俺がラフタとデートをしてから少し時間が経ち……歳星に来てから、1ヶ月程が経った。
そして今日、俺とシーラは名瀬とアミダと同じ部屋にいた。
ソファに座りながら名瀬に渡された資料を流し読みし……それを読み終わると、シーラに渡す。
「つまり、ハーフビーク級もスキップジャック級も、どっちも特に妙な仕掛けの類はなかったと」
書類には色々と細かい事が書かれていたものの、結局のところそういう事だ。
その内容は、俺を驚かせるのに十分だった。
マクギリス達から譲渡されたスキップジャック級はともかく、ラスタルから送られてきたハーフビーク級は間違いなく何らかの仕掛けがあるとばかり思っていたのだから。
しかし、書類を見る限りでは特に怪しい何かは見つからなかったらしい。
「ああ。ただ、これはあくまでもうちの……テイワズのメカニックが調べての話だ。兄貴も知ってる……というか既に常識だと思うが、ギャラルホルンとそれ以外のメカニックの間には大きな差がある。あくまでも特定の分野では、だが」
「だろうな」
名瀬の言葉に俺は頷く。
一番分かりやすいのは、エイハブ・リアクターだろう。
このオルフェンズ世界のMSの動力源。
だが、現在このエイハブ・リアクターを作れるのはギャラルホルンだけだ。
テイワズのメカニックはMSのフレームを作れるようになっているので、他の組織と比べると1歩抜きん出た形となってはいるが、それでもエイハブ・リアクターを作る事は出来ない。
……まぁ、ギャラルホルンのメカニックも、全員が全員エイハブ・リアクターを作れるって訳ではないのだろうが。
本当にその辺りに詳しい奴は少数……それもギャラルホルンにとって絶対に裏切らないという信頼の置ける者だろう。
そうでなければ、テイワズに限らずエイハブ・リアクターを自分達で作りたいと思う者がギャラルホルンのメカニックを引き抜こう……いや、組織によっては無理矢理連れ去ろうとしてもおかしくはない。
厄祭戦が終わってから今まで、それでもエイハブ・リアクターをギャラルホルンが独占しているという事は、俺の予想もそう外れてはいない筈だ。
「つまり、ギャラルホルンだけの技術で何かを仕掛けられている可能性は否定出来ない。そういう事ですね?」
書類を読み終わったシーラが、そう尋ねる。
ギャラルホルン独自の技術であれば、テイワズが見抜けなくてもおかしくはない。
名瀬はシーラのその言葉に、何と言っていいのか迷う。
名瀬はテイワズのメカニックを信頼している。
それは間違いない。
だが、だからといってギャラルホルンのメカニックが……それもラスタルの派閥、つまり現在のギャラルホルンにおいても最大派閥が抱えるメカニックの上をいくかと言われれば、現実的にそれを認めることも出来ないのだろう。
「そうだな。姐さんの言う通りだ。ただ……それでもテイワズのメカニックが決して手を抜いている訳じゃないってのは、理解してくれ。それどころか、必死になって何かないのかを調べたのは間違いない」
そう言う名瀬の表情は真剣なものだ。
本人が言うように、決して気を抜いているとか、そういう事はしていないのだろう。
「シーラ」
「分かっています。別に私もその件で責めようとは思っていません」
シーラの名前を呼ぶと、予想外なことにあっさりとそう言ってきた。
これは、シーラも名瀬の事は認めているという事なのだろう。
この辺はシーラにとっても思うところはあるのだろう。
ダンバイン世界のバイストン・ウェルにおいて、当初オーラバトラーを持っていたのはドレイクだけだった。
大国とはいえ、ナの国はその辺りの技術はなかったのだ。
……ある意味、今のこの状況と似ているだろう。
もっとも、最終的にはナの国はビルバインを始めとする高性能オーラバトラーを作る事が出来たのが、テイワズとは違うところだが。
ドレイクもオーラバトラーを売るのはともかく、そのメカニックを完全に囲っていればもっと違う結果になったのかもしれないな。
もっとも、そうなると最終的にドレイクと敵対した俺にとっては都合の悪い流れになっていた可能性もあるが。
「アクセル? どうしました?」
「いや、何でもない。それで船についてだが……今の状況でこれ以上対処のしようがないのなら、そのまま受け取って戻るしかないな。使っていればいずれどこかおかしいとか、そういうのが分かるかもしれないし」
