに行った訳だ。
本当の意味での最新のMSの知識となると、ギャラルホルンに行くべきなんだろう。
マクギリスなら俺が要望すればそれに応えるだろうし、ラスタルも俺を味方に引き込む機会を見逃す筈もない。
だが……俺はテイワズを選んだ。
マクギリスに頼めば、それは借りになる。
ラスタルに頼めば、それはラスタル達の味方になると思われる。
それに対して、テイワズならそういう事はない。
……いやまぁ、テイワズも組織である以上何らかの見返りが必要だったりするんだが、この件についてはノブリスの一件で自分達も騙されたが、それを知らずにシャドウミラーや鉄華団を騙したという一件があったり、ジャスレイの一件もある。
何だかんだと、テイワズ……というか、マクマードは俺やオルガに借りがある。
そんな訳で、このくらいの一件なら素直に引き受けてくれた訳だ。
とはいえ、それこそジャスレイの一件があるだけに、ジャスレイ達が妙な真似をしないとも限らない。
ただ、その辺についてはマクマードが大丈夫だと受け入れたので、取りあえず問題はないと考えている。
マクマードも、もしこの状況でジャスレイが暴走して、俺達と敵対する事になったら、一体どれだけの被害を受けるのか、全く理解出来ないだろうし。
シャドウミラーと鉄華団の強さについては、それこそ地球の一件で証明されている。
その上で、マクマードは俺が魔法を使えるというのも知っている。
そうである以上、マクマードが俺達と敵対する道を選ぶとは、到底思えなかった。
……まぁ、もし本当にそうなったら、それはそれで対応すればいいだけなのだが。
ただそうなると、名瀬とも敵対するのがちょっとな。
それに名瀬も厄介だが、タービンズも腕利きのMSパイロットが揃っていて、決して油断していい相手ではない。
そういう意味では、やはり敵対しないのが最善なのは間違いなかった。
「アクセルさん、来ました! 来ましたよ!」
メカニックの1人が、そう叫びながら俺の名前を呼ぶ。
その声に反応したのは、俺だけではない。
格納庫に中にいた多くの者が、荒野を走ってこっちに向かっているMSコンテナを乗せた運搬車が格納庫の前に停まったのを見る。
運搬車が格納庫に入ってくるのを見ていると、やがて運搬車から見覚えのある人物が下りてくる。
確かテイワズのメカニックの1人だな。
以前歳星に行った時に会った顔だ。
ちなみに運搬車と一緒にMWも姿を現す。
護衛として運搬車と一緒に移動してきた者達だろう。
もっとも、それは特におかしな事ではない。
何しろ運搬車で運ばれてきたのは、ヴァルキュリア・フレームのMSだ。
ガンダム・フレームよりも希少なヴァルキュリア・フレームである以上、その希少さはかなり上だろう。
それを知っている者なら、奪おうと考える者がいないとも限らない。
……もっとも、その情報を一体どうやって入手するのかという問題もあるが。
MWの様子を見る限り、どうやら襲撃の類はなかったらしい。
後でちょっとした報酬を支払ってやるか。
「お久しぶりです、アクセルさん」
「ああ、よく来てくれた。……それで、あのコンテナに?」
「はい、早速見ますか?」
「頼む」
俺の言葉に男が頷くと、男と一緒に下りてきた他のメカニック達に指示を出す。
するとコンテナが開き……
「へぇ、どことなく狐っぽいというか……華奢な機体だな」
頭部には後ろに伸びている耳っぽいパーツがある。
それがどことなく狐っぽさというか、そんな風に思わせるのだろう。
「はい。このMS、グリムゲルデは基本的にはモンターク商会で所持しているそのままの形となっています。武器は違いますが」
「そうなのか?」
「はい。……出来ればもっとオリジナル色を出したかったのですが、何しろデータが少ないので。下手に弄ると、それによって性能が下がる可能性もあるんですよ。特にヴァルキュリア・フレームは高機動型のフレームで重量も軽いですし」
「なるほど。重量が軽いか。そうなると、近接戦闘は厳しいな」
ビームサーベルとかがある世界なら、重量が軽くても相手に致命的な一撃を与えられる。
だが、このオルフェンズ世界においてはビーム兵器は使われていない。
ナノラミネートアーマーの性能が高すぎるしな。
そんな訳で、グリムゲルデだったか? このMSが近接戦闘をする場合も、物理攻撃をする必要がある訳だ。
そして機体の重量が軽いと、それだけで不利になる。
勿論、腕の立つパイロットであれば重心をコントロールして軽量のMSであっても相手に致命的な一撃を与えるといった事も出来るのだろう。
だが、それはあくまでも腕の立つパイロットの場合だ。
そして腕の立つパイロットというのは、当然ながら少ない。
つまりこのグリムゲルデは、エース用のMSとなる訳だ。
……マクギリスが使っているというのを考えれば、そういう風になってもおかしくはないが。
