歳星の中にある商店街を、俺はマーベルとシーラの2人と共に見て歩いていた。
いわゆる、ウィンドウショッピングだな。
歳星は地球の流行とかも影響はしているものの、どうしても距離があるので、流行とかはテイワズ独自のものが流行ったりする。
勿論、地球の流行も一緒に入ってきたりはするのだが……俺達にしてみれば、地球の流行は遅れてだが火星にも入ってくる。
そういう意味では、やはり地球の流行よりもテイワズ独自の流行の方が好ましい。
……もっとも、服とかそういうのの流行には詳しくないので、そういうものだと言われれば納得するしかないのだが。
「マーベル、あの服はどうです?」
「え? うーん……ちょっとアクセルの好みとしては大人しすぎない?」
そんな会話が聞こえてくるが、俺の好みとかよりも自分の好みで買った方がいいと思うんだが。
金については、今のシャドウミラーはそれなり以上に裕福なので、その辺の心配はしなくてもいいんだし。
そんな風に思いながらシーラとマーベルが見ている服に視線を向ける。
うん、地球や火星で見たのとそんなに違いがあるようには思えないな。
勿論違いを探そうと思えば探せる。
探せるのだが、それを込みで考えてもその違いがそこまで大きな違いになるか? と思えてしまう。
いやまぁ、そういう拘りこそが流行の一つなんだろうが。
もっとこう……分かりやすい違いとか、そういうのはないのか?
そう思うも、ここでそれを口に出すと色々な意味で不味いというのは知ってるので、黙っておく。
この手のファッションとか流行については、迂闊に口出しをしない方がいいのだ。
こういう時に男がやるのは、意見を求められた時に口を開くだけ。……それも、褒めるだけ。
それが賢い行動なのは間違いなかった。
「あ、シーラ。ほら、向こうにバッグがあるけど……ああいうのはどう?」
「あのバッグですか? それなりに良さそうですが、どうしても欲しいという程ではないですね」
そんなやり取りをしながら、ウィンドウショッピングをしていく。
その名の通り、基本的には外から店の中の商品を見るだけで、実際に買うような事は少ない。
少ないという事は、多少は買い物をしたりしてるんだが。
ただ……この麦わら帽子とかは、どうなんだ? 夏に海で被るような、そんな麦わら帽子。
あるいはプールとか。
あ、でも歳星にもプールとかはあった筈だから、そこで被るのかもしれないな。
そんな風に思いながら、ウィンドウショッピングを続ける。
……もしかしたら、本当にもしかしたらだが、ジャスレイがちょっかいを掛けてくるのではないかと思っていたのだが、今のところその様子はないな。
マクマードが本気で見張ってるって話だから、その辺りも関係してるのかもしれないな。
まさかとは思うが、俺を怖がってちょっかいを出さないようにしてるとか、そういう可能性もあるのか?
いや、さすがにそれはないか。
それなら海賊を使って俺達を襲撃させたりはしないだろうし。
とはいえ、歳星の近くで襲撃された件の後ろに本当にジャスレイがいるのかどうかは、まだ分からないのだが。
この辺のジャスレイの行動は、やはり上手い。
個人的には決して褒めたい訳ではないのだが。
それでも実際に上手い以上、そう表現するしかない。
「アクセル、ちょっとあのお店で休まない?」
マーベルの言葉に視線を向けると、そこには喫茶店があった。
歳星で喫茶店……いや、別にそこまでおかしくはないのか?
歳星にはテイワズや、タービンズのように下部組織といった関係者も多くいるものの、コングロマリットとしての一面も持つテイワズだけに、裏社会とは関係のない一般人も多い。
メリビットなんかは、分かりやすい例だろう。
それに、裏社会の者であっても喫茶店を使うのはそうおかしな話じゃないし。
例えば名瀬がアミダ辺りと喫茶店でデートをしていてもおかしくはない。
「そうだな。なら、そうするか。……あの店の看板からすると、オープンサンドが自慢らしいな」
普通のサンドイッチは、パンとパンの間に具を挟む。
だが、オープンサンドというのは、パンの上に具材を載せたスタイルだ。
分かりやすいところだと、焼いたトーストの上に目玉焼きやハムエッグを載せて食べるのとか。
あるいはオープンサンドとはちょっと違うが、ピザトーストとか。
そういうのだ。
食べ方とかはきちんとしたのはないものの、ナイフとフォークで食べたりもするらしい。
俺は普通にそのまま齧りつくような方が好きだけど。
「美味しそうでしょう?」
「オムレツの奴とか、美味そうだな」
店の前に置かれている看板に貼られている写真には、小さなオムレツのオープンサンドが写されていた。
見た感じでは、完全に焼かれたオムレツではなく、半熟状のオムレツのように思える。
あれだ。オムライスの上で切ると半熟状のオムレツが広がるといったような奴。
……とはいえ、そういうのは見た目は悪くないけど、食べにくくないか?