もっとも、最初から何か仕掛けられた状態で、それを基準として考えると、異変に気が付くのは難しいかもしれないが。
だが、それでも何もしないよりはマシだろう。
俺の解呪が終わって、ゲートが設置出来ればホワイトスターにいる技術班に調べて貰う事も出来るんだが……はたして、解呪はいつになるのやら。
シーラが言うには、そろそろって事らしいんだが。
まぁ、その辺については今はいい。
結局のところ解呪が具体的にいつになるのかは、まだ分からないのだから。
「すまねえな、兄貴」
「気にするなって。テイワズのメカニックも全力でやってくれたんだろう?」
「ああ、それは間違いない」
そう断言する名瀬だったが、ジャスレイの妙なちょっかいがなければいいんだが。
マクマードが見張ってる以上、ジャスレイも下手に動けないだろうけど。
「じゃあ、船についてはこの辺でいいな」
「じゃあ、後はいつ火星に戻るか、か。……そう言えば俺と三日月のガンダムはどうなった?」
「改修は大分進んでいる。兄貴やオルガが十分な資金を出してくれたからな」
「まぁ、俺と三日月のMSだし」
俺も三日月も、双方共にそれぞれの組織を代表するエースだ。
……まぁ、他にもマーベルとか昌弘とか、十分に力を持ったエースはいるのだが。
ただ、俺と三日月のMSはガンダムである以上、どうしても目立つ。
もっとも、目立つというのであればマーベルのMSもヴァルキュリア・フレームという非常に珍しい……それこそ希少性という意味ではガンダム・フレームよりも希少なフレームを使っているMSなのだが。
ともあれ、ガンダムはそうして目立つMSだけに、出来れば万全の状態にしておきたい。
「それこそ船の調査が終わった以上、これからそっちにも今までより人手を回せると思う」
「そうか。なら、頼む」
名瀬に言われて気が付いたのだが、今まで船の調査に人手を向けていた以上、ガンダムの改修作業はどうしても滞ってしまう。
ちょっと考えが足りなかったな。
「ああ。……あー、それと、話は少し変わるんだが……」
大体の話は終わったと思ったところで、名瀬が少し言いにくそうにしてくる。
「何だ? ジャスレイが何かやらかしたか?」
「……可能性は否定出来ねえ」
困った様子の名瀬だったが、隣に座るアミダが肘でその身体を突くと、微妙な表情で口を開く。
「その、だな。シャドウミラーと鉄華団が地球でやっている事業があるだろう?」
「事業? アーブラウの国軍の件か?」
「そう、それだ。テイワズも少しだけ噛んでる奴。……で、そうして噛んでる以上は人を送った方がいいって話が出てな」
「……まぁ、その話は分かるが」
アーブラウの国軍については、基本的にノブリスの財産を俺達が接収し、それを出来るだけ安く売るという方式だ。
ただ、当然ながらノブリスがどれだけの金や物資を持っていても、1つの国の軍隊を1から作るとなると、どうしても足りない物資とかが出てくる。
そういうのは、まさかギャラルホルンから買う訳にもいかないので、テイワズやタントテンポから買い取ったりしてる訳だが……兄弟分の杯であったりするのを考えると、やはりテイワズからの割合の方が多い。
実際には俺が兄弟分の杯を交わしたのは名瀬であり、名瀬はテイワズではなくタービンズの所属なのだが、それでもテイワズ系の組織であるのは間違いない。
そんな訳で、全体の割合としては少ないものの、アーブラウの国軍の件にテイワズが多少なりとも絡んでいるのは間違いない。
そういう意味では、その言葉も納得出来ないでもないのだが……問題なのは、ジャスレイがどうとか、そういう風に言ってる事だろう。
「その件にジャスレイがどう関係してくるんだ?」
「まだはっきりと分かった訳じゃないが、その件を話題に出した者……正確にはその部下だが、それがジャスレイの手の者と接触したという情報がある」
「ここで動くのか」
俺が歳星にやって来てからジャスレイが動く様子はなかった。
歳星に近付いた時に襲ってきた海賊の件があるが……それもジャスレイが裏にいるという証拠はない。
そうなると、今回の件がジャスレイがはっきりと動いたということになるのか。
