獅電のテストをある程度終えると、俺は特にやるべき事がなくなった。
いやまぁ、ハーフビーク級とスキップジャック級の調査が終わるまで相応の時間が掛かるとは聞いてはいたのだが。
なので、今日は歳星の中を適当に歩き回る事にしたのだが……案の定と言うべきか、あるいは予想通りと言うべきか、俺を尾行してくる者の姿がある。
とはいえ……さて、どうしたものか。
これが例えば、俺に悪意や敵意を抱いているような奴が相手の場合は、尾行している奴を捕らえて何を目的にしていたか、あるいは誰の手の者かといった事を吐かせるだろう。
だが、この相手は俺にそのような悪意や敵意を持っていない。
つまり……もしかしたら、本当にもしかしたらの話だが、名瀬が俺の護衛として用意した尾行という可能性もある。
……俺の護衛であっても、何で尾行しているのかは分からないが。
あるいは、ジャスレイが何か俺に妙なちょっかいを出してきた時、俺との間に入って問題を大きくしないようにするとか?
名瀬ならそのくらいのことを考えて人を派遣してもおかしくはないか。
あるいは……名瀬ではなく、マクマード辺りが気を回したという可能性もある。
名瀬にしろマクマードにしろ、俺が生身でもとんでもない力を持っており、更には魔法を使えるというのは知っている。
そうである以上、歳星で大きな魔法を使うのを避けたいと思うのはそうおかしな話ではない。
まぁ……俺に敵意を持ってる訳ではないだろうし、そう考えればこっちからちょっかいを出す必要はないか。
そんな風に考え、取りあえず尾行してくる者については気にしない事にする。
「お……」
歳星の中を歩いていると、ふと出店のある場所に到着する。
出店というか、屋台だな。
……まさか、歳星でこういうのがあるのはちょっと意外だったな。
いや、考えてみればそうでもないのか?
歳星……というか、テイワズはヤクザやマフィアというよりは、ヤクザ……いや、極道の系統の者達だ。
であれば、屋台とかそういうのの元締め的な存在でもおかしくはない。
まぁ、この時代まで俺の知っている屋台がそのまま残っているのかどうか、微妙なところだが。
名瀬やオルガと兄弟分の杯を交わした時も、漢字は思い切り当て字だったし。
それを考えると、俺の知ってる料理とは微妙に違う方向に進化した料理の屋台とかであっても、おかしくはない。
それに、こういう場所は本来1人で来てもちょっとな。
シーラとかとデートで来れば面白いんだろうけど。
あ、でもそうだな。火星に残ったクーデリアとかにお土産として何か買っていくのはいいかもしれないな。
空間倉庫に入れておけば、いつでも出来たてを食べられるし。
こういうのって、実は料理の味よりもその場の雰囲気で美味いと感じるのが一般的なので、火星でこの屋台の料理を食べても美味いと感じるかどうかは分からないが。
ともあれ、たまには気分転換として1人で見て回ってもいいだろうと思い、屋台の集まっている場所に向かう。
最初に目に入ったのは、たこ焼き。
それを購入し、早速食べると……
「あれ?」
自分でも気が付かないうちにそんな声が出る。
たこ焼きだと思って食べたのだが、これはたこ焼きじゃない?
中に入ってるのは……何だこれ。トロッとした……それでいて、コクのある……あ、これ牛スジだ。
「たこ焼きじゃないのか?」
「はい。これはたこ焼きじゃなくて、その元になったと言われるラジオ焼きという料理です」
俺の呟きに、屋台の店主がそう答える。
とてもではないが、屋台の店主の言葉遣いとは思えない。
これは多分、俺の事を知ってるな。
別に変装をしている訳でもないし、20代の姿のままである以上、俺を見てアクセル・アルマーだと気が付いてもおかしくはない。
「ラジオ焼き? そういう料理があるのか」
屋台の店主に詳しい話を聞くと、ラジオ焼きのベースはもんじゃ焼きにあるらしい。
もんじゃ焼きは俺も知っている。
もっとも知ってるだけで、食べた事はないのだが。
そしてもんじゃ焼きから、どんどん焼き、一銭洋食、ちょぼ焼き、ラジオ焼き、たこ焼き。
そんな具合に進化していったらしい。
どんどん焼き、一銭洋食、ちょぼ焼きというのは初めて聞く料理で、具体的にどのような料理なのかは俺には分からない。
料理と言えば、四葉。
ホワイトスターに戻ったら、四葉に聞いてみてもいいかもしれないな。
あるいはそういうマイナーな料理だと、エヴァ辺りが詳しいか?
