「イオ・フレーム?」
「ああ、そうだ。言ってみれば、兄貴も知っている百錬や百里に使われているテイワズ・フレームの廉価版というか、量産型というか……まぁ、そんな感じだな」
ガンダムに対するジムとか、そんな感じか?
まぁ、これはあくまでもMSの話であって、今はフレームについての話なのだが。
「そのイオ・フレームというのがどうしたんだ?」
「実は、兄貴にちょっと頼みがあって。そのイオ・フレームで作ったMSのプロトタイプがあるんだが、それにちょっと乗ってみて欲しいんだ」
「……本気か?」
「ああ。兄貴のMSの操縦技術が高いのは周知の事実だ。そうである以上、ここは兄貴に頼んでみて欲しいって。……勿論、ただでとは言わない。報酬も出す」
名瀬のその言葉に、少しだけ心惹かれるものがあるのは事実。何しろ……
「この場合、報酬というのが何を意味してるのか……俺が何を欲してるのかは、分かるだろう?」
「ああ、問題ない。そっちについては手を回している。……エーコの件もあるしな」
ああ、なるほど。
この場合、俺が欲してるのは、そのイオ・フレームを使った新型MSそのもの。
だが、名瀬の話を聞く限りでは、まだその新型MSについては情報を表に出していない状況なのは間違いない。
あるいはテイワズ内ではそれなりに知ってるのだろうが、外部に向かって大々的に発表はしていないといった感じか。
ともあれ、そんなMSのテストパイロットを何故俺に持ってきたのかと疑問に思っていたのだが、どうやらこの前のエーコを助けた件が関係しているらしい。
別に俺にしてみれば、そこまで気にするような事ではなかったのだが……だからといって、それが俺の利益になるのなら、別に断るつもりはないが。
「なら、引き受けよう。それで、どういうMSだ?」
「MSの名前は、獅電だ。性能的にはグレイズに及ばないものの、集団戦闘での運用が前提になっている」
「……なるほど、話を聞いた限りだと性能よりも運用のしやすさを前提にしたMSか」
「兄貴の言う通りだ。そういう意味では、兄貴向けの機体じゃないんだが」
「だろうな」
俺が操縦をするのなら、連携を前提とするMSではなく、操作性がピーキーであっても性能の高いMSだ。
それこそグシオンのような。
そういう意味では、その獅電というのは俺には向いていない。
向いていないのは間違いないが……新型のフレームを使った新型MSとなれば、俺的には是非とも欲しい。
それを俺に譲渡する条件がテストパイロットだというのなら、断る理由はない。
「話は分かったが、テストパイロットをやるにしても、ずっとって訳にはいかないぞ?」
「それは分かってるよ、やるのは数日くらいでいい。それならどうだ?」
「こっちにとってはありがたいが……ちょっと譲歩しすぎじゃないか?」
「まぁ……その……」
何だ? 俺の言葉に困った様子で言いにくそうにしているが……エーコの件以外に何かあったのか?
そう思った時に思い浮かんだのは、歳星の近くで海賊に襲撃された事だった。
「もしかして、あの海賊の襲撃の後ろにはやっぱりジャスレイがいたのか?」
捕虜にした海賊は何も知らなかった様子だったが、その捕虜についてはテイワズに引き渡している。
本来なら、その捕虜についての所有権は当然ながら俺達にあるのだが。
ただ、捕虜にした海賊を俺達が持っていても意味はない。
ましてや、ハーフビーク級にはまだ慣れていない以上、こっちのミスで逃げ出される可能性もあったり、捕虜を殺してしまっても意味はないので、食費とかも必要になる。
これで尋問の専門家とかがいればともかく、こっちにそういう人材はいない。
ブルワーズだった時はそういう能力を持った奴もいたらしいが、俺がブルワーズを乗っ取った時に出ていったらしいしな。
そんな訳で、捕虜がいても意味はない。
いやまぁ、重要な情報を知っていて、その情報を必要としているのなら多少の無茶はしてもいいかもしれないが。
ただ、今は別にそういうのもないし、何よりも捕虜は見るからに末端の人物であり……そうである以上、テイワズ側で欲しいというのなら、それを断る必要はなかった。
あるいはいっそヒューマンデブリとして売り払うといった事も考えたものの、それをやると昌弘のような元ヒューマンデブリ組にとって面白くないだろうし。
それにテイワズ側から掲示された金額はヒューマンデブリとして売るよりは間違いなく高額だった。
そんな訳で捕虜はテイワズに渡したのだが、もしかしたらその捕虜から何らかの情報を入手し、あの襲撃の裏にいたのがジャスレイだったというのがはっきりしたのかもしれない。
とはいえ、もし本当にジャスレイの仕業だったら、俺にも知らせると思うんだが。
だとすれば、ジャスレイの仕業の可能性が高いが、決定的な証拠はない感じか?
