石動との会談が終わると、次は当然ながらヤマジンとの会談となる。
向こうもそれは分かっていたのか、すぐにやって来た。
……もう少し、休憩させてくれてもいいと思うんだけどな。
ヤマジンにとっても、自分の役目をしっかりと果たす必要があるので、張り切ってはいるのかもしれないが。
いや、ヤマジンの性格を考えると、そういう感じではないか?
あくまでも第一印象だが、ヤマジンは興味のある事に対しては強い関心を抱くものの、それ以外では別にそこまで集中したりはしない……そんな風に思えるし。
「アクセル代表、会談を受けて貰い、ありがとうございます」
「気にするな。ハーフビーク級というプレゼントを持ってきたんだ。会談するくらいは問題ない。……石動の後になってしまったが」
軽く牽制。
石動との会談を先にしたのは、ハーフビーク級より上のスキップジャック級を持ってきたというのもあるし、現在のところシャドウミラーと親しいのはラスタルよりもマクギリスだと、そう暗に告げたのだ。
ヤマジンもそのくらいの事は当然理解しているのだろうが、それでも表情は動かさない。
「いえ、アクセル代表の立場を考えれば仕方がないかと。……ただ、待っている間に少し格納庫を見せて貰ったのですが、思った以上にグレイズが多いのですね」
これもまた牽制の一種だろう。
何しろ、グレイズは現在のところギャラルホルンでしか使われていないMSだ。
あるいは1機か2機くらいなら横流しとかそういうので使っている者もいるかもしれないが、大々的に運用しているのはシャドウミラーと鉄華団だけだろう。
あ、でもジャンマルコに売った事があったな。
その時は高密度デブリ帯で見つけたエイハブ・リアクターもセットで売ったので、周波数を調べられても、それがギャラルホルンのグレイズだとは分からない筈だが。
「そうだな。何しろ以前のギャラルホルンの火星支部は不正に不正を重ねていたしな。私利私欲で鉄華団の基地を襲撃するとかしていたし」
俺の言葉に、ヤマジンが微かにだが眉を顰める。
実際、俺の言ってる事は決して間違いではない。
今はともかく、以前の火星支部のトップは自分の懐を暖める事だけを考えていたのだから。
実際、ギャラルホルンの本部でもそれを問題視されて、マクギリスやガエリオが査察官として送られてきたんだし。
「そういう不正の温床となっているギャラルホルンの事を思えば、それを改革しようとするマクギリスの方が、俺達にとっては都合がいいのかもしれないな」
「……急激な変革は、それだけに大きな混乱も招きますが?」
「そうかもしれないな。だが、だからといって現状のままで許容するというのは、問題だろう?」
「そうですね。ですが、アクセル代表は少し考え違いをしているかと」
「ほう? 具体的には?」
「ラスタル様は、別に現状維持を良しとしている訳ではなく、少しずつ改革を進めて行くつもりです」
「……なるほど」
上手い具合に言ってきたな。
現状維持ではなく、少しずつか。
とはいえ、この少しずつというのも、それはそれで問題だが。
例えばその少しというのがどのくらいの少しなのかという具合に。
マクギリス達が数年以内に不正の撲滅をしようと考えているのに対し、少しずつという表現であれば、例えば100年後を目指して、1000年後を目指してといったような事にしてしまえば、今は実質的に何もしていなくても、着実に進んでいると言ってもおかしくはないのだから。
「けど、ドルトコロニーの一件を見ても、ラスタルのやり方が正しいとは思えないな」
もし俺達が介入しなければ、ドルトコロニーの労働者達の多くは死んでいただろう。
それもアリアンロッド艦隊側が用意した、まともに動かす事も出来ないようなMSに乗って、半ば標的扱いされて。