いや、エヴァが日本文化を好むのは間違いないが、そういうのとエヴァが好む日本文化では方向性が異なるか。
それに、これはあくまでもテイワズで伝わっている事である以上、完全に信じる訳にはいかない。
勿論それは、この屋台の店主が意図して俺に嘘を吐いたとかそういうのではなく、厄祭戦の影響でその辺りの情報についても分からなくなっている可能性が高いのだから。
ホワイトスターに繋がれば、その辺も商売の種になるかもしれないな。
例えば、マクロス世界。
マクロス世界ではゼントラーディとの戦いで一度地球は崩壊した。
それでも生き残りがいて復興したが、その崩壊の時に失われた文化や伝統も多い。
俺に関わりがあるものだと、アルトの実家で行われている歌舞伎とかその辺の伝統芸能もそうだろう。
しかし、マクロス世界とホワイトスターの間で異世界間貿易が行われる事になり、他の世界から失われた文化や伝統、それ以外にも様々なものが復活している。
また、それとはちょっと違うか、鬼滅世界もそうだ。
後の時代で失われた文化で伝統、技術……そういうのを持つ者を、エヴァは喜んで集めている。
具体的には、そういう職人とかを一族ごと雇い入れているとか。
エヴァの場合、シャドウミラーの生身の戦闘訓練を任されているという事もあってかなりの高給取りだ。
その為、そういう事も出来る。
ともあれ、一度文明が崩壊寸前までいったというのは、このオルフェンズ世界もマクロス世界と変わらない。
マクロス世界よりは幾分かマシなのかもしれないが。
とにかくマクロス世界と同じような感じである以上、他の世界からそういう文化を輸入するというのはありの筈だ。
火星がホワイトスターと繋がれば、今の限界まで搾り取られた火星が一変するだろう。
……もっともギャラルホルンの中でも、ラスタルの派閥にしてみれば火星が今からそこまで栄えるというのは、決して認められる事ではないだろう。
例えば、ホワイトスターと繋がるゲートを地球に設置しろと言ってきてもおかしくはない。
もっとも、マクギリスやガエリオ、カシューといった派閥……最近では改革派とか呼ばれる事も多いが、とにかくマクギリス達はシャドウミラーや鉄華団と友好的な関係にあり、火星のギャラルホルン支部もそれに協力している。
もしラスタルの派閥がホワイトスターとのゲートを地球に設置しろと言ってきても、マクギリス達がそれに反対するだろう。
現状において改革派はラスタル達の派閥と比べると勢力は小さいが、それでも一方的にやられる程ではない。
純粋に戦力として考えた場合、シャドウミラーや鉄華団、場合によってはタービンズやテイワズもマクギリス達に協力するだろうし。
そんな風に考えつつ、俺はラジオ焼きをある程度の量纏め買いをする。
食べてみたら雰囲気とかそういうのとは関係なく、普通に美味かったというのもあるし。
「ありがとうございます」
屋台の店主がそう頭を下げてくる。
屋台的にはこれだけの売り上げは嬉しいのだろう。
そうして次の屋台に向かう。
綿飴とかも売ってるので、それを購入する。
そうして屋台のある場所を歩き回り……そして一通り屋台を見て回ると、満足する。
満足はしたが、次にどうするべきか。
尾行してきている者は今もまだついてきている。
別に俺は尾行してきている者を撒こうとは考えていない。
そうである以上、余程の事がない限りは俺を見失うという事はないだろうし。
……それにしても、ジャスレイが何かちょっかいを出してくるのかと思っていたが、特にそういうのはないな。
以前俺が歳星に来た時は、ジャスレイの手の者による暗殺未遂とかもあったのだが。
もっとも、それはあくまでも状況証拠で、ジャスレイの指示だという証拠はなかったのだが。
この辺の根回しとかは上手いよな。
まぁ、本当に無能であればテイワズのNo.2になれる筈もないのだが。
これで実はジャスレイがマクマードの子供だったのか、そういうのでもあれば話は別なのだが。
「ん? あれは……」
適当に街中を歩いていると、ふと視線の先に見覚えのある女を見つける。
タービンズのパイロット、ラフタだ。
すると俺の視線を感じたのか、ラフタもこちらに視線を向けてくる。