「ジャスレイの件か?」
考えても分からない以上、単刀直入に聞くに限る。
そんな訳で尋ねると、名瀬の表情が困った様子に見える。
ビンゴか?
「いや……正直なところ分からない。その可能性は高いと思うけど、証拠がないんだ」
「以前の刺客の件もそうだったが、ジャスレイはその辺りが異様に上手いよな」
ジャスレイの攻撃は、致命的ではない。
だが、チクチクと目障りなのは事実。
もっとも、そのチクチクというのはあくまでも俺の基準だ。
刺客の件もそうだし、今回の海賊の件も、俺でなければ……そしてシャドウミラーでなければ、死人が出ていた可能性は否定出来ない。
そういう意味では、やはり出来るだけ早く片付けた方がいいのかもしれないな。
ジャスレイの敵意が俺だけに向いているのならともかく、他にも向いた場合は被害が出そうだし。
「そうだな。それは否定しねえよ。だから兄貴達が襲撃に遭った件も、ジャスレイの仕業だというのはほぼ間違いないが、その証拠がない。そして獅電はそういう意味での謝罪の件も含めての報酬だ」
「分かった。なら、それを受けよう。……けど、このままジャスレイを好きにさせておくと、面倒な事になるのは間違いないぞ?」
今はまだマクマードが目を光らせている為か、表立って行動はしていない。
だが、マクマードも年齢が年齢だ。
……もっとも、蒔苗の例を見れば分かるように、この世界においては延命技術が発展しているので、実はマクマードもまだまだ長生きしそうな気はするが。
とにかく今はマクマードがいるからジャスレイもそこまで大胆な行動はとらないものの、将来的には抑制が出来なくなってもっと過激な行動を取るという可能性は否定出来なかった。
だからこそ、そうなる前に対処した方がいいと思うんだが。
「分かってる。親父とも色々と話してるが……テイワズがそういう組織であっても、何の証拠もなしにジャスレイを排除する事は出来ないんだよ」
なるほど。ヤクザ的な組織だからこそ、仁義の類が必要になる訳だ。
力を持つだけに、そういう風に自分達を律する必要があるのだろうが……その為に行動出来ないというのは痛し痒しだな。
「いっそ、俺がやるか?」
影のゲートを使える俺なら、ジャスレイを殺すのは容易だ。
殺気を浴びた事によって俺の力の一端を理解しているジャスレイだけに、俺が歳星にいる間はどこかに隠れているかもしれないが……それでもスライムを使えばジャスレイを見つけるのは難しくはない。
そしてジャスレイがどこにいるのかを見つければ、例えそれが密室であっても影のゲートを使って容易に転移が出来る。
つまり、ジャスレイはそこで終わりな訳だ。
「いや、止めてくれ。……アクセルの兄貴の力があれば、それが出来るのは理解出来る。出来るんだが、それをやってしまうとテイワズとしての面子がたたねえ」
「……分かった。名瀬がそう言うのなら、今回は退く。ただ、海賊の一件もそうだが、俺達に明確に手出しをしているんだ。そうである以上、こっちもいつまでも猶予を与える訳にはいかないぞ」
証拠がない以上、手を出せないと口にする名瀬。
だが、それはあくまでもタービンズの……そして、テイワズの流儀だ。
そうである以上、俺がいつまでもそれに遠慮をする必要はない。
勿論そうなればそうなったで、テイワズとの関係が悪くなる可能性はある。
マクマードは俺の力を知ってるので、迂闊に敵対をしたいとは思わないだろう。
だが、敵対したいと思わないからといって、本当に敵対しないかと言えば、それは微妙なところだろう。
マクマード個人が敵対したいと思っていなくても、組織として敵対しなければならないと判断すれば、最終的に敵対する事になってもおかしくはない。
テイワズを率いるマクマードだけに、個人の思いよりも組織としての面子を考えれば、そういう感じになってもおかしくはないのだから。
「分かってるよ。俺も兄貴と敵対したい訳じゃない。その辺についての考えは親父も同じだ」
「だといいんだけどな。今は俺達が歳星に来た時にちょっかいを出してくるが、このままジャスレイを好きに活動させれば火星にもちょっかいを出してこないとも限らない」
実際、火星にちょっかいを出してくるような事になった場合、面倒が起きる。
具体的には現在建設中のハーフメタルの採掘施設を破壊されたりしたら、こっちの損害は大きい。
そういう事が起きないように、ジャスレイはきちんと抑えて貰う必要がある。
もっとも、シャドウミラーを敵対視しているのはジャスレイだけではない。
それこそギャラルホルンの中でもラスタルの派閥とか、夜明けの地平線団を始めとする海賊もそうだろうし、ノアキスの7月会議にクーデリアを参加させた男との関係も悪くなっていると聞くから、そういう連中もいる。
あ、でもラスタルは俺を自分の味方に引き込もうとしてる以上、直接手を出してくる可能性は少ないか?