それをやったのは、見せしめの為だ。
策略として考えた場合、ありなのだろう。
だが、それが知られた場合にアリアンロッド艦隊がどう思われるか……そしてギャラルホルンがどう思われるのか、分かっていてやったのか。
まぁ、300年の間は問題なかったのだから、その辺はどうとでもなるという思いがあったのも事実だろう。
結果として、そこに俺達がいた影響でその策謀は失敗したが。
……それどころか、クーデリアの演説によって完全に面子を潰された形になってしまったが。
「そういう不幸な出来事もあったかもしれません」
「不幸な出来事で片付けるのはどうかと思うが……まぁ、お前の立場としてはそう言うしかないか」
これが例えば、そこまで大々的な事になっていなければ、隠し通したりも出来たのかもしれないが。
だが、あの一件はジャンマルコの協力もあって、ドルトコロニーだけではなく地球にも流れた。
幾らアリアンロッド艦隊であっても、それをなかった事に出来ないのは当然だろう。
だからこそ下手に誤魔化すのではなく、不幸な出来事と表現したのだろう。
ヤマジンにしてみれば、それ以外に言いようがないのだ。
……あのドルトコロニーの一件は、マクギリス達にとってもラスタルを責めるのに非常に大きな意味を持っている。
「アクセル代表がどのように思おうとも、不幸な事故であるのは間違いありません」
「……まぁ、お前がそう言うのなら、それはそれで構わないけどな」
ドルトコロニーの件については色々と思うところがない訳でもない。
だが、ヤマジンをその件で責めてもそこまで意味がある訳ではないだろう。
なので、話を元に戻す。
「ラスタルとしては、俺達を自分達の陣営に引っ張りたい。そういう認識でいいのか?」
単刀直入に尋ねると、ヤマジンは笑みを浮かべる。
……笑みを浮かべるだけで、何も言わない。
ここで何かを言って言質を与えるのは不味いと思っているのだろう。
やがてそのまま数分、沈黙の時間が続く。
そんな中で口を開いたのは、ヤマジン。
「私が言えるのは、今回の一件はラスタル様からの気持ちだという事です」
「気持ち、ね。……まぁ、いい。実際、ハーフビーク級がありがたいのは事実だ」
これはお世辞でも何でもない、俺の心からの言葉だ。
強襲装甲艦も悪くはないが、どうしても性能という点ではハーフビーク級に劣る。
それもちょっとやそっと劣るのではなく、かなりの差があるのだ。
だからこそ、ハーフビーク級はありがたい。
そんな俺の様子に、ヤマジンは先程までとは違う笑み……表面的な笑みではなく、本当の笑みを浮かべて口を開く。
「スキップジャック級は使わないのですか?」
「……人数的な問題でな」
「ああ、なるほど。その辺はアリアンロッド艦隊と違いますね」
アリアンロッド艦隊の人員は多い。
それこそ、シャドウミラーとは比べものにならない程に。
だからこそ、スキップジャック級を運用した上で、ハーフビーク級も多数運用出来るのだろう。
恐らくだが、ヤマジンはずっとアリアンロッド艦隊で……もしくはギャラルホルンで育ってきたと思われる。
だからこそ、人員が足りなくて船を動かせないというのは予想外だったのだろう。
とはいえ、俺が石動と話をしている時、ヤマジンはシャドウミラーの拠点を見て回っていた筈だ。
そうなるとシャドウミラーの人員がどんなものかは自分の目でしっかりと確認出来ていてもおかしくはないと思うんだが。
それに火星に来る前に、その辺の情報は当然入手していてもおかしくはない。
ん? だとすれば……なるほど、マクギリスがスキップジャック級を俺に譲渡すると聞いても、そこまで動揺した様子がなかったのは、最初からその辺について理解してた為か?