俺と目が合うと、驚きの表情を浮かべてこちらにやってくる。
「アクセルじゃない。どうしたの、こんな所で?」
「いや、こんな所って……ここは別にそういう風に言われるような場所じゃないだろ?」
現在俺がいるのは、歳星の街中に幾つかある大通りの1つだ。
幾つもの店が並び、メインストリートと呼ぶに相応しい人通りがある。
そんな場所だけに、俺がいても特におかしくはない。
「というか、ラフタの方こそ獅電の方はいいのか?」
俺は少し特殊な例として獅電のテストをした。
だが、ラフタはタービンズの所属で、そしてタービンズはテイワズの系列だ。
……それどころか、今はNo.2の座にいるジャスレイだが、名瀬はその座を奪い取るのではないかとすら言われている。
そうである以上、獅電の開発はタービンズにとっても大きいだろう。
ジャスレイの派閥にもMSのパイロットはいるが、技量は平均程度でしかない。
それと比べると、ラフタを始めとしたタービンズの面々は全員が凄腕だ。
特にアミダはこのオルフェンズ世界においてトップクラスの操縦技術を持っている。
それだけに、獅電……に限らずMSの開発には大きな戦力となるのは間違いない。
「今日は私は休みよ。アジーが頑張ってるわ」
「……一応聞いておくが、アジーに仕事を放り投げてきたとか、そういうのじゃないよな?」
アジーは寡黙な性格だが、面倒見がいい。
いや、苦労性と言うべきか?
ともあれ、ラフタが仕事を投げると、不満そうにしつつも結局その仕事を片付ける。
そんな印象が俺の中にはあった。
実際、そんなに間違ってはいない筈だ。
何だかんだと、最初に地球に行った時も一緒に行動していたので、それなりに性格は分かっているつもりだし。
「大丈夫よ。私の分はきちんと終わらせてきたから。……でないと、姐さんが怖いし」
アミダが今の言葉を聞いたらどう思うんだろうな。
そんな疑問を抱いていると、ラフタが自分の言葉を忘れようとするかのように口を開く。
「ね、アクセル。アクセルも今は暇なんでしょう? じゃあ、私と一緒に色々と見て回らない?」
暇って……いやまぁ、実際にこうして1人で歩き回っているんだから、暇だと思われても仕方がないし、その言葉も決して間違っている訳ではないのだが。
とはいえ、1人でこうして歩き回っていても物足りないのは事実。
ジャスレイがちょっかいを掛けてくるかと思ったが、その気配もないし。
俺を尾行してる奴も、恐らくは俺の護衛的な役割なんだろうし。
そうである以上、俺としては特に何かやるべき事がある訳でもないので、ラフタの言葉に頷く。
「分かった。じゃあ、一緒に見て回るか」
「ふふっ、デートね。嬉しい?」
「……まぁ、嬉しくないと言えば嘘になるが」
ラフタは美人というよりは可愛いといった表現が相応しい女だ。
そんな女と一緒に見て回るのだから、嬉しいか嬉しくないかと言われれば、間違いなく嬉しいと俺は断言する。
もっとも、それは俺がラフタに女としての好意を持っているかと言われれば、それは否だが。
そもそもラフタは立場上、名瀬の妻だ。
そういう相手とどうこうなりたいとは思わない。
それはあくまでも今はの事であって、将来的に何かあったらまた別かもしれないが。
「そ。じゃあ、行こう。あっちの方に最近新しい小物を売ってるお店が出来たのよ。他の娘に聞いたけど、品揃えがいいらしいわ」
他の娘というのは、ラフタと同じく名瀬の妻の誰かだろう。
とはいえ、俺が小物を売ってる店に行っても、正直なところ買うような物はないんだが。
ああ、でも屋台で購入したラジオ焼きと同じように、クーデリアのお土産として買ってみるのもいいかもしれないな。
「木星ならではの何かとかあるか?」
「え? うーん……どうかしら。私も初めて行くから分からないけど、そういうのは実際に行ってみないとわからないんじゃない?」
「それもそうか。他にも何か面白い物があるかもしれないしな」
小物売り場とかそういう店は、男だけでは入りにくい。
そういう意味では、ラフタに誘われてラッキーだったのだろう。
そう思いながら、俺はラフタと共に新しく出来たという店に向かうのだった。