いや、売る以上はその辺も考えている筈だ。
でなければ、看板メニューといった様子で売ったりはしないだろうし。
「あら、アクセルにしては珍しいわね」
「……別に俺はオムライスは嫌いじゃないぞ?」
マーベルの言葉にそう返す。
そうして会話をしながら、俺達は喫茶店に入るのだった。
「これはまた……綺麗だな」
喫茶店のテーブルの上には、幾つかのオープンサンドが置かれている。
そんな中で俺が綺麗だと口にしたのは、オムレツのオープンサンド……ではなく、ローストビーフのオープンサンドだ。
パンの上には、ローストビーフで作られた花がある。
その花の造形は非常に見事で、それこそ喫茶店で出るのではなく、もっときちんとした店で出てもおかしくはない。
あ、いや。でもコーヒーの中にはマキアート? ラキアート? そんな感じの奴があった。
それと一緒だと考えれば……ちょっと無理があるか。
ちなみにマーベルやシーラが頼んだオープンサンドも、見栄えのいい作りとなっている。
レタス、あるいはそれに似た野菜を使って庭のような感じになっていたり。
他にもフルーツ系のオープンサンドで妖精が遊んでいるように見えたり。
……いや、本当にレベル高いな。
「この喫茶店って、実は有名だったりするのか?」
紅茶を一口飲み、この喫茶店に入ろうと言ったマーベルに尋ねる。
マーベルはそんな俺の問いに、笑みを浮かべて頷く。
「ラフタから聞いたのよ。以前、名瀬と一緒にここでデートした事があったけど、その時も凄いオープンサンドを食べたとか」
「凄いって、具体的にはどういう奴だ?」
テーブルに上にあるオープンサンドも、どれも素晴らしい出来なのは間違いない。
そういう意味では、これもまた凄いオープンサンドと評してもいいだろう。
「さぁ? 教えてくれなかったから分からないわ」
「自分だけの思い出にしておきたいのでしょうね」
マーベルの言葉にシーラがそう続ける。
なるほど、そう言われると納得出来ないでもない。
「とにかく、このまま見てるだけってのもなんだし、食べるか」
パンはトーストしてあるのもあれば、焼かれていないのもある。
この辺は注文する時に自分達で決めるのだが、俺は両方ともトーストして貰っている。
単純に、今日はトーストしたパンを食べたい気分だったのだ。
「そうね。パンの方にも影響でそうだし」
マーベルが注文したオープンサンドは、野菜をメインに使った奴だ。
見る分には美しいが、時間が経てば野菜の水分でパンが濡れてしまうだろう。
勿論、それでも食べられない訳ではないのだろうが……それでもやはり、どうせなら美味い時に食べた方がいい。
そんな訳で、用意されたフォークとナイフで食べるのだが……
「ちょっと食べにくいな」
見映えを重視している為か、微妙に食べにくい。
いやまぁ、上に乗ってる具を崩して好きなように食べるというのもありなのだが。
何となくそういう事をやる気にならない。
あれだな。カレーライスの食べ方でも、一気に全部混ぜて食べる派と、混ぜないで食べる派……あるいは食べる分だけ混ぜる派、他にも色々と派閥がある。
その辺の違いなのだろう。
ちなみに俺はその日の気分でその辺りは変わる。
全部混ぜたり、混ぜなかったり。
ただ、見た目はちょっと悪いが、全部混ぜると食べるのが楽なのは間違いないんだよな。
そんな風に考えながら、花となっているローストビーフを崩して、切ったパンと一緒に口に運ぶ。
ソースも店のオリジナルらしく……柑橘類の果汁が入ってるのか、それ系の酸味を感じる。
ローストビーフの柔らかな食感とそのソースの相性は悪くない。
また、ローストビーフ花とは違い、皿の上にはホースラディッシュ……西洋ワサビだったか? それもあるので、それを付けて食べるとまた違う味を楽しめる。
そうして十分に満足しつつ、オープンサンドを食べ終わる。
少し食べにくかったが、慣れればそうでもないかもしれないな。
オープンサンドだけを食べ続けるとか、そういうのはどうかと思うが。