「とにかくそういう訳で、スキップジャック級は今は使いようがない。もっと人数が増えたら、話は別だけど」
いずれ確実に起きるだろう、ギャラルホルンの内乱。
出来ればその時までにスキップジャック級を運用出来るだけの人数を確保しておきたいところだが……どうだろうな。
スキップジャック級のような宇宙戦艦のクルーというのは、ある意味で専門職だ。
それだけに、シャドウミラーに入ったばかりの奴をそのままスキップジャック級のクルーとしても、お荷物になるだけだろう。
最低限の訓練をしてからとなると……うーん、それはそれで難しいんだよな。
アーブラウでの一件から、そろそろ1年近くが経つ。
そうなると、いつ内乱が始まってもおかしくはないのだから。
「そうですか。折角持ってきたハーフビーク級なので、使って貰えるのは嬉しいですね。整備には私も手伝いましたし」
「……一応言っておくが、もしハーフビーク級から妙な物が出て来た場合、相応の対応を取らせて貰うぞ?」
「具体的には何でしょう?」
「自爆装置とか、遠距離からの何らかの操作を受けるシステムとか、盗聴器や盗撮カメラ……それ以外にも、乗っている者達にとってマイナスとなる何かだ」
ここで明確にこれだと決めつけると、その決めつけた物ではないからOKと言われるかもしれないので、マイナスになるよう何かと付け加えておく。
「なるほど。その辺は大丈夫でしょう。タントテンポの方で調べた筈ですし」
「そうだな。これで運んできたのがタントテンポの連中なら、俺も安心出来たんだが」
幾らタントテンポの方できちんとハーフビーク級の調査をしても、それを持ってきたのがタントテンポではなくアリアンロッド艦隊であれば、前もって調査をした意味がない。
火星に向かう途中、いつでも何らかの仕掛けを設置したり出来るのだから。
疑えば、それこそジャンマルコがハーフビーク級を持ってくる事が出来なかったのは、ラスタルが何かを企んだからではないかとすら思える。
何しろタントテンポとアリアンロッド艦隊は近い存在だ。
それも力関係では圧倒的にアリアンロッド艦隊が上。
だからこそ、ラスタルがその気になればタントテンポに多少の無茶を通す事は出来るのだ。
そんな訳で、結局のところハーフビーク級はこっちで調べる必要があるんだが……どうだろうな。
今まで使っていたグラン、ガラン、ジャコバと比べると、ハーフビーク級はかなり大きい。
それだけに、どこに何かが仕掛けられているのかを調べるのは、正直なところ難しいだろう。
とはいえ、それでもやらないといけないのだが。
こういう時、量産型Wやコバッタがいるとかなり便利なんだが。
まぁ、いない以上は手動でやるしかないが。
……あ、いや。でもそうだな。別に俺達だけでやる必要はないのか。
ノブリス経由……だと、それこそノブリスに妙な仕掛けをされそうなので止めておくおして、そうなるとテイワズか?
ただ、テイワズもテイワズでジャスレイの件があるから、あまり安心は出来ないんだよな。
ジャスレイが俺をどれだけ恨んでいるか……いや、憎んでいるか。
そんなジャスレイにしてみれば、歳星で行われる、俺達が乗るハーフビーク級の調査となれば、ここぞとばかりに行動を起こすだろう。
……いや、でも待てよ?
いっそここで暴発させて、それを理由にジャスレイを切るという手段がある。
マクマードがどう判断するかだが。
しかし、今のシャドウミラーはテイワズと同格の組織だ。
つまりここでジャスレイが俺に危害を加えようとすれば、それはマクマードに危害を加えようとしたのと同じような意味を持つ……持つ、か?
うーん、どうだろうな。
同格の存在とは認めているが、それで俺に危害を加えるのがマクマードに危害を加えるのと同じかと言われると、正直なところ微妙だろう。
もっとも、それでもマクマードが自分と同格と認めた俺に危害を加えようとするのだから、マクマードの顔に泥を塗るような行為なのは間違いないが。
「ともあれ、ハーフビーク級はありがたく貰うし、これから俺達がメインで使うのもスキップジャック級じゃなくてハーフビーク級になるだろうな」
「そうですか。それを聞けばラスタル様も喜ぶかと」
「喜んで貰えたようで何よりだよ」
別にラスタルを喜ばせる為にハーフビーク級に乗る訳ではないのだが。
とはいえ、今の状況を考えればこう言っておいた方がいいだろう。
「ただ、ハーフビーク級に乗ったからといって、俺がラスタルの味方になった訳ではないのは承知しておいてくれ。もし俺達がハーフビーク級に乗っているのを何らかの工作に利用しようとした場合、こっちもそれに対応する為にマクギリス達に協力するようなことになるかもしれない」
幸いなことに、現在のギャラルホルンの火星支部のトップはマクギリスの派閥の者だ。
マクギリスに協力するのに苦労する事はない。
それはヤマジンにとっても……そして上司のラスタルにとっても決して好ましい事ではないだろう。
であれば、それは避けたいと考えるのは自然な事だった。
「分かりました。その辺については気を付けるようにしましょう」
そう言うヤマジンの言葉がどこまで信じられるか……正直なところ、微妙だろうな。
そんな風に思いつつ、俺はヤマジンとの会談を続けるのだった。