ただ、海賊なんかはシャドウミラーや鉄華団が火星と地球の間にある高密度デブリ帯からエイハブ・リアクターを大量に入手しているので、その辺から恨まれていたりもする。
何しろ海賊にしてみれば、高密度デブリ帯での仕事……襲撃がしにくくなってるしな。
それでも小規模な海賊であれば、シャドウミラーや鉄華団に攻撃するのは避けるだろう。
しかし、そういう小さな集団が集まって攻撃をしてきたりすれば、こちらとしても相応の対応が必要となるのは間違いない。
「とにかく、俺としてもテイワズとぶつかるのは望んでいない。それは分かるよな?」
テイワズは何だかんだとシャドウミラーや鉄華団の後ろ盾として大きな意味を持つ。
マクギリス達に頼めば、マクギリスの派閥が後ろ盾になったりもするだろうが……そうなると、マクギリスの方が立場は上になるんだよな。
そういう意味ではマクマード……いや、テイワズも似たようなものではあるのだが、マクマードは俺と敵対する事の無意味さを知っているので、そういう振る舞いはしない。
マクギリスの場合は……どうなんだろうな。何しろマクギリスは当初自分の目的の為にガエリオやカルタを切り捨てようとしていたらしいし。
であれば、俺達を使い捨てるといったことをしても不思議ではない。
ただ、マクギリスは俺をアグニカと同一視してる感じがな。
実際には違うんだが……いや、実は何らかの理由でオルフェンズ世界の過去に転移した俺がギャラルホルンを作るとか? ……まさかな。
そうなったらそうなったで、ガンダムやMAを大量にゲット出来るんだし、決して悪い訳じゃない。
いや、寧ろそうなって欲しいとすら思う。
……これがフラグになって、何らかの理由でこのオルフェンズ世界の過去に転移しないかな。
もしくは、解呪された時に何らかの反動によって転移するとか。
フラグを無事回収出来る事を祈るとしよう。
「分かってるよ、兄貴。俺も兄貴と敵対したいなんて思っていない。……そんなのは、1度だけで十分だ」
「ああ、あの時か。……アミダが無事で何よりだったな」
タービンズと戦いになったあの時、もし名瀬の降伏がもう少し遅ければ、恐らく……いや、確実にアミダは死んでいただろう。
そういう意味では、名瀬の判断力が高いのは間違いない。
もし下手に降伏するのが遅くなっていたいたら、名瀬にとって最愛の女を失っていたのだろうから。
「全くだ。……騙されたとはいえ、こっちの被害は大きかったよ。もっとも、そのお陰で兄貴と兄弟分の杯を交わす事が出来たんだから、そう考えるとあの出会いそのものは悪くなかったんだろうけど」
「正直なところ、弟分が出来るとは思っていなかったけどな。……しかも2人も」
今まで色々な世界に行ってきたが、恋人や友人はともかく、弟分が出来たという事はなかった。
……ネギとか、そういう扱いをした事はあるが、名瀬やオルガは正式に杯を交わした関係だしな。
そうい意味では、このオルフェンズ世界に来てよかったと……そう思う。
マーベルやシーラとも合流出来たしな。