獅電のテストパイロットを頼まれてから数日後……準備が出来たという事で、俺は早速獅電のコックピットに乗り込んでいた。
ちなみにこの獅電だが、阿頼耶識対応のコックピットではない。
まぁ、コックピットを換装すれば阿頼耶識も使えるようになるのだが、デフォルトの場合は通常のコックピットとなっている。
これはつまり、獅電は阿頼耶識の手術をした者達ではなく、一般のパイロットが操縦するのを前提として設計されているのだろう。
「うん、まぁ……悪くはないな」
宇宙空間を漂いつつ、スラスターを使ってみた感想がこれだった。
そんな俺の通信に、映像モニタに映し出されたエーコは嬉しそうな表情を浮かべている。
何故エーコがそこにいるのかというのは……まぁ、エーコは腕の立つメカニックでもあり、獅電……より正確にはイオ・フレームの開発にも関わっているのだろう。
そして俺と面識があるので、こうして俺の担当といった感じになったらしい。
『そうでしょ』
俺の言葉に、自慢げに言うエーコ。
自分達の開発したMSがこうして褒められたのだから、それが嬉しくない筈がない。
とはいえ、テストパイロットとして獅電に乗っている以上、何か悪いところがあれば即座に駄目出しをするつもりではあるが。
『じゃあ、機体の操縦には大分慣れた? そろそろ本格的に機体のテストをしたいんだけど』
「そうだな、こっちは問題ない。……ただ、一応聞いておくけど、本当に手加減はいらないんだな?」
俺が獅電のテストパイロットとして要望されているのは、エース級のパイロットが獅電を限界まで動かした時、どれだけ動かせるのか。そしてMSにどのくらいの影響があるのかを確認する為だ。
普通の……つまり、エースじゃないパイロットの操縦データについては、もう十分に取っているらしい。
その辺のパイロットはテイワズにも相応にいるし、データを取るのに十分なのだろう。
だが、エースとなると当然ながら数は減ってくる。
もっとも、アミダは当然ながら、ラフタやアジーも相応に技量のあるパイロットなのは間違いなかったが。
ただ、どうせならエースの中でもトップクラスのエースにテストパイロットをして欲しいという事で、俺が選ばれたらしい。
名瀬とした話を思えば、その裏にも色々とあるのは間違いないのだろうが。
そんな訳で、俺が期待されているのはエースとしての機体の操縦な訳だが……そうなると、最悪乗り潰すという事にもなりかねない。
オルフェンズ世界のMSのフレームはかなり頑丈なのは間違いないものの、だからといって何をどうやっても傷つかないといった訳ではないのだから。
『ええ、構わないわ。本気で操縦してちょうだい』
しかし、映像モニタに表示されたエーコの口から出たのは、そんな言葉。
この様子だと、どうやら本当にこの獅電は乗り潰してもいいらしい。
こうして許可を貰った以上、俺もそのつもりで操縦させて貰う事にする。
「分かった。……けど、許可を出したのはエーコだからな。後で文句を言われても困るぞ」
『大丈夫よ。その獅電はあくまでも量産を前提にしたMSなんだから。もし壊れても、それはそれで良いデータになるわ』
そう断言するエーコ。
どうやら本気で乗り潰しても構わないと思っているらしい。
であれば、俺も思う存分やらせて貰うとしよう。
「分かった。まずはどう動けばいい?」
『少し待って。……データを送ったけど、受信出来た?』
「ああ、受け取った。ちょっと待ってくれ」
エーコから送られてきたデータには、歳星の近くにある宙域を特定のルートで飛ぶように指示がある。
しかもそのルートにはMSがその近くを通ったかどうかを確認する為の装置が置かれており、その装置にある場所を通らないとやり直しとなる。
『見たわね? そのルートを全速力で飛んでちょうだい』
「分かった。ちなみに何回飛ぶ?」
この手の試験は1度だけという事はないだろう。
レースとかならそういうのもありかもしれないが、今回重要なのはあくまでも獅電のスペックを活かしてどの程度飛べるのかなのだから。
『そうね。……取りあえず練習で2周、全力で1周というところでどう?』
「それで構わない。ただ、俺が本気でこのMSの性能を限界まで使うとなると、この試験が終わった時点で一度獅電をチェックする必要があると思うけど、それで構わないか?」