とはいえ……その提案そのものは、そう悪い事ではないのも事実なんだよな。
断る事は出来る。出来るのだが……ジャスレイが直接言ってきたのなら、それを理由に断ることも出来るのだが、直接ではなく他の幹部を通してとなると、断るのも難しい。
「それで、一体どのような人材を派遣するのですか? あからさまに問題を起こすような相手であれば、それを理由に断る事も出来るのでは?」
シーラの言葉に名瀬が首を横に振り、隣のアミダが口を開く。
「こっちでも調べたけど、経歴ではジャスレイとの関わりは……ない訳じゃないけど、薄いね。JPTトラスト系列の組織で仕事をしていた経歴がある程度だよ」
「それは薄いのか?」
「JPTトラストは規模が大きいし、系列企業もかなりあるしね。そういう意味では、鉄華団に派遣されたメリビットもJPTトラスト系列の企業にいた事がある筈だよ」
アミダの言葉には納得するしかない。
メリビットが有能な人材なのは間違いない。
ましてや、現在はオルガと付き合ってもいる。
そういう意味では、メリビットは既に鉄華団にとってなくてはならない人材だと言ってもいい。
……実際、前に少し聞いたところでは、仕事の虫となっており殆ど休まないオルガをメリビットが恋人として半ば無理矢理休ませたとかいうのも聞いたことがあったしな。
オルガはスラム街出身で、会社経営とかそういうのは殆ど知らない。
それをメリビットを始めとする少数の大人が何とかフォローしてるのだが、オルガもそれでは駄目だと判断して必死に勉強をしてるし。
そういう意味では、シャドウミラーも似ているんだが。
ただ、シャドウミラーの場合はシーラを始めとして事務職が多くいる。
俺も仕事がない訳ではないが、かなり少ないのも事実。
「つまり、その派遣されてくる人を断るのは難しい訳ですね」
シーラの言葉にアミダが頷く。
「そうだね。派遣されてくる人物……名前はラディーチェ・リロト。これまでの経歴を見る限り、事務職としての能力は高いみたいだね」
「……痛いところを突いてくるな」
アミダの言葉にそう返す。
地球にいるシャドウミラーと鉄華団の中に、事務の専門家は非常に少ない。
いや、実際には事務を出来る者はそれなりにいるが、それでも専門家と呼べる程の者は非常に少ないのだ。
ましてや、シャドウミラーからはある程度の人数が派遣されているものの、鉄華団は皆無とまではいかないが、かなり少ない。
これはシャドウミラーがブルワーズをベースとし、事務の出来る大人を積極的に雇っていたからだ。
そんなシャドウミラーと比べて、鉄華団はCGSを乗っ取った時に、大半の大人を解雇している。
最終的に、残った大人は雪之丞とデクスターの2人だけだった。
CGS時代の経験があったからか、あるいは鉄華団のトップがまだ若いオルガだからか、事務職の大人の募集はどうしても少なかったらしい。
結果として、火星の本部を回すだけで限界近く、地球に事務職を派遣するのはかなり難しかった。
そういう訳で、地球には事務職が足りない。
そんな中で事務職の専門家を送ってくるのだから、こちらとしてはそれを断れる筈もない。
ましてや、ジャスレイが直接推薦したのではなく、間に幹部を挟んでいるし。
「そうだな。俺もそう思う。けど……兄貴やオルガ達にしてみれば、事務の専門家は必要だろう?」
「タービンズから誰か派遣してくれると嬉しいんだが」
そうすれば、人員はいるからと断れる……かもしれない。
「無茶を言わないでくれよ、兄貴。もうテイワズの方で話が出てるってのに、そこに割り込むような事をすれば、敵を作りすぎる」
「ジャスレイはその辺りも考えて、他の幹部を通してこの件を進めているのか」
名瀬は出来る男ではあるが、だからといってテイワズの他の幹部を何人も敵に回せる筈もない。
ジャスレイにしてみれば、その辺を考えての事なのだろうと予想は出来る。
「つまり、受け入れるしかない訳か」
「断る事も出来るだろうけど、受け入れた方がいいと思う」
名瀬の言葉に頷くと、取りあえずそのラディーチェという男には監視を付けておくべきだと考えておく。
ジャスレイの手の者であれば、そのうち妙な動きをするだろうし。
その時に捕らえてしまえば、ジャスレイを処分する口実になるかもしれないし。