「それで、これからどうする? どこか行きたい場所があるのか?」
これでエドモントンであれば、観光名所とかそれなりにあるんだが。
歳星には、観光名所とかそういうのはない。
遊べる場所とかはあるので、そういう場所に行ってもいいが。
「うーん、そうね。今日は特に何も目的を決めずに歩き回ってみるというのがいいんじゃない?」
「私もマーベルの意見に賛成です。この世界に来てから、忙しい日々が続いたのです。少しくらいゆっくりしてもいいでしょう」
マーベルとシーラがそれぞれそう言ってくる。
俺としても別に特に反対するようなことはないので、その言葉に頷く……いや、頷こうとしたのだが……
「デートの続きの前に、野暮用が出来たな」
そう言いつつ、喫茶店の窓から外を見つつ立ち上がる。
俺の視線の先では、見覚えのある人物……エーコが、チンピラに絡まれているところだった。
何でエーコがこんな場所にいるのかは分からない。
だが、顔見知りの女がチンピラに絡まれているのを見れば、それを助けないということはないだろう。
「悪いけど、支払いは頼む」
「ええ。アクセルは早く外に」
「頼みます」
マーベルとシーラからそれぞれ声を掛けられ、俺は店の外に向かう。
喫茶店の店長が金も払わずに店を出ようとした俺に何かを言いかけたが、その前にマーベルが支払いをする。
……今更の話だが、あの喫茶店の店長にしてみれば、俺はマーベルやシーラのヒモとか、そういう風に思われたりしてるような気がする。
とはいえ、時間がない以上はそうなるのは仕方がないのだが。
まぁ、別にどうしてもこの喫茶店の店長にヒモだと思われたくないとか、そういう訳ではない。
なら、そういうものだと納得するしかないだろう。
喫茶店から出ると、すぐにエーコのいる方に向かう。
幸いなことに、まだ特に何かをされた様子はない。
ただ、チンピラは無理矢理エーコを引っ張ってどこかに連れていこうとしているらしい。
これは……何だ?
単純に、エーコが気に入ったから強引にでも口説こうとしているのか?
それとも、誰かの命令によってエーコを連れていこうとしてるのか。
エーコはMSとかその辺についてかなりの知識を持つ。
また、名瀬の妻の1人でもあり、人質として使うといった選択肢もあるだろう。
あるいは俺が気が付かない、もっと別の何らかの理由か。
もっとも、どのような理由であろうとも、顔見知りのエーコにそんな事をさせるつもりはなかったが。
「おい」
「え? アクセルさん!?」
声を掛けると、真っ先に俺の言葉に反応したのはエーコ。
するとすぐにチンピラも俺に視線を向けてくる。
エーコの反応から、俺がエーコの知り合いだと理解したのだろう。
恐らく本人は迫力ある顔だと思っているのだろう様子で睨み付けてくる。
……これが、例えば相応の力を持ってる者達であれば、その睨みにも迫力はあるのだろう。
だが、チンピラにしか見えない男がこうして睨み付けてきても、何を百面相してるんだ? と思うのが精々だ。
「エーコは俺の知り合いだ。強引なナンパはお断りなんだがな」
普段であれば、こういう時は俺の女に何をしている? とかそんな風に言うんだろうが……エーコがタービンズのメンバーだと知っての行動であれば、当然名瀬との関係についても理解しているだろう。
だからこそ、ここはやはり俺の女ではなく、エーコの知り合いという立場を使った方がいい。
「う……うるせえっ! 黙ってどこかに行け! 俺がこいつに用事があるんだからよ!」
そう言い、凄む男。
この様子を見る限りでは、やはり何か良からぬ事でも考えての行動か?
「エーコ、この男はこういう事を言ってるが、知り合いか?」
「ううん、初めて会う」
「……だ、そうだが? 大人しく退けばこの場は見逃してやるんだけどな。どうする?」
そう言った瞬間、男は額に血管を浮かび上がらせ……
「ふざけるなぁっ!」
そう叫びつつ、俺に殴り掛かってくるのだった。