いつもであれば、俺はMSの状態に気を付けて操縦している。
それはつまり、セーブして操縦しているのだが、今回のリクエストはMSを潰してもいいから、可能な限り限界に挑戦して欲しいというものだ。
そうである以上、俺もその期待に答えない訳にはいかない。
……今の俺の本気の操縦で壊れずに乗りこなせるというのは、ニーズヘッグくらいしかない。
だが、壊れてもいいのなら全開とまではいかないが、かなり攻めた操縦は出来る筈だった。
『ええ、出来るのならそうしてちょうだい。そういうイレギュラーな事態も、獅電のデータを集める上で必要だもの』
そうして許可が出たので、まずはコースを覚える為の1周目を飛ぶ。
最初はやはりコースを覚える為なので、そこまで速度を出さなかったのだが……
『えっと……これで本気じゃないのよね?』
スタート地点に戻ってくると、エーコが信じられないといった様子で聞いてくる。
「ああ、コースの下見をしつつ軽く流しただけだ」
『……その割には、タイムが既に今の時点でトップなんだけど……』
どうやらそういう事らしい。
「アミダとかの、テイワズの中でもトップクラスのパイロットはいないんだろ?」
『まぁ……それはそうだけど、でもエースと呼ばれる人達は結構参加してるんだけど。アクセルさんって一体……』
「俺は単機で敵陣に突っ込んで、敵の攻撃を自分に集中させつつ、それでいながら生き残る腕の持ち主だからな」
『自分で言うんだ……』
驚きよりも呆れの色が強くそう言うエーコ。
そう言われても、事実だしな。
「とにかく、コースは分かった。機体の癖をしっかりと感じながら、もう1周飛んで、最後に全力で飛ぶけど、それでいいよな?」
『……何だかこの時点でもう十分な気もするけど……でも、そうね。アクセルさんが本気で獅電を操縦した時の動きを見てみたいから、そうしてちょうだい』
そういう訳で、俺は再びコースを1周し……最後に本気の操縦を始める。
スラスターは全開にし、機体の動きを微かな……本当に微かな動きでコントロールしていく。
腕や足を使ったAMBAC制御によって速度を可能な限り殺さない操縦をしながら、微調整をする。
そしてカーブをする場所では、Gを全く気にせずに機体を振り回し、瞬間的にだが10GくらいのGが襲い掛かってくる。
これが獅電ではなくグシオンだったらもっと強力なGがあるのだろうが、獅電ではこれが限界だった。
そうして通るべきコースを限界まで攻め……そうしてゴール地点に戻ってくる。
『……嘘でしょ……』
ゴールして、たっぷりと1分程が経過したところで、エーコのそんな声が聞こえてきた。
どうやらエーコにとって理解出来ない結果が出たらしい。
実際、俺も獅電が壊れてもいいからといった感じで操縦したので、その速度はかなりのものが出たのは間違いないだろう。
「エーコ、一度歳星に戻るぞ。MSに結構なダメージがある」
『え? あ、うん。分かった。戻ってきて』
俺の呼び掛けに、エーコは我に返ったようにそう言ってくる。
それだけ今回のタイムは凄かったのだろう。
そんな訳で、獅電に乗って歳星に戻ったのだが……
「うわああああああああっ! 何でこんなに関節部分が!?」
聞こえてくるメカニックの悲鳴。
予想通り……というのとはちょっと違うかもしれないが、獅電の関節部分は結構な被害を受けていたらしい。
それでも着地した途端に関節が破壊されるといったことがなかったのは……それだけフレームが頑丈だったという事なのだろう。
悲鳴を上げたメカニックは1人だったが、他のメカニック達も同じような表情を浮かべているのは間違いない。
そんな様子を眺めていると、こっちにエーコがやって来るのが見えた。
その手には、何らかの飲み物がある。
「お疲れさま、アクセルさん。……本当は武器を使って標的に攻撃したりとかもして貰おうと思ったんだけど、あの様子だと無理みたいね」
「じゃあ、どうする?」
「別の獅電があるから、そっちを使って欲しいんだけど……いい?」
「最悪、新しい獅電も関節部分にダメージを受けて、あの獅電みたいにダメージを受けるかもしれないけど、それでもいいのか?」