「他に特徴は?」
「基本的に地上でも宇宙でも使えるようになっています」
「それは助かるな」
もっとも、それ自体はそこまで珍しくもない。
マン・ロディやグレイズなんかも、地上と宇宙の双方で使えるようになっているし。
グシオンなんかのガンダムもそんな感じだ。
もっとも、どちらかでしか使えないとなるよりは、こうしてどちらでも使えるというのは助かるが。
その後も色々とグリムゲルデについての諸注意を聞き……
「では、こちらに受け取りのサインをお願いします」
差し出された書類にサインを書く。
「それで、お前はこれからどうするんだ? すぐに帰るのか? もう少し火星にいるようなら、こっちで泊まる場所を用意するが」
「一応もう少しこちらにいるように言われてます。グリムゲルデについての整備の仕方や、何かトラブルがあった場合はその対処も必要ですから。……ちなみにこのグリムゲルデは誰が使う予定です? アクセルさんにはグシオンがありますし」
「マーベルだ」
即座にそう言う。
実際、シャドウミラーでは俺に次ぐ操縦技術を持つマーベルだ。
また、何よりもグリムゲルデをマーベルに使わせようと思ったのは、グリムゲルデの機体特性がオーラバトラーに近いものだというのがある。
今はグレイズを使っているマーベルだったが、どうせならオーラバトラーのような高機動で軽量の機体の方が向いているだろう。
勿論、オーラバトラーとMSでは特性的な意味でかなり違う。
だがそれでも、マーベルにとって最初に操縦したのがMSではなくオーラバトラーであった以上、操縦するのならオーラバトラーに近い機体特性を持つMSの方が向いているのも事実なのだ。
「私? 本当にいいの?」
「ああ、マーベル向きのMSだと思う。それに……マーベルなら、ダメージを受けるような事もあまりないだろうし」
グリムゲルデはヴァルキュリア・フレームのMSだ。
そしてヴァルキュリア・フレームの数が希少である以上、当然ながら予備部品も少ない。
そうなると、頻繁にダメージを受けるような者には任せられない。
もっとも、装甲とかはともかく内部の部品とかそういうのなら他のMSとの共用性があったりするので、そういう消耗品については問題ないが。
やはり重要なのは装甲とかだ。
もっとも、そういうのはそういうので手作りをしている工場とかもあるので、どうしてもとなるとそこに注文すればいいが。
ただ……そういうのってどうしてもかなり高額になるんだよな。
分かりやすく表現をするのなら、服を買う場合に既製品を購入するか、オーダーメイドで購入するかを考えてみると分かりやすいだろう。
実際には色々と違うのだが。
「ありがとう、アクセル」
「気にするな。贔屓目なしに見ても、このMSを上手く使えるのはマーベルだ。……ちなみに、反対の者はいるか?」
現在格納庫に集まっている者達に尋ねる。
パイロットの中には忙しくてここに来ていない者もいるが、結構な人数のパイロットは集まっている。
だが、俺の意見に反対する者はいなかった。
無理もないか。
全員が模擬戦やシミュレータで、マーベルに負けまくっているのだから。
勿論マーベルも無敵という訳ではないので、時には負けたりもしている。
偶然の結果負けたというのも見た事がある。
それでも、やはり俺を抜かすとマーベルがシャドウミラー最強であるというのは、間違いのない事実だった。
また、単純にMSの操縦技術が高いだけで大きな態度を取っているのなら、不満を持つ者もいるだろう。
だが、マーベルは厳しい時は厳しいものの、分からないところがあれば親切に教えてくれるのも事実。
今まで多くの者がマーベルに助けて貰っているだけに、マーベルに反感を持つ者は少ない。
……俺がこう言うのもなんだが、ダンバイン世界のバイストン・ウェルで初めてマーベルと会った時……それから暫く一緒に行動した時は、マーベルもまだ今のように懐の深い性格ではなかった。
こうなったのは……うん。俺との関係があってからだな。
具体的には身体の関係。
そういう意味では、柔らかくなったマーベルと接することが出来た者達は幸運だったのだろう。
でなければ、『情けない男』とか、そういう風に言われていてもおかしくはなかっただろうし。
「……どうやら反対の者はいないみたいだな。なら、これで決まりだ」
反対する者がいなかったので、そう宣言する。
不満そうな者は……うん、誰もいないな。
「じゃあ、これで決まりだな。マーベルはグリムゲルデの調整をしっかりとしておいてくれ」
「分かったわ。……オーラバトラーに近い、ね。そういう事ならしっかりと乗りこなしてみせないといけないわね」
マーベルもやる気満々でそう言う。
何だかんだと、マーベルにとってもオーラバトラーに近い特性を持つグリムゲルデは気になっていたのだろう。