「ええ、構わないわ。今はここでこれ以上アクセルさんに操縦をさせなければ、他の獅電にダメージはないでしょうけど、それで後でエースが操縦して破壊されるようなことになったら……」
エーコの言葉は、納得の出来るものだった。
とはいえ、自分で言うのもなんだが、俺と同レベルで操縦出来るMSパイロットがどのくらいいるのかというのもある。
……ともあれ、俺が操縦する上で獅電の完成度が高くなるのなら、俺としては全く問題はない。
そんな訳で、少し休憩をした後、俺は新たな獅電に乗って再び宇宙空間に向かうのだった。
獅電の標準装備している武装のうち、一番特徴的なのはライオットシールドという盾だ。
分かりやすい表現をするのなら、警察や機動隊が使っているような盾か。
形状とかは微妙に違うが、見た感じでは恐らく同じような物なのは間違いないだろう。
盾となると、例えばUC世界のガンダムやジムが使うような盾を思い浮かべるが、この盾は見るからにMS用ではなく、警察や機動隊が使う盾をそのまま大きくしたといったような感じだ。
そして現在俺は他のテストパイロットが操縦する獅電の振るう……名称的にはパルチザンというらしいが、その武器の攻撃をライオットシールドで防いでいた。
何だろうな、このパルチザンという武器は。
こう……長方形の鈍器とでも表現すればいいのか。
いやまぁ、オルフェンズ世界における近接戦闘の武装は、ビームサーベルとかそういうのではなく質量兵器がメインだ。
そう考えれば、刃とかそういうのがない、純粋な打突兵器であるパルチザンというのは悪くないのだろう。
見た目的にそれはどうなんだ? と思わないでもなかったが。
ただ、刃とかそういうのがないから刃が欠けるとかの心配はないし、長方形という形から量産型MSの武器としてはコスト的に安いというメリットもある。
また、柄の部分に多少の伸縮機能があるので、そういう意味でも決して悪くないと思う。
……あれ? こう考えると、その形状から微妙だと思ったのだが、実はそんなに悪くないのか?
そんな風に考えつつ、ライオットシールドで攻撃を防ぐ。
向こうの獅電に乗ってるパイロットも、テストパイロットである以上は相応の腕利きなのは間違いないだろう。
だが、それでも俺にとっては苦戦するような相手ではない。
アリアンロッド艦隊のMS部隊と同じくらいの技量か?
……もっとも、1対1でお互いに武器はライオットシールドとパルチザンだけという状況である以上、ライオットシールドで防御をする俺の方が有利なのだが。
いや、ライオットシールドは防具か。
一応武器として使おうと思えば、いわゆるシールドバッシュ的な攻撃であったり、あるいは振り回して鈍器として使ったりも出来るけど。
ともあれ、防御が有利なのは間違いなく、パルチザンの攻撃を次から次に防いでいく。
上下左右、斜め……ちょっと変わったところで、突きはライオットシールドで受け流すように防ぐ。
「それで、エーコ。俺はいつまで防いでいればいいんだ? このままサンドバッグになってればいいのか?」
『う……それはその……もうちょっとデータを取りたいから頑張ってちょうだい』
ライオットシールドで攻撃を防ぎながら通信を送ると、エーコが申し訳なさそうに言ってくる。
とはいえ、いつまでもこの状況で防ぎ続けているのは……まぁ、報酬として獅電を貰えるんだし、そのくらいは我慢するしかないか。
なので、もう暫くは相手の攻撃を防ぎ続けていたんだが……20分程が経過したところで、ようやく終わる。
『データの方はもう十分取れたから、次に行きましょう』
「俺はいいけど、向こうは?」
今の今までパルチザンを振るっていた獅電は、歳星に向かって移動していた。
気のせいか……いや、恐らく気のせいではないだろうが、何だかがっかりしてるように思える。
無理もないか。パルチザンを使って延々と攻撃してきたのに、ライオットシールドしか持っていない俺に完封されたのだから。
『あー……うん。まぁ、いいわ。伸びていた鼻もこれで少しは折られたでしょ』
エーコの様子からすると、調子に乗っているような性格のパイロットだったらしい。
実際、アリアンロッド艦隊のMS部隊並の技量は持っていたのだから、そうなってもおかしくはないのかもしれないが。
そんな風に思いつつ、俺は獅電のテストを続けるのだった。